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㉕♥

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 貴族の子どもたちの悪評が家庭教師たちから広がることはない。
 貴族家に仕える使用人たちだって当然仕事上得た情報を外には漏らさない。

 自分の人生を掛けてまで話す必要はないからだ。

 つまり悪い噂が出回るというのは余程のこと。
 外の目があるところでやらかしているか、あるいは命を懸けてでも悪口を広めたくなる対象なのだ。

 優秀な女の子が、そんな最悪な男と婚約させられたのか。
 可哀想に。勿体ないな。

 最初はそれくらいの印象しかなかった。

 いや、嘘かな。
 もうこの時点で、会ったこともない、自分とは関係ないはずの女の子を奪われたように感じていたのかもしれない。

 でもそれはまだ自分の中では核心的なところにはなくて──。


 それが変わったのは、社交の練習と称して伯爵家以上の子どもたちを集めた王家主催のお茶会だった。

 その日の夜には、私はすっかり愚かな男とその両親を妬んでいたし。
 それは私だけではなくて、すぐに動かずにいた私の親たちもかなり後悔していたらしい。


 それくらいアメリアは目立っていたんだ。


 装いが目立っていた?

 容姿が美しかった?

 いやいや確かに幼いアメリアはとても可愛らしかったよ?
 伯爵も王家主催のお茶会だからと、費用を出し惜しみしなかったそうだから、とてもおめかししていてね?

 でもアメリアが目立っていたのは、そこじゃなかった。
 その聡明さがまったく隠し切れていなかったところだ。

 もちろんアメリアにその気はない。
 むしろ賢いところは隠したかったらしい。

 それも今は本人から聞いて知ったこと。
 あろうことか、あの日は伯爵に叱られた後だったという。

 アメリアの父親とは思えない男だよね?

 お茶会前にアメリアはなんて言われていたと思う?

『女のくせに、余計な話ばかりしおって!昨日のようなことは許さんからな』

『今日の茶会では小難しい会話は一切するな。そんな女は嫌われるぞ』

『おとなしく男を立てておけ。女のお前にも、それくらいは出来るな?』

『立て方が分からないだと?あれほど家庭教師をつけてやって、何と馬鹿な娘か』

『男の話に合わせておけばいいんだ。お前からは話題を振るな。いいな?』

『男を喜ばせる女になれ。私がお前に期待することはそれだけだ』

『侯爵家以上の家の子どもなら、引っ掛けてきて欲しいところだが。間違ってもうち以下の家の子どもたちには気に入られてくれるな?仲良くなることも許さん』

『女だけで集まって話すのもまだ早いぞ。そもそも世の女たちは集まっては男の悪口ばかり言っているんだからな?浅ましい話だろう?誰のおかげで生きていられるかも忘れて、まったく、着飾るかお喋りしか出来ない無能のくせに──』




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