フォノンの物語

KIM2

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2章

赫目のローランド②

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 フォノンが白うさぎのローランドの元で修行をするようになって六年が経ちました。
 ローランドはいつも森にいるわけではありません。
 「オレは孤独を愛する旅の剣士だからな」
 と言っていなくなることもしばしばでした。
 特に満月の夜が近づいてくるといつの間に姿を消しています。
 それでもちゃんと帰ってきて、フォノンの畑からニンジンを引き抜いてポリポリ齧っては、「ちゃんと修行してるか?」といつの間にかフォノンのそばにいるのでした。
 ローランドの修行は少し、いえいえ、だいぶ変わっていました。
 一年目はかけっこです。森の中を走り回ります。
 森の中は木の根が張ったり地面がぼこぼこしたりして、転けずに走るのに苦労しました。
 二年目はかけっこに加えて大きな石を持ち上げます。
 石は重くてなかなか持ち上がりません。それでも踏ん張って一生懸命持ち上げてると徐々に動くようになりました。
 三年目には石を抱えてかけっこです。
 走って、走って、走って。また走って。
 暖かい日も暑い日も涼しい日も寒い日も。
 おかげで、同じ年頃の子供達との剣術ごっこでは逃げるのは一番上手くなりました。逃げ回っているうちに相手が疲れてしまうのですが、フォノンは平気でした。
 それに石を抱えて走るようになってからは腰が強くなり、相撲を取っても負けないようになって来ました。
 四年目からは、かけっこに加えて、うさぎのダンスを教えてもらいました
 飛んだり跳ねたりかと思いきや、地味に体を動かす体操です。腕を伸ばしたり縮めたり、腰を回したり、ステップを踏んだり。息を吸ったり吐いたり。
 五年目になり、かけっこに石の持ち上げをして、うさぎのダンスを息切れなくできるようになった頃、今度は頭に水の入ったコップを乗せて、水を溢さないように歩く修行するよう言われました。
 六年目になりフォノンはローランドから一本の木剣をもらいました。いつも剣術ごっこで使っている木の枝ではなく、白樫の木を削った重くて長い木剣です。
 フォノンは嬉しくて「やったー」と木剣を振り回そうとしましたが、木剣は重くて逆に振り回されそうになります。
 それを見たローランドはニヤリと笑って言いました。
 「今日からお前の相棒だ。いつも持ち歩け」
 「ごはんの時も?」
 「ごはんの時もだ」
 「寝る時も?」
 「寝る時もだ」
 「トイレの時も?」
 「トイレの時もだ」
 それが相棒というものか、とフォノンは思うのでした。
 「それから、毎日これから言うことをやるように」
 「なんでしょう?」
 「素振りを各々毎日千回できるようになること」
 「各々?」
 「上から下へ。下から上へ。右から左へ。左から右へ。両手と右手一本と左手一本でだ」
 「えーと、四つの方向に持ち方三通りで千回づつと言うことは……一万二千回!!」
 くらくらくら。気の遠くなるような回数です。でも弟子を志願したのはフォノンなのでやり遂げなければなりません。木剣を握って決意を噛み締めます。
 「剣が自分の腕の一部になるまでだ」
 ローランドはそっけなく言います。
 「それはそうと、さっきはちゃんと難しい計算できたな。学校に行っているのか?」
 フォノンはちょっと俯いて言いました。
 「僕は村の学校には行ってないんだ。遠いし、家のお手伝いもあるしね。読み書きはお母さんが教えてくれる。算数や理科や社会はお父さんが教えてくれるよ。剣はローランドが教えてくれるし。特にお父さんが話してくれる世界の話は本当に好きなんだ。いつか僕も旅して世界を見て見たい。」
 「そっか。寂しくはないか?」
 「寂しくはないよ。お父さんもお母さんもローランドもいるし、森には動物達も小鳥達や虫達もいる。みんな友達なんだ。」
 「そうか、よくわかった」
 とローランドは言いました。
 「これから本格的な剣の修行に入る」
 ローランドはフォノンに向かって言いました。
 「一度、ご両親に挨拶した方が良いだろう」
 「え、会ってくれるの?」
 フォノンは驚きました。
 修行は二人きりの秘密だとローランドに言われていたからです。
 「師匠が白うさぎじゃビックリするかな?」
 ローランドは少し不安げに言いました。
 フォノンは考え込みました。僕が動物の声を聞こえることに比べたら、これ以上あまりビックリすることは無いと思うけれど、どうだろう。
 「たぶん大丈夫だよ。ローランドは良いうさぎだもの」
 「じゃあ、次の満月の夜に小屋へ挨拶に伺うとしよう」
 そうしてローランドはノバとマリアに会うことになったのです。
 
 満月の夜、マリアはご馳走を作りました。
 山羊のチーズをかけた麦のパン、ゆで卵、山羊の乳のシチュー、鹿の干し肉、畑で取れたサラダに分厚いベーコン、ノバはワインも村から買ってきました。
 フォノンはこっそりニンジンもたくさん用意しておきました。
 剣術の先生が白うさぎだとは言いそびれて、出たとこ勝負で行こうと決めたのです。
 コンコン、コンコン
 ドアをノックする音が聞こえました。
 「ローランドだ!」
 フォノンは扉を開けに行きました。扉の外に白うさぎがいたら、お父さんお母さんビックリするだろうな。
えーい、どうにでもなれ!バン、と扉を開けます!

 「あれ!!」

 ビックリしたのはフォノンの方でした。
 だってそこに立っていたのは白うさぎでは無かったのです。
 背の高い立派な青年がそこに立っていました。
 茶色い髪に色白な精悍な顔。ただ間違えようの無い赫い目。
 「こんばんは」
 と青年は言いました。これも間違えようの無い声です。
 「ローランドです」

ノバとマリアもその立派さに驚いたようですが、ローランドに小屋に入るように勧めました。
 「……剣聖、赫目のローランド」
 とノバがつぶやきました。
 ローランドは苦笑して言いました。
 「そう呼ばれたこともありました。昔のことです」
 「さあさ、座って座って」
 と何も知らないマリアが言います。
 「フォノンの先生になる人なのだから」
 そのフォノンは口を開けてまだショックから抜けれていませんでした。うさぎ、人間、うさぎ、人間。とぶつぶつ言っています。
 そう言えば満月の夜にローランドに会ったことはありませんでした。
 ノバはワインを勧めると話しを始めました。
 「フォノンに剣術を教えていただいてるそうですね」
 「ええ、まだ基礎の基礎で棒すら持たない稽古ですが、フォノンはよくやってます」
 「これからは剣を持つ稽古になるのですか?」
 「本人はやりたがっています。今日はご両親のご意見を聴きたくて参りました」
 「私は、剣は嫌いです」
 とノバはキッパリと言いました。
 「人を殺す術を持ちたいとも、持たせたいとも思いません」
 ローランドはじっとノバを見つめ、剣を振る仕草をして言いました。
 「失礼ですが、あなたは昔相当お遣りになりましたね」
 赫い目が光りました。
 「ハルモニア王国のエネルジコ騎士団長ノバの勇名は聞いたことがあります」
 トン、とワインを注いだグラスを置くとマリアが言いました。
 「その男のかたは死にました。ここにいるのは違うノバです」
 ローランドは肩をすくめて言いました。
 「失礼。あなた方の過去を掘り返す気は無いのです」
 そしてフォノンを見ると言いました。
 「フォノンの才能は素晴らしい」
 「私は最初教えるつもりは無かったのですが、惜しくなってきました」
 そして息を継いで言います。
 「剣は殺人だけにあらず、活人の両方を持って完成とします」
 「私は出来るならフォノンに活人剣を会得してもらいたいのです」
 ローランドはマリアとノバに頭を下げました。
 「私の持つ全てをフォノンに伝えさせてはいただけないでしょうか?」
 それを聞いたノバは考え込みました。
 そしてしばらくの沈黙の後言いました。
 「わかりました。フォノンの意思に任せましょう」
 そしてフォノンに向かって言いました。
 「フォノンはどうしたい?」
 やっとショックから立ち直ったフォノンは三人の顔を見廻し、言いました。
 「僕は最初剣術ごっこで勝ちたかっただけだよ。人を殺す術は学びたくないよ。だけれど、闘いが避けれない時、剣で相手を活かして勝てる術があるならやってみたい」
 それを聞いたローランドは言いました。
 「活人剣とは相手を活かして勝つことだけではない。それが理想だがやむを得ない時もある。だが、剣を通じて自分も活かして相手も活かす。その理想にどうすれば近づけるのか私も一緒に考えよう」
 ノバはニッコリ笑いました。
 「フォノンは良い先生を見つけたな」
 マリアは言いました。
 「さあ前祝いよ!腕によりをかけて作ったんだから」
 「食べて飲んで、明日から頑張りましょう!」
 そうしてささやかな宴が始まりました。
 ノバとローランドは意気投合したようです。二人は同い年だったのです。
 「最近、物騒だ。この辺で盗賊だけでなく魔物もよく出るらしい」
 「村は自警団だけではなく、兵隊の派遣を代官にお願いしてるそうだな」
 そう言えば、とノバはローランドに向かって言いました。
 「君はまだ代官様が探してるけれど、大丈夫かい?」
 ローランドは笑って言いました。
 「明日になったらわかるさ」

 翌日、ニンジンを齧っている白うさぎのローランドを見て、ノバとマリアが目を丸くして驚いたのは、いうまでもありません。
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