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『伯爵家期待の才女が、かの侯爵家嫡男と婚約した──』

 その話はすぐに我が家へも届けられた。

 この侯爵家がまたね。
 現当主はあまり良くない印象を持たれている男だったから。
 それは伯爵とは違った方向にだ。

 だから婚約の噂話には、侯爵への悪口とアメリアへの同情がいつも付随していた。
 貴族たちの多くは何か起こればそこに日頃の不満を乗せて囁き合う。

 つまり侯爵家の当主は、元からそういう男だったということ。
 これに関しては、アメリアの評判に影響がなく、かえって良かったと思っている。

 そんな侯爵だから、分からなかったのだろうね?
 高位の貴族の令息たちが婚約者を決めず、家を上げて伯爵の動向とその令嬢の成長を見守っていたというのに。
 そもそもの話、私たちの常識において婚約前には上位の貴族家の考えを探るものだ。いざ動こうとなれば暗にお伺いも立てる。

 侯爵家は本当にいきなり動いた。
 こういう貴族の暗黙の了解を無視するところがまた、侯爵の評価を下げていく。

 だいたい我が家が様子を見ている段階であることは、社交界には知らしめてあったのだけれどねぇ。

 伯爵も侯爵も、それはどこからでも聞く機会はあったはずだ。

 私たちとしては、アメリアの父親である伯爵が真面な当主となることを期待していたのだけれど。
 伯爵は我が家との関わりを避けるようになったし、まさかの関係ない侯爵の方が動いては、大喜びでその話に飛び付いた。

 権力を振りかざすことは良くないことだよ?
 でもねぇ。
 公爵家の意向を無視するなんて、二人とも大物過ぎない?

 伯爵は普段は高位に媚びているくせに、批判的な声掛けには酷く弱い男だった。
 よく思われていないならば関わらないでおこうと安易に考えたのだ。
 そしてまだ社交をしていない年齢においても他家からの印象の良かったアメリアに対しては、『悪目立ちしおって』『余計なことはするな!』と叱っていたらしい。

 あの男の思考は訳が分からない。

 侯爵も侯爵で貴族たちの使う比喩や湾曲表現を多用した言い回しが苦手だと分かった。
 だから貴族たちが明言せずに共有している思考を汲み取れなかったんだ。
 そんな男のくせに、子どもたちが自分にとって都合の良くない発言をするたびに『察しが悪い子だ』と叱っていたようだけれどね?

 人にぶつける悪口は、自分が気にしている言葉を選ぶっていうのは本当みたいだ。
 私も気を付けないと……。


 さて、この侯爵家。
 当主だけでなく、嫡男の評判まで悪かった。

 最悪だろう?






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