166 / 166
連載
閑話.おまいり。
しおりを挟む
年が明けて元旦。じい様がいなくなって初めての正月。
浅尾家の朝は正月でも早かった。じい様の仏壇へお茶とご飯を供えると皆で手をあわせる。
「忌中じゃないから初詣に行かない?」
「喪中なのにいいの? 行かないのが普通なんじゃないの?」
父の言葉になんとなく聞きかじった知識で応えるタクミ。
「忌中が明けてるし、僕たちが前を見ようとしてるんだから問題ないよ。気分が滅入ってるなら話は別だけどね」
「そんなものなの?」
夫の言葉に疑問を投げかける。
「そんなもんだよ。それにいつまでも、くよくよメソメソしてたらお義父さんに怒られちゃうよ」
「そっか。前に見たじいちゃんも元気そうだったもんね。僕らも元気になってるってとこを見てもらわなくちゃ」
「いや、父さんに見えるとは思わないんだけど……」
「分からないよ? 僕らからはお義父さんを見れたのに、あっちからは見えないなんて言えないでしょ? なら神様にお願いしてみるのも一興ってもんだよ」
タクミの意見に賛同した夫は荒唐無稽なことを口にしていた。
「じゃぁ、早く行こうよ。神社で甘酒も飲みたいし」
完全に以前と同じにまで心が回復したとは言えないながらも、笑顔を見せるタクミに促され一家での初詣が決まった。
地元にある小さいながらも由緒正しい神社は、正月ならではの賑わいを見せていた。氏子さんによるテントでは、
温かい甘酒が配られ、その他にも日本酒を振る舞っている。お詣りもそこそこに済ませ、タクミは甘酒を、両親は日本酒を飲んでいた。歩いて来れる距離にある神社だからこその風景でもあった。
「じいちゃんに見てもらえるかなぁ」
「どうだろね。それこそ『神のみぞ知る』ってやつじゃないのかな?」
「ゲームじゃないんだから……でも父さんを見た私たちだから、もしかしたら……ね」
「そだね。そのくらいでいいんだよね」
のんびり歩いて家へと帰る時もまたじい様の話題で持ちきりだった。
その晩、またじい様の夢を見た。
「……父さん、楽しんでたわね」
「ところてん食べて、ついた餅をきな粉と大根おろしで食べて、マグロ解体してたね」
「お義父さんならあり得ないことじゃないと思う僕らもどうかと思うよ」
苦笑いしながら夢の話をしていた浅尾家は、一月二日の朝から笑いが起こるのだった。
その晩は自分を神だと名乗る美青年が両親の夢へと現れた。
暇な時にでもじい様の口座を探してみてはどうかと。それは自分からの誠意であり、セイタロウさんが用意しているお金だから、タクミの為に使って欲しいと。
「二日続けて変な夢ね。でもあの人、イケメンだったわ」
「そこを気にするのかい? 話の内容を気にしようよ……」
何事においても今を楽しむ性質をしっかり受け継いでいる奥さんに若干呆れる夫だった。
「お義父さんの口座って前に見たよね? 他にもあったのかな?」
「分からないわね。母さんと一緒に残してたのかもしれないわ。私たちに伝え忘れてただけって線もあるから……」
「急ぐこともないし、今度探してみようか。お義母さんの箪笥とか葛籠に入ってるかもしれないから」
「そうね。母さんの服も陰干ししたいから丁度いいかも。今度やりましょう」
何故か見る度に増えていく通帳を見つけるのはもう少し先のことだった。
浅尾家の朝は正月でも早かった。じい様の仏壇へお茶とご飯を供えると皆で手をあわせる。
「忌中じゃないから初詣に行かない?」
「喪中なのにいいの? 行かないのが普通なんじゃないの?」
父の言葉になんとなく聞きかじった知識で応えるタクミ。
「忌中が明けてるし、僕たちが前を見ようとしてるんだから問題ないよ。気分が滅入ってるなら話は別だけどね」
「そんなものなの?」
夫の言葉に疑問を投げかける。
「そんなもんだよ。それにいつまでも、くよくよメソメソしてたらお義父さんに怒られちゃうよ」
「そっか。前に見たじいちゃんも元気そうだったもんね。僕らも元気になってるってとこを見てもらわなくちゃ」
「いや、父さんに見えるとは思わないんだけど……」
「分からないよ? 僕らからはお義父さんを見れたのに、あっちからは見えないなんて言えないでしょ? なら神様にお願いしてみるのも一興ってもんだよ」
タクミの意見に賛同した夫は荒唐無稽なことを口にしていた。
「じゃぁ、早く行こうよ。神社で甘酒も飲みたいし」
完全に以前と同じにまで心が回復したとは言えないながらも、笑顔を見せるタクミに促され一家での初詣が決まった。
地元にある小さいながらも由緒正しい神社は、正月ならではの賑わいを見せていた。氏子さんによるテントでは、
温かい甘酒が配られ、その他にも日本酒を振る舞っている。お詣りもそこそこに済ませ、タクミは甘酒を、両親は日本酒を飲んでいた。歩いて来れる距離にある神社だからこその風景でもあった。
「じいちゃんに見てもらえるかなぁ」
「どうだろね。それこそ『神のみぞ知る』ってやつじゃないのかな?」
「ゲームじゃないんだから……でも父さんを見た私たちだから、もしかしたら……ね」
「そだね。そのくらいでいいんだよね」
のんびり歩いて家へと帰る時もまたじい様の話題で持ちきりだった。
その晩、またじい様の夢を見た。
「……父さん、楽しんでたわね」
「ところてん食べて、ついた餅をきな粉と大根おろしで食べて、マグロ解体してたね」
「お義父さんならあり得ないことじゃないと思う僕らもどうかと思うよ」
苦笑いしながら夢の話をしていた浅尾家は、一月二日の朝から笑いが起こるのだった。
その晩は自分を神だと名乗る美青年が両親の夢へと現れた。
暇な時にでもじい様の口座を探してみてはどうかと。それは自分からの誠意であり、セイタロウさんが用意しているお金だから、タクミの為に使って欲しいと。
「二日続けて変な夢ね。でもあの人、イケメンだったわ」
「そこを気にするのかい? 話の内容を気にしようよ……」
何事においても今を楽しむ性質をしっかり受け継いでいる奥さんに若干呆れる夫だった。
「お義父さんの口座って前に見たよね? 他にもあったのかな?」
「分からないわね。母さんと一緒に残してたのかもしれないわ。私たちに伝え忘れてただけって線もあるから……」
「急ぐこともないし、今度探してみようか。お義母さんの箪笥とか葛籠に入ってるかもしれないから」
「そうね。母さんの服も陰干ししたいから丁度いいかも。今度やりましょう」
何故か見る度に増えていく通帳を見つけるのはもう少し先のことだった。
84
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1739件)
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
9かん目以降は、いつ頃に、なりますか?
刊行日はまだわかりませんが、新刊の為の改稿作業中です。
600話おめでとうございます
そして完結お疲れ様でした
いつか後日談を期待しております
素敵なお話をありがとうございました
600話 おめでとうございます。
毎回、毎話 楽しく読ませて頂きました。
まだまだ続きが読みたい!
機会があれば、その先を よろしくお願いします。