吸収

玉城真紀

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鈴木という者

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それから数日たった頃。
明子は毎日のように図書館に通っていた。好きなミステリー小説が沢山並び思う存分読める魅力に虜になっていた。
その日も、二冊目の本を読みふけっている時だった。
「こんにちは」
そう言いながら、挨拶してきた人物は笑顔で明子の前の椅子に座る。
「あら!こんにちは」
意外な人物との出会いに、明子は少し驚きながら挨拶を返す。
明子の前に座ったのは香織の同級生のお母さん鈴木だった。
この鈴木さん。保護者の間でも変わり者として評判だった。何でもかなりのオカルト好きらしい。何を話してもすぐに心霊やら霊障やら都市伝説の類に結びつけるので、まともな話が出来ないだとか・・・
現に今鈴木が手にしている本も、「世界の不可思議」という明子なら絶対に手に取らないであろうジャンルの本を持っている。
鈴木の子供、京子と香織は仲がいいのでなるべく波風を立てないよう当たり障りなく接しているが、明子としては余り関わりたくない人物である。
「行平さんもここを利用してるの?」
「ええ。最近リニューアルしたと聞いたから来てみたんだけど、綺麗だし本の種類も多いから最近は毎日来てるの」
「そう・・」
鈴木は少しだけ表情を曇らせた。
「どうかした?」
「え・・・うん・・ここってね。余り毎日通わない方がいいわよ」
周りを気にしながら言いずらそうに言う。
「え?どうして?」
「ここね。昔処刑場だったんだって」
「処刑場・・」
「そう。そう言う場所って、人が住む家が建つんじゃなくて公園とか学校とかそういう公共施設を立てるみたいなの」
「そうなの」
「でね。そこに毎日通うって言う行為はね降霊術になっちゃうんだって。ほら、行ったり来たりって言う行動が・・ね」
「・・・・」
明子は呆れて言葉が出なかった。
そんな事言うなら、毎日決まった会社に行ってる人はどうなるんだ。その場所だって昔何だったのか分からないではないか。
(こんな風だからみんなに嫌がられるんだわ)
明子は、笑顔を取り繕いながらも心の中でため息を付いた。
「あ、ごめんね。変なこと言って。でもここって確かに本の種類は多いわよね。何でも県内で一番になったらしいわよ」
「そうなんだ」
「じゃ、私借りるのが決まったから行ってこよう。またね」
「ええ」
鈴木は満足したかのように席を立つと貸し出しの受付の方へと歩いて行った。
「はぁ~。何が降霊術よ。せっかく読んでたのに気分台無しだわ」
明子は読み途中の本を閉じると席を立ち棚に仕舞いに行った。
「帰ろ」
鈴木の余計な話のお陰で、読む気を失った明子は家に帰る事にした。
時計を見ると14時15分。
バスに乗り家に着くまで約30分位。買い物をして帰っても十分夕食の用意には間に合う。
明子は、先程の煩わしい気分を払拭するように大きく深呼吸すると大股で図書館を出た。
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