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5巻

5-2

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《 5 金物屋に依頼 》

 朝ごはんの後、ロッツァは日向ぼっこを始めてしまい、ルーチェたちは儂の作った甘味でお茶会としゃれ込んでおる。日向ぼっこの気分でなく、甘味にも興味を示さんかったクリムは、儂と一緒にお出掛けじゃ。
 今日の目的地は金物屋。武器や防具でない金物は金物屋に頼むのが普通みたいじゃからのぅ。刃物なら鍛冶屋も請けてくれるんじゃが、儂の欲しい物は銅板と焼き型じゃからな。嫌な顔をされたり断られたりするのはどちらも良い気分じゃないから、金物屋一択になるんじゃよ。
 通りを進み目的地を目指せば、金物屋と鍛冶屋が一軒挟んで並んでおる。挟まれた一軒も金属製品の販売店じゃから、もろに関係者じゃな。店の中を少し覗けば武器に防具、包丁に大工道具といろいろ見えるが、銅板は並べられてないのぅ。

「何かを探しているのか?」

 いかにも職人な男に声をかけられたので、儂の欲しい銅板の大きさと厚さを伝えたら、怪訝な顔をされてしまったわい。ここの親方だったようで、銅板を欲しがる客は初めて見たんじゃと。
 魚の形をした焼き型を頼んだが、加工技術的に無理と言われたので、丸型にしておいた。ついでに厚い銅板に半円のくぼみを作ることはできるか聞いたら、やってみると答えてくれた。魚の焼き型を断った手前、やれそうなことは試してくれるそうじゃ。
 どっちも鋳物いものになると思うんじゃが、何が違うんじゃろか。魚を真似るのが難しいのかのぅ……半円は削るつもりか?
 鉄板も欲しかったから、三尺四方の大きさに仕立ててもらった。使う機会が多いからか、大判で在庫を持っていたようじゃ。儂の頼んだ寸法に切ってバリを取り、へりを曲げて取っ手を付けるまで、あっという間じゃった。
 銅板だけなら二日、焼き型も一緒なら五日欲しいとのことじゃから、代金を前払いして五日後に受け取る約束を済ませ、金物屋をあとにした。受け取った鉄板を軽々持つ儂を、親方さんは目を見開いて二度見しておった。取っ手をクリムと片方ずつ持ち、歩いて帰ることにしたが、それはそれで通りを行く皆に見られることになってしまった。
 角を曲がって裏通りに入ったところで、【無限収納インベントリ】に鉄板を仕舞う……最初からこうするべきじゃったな。【無限収納インベントリ】を見られないようにと注意したのが災いしたのぅ。
 小さな店を何軒か寄り道がてら覗き、肉、野菜、卵に牛乳、小麦粉を仕入れて家へと帰る。すると、庭先で隠居貴族のクーハクートがメイドさんと一緒に待っておった。屋敷で作った花豆の味見をしてほしくて来たそうじゃ。
 庭先に組み上げた竈へ、買ってきた鉄板を下ろす。この後焼き入れをやるが、その前にクーハクートの用件を済まさんとな。
 メイドさんに渡された花豆は、ふっくらと炊かれておった。豆の味もしっかり残っとるし、砂糖の甘みも感じられる。煮崩れてもおらん。安心したメイドさんは、ほっと胸を撫で下ろしておる。
 用事の済んだクーハクートたちは帰るかと思ったが、皆で鉄板をじっと見とる。何か新しいものが出てくると考えとるんじゃろ。
 儂は竈に火を入れ、鉄板を焼く。ロッツァはまだ日向ぼっこをしとるし、クリムは儂から離れて潮干狩りを始めよった。
 焼けた鉄板を火から下ろして冷ます。粗熱が取れたら洗ってまた焼く。油を回し入れてから野菜屑を炒める。竈から下げてまた洗う。で、油を馴染ませたら焼き入れは終わりじゃ。
 クーハクートが不思議そうに見ておったが、最初に焼き入れをせんと料理が鉄臭くなってしまうんじゃよ。それに焦げ付き易いしのぅ。
 鉄板で最初に作るなら、お好み焼きじゃな。先日のエビや貝がまだ残っとるし、肉も野菜も仕入れたから準備万全じゃ。
 粉をダシで溶いてタネにして、キャベツを千切りに。天ぷらを作った時の揚げ玉も【無限収納インベントリ】から出して、エビ、貝、肉はひと口大に切る。ネギも刻んでおくか。ヴァンの村近くの山で掘った山芋もすりおろさんとな。
 ひと玉分のタネを丼にとり、キャベツなどの野菜を盛る。卵を一個と山芋を少し加え、空気が入るように底から大きくかき混ぜる。熱々に熱した鉄板に厚さ3センチくらいの円になるよう流し入れ、薄切りの肉を載せる。あとはひっくり返すまでいじらん。
 同じように海鮮お好み焼きも焼く。蓋がないことを忘れとったが、片手鍋をかぶせておけばいいじゃろ。
 数分蒸し焼きにしてから片手鍋を取り、くるっとひっくり返す。ヘラは神様のイスリールがくれたものがあって良かったわい。二つ続けて成功したので、クーハクートもメイドさんも感心しとる。返した後は蓋をしちゃいかん。蒸し焼きは最初だけじゃ。
 青のりがないのは残念じゃが、ソース、マヨネーズを並べ、鰹節かつおぶしを削って薬味をおく。ダンジョンで拾った鰹節はまだあるが、どこかで仕入れられんか探さんとな。欲しいと思っても、ダンジョンのあるレーカスは遠いからのぅ。
 薬味を準備しとる間に焼けたようで、最後の返しじゃ。これで両面かりっと仕上げるんじゃよ。焼き上がったお好み焼きにソースを塗れば、辺りに香ばしい香りが広がる。ロッツァもクーハクートもメイドさんも、ソースの香りに刺激されて腹を鳴らしておる。潮干狩りをしていたクリムもいつの間にか戻ってきて、儂の足元でそわそわしとった。
 お好み焼きを格子状に切り、マヨネーズをかけて、削り節をぱらりと載せれば完成じゃ。各々好きなように食べてくれ。どちらも問題なく出来たから、じゃんじゃん焼いていくぞ。ただ、焼き上がりまでの時間がかかってしまうからのぅ。とりあえず唐揚げや常備菜を摘まんで待っといてもらうかのう。
 それぞれが数枚ずつ食べたら満腹になってくれたようじゃった。ロッツァだけは十枚くらい食べておったな。久しぶりのお好み焼きは美味いもんじゃった。


《 6 新しい甘味 》

 毎日のように花豆を炊いておるが、一向に【無限収納インベントリ】に溜まる気配はない。それぞれの好みに合うように微調整を続けとるので少しずつ味が変化しとると思うんじゃが、残さず食べてくれとるということは、美味しいんじゃろうな。
 クーハクート、メイドさん、商業ギルドのマルにカッサンテもちょくちょく顔を出しとる。調理法の習得と進捗状況の確認と言っておったが、実際は味見が主目的じゃな。メイドさんは順番に来る人が代わっとるし、マルたちにも土産をツーンピルカへ運んでもらっとるから、あながち嘘でもないがのぅ。
 クーハクートはわざわざウチの庭に花豆を炊きに来るから、確実に試食が狙いなんじゃがな。前払いした白金貨もある上、花豆の炊き方に間違いがないかを儂に確認する建前たてまえまで用意してる。強く断る理由がないのも事実じゃから、好きなようにさせておる。
 影人かげびと族のカナ=ナとカナ=ワへの魔法指導は、ナスティも手伝ってくれるから存外儂の負担になっとらん。料理などに魔法を使って操作と強弱を覚えさせておる。ナスティ、クリム、ルージュも一緒にやっておるのが良い影響を及ぼしとる。クリムとルージュは儂の役に立ちたいと一所懸命じゃし、カナ=ナたちは魔法で後れを取りたくない。ナスティはひと通りこなせるしの。意識しないようにしても、同じことをする者がおれば、負けたくないと思ってしまうじゃろ? 負けん気の強い子ほどその傾向が出てしまうからのぅ。
 あと、カナ=ナたちには補助魔法を教えておる。中位や上位の魔法を使う時間を、自分だけで稼ぐ手段の一つになると思うんじゃよ。仲間がいないと何もできないんじゃ生き残れん。
 ついでにルーチェとロッツァを相手にした実地訓練も積ませとる。初級魔法や補助魔法での牽制を肌で覚えてくれるじゃろ。

「いってらっしゃーい」

 ルーチェに見送られながら、儂は出掛ける。今日は金物屋に銅板と焼き型を受け取りに行く日じゃ。儂の背にはルージュが負ぶさっておる。数日離れたせいで甘えん坊に磨きがかかりおったようじゃな。
 通りですれ違う人から見られまくったし、今も金物屋の親方さんに驚いた顔で見られとる。そんなことをルージュが気にするはずもなく、終始機嫌良く儂の背中に乗ったままじゃ。
 儂は銅板一枚、丸い焼き型三個、いくつもの半円の窪みが並ぶ銅板一枚を親方さんから受け取る。良い出来なので、四角い銅フライパンを追加して頼んでみた。これも作ったことのない物のようじゃ。
 大きさと厚さを伝えたら、他にも作る物はないかと言ってくれたので、親子鍋と鉄板用の丸蓋を頼んでおいた。
 フライパンも親子鍋も丸蓋も、持ち手を木材でとお願いしたら、頷いてくれた。見本になればと簡単な絵を描いて渡したのが良かったのかもしれん。今回は三日で作ると気合を入れておった。
 急ぐものでもないからのんびりで構わんと伝えたが、やる気が満ち溢れとる職人には効果がないようじゃ。
 受け取った銅板などを抱えて金物屋をあとにする。すぐに裏通りに入って品物を【無限収納インベントリ】に仕舞い、ルージュを背負ったまま散策して何軒か店を覗いていく。根菜を扱う店が見つかったので、サツマイモ、ジャガイモ、ダイコン、ニンジンといろいろ買えたわい。ゴボウっぽいものもあったから買ったんじゃが、香りがしないのはなんでじゃろ? あとで食べてみて判断するしかないのぅ。
 家に帰って、まずはサツマイモとジャガイモを蒸かす。その間に甘めの生地を仕込む。
 蒸かしたサツマイモを5センチ角くらいに切って、生地を付けて銅板で焼く。クーハクートの炊いた花豆も同じくらいの円盤型にして焼く。
 ひっくり返す時に、また生地を付けて銅板へ戻す。周囲に焼き色が付けば完成じゃ。きんつば……おやき……まぁ、その手の物じゃよ。
 生地だけを10センチくらいに広げて焼けば皮が出来る。その皮に餡子あんこを挟めばどら焼きになる。果実を一緒に入れるも良し、ジャムを挟んでも良いな。
 焼き型には生地と餡子を入れて閉じてある。何度かひっくり返して焼くだけで大判焼きじゃ。お好み焼きみたいに仕立てた物も作ったから、ロッツァも満足してくれるんじゃないかのぅ。
 たこ焼きはどうするか……タコはまだないんじゃが、イェルクにもらったソーセージ、いやブルストを入れるか。エビやイカ入りも作っておけば、誰かしらが食べるじゃろ。一緒には作らんが、甘い物を入れてもさまになると思う。
 ちゃっちゃか仕上げる儂を、メイドさんが目を輝かせて見ておる。ルーチェとクーハクートは出来立ての料理から目を離さん。
 皆に料理を勧めたら、あっという間に食べ尽くされた。予想通り、ロッツァは小型お好み焼きを気に入ってくれたようじゃ。甘い物ばかりじゃったが、皆良い笑顔を見せてくれとる。
 何の店を開くかまだ決めとらん。が、この笑顔を見たいのも事実じゃ。となると、お茶と食事の店になるかのぅ。


《 7 肉も魚も野菜も 》

 今日は、先日根菜類を多く仕入れることができた裏通りの店を再び訪れる。
 今まで見てきた他の店よりかなり安く売られておってな。形や大きさがいびつで、売りものとしては不適格なんじゃと。見た目が多少悪くても十分美味しい野菜じゃったから、また仕入れておこうと思ったんじゃよ。
 店主をしとるお姉さんに聞いたら、店にも並べられない、自分たちで食べるだけの野菜がまだあるそうじゃ。仲卸なかおろしからの仕入れにしては量がおかしいと思って聞いてみたら、両親と祖父母が畑をしとると教えてくれた。
 店で出す料理に使うので、たくさん仕入れたいと頼み込んでみた。自分たちで食べるのにも飽きとったらしく、買ってくれるなら喜んで取引をすると言ってもらえた。ただ、必ず決まった量を揃えられるわけではないと釘を刺されたが、そこは分かっとるから大丈夫じゃよ。
 良かったら寄ってみて、と店主さんが教えてくれたのは、三軒進んだ先の肉屋じゃった。どうやら肉屋にも再利用が難しい食材があるらしいんじゃよ。
 肉屋の主人に聞いてみれば、スジ肉や脂身あぶらみが結構な量残されておった。あと骨が大量じゃ。牛、豚、鶏に何か分からん魔物の骨まであるな。
 ダシとりに十分使えるから買おうかと思ったんじゃが、タダで譲ると言われてしまった。さすがに悪いので、いろんな肉を塊のまま大量に仕入れ、そのおまけとしてもらうことにした。
 脂身と赤身肉を細かく叩いてミンチにして、小判型に成形すればハンバーグじゃ。焼くなり煮るなりして中までしっかり火を通せば、新たな売り物になるじゃろ。肉の比率や味付けなどは要研究じゃが、主人が頑張ってくれると思うからの。
 家に帰る前、漁港へ寄り道したら漁師のベタクラウがおった。先日の小魚料理の試作品を皆に伝えたところ、もっと欲しがられたそうじゃ。
無限収納インベントリ】に入れてある分を適当に渡すと、抱えるくらいの大きさの桶を差し出された。中にはカニや貝、小魚がわんさか入っとった。
 そこそこ大きな魚もいたので、これは何かと聞いてみたら、買い手の付き難い魚なんじゃと。ウツボやホッケに見た目が似ておる。
 どれも活きしめをしっかりされとるから、【無限収納インベントリ】に難なく入れられたわい。ありがたいことじゃ。
 それからもう一軒、パン屋へ寄る。儂の作るバーガーに使うには主張が強いんじゃが、美味しい丸パンを売ってる店なんじゃよ。昨日の売れ残りなんじゃろう硬くなってしまったパンが、棚の隅に追いやられていたので、購入しておく。おろせばパン粉にできるじゃろ。
 なんだかんだと昼過ぎまでぷらぷらして帰宅した儂を出迎えたのは、わたあめまみれのルーチェとマルじゃった。今日はわたあめ作りをしたいと言ってたので、誰も一緒に出掛けんかったんじゃが……思った以上の大惨事になっとる。ルーチェとマル以外の者も、どこかしらにわたあめを付けとるし。
 ルーチェとナスティがカッサンテを連れて風呂へ向かい、ロッツァとクリム、ルージュは砂浜で《浄水ウォータ》を浴びておる。ロッツァに付いていたわたあめは取れたようじゃが、クリムたちのは取れとらんな。
 儂はたらいに《浄水ウォータ》と《加熱ヒート》で湯を張り、マルに清潔な布を手渡して身綺麗にしてもらう。それでもダメなら、女性陣の入浴が済んでから、風呂に入ってもらおうかの。終わったらクリム、ルージュにも使わせるからな。
 その間にわたあめセットを【無限収納インベントリ】に仕舞い、庭の竈周りも片付け、ちゃちゃっと支度して皆で昼ごはんとした。
 午後は今日仕入れた野菜や肉、魚の仕込みじゃ。肉だけ、肉と野菜、野菜だけ、魚一匹、カニ、先日作ったさつまあげなど、それぞれを串で打って皿に並べていく。
 豚肉と脂身でハンバーグを作り、表面に焼き目を付ける。あとで煮込むから、中まで火を通さんでも問題なしじゃ。
 和風ダシで煮込み、根菜もたくさん入れる。簡単デミグラスソースに少しだけ味噌を入れて仕上げれば、香りも風味も豊かになるんじゃよ。
 風呂から戻った者たちが、煮込みハンバーグに視線を集めとる。ルーチェも指をくわえてじっと見とるが、量が足りんから味見はなしじゃぞ?
 さっき串打ちしたものに衣とパン粉をまぶし、熱した揚げ油に入れて、周りがきつね色になってぱちぱち軽い音が立てば完成じゃ。じゃんじゃん量産するそばから皆に食べてもらう。間食にしては重いかもしれんが、ある程度で止めればいいじゃろ……止まるよな?
 ウスターソースの香りと、摘まみ易い形の串揚げ。箸休めにざく切りキャベツも添えたら、皆の手が止まることはなかった。代わりに煮込みハンバーグは無事じゃった。
 マルとカッサンテは串揚げを気に入ったらしく、店をやるなら是非出してもらいたいとまで言われてしまった。カッサンテは甘味も食べたいと呟いておった。


《 8 店はどうするかのぅ 》

 商業ギルドに顔を出してシロルティアやツーンピルカと話したところ、扱ってほしい食べ物が次々出てきおった。なので、どれもこれも出すことにしてしまったんじゃよ。
 ただ、一日おきに店を開けることと、提供する料理はその時々で変わることを伝えておいた。ようはあれじゃ、店主の気まぐれ的なもんじゃな。
 とはいえ全く予想が付かないのは誰もが困るから、ある程度の順番だけは決めようかと思う。毎回必ず提供できるのは、飲み物とかりんとうかのぅ。
 帰宅して皆に相談すると、ロッツァからは肉の日、魚の日などと決めてはどうかと提案され、ナスティからは軽食の日、定食の日と分ける案、ルーチェには甘い物だけの日も欲しいと言われた。
 どの案も一長一短あるのは確かじゃな。ただ、パン、魚、野菜は毎日仕入れるつもりじゃから、食材が余ってしまうことになるのぅ。【無限収納インベントリ】に仕舞えば腐ることはないが……いっそのこと何でもかんでも並べてみるのも一興か。

「どうやるの?」
「レーカスで店を開いた時は一皿ごとで売ったじゃろ? あれを食べ放題にして、決まった時間と値段にしてしまうんじゃよ」

 食べ放題と聞いたルーチェの目が輝きよる。クリムとルージュも元気に跳ねておる。

「分かりやすいね。でもそれだとじいじが大変じゃない?」
「そうでもないんじゃよ。先に作って【無限収納インベントリ】に仕舞っておけるし、大量に作れるものや手間のかからないものを優先して出すからのぅ。出来立てのほうが美味しいものはその場で作るが、それもそう多くは作らん。並べる料理は儂の好きなようにすると言ってあるから、誰にも文句は言われんしの」

 納得してくれたルーチェが、相槌のように「へぇ」と言っておる。

「儂は作った料理を大皿で並べるだけじゃ。あとは好きなように自分で皿に盛って食べてもらう。ごはんもパンもおかずも甘い物も、好きなだけ食べられる。酒は出さんが、飲み物も好きに飲んでもらえて、一時間1000リルくらいなら来てくれると思うんじゃが……どうかの?」
「安すぎませんか~?」
「小魚も野菜も安く仕入れる手筈を済ませとる。大ぶりの魚や魔物の肉は、ロッツァに頼めば良いじゃろ?」

 疑問を口にしたナスティも、ロッツァと目を見合わせてからこくりと頷いてくれる。クリムとロッツァも儂の両隣で首を縦に振っておるな。

「私はお店で何すればいいの?」
「料理を並べたり、空いた皿を集めて洗ったりするくらいじゃな。おぉ、そうじゃ。あか族の村で作った焼き鳥を任せてもいいか?」

 ルーチェは自分の役目がないことを心配したようじゃが、儂の提案で目をキラキラさせよった。皆にも何かしら頼めば、あぶれた感じは受けんじゃろ。
 とりあえず概要を商業ギルドに伝えて、試験的に店を開いてみたいのぅ。その機会を使って漁師たちに試食してもらえんかな? 先日商業ギルドに伝えたレシピだけじゃ、どんな味か分からんじゃろ。試食会と開店準備を兼ねれば、誰も損することはないはずじゃ。
 ご近所さんを呼んで『こんな店を開く』と宣伝するのも良いか。騒がしくなってから話を通すより、先に仲良くなったほうが利口じゃな。
 ルーチェから、焼き鳥の他に、わたあめもできないかと言われた。これは難しいぞ。先日のわたあめまみれ事件がまた起きてしまう。それに火と風の魔法を使える者が必要じゃ。
 ルーチェとしては、自分で作るのが面白かったんじゃと。それを皆もやれないかと思ったそうじゃ。
 となると火傷は怖いにしても、銅板や鉄板での料理が良いかもしれん。お好み焼き……は難しいな……きんつばや大判焼きならできるかの。
 折角の意見じゃから、どこかでやらせてやりたいのぅ。おぉ、そうじゃ。わたあめをやるならズッパズィートとデュカクに相談して、カナ=ナたちを雇えないか聞いてみるのも手じゃな。あの子らは、前にやっておるからなぁ。
 しかし誰も、料理の種類が足りないかもとは口にせんな。儂からナスティに聞いてみたら、

「目新しい料理が並んでいるんですから平気ですよ~」

 と笑顔で返された。メイドさんたちがわざわざ習いに来るくらいなんじゃから、そうなのかもしれんな。実際何種類くらい提供するかは、店を開けてみないと分からんしな。多すぎても少なすぎても良くないじゃろう。

「また明日にでも商業ギルドへ相談に行かんとならんな」

 儂が呟いたら両腕をクリムとルージュに掴まれた。明日と言ったのに今から行きたいみたいで、儂の腕を二匹がかりで引っ張りよる。
 ルーチェたちに見送られ、本日二度目の商業ギルド訪問となった。
 話してみると、ツーンピルカもシロルティアも非常に協力的じゃった。今すぐにでも家に向かいそうなのを儂が止めるほど前向きな姿勢を見せよる。初めて聞く店の形式に興味津々のようじゃ。
 とりあえず準備がいるから明後日にしてもらったが、手の空いてそうな者にはなるべく声掛けをすると意気込んでおる。
 冒険者ギルドは、急ぎの仕事があったのかとても慌ただしく動いておったから、明日以降に持ち越しじゃな。
 帰りがけに漁港でベタクラウに同じことを話せば、こちらも至って好感触の反応を示してくれた。手土産に何を持参するか相談し始める始末じゃ。
 通商港のテッラにも声をかけたが、こちらは「迷惑にならない程度の人数でお邪魔させてもらいます」との答えをもらった。
 さて、とりあえず一旦家へ帰るか。クリムとルージュは、とても機嫌良く儂に抱きついとった。通りですれ違う皆が皆、複雑な顔をしておったのが印象に残っとる。

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