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1.本から始まった恋
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「私は一度きりで一生分の恋をしたのだ――。」
夏の日差しを避けるように訪れた図書館で、私はある本を見つけた。
それはまるで誰にも気づかれないように、そっと隅にしまわれた手帳のように見えた。
手に取ると、一際明るくて美しい青一色の装丁が目を惹いた。
表紙には、「勿忘草(わすれなぐさ)」という本のタイトルに、
「常盤 満(ときわみつる)」と著者の名前が記されていた。
「ときわ みつる?」
私はよく図書館に通うくらいには読書家と自負していたが、
著者の名前に心当たりはなかったはずだった。
けれど、その名前を口にした瞬間に、私の胸がちくりと痛んだ気がした。
そして、打ち寄せる波のように感情の揺らめきを感じて戸惑う。
その感情は、表紙をめくった次の瞬間に確信へと変わった。
「私は一度きりで一生分の恋をしたのだ――。
願うならもう一度、あなたに会いたい。あなたは、いまどこにいますか?
何を想っていますか? 願うなら、どうか私を忘れないでいて……。」
私はこの言葉を知っている。
いつ、どこで? 誰が?
私はそう思うと、本の最後のページを開いた。
モノクロの人物写真。
どこかの海辺を背景にして、絣の着物の下に立ち衿のシャツを着た青年が写っていた。
一つに結わえた髪は左肩に流し、丸い眼鏡の奥の瞳は、優しく微笑んでいた。
この人が著者なのだろう。
写真の左下には、「フォゲットミーナットブルー」と書かれていた。
「Forget me not blue」
この言葉をひらめいた瞬間、私はどうしようもなく胸が苦しくなった。
「私を忘れないで。」
あぁ、私はこの人に恋をしたのだ。
気がつくと私は泣いていた。
そう自覚しても涙があふれ落ち、私はしばらくの間、本を抱えたままその場にうずくまった。
どれだけの間、そうしていたのだろうか。
窓から差し込む夕日の色を肌に感じて、私は我に返った。
慌てて帰り支度を整え、この本を1冊だけ借りると図書館を出た。
空を見上げると、夕焼けで雲が赤く染まっている。
夏空の夕焼けは、どこか懐かしさが募った。この空をずっと昔にあなたも見たのだろうか。
そう思うと、少しだけ優しい気持ちになれた。
夏の日差しを避けるように訪れた図書館で、私はある本を見つけた。
それはまるで誰にも気づかれないように、そっと隅にしまわれた手帳のように見えた。
手に取ると、一際明るくて美しい青一色の装丁が目を惹いた。
表紙には、「勿忘草(わすれなぐさ)」という本のタイトルに、
「常盤 満(ときわみつる)」と著者の名前が記されていた。
「ときわ みつる?」
私はよく図書館に通うくらいには読書家と自負していたが、
著者の名前に心当たりはなかったはずだった。
けれど、その名前を口にした瞬間に、私の胸がちくりと痛んだ気がした。
そして、打ち寄せる波のように感情の揺らめきを感じて戸惑う。
その感情は、表紙をめくった次の瞬間に確信へと変わった。
「私は一度きりで一生分の恋をしたのだ――。
願うならもう一度、あなたに会いたい。あなたは、いまどこにいますか?
何を想っていますか? 願うなら、どうか私を忘れないでいて……。」
私はこの言葉を知っている。
いつ、どこで? 誰が?
私はそう思うと、本の最後のページを開いた。
モノクロの人物写真。
どこかの海辺を背景にして、絣の着物の下に立ち衿のシャツを着た青年が写っていた。
一つに結わえた髪は左肩に流し、丸い眼鏡の奥の瞳は、優しく微笑んでいた。
この人が著者なのだろう。
写真の左下には、「フォゲットミーナットブルー」と書かれていた。
「Forget me not blue」
この言葉をひらめいた瞬間、私はどうしようもなく胸が苦しくなった。
「私を忘れないで。」
あぁ、私はこの人に恋をしたのだ。
気がつくと私は泣いていた。
そう自覚しても涙があふれ落ち、私はしばらくの間、本を抱えたままその場にうずくまった。
どれだけの間、そうしていたのだろうか。
窓から差し込む夕日の色を肌に感じて、私は我に返った。
慌てて帰り支度を整え、この本を1冊だけ借りると図書館を出た。
空を見上げると、夕焼けで雲が赤く染まっている。
夏空の夕焼けは、どこか懐かしさが募った。この空をずっと昔にあなたも見たのだろうか。
そう思うと、少しだけ優しい気持ちになれた。
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