フォノンの物語

KIM2

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3章

ユニとシンとの出会い

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 フォノンがローランドの元で本格的に剣の修行を始めてニ年が経ちました。
 本格的な修行とはいえ、日課は一万二千回の素振りから始まります。
 始めた頃は百回もやれば力んでヘトヘトになりました。 
 手にマメができ、潰れて、そのまた上にマメができると言った具合でした。
 痛くて痛くてとても触れたものではありません。
 それでも何度も何度も繰り返すうちに、余計な力は抜け、手はまた滑らかになって来ました。
 両手での剣の握り方、片手での剣の握り方も教えてもらいました。
 そしてひたすら素振り素振り素振り。
 それからうさぎのダンスにも、木剣を持ってやる方法を教えて貰いました。
 今ではどちらの手でも利き腕のように木剣を扱えるようになりました。
 最近では一週間に一回はフォノンは木剣で、ローランドは手近な棒で稽古をつけてもらうようになりました。
 今日はその練習日です。すでに一万二千回の素振りを終えたフォノンは両手で剣を握りました。対するローランドは片手にだらりと棒を持っています。
 「今日は極意を一つ教えてやる」
 「相手が大勢の場合、立ち止まっていてはすぐにやられる。動き回って、相手の剣は届かないが自分の剣は届くところ、そういうポジションをうまくとるんだ」
 「受けてみよ」と言っていきなりローランドから打ち据えて来ます。前後左右上下とまるで分身しているかのようです。
 「わわわ」
 フォノンは慌てて正面のローランドを迎え撃とうとしました。その途端残りの五つの攻撃を受けました。
 「あいてて」
 「もう一度!次はもっと動け」
 今度は簡単にやられないようフォノンも動き回ります。 
 が攻撃に意識がいった瞬間また打たれます。
 「動き回っている時こそ心は静かに周りの様子を伺い対処する事が必要だ」
 ローランドは息一つ切らしていません。
 「これを動中静という」
 そして続けて言いました。
 「もう一つ」
 今度はローランドは全く動きません。
 フォノンもつられて動きを止めました。
 その途端、カツンと打たれます。
 「静かに動かない時も心は常に周りを警戒して、備えること」
 とローランは言いました。
 「これを静中動という」

 その時です。
 「助けて!」
 という声が聞こえました。
 森の中に複数の人影が走り込んできています。
 少年が二人、一見して盗賊に追われているように見えました。
 「助けて!人攫いだ!」
 背の高い方の少年が、もう一人の背の低い方の帽子をかぶった少年を庇いながら言いました。
 フォノン達を見つけて駆け寄って来ます。
 「剣士さんだろ。弱いものの味方だろっ」
 フォノンは気付きました。
 この状態だと白うさぎのローランドはノーカウントでしょ? 
 じゃあ僕だけが頼りの剣士ってこと?
 盗賊と戦うのは初めてです。いえ、剣術ごっこを除けばローランド以外と剣を交えるのは初めてなのです。
 相手は六人、いや七人です。
 多勢に無勢です。
 「邪魔をするか小僧!」
 そう言って正面の盗賊が剣を振って襲ってきました。
 残りの盗賊は少年二人に向かいます。
 盗賊の一撃は鋭いものでした。
 無意識にフォノンの木剣が動きます。
 カツン!
 受け止める事ができました。
 いつもローランドの特訓を受けてるフォノンにとっては、知らず知らずに受けることができたのでした。
 ローランドに比べれば!そう思うと勇気も湧いてきます。
 「何⁉︎」
 子供と思って侮ったフォノンに剣を受け止められ、盗賊に隙ができました。
 「えい!」
 と木剣を打ち据えます。盗賊は頭を打たれどうっと倒れました。
 残りの盗賊達にわずかな動揺が走りました。
 その時ローランドが跳躍しました。
 どこをどうしたのか残りの五人の盗賊をあっという間に倒します。目にも止まらない早技です。
 「フォノンお手柄だ!よく一人仕留めた!こいつらただの人攫いじゃない。訓練されてる戦闘のプロだな。長引くと不利だ」
 と言いながら木の影に向かって鼻をひくつかせます。
 「出て来いよ。伸びてるやつらを連れて帰ってもらわないとな」
 そうローランドが言うと、木の影から七人目の男が出てきました。
 長身痩躯。隻眼。伸ばした黒髪を無造作に後ろで束ねています。口に葉っぱを咥えて暢気そうにしていますが、殺気を隠そうともしていません。
 ローランドを見据えて言います。
 「うさぎの剣士とは、さすが異国は摩訶不思議」
 ローランドは言いました。
 「ローランドだ。どうする、やるか?」
 赫い目が光ります。
 男は杖のような棒を担ぎながら言いました。
 「ヤイリという。見知りおけ」
 「東方の剣士だな。変わった剣を使うと聞いたことがある」
 「仕込み刀だ。ムラサメという妖刀だ」
 ヤイリと名乗った男はそう言って、杖に似た仕込み刀を腰に持っていきます。
 そして徐々に腰を落とすと言いました。
 「俺の故郷では、うさぎ一匹狩るのに獅子は全力でかかる、ということわざがある」
 二人の間に緊張が張りつめます。
 「全力でいく」
 次の瞬間、フォノンには全てを見切ることができませんでした。
 ヤイリが抜く手を見せぬ斬撃をローランドに飛ばし、またローランドも聖剣マーヴェリックでそれを迎えうったように見えました。恐ろしい速さです。
 ヤイリの咥えていた葉が途中から切られていました。ローランドが切ったに違いありません。ヤイリはぷっと葉を吐き出し、刀を納めると言いました。
 「一宿一飯の義理でこちら側についたが、楽しみが増えたな。今日は引く。また会おう」
 そう言って倒れている盗賊達に活を入れ去って行きました。
 盗賊達の姿が消えてからフォノンは言いました。
 「すごいや、ローランド!」
 しかしローランドは喜んでいません。
 「あちらは口先こちらは首元か」
 いつも首につけてる角笛の紐が切られていました。
 「恐ろしい奴がいるものだ」

 「助けてくれてありがとう。礼を言うよ」
 と背の高い銀髪の少年が言いました。
 「俺はユニ、こいつは弟のシン」
 と背の低い少年を示して言いました。
 背の高いユニの方はフォノンより年上にみえました。弟のシンは同じくらいでしょうか。ユニはキリッとした美しい貌だちで、シンはかわいらしい貌だちをしています。二人の瞳はどちらも薄茶色でした。
 「僕はフォノン」
 とフォノンも自己紹介しました。
 「ローランドだ」
 と白うさぎが言いました。
 「すごい、うさぎがしゃべってる!」
 ユニは驚いて言いました。シンは目を丸くしています。
 「俺のことは置いといて、奴ら何者だ?心当たりはあるのか?」
 とローランドは聞きました。
 するとシンは目を伏せて言いました。
 「わからない。町からずっとつけられていたんだ。なるべく人目のつくところを歩いて、隙を見せずに村まで来たのだけれど、村に入って、昨日から気配が消えたと思って油断したら、森の入り口で囲まれてしまった」
 町というと、村から一番近い町でも三日はかかります。フォノンは行ったことがありません。
 「君達は町から来たの?」
 フォノンは聞きました。
 「もっとずっと遠いところからさ」
 とシンは言います。
 「そんなに前からだとすると、よほど気に入られたか、それともわざと油断させてつけられたか……」
 とローランドは言いました
 「お前達はどこに向かってる?」
 「それは……」
 とユニは言い淀みました。
 「言えないなら無理に言う必要はない。何か事情があるんだろう」
 とローランドはそっけなく言いました。
 ユニは少し考え決意したように言いました。
 「カルマートの森に住んでいる、ノバとマリアという人を探してる。二人とも心当たりないか?」
 フォノンはビックリして言いました。

 「カルマートの森は知らないけれど」
 「ノバとマリアはお父さんとお母さんと同じ名前だ!」
 
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