24 / 26
㉔♥
しおりを挟む『伯爵家期待の才女が、かの侯爵家嫡男と婚約した──』
その話はすぐに我が家へも届けられた。
この侯爵家がまたね。
現当主はあまり良くない印象を持たれている男だったから。
それは伯爵とは違った方向にだ。
だから婚約の噂話には、侯爵への悪口とアメリアへの同情がいつも付随していた。
貴族たちの多くは何か起こればそこに日頃の不満を乗せて囁き合う。
つまり侯爵家の当主は、元からそういう男だったということ。
これに関しては、アメリアの評判に影響がなく、かえって良かったと思っている。
そんな侯爵だから、分からなかったのだろうね?
高位の貴族の令息たちが婚約者を決めず、家を上げて伯爵の動向とその令嬢の成長を見守っていたというのに。
そもそもの話、私たちの常識において婚約前には上位の貴族家の考えを探るものだ。いざ動こうとなれば暗にお伺いも立てる。
侯爵家は本当にいきなり動いた。
こういう貴族の暗黙の了解を無視するところがまた、侯爵の評価を下げていく。
だいたい我が家が様子を見ている段階であることは、社交界には知らしめてあったのだけれどねぇ。
伯爵も侯爵も、それはどこからでも聞く機会はあったはずだ。
私たちとしては、アメリアの父親である伯爵が真面な当主となることを期待していたのだけれど。
伯爵は我が家との関わりを避けるようになったし、まさかの関係ない侯爵の方が動いては、大喜びでその話に飛び付いた。
権力を振りかざすことは良くないことだよ?
でもねぇ。
公爵家の意向を無視するなんて、二人とも大物過ぎない?
伯爵は普段は高位に媚びているくせに、批判的な声掛けには酷く弱い男だった。
よく思われていないならば関わらないでおこうと安易に考えたのだ。
そしてまだ社交をしていない年齢においても他家からの印象の良かったアメリアに対しては、『悪目立ちしおって』『余計なことはするな!』と叱っていたらしい。
あの男の思考は訳が分からない。
侯爵も侯爵で貴族たちの使う比喩や湾曲表現を多用した言い回しが苦手だと分かった。
だから貴族たちが明言せずに共有している思考を汲み取れなかったんだ。
そんな男のくせに、子どもたちが自分にとって都合の良くない発言をするたびに『察しが悪い子だ』と叱っていたようだけれどね?
人にぶつける悪口は、自分が気にしている言葉を選ぶっていうのは本当みたいだ。
私も気を付けないと……。
さて、この侯爵家。
当主だけでなく、嫡男の評判まで悪かった。
最悪だろう?
2
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
私の味方は王子殿下とそのご家族だけでした。
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のコーデリア・アレイオンはミストマ・ストライド公爵から婚約破棄をされた。
婚約破棄はコーデリアの家族を失望させ、彼女は責められることになる。
「私はアレイオン家には必要のない存在……将来は修道院でしょうか」
「それならば、私の元へ来ないか?」
コーデリアは幼馴染の王子殿下シムルグ・フォスターに救われることになる。
彼女の味方は王家のみとなったが、その後ろ盾は半端ないほどに大きかった。
幼馴染の忠告を無視した令息の、その後
柚木ゆず
恋愛
ストーリーに関係するとある演出のためいったん完結表示になりますが、明日以降も投稿をさせていただきます。
レリスタル子爵令嬢アリアーヌの幼馴染であり婚約者でもある、ラヴァロック子爵令息コンスタン。思いやりがあり優しかったコンスタンは、偶然大金を手にしてしまったことで変わってしまいます。
金遣いが荒くなり、自分よりお金を持っていない人間を見下すようになる。
そのせいで他貴族から反感を買ったりしてしまっていると知ったアリアーヌは、言動を改めるよう説得します。
ですがコンスタンは話を聞かないどころか、逆上してアリアーヌに怪我を負わせてしまいます。
その結果アリアーヌとコンスタンは婚約を解消することとなり、アリアーヌの優しさを踏みにじったコンスタンはやがて――
身勝手な婚約破棄をされたのですが、第一王子殿下がキレて下さいました
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢であるエリーゼは、第ニ王子殿下であるジスタードに婚約破棄を言い渡された。
理由はジスタードが所帯をを持ちたくなく、まだまだ遊んでいたいからというものだ。
あまりに身勝手な婚約破棄だったが、エリーゼは身分の差から逆らうことは出来なかった。
逆らえないのはエリーゼの家系である、ラクドアリン伯爵家も同じであった。
しかし、エリーゼの交友関係の中で唯一の頼れる存在が居た。
それは兄のように慕っていた第一王子のアリューゼだ。
アリューゼの逆鱗に触れたジスタードは、それはもう大変な目に遭うのだった……。
【完結】ああ……婚約破棄なんて計画するんじゃなかった
岡崎 剛柔
恋愛
【あらすじ】
「シンシア・バートン。今日この場を借りてお前に告げる。お前との婚約は破棄だ。もちろん異論は認めない。お前はそれほどの重罪を犯したのだから」
シンシア・バートンは、父親が勝手に決めた伯爵令息のアール・ホリックに公衆の面前で婚約破棄される。
そしてシンシアが平然としていると、そこにシンシアの実妹であるソフィアが現れた。
アールはシンシアと婚約破棄した理由として、シンシアが婚約していながら別の男と逢瀬をしていたのが理由だと大広間に集まっていた貴族たちに説明した。
それだけではない。
アールはシンシアが不貞を働いていたことを証明する証人を呼んだり、そんなシンシアに嫌気が差してソフィアと新たに婚約することを宣言するなど好き勝手なことを始めた。
だが、一方の婚約破棄をされたシンシアは動じなかった。
そう、シンシアは驚きも悲しみもせずにまったく平然としていた。
なぜなら、この婚約破棄の騒動の裏には……。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
「地味でブサイクな女は嫌いだ」と婚約破棄されたので、地味になるためのメイクを取りたいと思います。
水垣するめ
恋愛
ナタリー・フェネルは伯爵家のノーラン・パーカーと婚約していた。
ナタリーは十歳のある頃、ノーランから「男の僕より目立つな」と地味メイクを強制される。
それからナタリーはずっと地味に生きてきた。
全てはノーランの為だった。
しかし、ある日それは突然裏切られた。
ノーランが急に子爵家のサンドラ・ワトソンと婚約すると言い始めた。
理由は、「君のような地味で無口な面白味のない女性は僕に相応しくない」からだ。
ノーランはナタリーのことを馬鹿にし、ナタリーはそれを黙って聞いている。
しかし、ナタリーは心の中では違うことを考えていた。
(婚約破棄ってことは、もう地味メイクはしなくていいってこと!?)
そして本来のポテンシャルが発揮できるようになったナタリーは、学園の人気者になっていく……。
学院内でいきなり婚約破棄されました
マルローネ
恋愛
王立貴族学院に通っていた伯爵令嬢のメアリは婚約者であり侯爵令息、さらに生徒会長のオルスタに婚約破棄を言い渡されてしまう。しかも学院内のクラスの中で……。
慰謝料も支払わず、さらに共同で事業を行っていたのだがその利益も不当に奪われる結果に。
メアリは婚約破棄はともかく、それ以外のことには納得行かず幼馴染の伯爵令息レヴィンと共に反論することに。
急速に二人の仲も進展していくが……?
元婚約者は入れ替わった姉を罵倒していたことを知りません
ルイス
恋愛
有名な貴族学院の卒業パーティーで婚約破棄をされたのは、伯爵令嬢のミシェル・ロートレックだ。
婚約破棄をした相手は侯爵令息のディアス・カンタールだ。ディアスは別の女性と婚約するからと言う身勝手な理由で婚約破棄を言い渡したのだった。
その後、ミシェルは双子の姉であるシリアに全てを話すことになる。
怒りを覚えたシリアはミシェルに自分と入れ替わってディアスに近づく作戦を打ち明けるのだった。
さて……ディアスは出会った彼女を妹のミシェルと間違えてしまい、罵倒三昧になるのだがシリアは王子殿下と婚約している事実を彼は知らなかった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる