貴族令嬢の私を捨てればそれが出来ると思ったから

 婚約者である侯爵令息が深いため息を吐いてから語るのはいつものこと。

「相変わらず察しの悪い。どうして私の婚約者はこんなに気の利かない女なんだろうな」

 いつものことだから伯爵令嬢は傷付かない。
 いつも通り少し眉をさげ「申し訳ありません」と。一言伝えればそれで終わりのはずだった──。

 けれども今日は違う。
 彼女はもう決めていた。

 婚約者のように深い深いため息を吐いた彼女は、薄い微笑みを浮かべ切り出した。

「察しを良くするとは、つまり愚鈍なあなたさまに合わせ、知性のない会話をせよと。そういうことでよろしいのでしょうか?それとも──」

「は?」


 ”貴族令嬢のわたくし”を捨てる決意を固めた伯爵令嬢の物語。


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