25 / 26
㉕♥
しおりを挟む
貴族の子どもたちの悪評が家庭教師たちから広がることはない。
貴族家に仕える使用人たちだって当然仕事上得た情報を外には漏らさない。
自分の人生を掛けてまで話す必要はないからだ。
つまり悪い噂が出回るというのは余程のこと。
外の目があるところでやらかしているか、あるいは命を懸けてでも悪口を広めたくなる対象なのだ。
優秀な女の子が、そんな最悪な男と婚約させられたのか。
可哀想に。勿体ないな。
最初はそれくらいの印象しかなかった。
いや、嘘かな。
もうこの時点で、会ったこともない、自分とは関係ないはずの女の子を奪われたように感じていたのかもしれない。
でもそれはまだ自分の中では核心的なところにはなくて──。
それが変わったのは、社交の練習と称して伯爵家以上の子どもたちを集めた王家主催のお茶会だった。
その日の夜には、私はすっかり愚かな男とその両親を妬んでいたし。
それは私だけではなくて、すぐに動かずにいた私の親たちもかなり後悔していたらしい。
それくらいアメリアは目立っていたんだ。
装いが目立っていた?
容姿が美しかった?
いやいや確かに幼いアメリアはとても可愛らしかったよ?
伯爵も王家主催のお茶会だからと、費用を出し惜しみしなかったそうだから、とてもおめかししていてね?
でもアメリアが目立っていたのは、そこじゃなかった。
その聡明さがまったく隠し切れていなかったところだ。
もちろんアメリアにその気はない。
むしろ賢いところは隠したかったらしい。
それも今は本人から聞いて知ったこと。
あろうことか、あの日は伯爵に叱られた後だったという。
アメリアの父親とは思えない男だよね?
お茶会前にアメリアはなんて言われていたと思う?
『女のくせに、余計な話ばかりしおって!昨日のようなことは許さんからな』
『今日の茶会では小難しい会話は一切するな。そんな女は嫌われるぞ』
『おとなしく男を立てておけ。女のお前にも、それくらいは出来るな?』
『立て方が分からないだと?あれほど家庭教師をつけてやって、何と馬鹿な娘か』
『男の話に合わせておけばいいんだ。お前からは話題を振るな。いいな?』
『男を喜ばせる女になれ。私がお前に期待することはそれだけだ』
『侯爵家以上の家の子どもなら、引っ掛けてきて欲しいところだが。間違ってもうち以下の家の子どもたちには気に入られてくれるな?仲良くなることも許さん』
『女だけで集まって話すのもまだ早いぞ。そもそも世の女たちは集まっては男の悪口ばかり言っているんだからな?浅ましい話だろう?誰のおかげで生きていられるかも忘れて、まったく、着飾るかお喋りしか出来ない無能のくせに──』
貴族家に仕える使用人たちだって当然仕事上得た情報を外には漏らさない。
自分の人生を掛けてまで話す必要はないからだ。
つまり悪い噂が出回るというのは余程のこと。
外の目があるところでやらかしているか、あるいは命を懸けてでも悪口を広めたくなる対象なのだ。
優秀な女の子が、そんな最悪な男と婚約させられたのか。
可哀想に。勿体ないな。
最初はそれくらいの印象しかなかった。
いや、嘘かな。
もうこの時点で、会ったこともない、自分とは関係ないはずの女の子を奪われたように感じていたのかもしれない。
でもそれはまだ自分の中では核心的なところにはなくて──。
それが変わったのは、社交の練習と称して伯爵家以上の子どもたちを集めた王家主催のお茶会だった。
その日の夜には、私はすっかり愚かな男とその両親を妬んでいたし。
それは私だけではなくて、すぐに動かずにいた私の親たちもかなり後悔していたらしい。
それくらいアメリアは目立っていたんだ。
装いが目立っていた?
容姿が美しかった?
いやいや確かに幼いアメリアはとても可愛らしかったよ?
伯爵も王家主催のお茶会だからと、費用を出し惜しみしなかったそうだから、とてもおめかししていてね?
でもアメリアが目立っていたのは、そこじゃなかった。
その聡明さがまったく隠し切れていなかったところだ。
もちろんアメリアにその気はない。
むしろ賢いところは隠したかったらしい。
それも今は本人から聞いて知ったこと。
あろうことか、あの日は伯爵に叱られた後だったという。
アメリアの父親とは思えない男だよね?
お茶会前にアメリアはなんて言われていたと思う?
『女のくせに、余計な話ばかりしおって!昨日のようなことは許さんからな』
『今日の茶会では小難しい会話は一切するな。そんな女は嫌われるぞ』
『おとなしく男を立てておけ。女のお前にも、それくらいは出来るな?』
『立て方が分からないだと?あれほど家庭教師をつけてやって、何と馬鹿な娘か』
『男の話に合わせておけばいいんだ。お前からは話題を振るな。いいな?』
『男を喜ばせる女になれ。私がお前に期待することはそれだけだ』
『侯爵家以上の家の子どもなら、引っ掛けてきて欲しいところだが。間違ってもうち以下の家の子どもたちには気に入られてくれるな?仲良くなることも許さん』
『女だけで集まって話すのもまだ早いぞ。そもそも世の女たちは集まっては男の悪口ばかり言っているんだからな?浅ましい話だろう?誰のおかげで生きていられるかも忘れて、まったく、着飾るかお喋りしか出来ない無能のくせに──』
12
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。
結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに
「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……
身勝手な婚約破棄をされたのですが、第一王子殿下がキレて下さいました
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢であるエリーゼは、第ニ王子殿下であるジスタードに婚約破棄を言い渡された。
理由はジスタードが所帯をを持ちたくなく、まだまだ遊んでいたいからというものだ。
あまりに身勝手な婚約破棄だったが、エリーゼは身分の差から逆らうことは出来なかった。
逆らえないのはエリーゼの家系である、ラクドアリン伯爵家も同じであった。
しかし、エリーゼの交友関係の中で唯一の頼れる存在が居た。
それは兄のように慕っていた第一王子のアリューゼだ。
アリューゼの逆鱗に触れたジスタードは、それはもう大変な目に遭うのだった……。
【完結】ああ……婚約破棄なんて計画するんじゃなかった
岡崎 剛柔
恋愛
【あらすじ】
「シンシア・バートン。今日この場を借りてお前に告げる。お前との婚約は破棄だ。もちろん異論は認めない。お前はそれほどの重罪を犯したのだから」
シンシア・バートンは、父親が勝手に決めた伯爵令息のアール・ホリックに公衆の面前で婚約破棄される。
そしてシンシアが平然としていると、そこにシンシアの実妹であるソフィアが現れた。
アールはシンシアと婚約破棄した理由として、シンシアが婚約していながら別の男と逢瀬をしていたのが理由だと大広間に集まっていた貴族たちに説明した。
それだけではない。
アールはシンシアが不貞を働いていたことを証明する証人を呼んだり、そんなシンシアに嫌気が差してソフィアと新たに婚約することを宣言するなど好き勝手なことを始めた。
だが、一方の婚約破棄をされたシンシアは動じなかった。
そう、シンシアは驚きも悲しみもせずにまったく平然としていた。
なぜなら、この婚約破棄の騒動の裏には……。
私の味方は王子殿下とそのご家族だけでした。
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のコーデリア・アレイオンはミストマ・ストライド公爵から婚約破棄をされた。
婚約破棄はコーデリアの家族を失望させ、彼女は責められることになる。
「私はアレイオン家には必要のない存在……将来は修道院でしょうか」
「それならば、私の元へ来ないか?」
コーデリアは幼馴染の王子殿下シムルグ・フォスターに救われることになる。
彼女の味方は王家のみとなったが、その後ろ盾は半端ないほどに大きかった。
お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?
柚木ゆず
恋愛
こんなことがあるなんて、予想外でした。
わたしが伯爵令嬢ミント・ロヴィックという名前と立場を失う原因となった、8年前の婚約破棄。当時わたしを裏切った人と、偶然出会いました。
元婚約者のレオナルド様。貴方様は『お前がいると不幸になる』と言い出し、理不尽な形でわたしとの関係を絶ちましたよね?
あのあと。貴方様はわたしを捨てて、幸せになれましたか?
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
金の亡者は出て行けって、良いですけど私の物は全部持っていきますよ?え?国の財産がなくなる?それ元々私の物なんですが。
銀杏鹿
恋愛
「出て行けスミス!お前のような金のことにしか興味のない女はもううんざりだ!」
私、エヴァ・スミスはある日突然婚約者のモーケンにそう言い渡された。
「貴女のような金の亡者はこの国の恥です!」
とかいう清廉な聖女サマが新しいお相手なら、まあ仕方ないので出ていくことにしました。
なので、私の財産を全て持っていこうと思うのです。
え?どのくらいあるかって?
──この国の全てです。この国の破綻した財政は全て私の個人資産で賄っていたので、彼らの着てる服、王宮のものも、教会のものも、所有権は私にあります。貸していただけです。
とまあ、資産を持ってさっさと国を出て海を渡ると、なんと結婚相手を探している五人の王子から求婚されてしまいました。
しきたりで、いち早く相応しい花嫁を捕まえたものが皇帝になるそうで。それで、私に。
将来のリスクと今後のキャリアを考えても、帝国の王宮は魅力的……なのですが。
どうやら五人のお相手は女性を殆ど相手したことないらしく……一体どう出てくるのか、全く予想がつきません。
私自身経験豊富というわけでもないのですが、まあ、お手並み拝見といきましょうか?
あ、なんか元いた王国は大変なことなってるらしいです、頑張って下さい。
◆◆◆◆◆◆◆◆
需要が有れば続きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる