上 下
2 / 19

日向頼子・一

しおりを挟む
 物心ついた時から、慎太郎は植物にしか恋愛感情を持つ事ができなかった。

「自分は他の人とは違うのかもしれない」

 そう思い始めたのは小学校の高学年――性教育が始まる頃だ。
 同級生たちは何処からか手に入れてきた成人向け雑誌を隠れて回し読みをし、そこに写る女性の裸体を見ては興奮していた。
 慎太郎もその輪に入り、共に興奮はしていた。だが、それは熱狂や背徳から来るものであって、決して性的興奮は無かった。

 しかし同じ頃、母親が寄越したスイートピーをきっかけに、慎太郎は自分の性癖に気が付いた。
 母親は情操じょうそう教育の一環として与えた物だった。だが、慎太郎はその淡い色に咲く花に心奪われた。
 身体を支えるように小さな鉢に手を添え、想いを込めながらもう一方の手で花弁や茎にそっと触れる。その瞬間、身体の芯から沸き立つ様な強い興奮を覚えた。

 それは生まれ始めての事だった。

 自分に起きている異常への対処を知らない慎太郎は、ただ欲望に飛び込むように顔を近付け、香りを嗅いだ。可憐な香りが鼻を抜けると痺れを感じる程に昂った。

 彼は自分の身体の反応を見てこれが性的興奮なのだと知った――そして自覚した。

        〇


 中学生になり周りが色恋に対して活発になり始めると、慎太郎は異性から好意を寄せられる事が少なくなかった。だが、植物にしか恋愛感情を抱けない自分が人と男女の交際をしても互いに不幸になっていく事は目に見え、交際を申し込まれても一切を断っていた。

 しかし中学三年生の梅雨の時期、そんな慎太郎にも〝彼女〟ができた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

ベスティエン ――強面巨漢×美少女の〝美女と野獣〟な青春恋愛物語

花閂
ライト文芸
人間の女に恋をしたモンスターのお話がハッピーエンドだったことはない。 鬼と怖れられモンスターだと自覚しながらも、恋して焦がれて愛さずにはいられない。 恋するオトメと武人のプライドの狭間で葛藤するちょっと天然の少女・禮と、モンスターと恐れられるほどの力を持つ強面との、たまにシリアスたまにコメディな学園生活。 名門お嬢様学校に通う少女が、彼氏を追いかけて最悪の不良校に入学。女子生徒数はわずか1%という特異な環境のなか、入学早々にクラスの不良に目をつけられたり暴走族にさらわれたり、学園生活は前途多難。 周囲に鬼や暴君やと恐れられる強面の彼氏は禮を溺愛して守ろうとするが、心配が絶えない。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

嘘つき世界のサンタクロースと鴉の木

麻婆
ライト文芸
「どうしても、俺には優衣子が死んだとは思えないんだ」  外ヶ浜巽は、友人を失くしたことを受け入れられずにいた。そんな彼のもとに一通の手紙が届く。そして、それを機に、彼を取り巻く世界は徐々に様相を変えていく。  埋葬林の管理実務をになう宮司。国際埋葬林管理研究連盟、通称――国葬連のメンバー。町の本屋さん。そして、サンタクロース。  広大な墓地である埋葬林を中心に、人々の思惑が錯綜する。  人は死ぬと木になる。そんな当たり前の世界で、外ヶ浜巽は真実を求めてひた走る。  ※毎週、金曜日と土曜日に更新予定。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...