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近所の名物おじいさん
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私の近所には、ちょっとした名物おじいさんがいる。
毎朝、通学路である家の前に立ち
「気をつけてなぁ~」
「今日も元気だせよぉ~」
「おはよぉさん~」
と、通学中の子どもたちに声をかけるのだ。
70代くらいだろうか。いつも肌色の腹巻きを巻いていて、頭部の毛はもうない。
それに前歯も2本ないので、この前小学生の子から「歯抜けじじい」と呼ばれているのを聞いた。そんな、ちょっとした名物おじいさん。近所のママさんたちは気味悪がり、子どもに影響がないかいつも心配している。
町内会長に注意をお願いしても、「まぁ、挨拶してるだけですから…」と意味がないらしい。
まぁ、町内会長はおじさんとの方が付き合いが長いからだろう。私は2年前に家族で引っ越してきたのだが、そのときからもうこのおじいさんは近所では有名な存在だった。
「あんた、またあのおじいさんのこと見てんの?」
「だってぇ~なんか面白いじゃない」
家の窓からおじいさんの家を眺めていると後ろから姉に声をかけられる。
姉は国立大の医学生だ。第一希望に落ちて三流大学に通う私とは違い、来年からは立派なお医者さん。
「はぁ、あんたは暇でいいよね」
姉の嫌味にはもう慣れたものだ。医学生はやはりストレスが溜まるのか、いつも姉はイライラしている。
「医学生って忙しいよね~」
「本当だよ…実習ばっか。私が班で1番下手なのよ…」
そう言い残し、姉は大学へ向かった。珍しく弱気だった姉を心配しながらも、私はあのおじいさんを目で追っていた。
そんな日の夕方だった。近所で異変が起こったのは…
「うぁ~ん!うぁぁぁあああああああん!!!」
近所の子供の声が鳴り響く。声の大きさ的にあまり遠くはないようだ。なんだなんだと野次馬になって見に行くと、人だかりができている。みんなご近所さんばかり。
「アレは絶対人の仕業よ…!!」
「ねぇ、あのおじいさんじゃなぁい?なんだかやりそうな気してたじゃない…」
「とにかく警察よ、警察に連絡しましょ…」
警察…?何があったのか、ますます気になる。人混みの中心に行くと、何か血まみれのものが見えた。
…猫の死体だ。しかも、車に轢かれたような様子でもない。
お腹の辺りが、くり抜かれているような…?
近所の人が言うように、人の仕業かもしれない。近所にこんなことをする人がいるんだ…。
泣いていた男の子は、この野良猫にエサをあげて可愛がっていた。あれだけ発狂してしまっても、仕方がないだろう…
嫌なものを見てしまった。さっさと家に帰ろう。
するりと人混みから抜け、路地にでる。すると、横におじいさんが突っ立っていた。
「内臓が、ないぞう…ってなぁ。うひゃひゃひゃ」
「っ、え…?」
確かに、おじいさんはそう言って、不気味に笑った。
流石に恐怖を感じ、私は全力で走り逃げ出す。
自宅に着きしばらくして、自分の手が酷く震えていることに気づいた。
あれはやばい。あの野良猫、本当におじいさんが手にかけていたとしたら…
とにかく、この事は誰かに相談しよう。
とりあえず、明日は警察に…。そう思い、この日はもう家から一歩も出なかった。
・
そして、数日後。私が警察に相談してからしばらくの事だった。あの名物おじいさんが、内臓がくり抜かれた状態で家の前に横たわっているところが見つかった。いつもつけていた肌色の腹巻きは血まみれで、ぐちゃぐちゃだったらしい。
想像しただけで、私は吐きそうになる。
野良猫は、おじいさんの仕業じゃなかったってこと…?
じゃあ、一体誰が…。
おじいさんがいつも立っていたところをいつものように窓から眺める。
「じゃあ、いってきま~す」
サイレンがなり響く朝でも、姉はいつものように大学へ行く。
そんな姉を見送った私には、あのおじいさんの“うひゃひゃひゃ”という笑い声が、木霊していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
姉は医学生。周りよりも実習が苦手で、技術力は乏しかった。努力家な彼女は、自主練を試みた可能性がある…
毎朝、通学路である家の前に立ち
「気をつけてなぁ~」
「今日も元気だせよぉ~」
「おはよぉさん~」
と、通学中の子どもたちに声をかけるのだ。
70代くらいだろうか。いつも肌色の腹巻きを巻いていて、頭部の毛はもうない。
それに前歯も2本ないので、この前小学生の子から「歯抜けじじい」と呼ばれているのを聞いた。そんな、ちょっとした名物おじいさん。近所のママさんたちは気味悪がり、子どもに影響がないかいつも心配している。
町内会長に注意をお願いしても、「まぁ、挨拶してるだけですから…」と意味がないらしい。
まぁ、町内会長はおじさんとの方が付き合いが長いからだろう。私は2年前に家族で引っ越してきたのだが、そのときからもうこのおじいさんは近所では有名な存在だった。
「あんた、またあのおじいさんのこと見てんの?」
「だってぇ~なんか面白いじゃない」
家の窓からおじいさんの家を眺めていると後ろから姉に声をかけられる。
姉は国立大の医学生だ。第一希望に落ちて三流大学に通う私とは違い、来年からは立派なお医者さん。
「はぁ、あんたは暇でいいよね」
姉の嫌味にはもう慣れたものだ。医学生はやはりストレスが溜まるのか、いつも姉はイライラしている。
「医学生って忙しいよね~」
「本当だよ…実習ばっか。私が班で1番下手なのよ…」
そう言い残し、姉は大学へ向かった。珍しく弱気だった姉を心配しながらも、私はあのおじいさんを目で追っていた。
そんな日の夕方だった。近所で異変が起こったのは…
「うぁ~ん!うぁぁぁあああああああん!!!」
近所の子供の声が鳴り響く。声の大きさ的にあまり遠くはないようだ。なんだなんだと野次馬になって見に行くと、人だかりができている。みんなご近所さんばかり。
「アレは絶対人の仕業よ…!!」
「ねぇ、あのおじいさんじゃなぁい?なんだかやりそうな気してたじゃない…」
「とにかく警察よ、警察に連絡しましょ…」
警察…?何があったのか、ますます気になる。人混みの中心に行くと、何か血まみれのものが見えた。
…猫の死体だ。しかも、車に轢かれたような様子でもない。
お腹の辺りが、くり抜かれているような…?
近所の人が言うように、人の仕業かもしれない。近所にこんなことをする人がいるんだ…。
泣いていた男の子は、この野良猫にエサをあげて可愛がっていた。あれだけ発狂してしまっても、仕方がないだろう…
嫌なものを見てしまった。さっさと家に帰ろう。
するりと人混みから抜け、路地にでる。すると、横におじいさんが突っ立っていた。
「内臓が、ないぞう…ってなぁ。うひゃひゃひゃ」
「っ、え…?」
確かに、おじいさんはそう言って、不気味に笑った。
流石に恐怖を感じ、私は全力で走り逃げ出す。
自宅に着きしばらくして、自分の手が酷く震えていることに気づいた。
あれはやばい。あの野良猫、本当におじいさんが手にかけていたとしたら…
とにかく、この事は誰かに相談しよう。
とりあえず、明日は警察に…。そう思い、この日はもう家から一歩も出なかった。
・
そして、数日後。私が警察に相談してからしばらくの事だった。あの名物おじいさんが、内臓がくり抜かれた状態で家の前に横たわっているところが見つかった。いつもつけていた肌色の腹巻きは血まみれで、ぐちゃぐちゃだったらしい。
想像しただけで、私は吐きそうになる。
野良猫は、おじいさんの仕業じゃなかったってこと…?
じゃあ、一体誰が…。
おじいさんがいつも立っていたところをいつものように窓から眺める。
「じゃあ、いってきま~す」
サイレンがなり響く朝でも、姉はいつものように大学へ行く。
そんな姉を見送った私には、あのおじいさんの“うひゃひゃひゃ”という笑い声が、木霊していた。
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姉は医学生。周りよりも実習が苦手で、技術力は乏しかった。努力家な彼女は、自主練を試みた可能性がある…
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