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3巻

3-3

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《 6 アイテムバッグ 》
「さて腹もふくれたところでウコキナの用件じゃな」

 皆一様に満足そうな顔をしておる。ロッツァ、クリム、ルージュは横になり、ルーチェに至っては仰向けになって膨れた腹を叩いとる。

「まんぷくー。しあわせー」

 笑みを浮かべながらクリムたちを抱きしめるルーチェは、このまま寝そうじゃな。
 カレーライスを食べ終えたウコキナを振り向くと、空になった皿を食い入るように見ておった。

「香辛料を混ぜ合わせて調理すると、こんなにも美味しいのですね。でもこれだけの香り、味を出すとなると高いものに……」
「そうでもないんじゃよ。それぞれ使ってる量は少なくてのぅ。先に炒めてから潰す、逆にしっかり潰してから炒める、なんてことをちゃんとこなすと、香りと風味が良くなるんじゃ。まぁ何事も基本と仕込みが大事ってことじゃな」
「はぁ、それは何となく分かります。アサオさん、このレシピは――」
「今日初めて作ったから、どこにも披露しとらんぞ。似たものならスールの宿屋で作ったがの」

 儂が『初めて』と口にしたら、ウコキナの目が輝きよる。

「ギルドに戻り次第、すぐにでも登録させてください」
「香辛料自体が高級品じゃから流行はやるかは分からんぞ? それでアイテムバッグはどうなんじゃ?」

 このままカレーの話をしているわけにもいかないので、儂はさっさと話題を切り替えた。

「アサオさんに指定されたバッグの見本がこちらです。本来のアイテムボックスは、空間の拡張と時間停止の魔法を付与された魔道具なのですが、これは拡張だけしか付与されておりません」
「魔道具を作る技師の習作辺りかの?」
「おっしゃるとおりです。技師の数は多くない上に、時空間魔法を操れるとなるとかなり限られます。その為、修業の途中で出来るのがこちらのアイテムバッグなんです」

 ウコキナはアイテムバッグを指さしながら丁寧な説明を続ける。

「ただ時空間魔法は、魔力を非常に多く消費します。一流の技師でも数ヶ月に一つ出来るかどうか……そんな事情もあって量産するのは難しく、習作であるアイテムバッグですら高価で、こちらも一人の職人につきひと月に一つも完成しません。付与に失敗すれば、バッグ自体も壊れますし、魔力もほぼ枯渇します。なので完成品のアイテムボックスを持てるのは、貴族や大商人くらいになってしまっています」

 やはり【無限収納インベントリ】は目立ったらいかんのぅ。鞄で偽装しているのは正解のようじゃ。時空間魔法を付与して出来るなら、アイテムバッグは儂にも作れるかもしれんな。ただ拡張も時間停止も知らん魔法じゃから、先々の目標くらいにしておこうか。

「収納量は、小さいもので執務室にあった書類棚一つ分ほど、大きいものなら家一軒分くらいです。そして収納量の差がそのまま値段の差となっております」

 見た目はどれも変わらない三つの麻袋には、タグのように『大』『中』『小』と札が付いておった。

「この『中』だとどのくらいなんじゃ?」

 麻袋を指さしながらウコキナに問うと、

「そうですね……ロッツァさんが優に入るくらいでしょうか」

 周囲を見ながら適当な目安を探して教えてくれる。

「ふむ。小さいものが二つもあれば事足りるから買おうかの」
「ありがとうございます。ちなみに先ほどのピクルスは、どんな野菜でも出来るのですか?」
「大抵は出来ると思うんじゃが、葉ものや、水分の多いものは試したことないんじゃよ。そっちは塩漬けにばかりしてたからの」
「そうですか」

 儂はウコキナからアイテムバッグを二つ受け取り、代わりに金貨を渡す。

「さすがにこんな時間に女性を一人で帰すのは危ないから、ギルドまで送るかの。ルーチェたちは皿やスプーンを片付けといてくれんか?」
「……はーい」
「……分かった」

 若干眠そうなルーチェとロッツァから返事がくる。

「ご迷惑になりますし、一人で平気ですから」
「腹ごなしの散歩がてらじゃよ。そう思えば迷惑と思わんで済むじゃろ」

 恐縮するウコキナに儂は笑顔を見せる。

「ではお言葉に甘えます」

 ウコキナをお供に、街中までの散歩をのんびり楽しむ。
 家に帰って庭先を見ると、綺麗に片付けられておった。ただ、眠さに負けたルーチェたちは、皆寝息を立てとった。


《 7 いろいろ仕込み 》
 カレーライスから一夜明けた今日は、朝から海へ出ることにした。

「じいじ、魚釣るの?」
「魚は昨日買ったからの。せっかく海に来たんじゃ、海藻を探そうと思ってな」
「かいそう?」

 いまいちピンとこないルーチェは首を傾げたままじゃった。

「海の中にえる草……みたいなもんじゃよ。良いものが見つかれば、久しぶりに食べられると思っての」
「また新しい料理? 美味しいの? それ美味しいの?」

 若干興味なさそうな雰囲気を醸し出していたルーチェが、身を乗り出して儂に顔を近付ける。

「美味しいかは食べてからのお楽しみじゃな」

 儂に詰め寄るルーチェの頭を撫でながら笑ってみせた。

「アサオ殿、海中なら我が一緒のほうが良いだろう。ルーチェ殿にはクリムたちを任せてはどうだ?」
「それもそうじゃな。今日はロッツァと一緒にやろうかの」
「えぇ~~」

 ロッツァの提案に、ルーチェは明らかに不満な声を上げておる。

「潜って採っても、すぐに食べられるわけじゃないと思うんじゃよ。クリムたちと遊んでたほうがいいんじゃないかのぅ?」
「あ、そっか。いっぱい遊んで、おなかをかして待てばいいんだ。いってらっしゃい、じいじ、ロッツァ」

 ルーチェは言うが早いか手を挙げ、クリムたちと一緒に砂浜に向かって駆け出していた。元気なのはいいんじゃがな……

「……行くかの」
「……うむ」

『本日留守』と書いた板を扉に下げ、儂ら二名は海へ歩を進めた。ロッツァは自分に魔法をかけず、そのまま海の中へ入っていく。儂は服を脱ぎ、昔より筋肉質な身体を海の中へ沈めていく。

『声を出せんが、念話のおかげで平気そうじゃな』
『うむ。ところでアサオ殿、どのような草を探すのだ?』
『赤いもやっとした草と、幅広な布みたいなのがあるといいんじゃが……ロッツァは見たことあるかのぅ?』

 儂が海面から海底を見回し、海中を泳ぐロッツァも周囲を眺め、一緒に探していく。基本ステータスのおかげか、儂らは息継ぎの間隔が非常に長かった。それでも幾度となく水面に顔を出し、再び潜って海藻を探す。ロッツァは時に海底を歩くように探し、何度目かの息継ぎの後に、ようやく目当ての海藻が見つかった。

『これだけあれば十分じゃな』
『このような草が料理に変わるのか。アサオ殿の知識は底が知れんな』
『ロッツァの好みに合うかは、食べてみないと分からんがのぅ』

 海藻を採り終えた儂とロッツァは、海から砂浜へ上がる。儂らを見つけたルーチェが駆け寄り、声を上げた。

「じいじ、なんかでっかいのが追っかけてきてない?」
「ん? でっかいの?」

 マップを確認すると、確かに敵意を示す赤点が近付いてきておった。儂らのいる波打ち際からはまだ距離があるものの、海面の一部が白波を立てておるな。

「ありゃなんじゃ? 海の中では魔物に遭わんかったんじゃが」
「あれは……アルバかもしれんな」
「ロッツァが覚えとるほどの魔物なのか?」

 頷くロッツァは言葉を続ける。

「大型の癖にかなり速い魔物だ。陸なら負けんが、海中となると分が悪くてな。流線形の大きく黒い身体を、力強い尾の力で推し進め、相手目がけて突進してくる」

 ロッツァが『かなり速い』と言うならかなりのもんじゃろ。それにしても、アルバ? アルバコアのことかの? それならマグロのはずじゃから、美味いんじゃないかのぅ?
 ロッツァの話を聞いて、思案しているうちに赤点は遠ざかっていった。

「ロッツァに用があったんじゃろか? 沖に帰っていったぞ?」
「ふむ。我が海に入ったので勝負を挑もうとしたのか、それとも魔力の強いアサオ殿に惹かれたのか……」

 また儂が引き寄せたみたいに言われるのは心外じゃな。

「来ないなら放っておけばいいじゃろ。昼を食べたら今度は街中へ行くが、どうする?」
「街中に用はないな。我は砂浜でのんびり甲羅干こうらぼしをしよう」
「私はクリムたちとまだ遊ぶー」

 昼ごはんは、昨日のカレーにチーズを載せて軽くあぶったドリアで、皆大満足じゃった。
 午後は一人で街中を散歩し、いろいろ探す。料理に使う四角い木皿や木枠がないかと思ってな。見つからないにしても、木材をいろいろ買って自作できたら面白いじゃろ? それで木工所を目指して、のんびり街中を行く。
 市場を巡ると、昨日は見かけなかった食材を多数目にすることができた。貝も魚もその日獲れたものを売るから、当然じゃな。
 目当ての木工所……工房では木枠を売っとらんかった。そもそも儂の欲しがるような木枠は大工の分野なので、工房では作ってないんじゃと。それなら自作するしかないのぅ。
 隣に併設されている材木屋で綺麗な端材をいくつもまとめて仕入れると、切子きりこ木屑きくずも好きなだけ持っていっていいと言われてほくほくじゃ。燃えない箱があれば、燻製もできるのぅ。このまま金物屋に行って、頼んでしまおうか。
 善は急げじゃ。木工房から金物加工の店に出向き、縦横一尺、高さ二尺の蓋付の鉄箱を依頼した。重くなるのは嫌じゃから、なるべく薄い鉄板でと頼んだから、安くなるかもしれん。それで安かろう悪かろうな粗悪品なら、また別の金物屋で改めて買うしかないが……まぁ、何事も勉強じゃ。
 数日あれば出来上がるらしいので、適当な時に取りに来ると伝えて金物屋をあとにした。
 帰りがけに出店で適当な惣菜を買って家へ帰ると、皆が腹を空かせて待っておった。夕ごはんを済ませ、ゆっくり一服して、皆で眠りについたのじゃった。


《 8 竹とんぼ 》
 木枠が欲しくて出かけた木工所には、竹材が置いてあった。【無限収納インベントリ】の中に仕舞ってある篠竹しのだけと違い、太い真竹まだけのようじゃ。街の北東側の山際に自生しているらしいので、今度採りにいくのもいいかもしれん。今回は何本か譲ってもらえたから、家に戻って早速加工じゃ。
 節毎ふしごとに切り分けてから、さらに細長い棒へと切り分ける。先の細い部分は節を残したままにしておく。
 棒状になった竹を10センチほどの長さに切り揃え、両端の厚さが同じくらいになるよう仕上げていく。
 表面を斜めに切り出し、裏面は厚さを整える為に削る。中央に開けた穴に軸となる竹ひごを差し込めば完成じゃ。
 怪我をせんように面取りもしっかりしとるぞ。

「ルーチェー、ちょっと来てくれんか?」

 砂浜で遊ぶルーチェが笑顔で駆け寄ってくる。

「なにか出来たの?」
「竹とんぼというんじゃが、こうやって飛ばして遊ぶんじゃよ」

 儂が軸を手でこするように押し出すと、竹とんぼは天高く舞い上がる。

「うわぁ! 飛んでるよ! 魔法?」

 キラキラ目を輝かせるルーチェは、竹とんぼを追いかけて砂浜にまた駆けていった。

「アサオ殿! 何か飛んできたがこれは?」
「儂が飛ばした竹とんぼじゃ。海まで行くようならロッツァが拾ってくれるか?」
「分かった。なんとかしよう」

 まだ空にある竹とんぼだけを見ているルーチェは、そのままロッツァへと突進していく。

「ルーチェ、ロッツァに当たるからちゃんと避けるんじゃぞ」
「はーい」

 儂が言い終わる前にルーチェはロッツァを飛び越え、まだ追い続ける。砂浜から海に風で流されていた竹とんぼは、高度を下げながら再び陸へと戻ってきてるようじゃ。
 クリムとルージュも、何が面白いのかルーチェを追いかけてる。

「よく飛ぶのぅ。いくつか作って喫茶アサオで売ってみてもいいかもしれんな」

 試作した分は問題なさそうじゃ。とりあえず何個か仕上げてから、量産にとりかかるかのぅ。

「さて次は細い先っぽ部分を竹けん玉にしてみようか」

 先ほど残した細い節を、正面から見てとつ型になるよう切っていく。凸型の先端に穴を開け、輪切りにした竹の玉と結べば、それだけで出来上がり。
 球を使うけん玉より簡単じゃから、飽きが早いかもしれん……が、小さい子なら楽しめるじゃろ。

「よっ。ほっ。そりゃっ」

 ……久しぶりにやると案外楽しいのぅ。糸の長さで難易度も変えられるから、こりゃ面白いわい。

「あー、じいじ、またなんかやってる」

 竹とんぼ片手に帰ってきたルーチェが、目ざとく見つけてきた。

「これは移動しないで遊ぶから、ルーチェの好みではないかもしれんぞ?」
「そうなの? 走りながらもできそうじゃない?」

 それは違う遊びじゃ。走りながらけん玉となると、儂も知らん新たな競技になりそうじゃな。

「竹とんぼには飽きてしまったんか?」
「違うの。上手く飛ばないから、じいじ教えて」

 眉を下げながら若干の涙目で訴えかけるルーチェ。

「それじゃ一緒にやろうかの。こうやるんじゃよ」

 ルーチェと横並びになり、軸を手でこすり合わせて押し出すと、再び竹とんぼは舞い上がった。

「こう?」

 儂と同じ動作をするルーチェの竹とんぼも空へと飛び出す。

「わぁ! 飛んだ! 飛んだよ、じいじ! ありがとう!」

 言いながら二つの竹とんぼを追いかける孫を、優しい眼差しで見やる儂じゃった。


《 9 ところてん 》
 水洗いと乾燥、ごみ取りを数度繰り返した、皆から見ればただの赤い海藻を、今日はやっと仕上げられるんじゃ。ワカメと一緒に採ってきたこの天草てんぐさをところてんにしたくてのぅ。ついでに寒天かんてんにまで出来ると、甘味はもちろん、料理の幅が増えるはずなんじゃよ。

「じいじ、今日はなにするの?」
「今日はこの海藻を料理するぞ。出来上がるまで時間がかかるから、ロッツァたちと遊んでるといい」
「はーい。じゃぁ竹とんぼで遊んでる」

 儂が笑顔で話すと、ルーチェは竹とんぼを手に浜辺へ歩いていく。
 今日も天気が良いから、庭先にコンロや鍋を並べて取りかかる。

「まずは日本と同じようにできるか試そうかの」

 湯の沸いた片手鍋に、乾燥させた天草をひとつかみ入れて煮立てる。
 酢を入れるのを忘れちゃいかんぞ。なんでか知らんが、大事なんじゃ。酢を入れないで煮ても出来るんじゃが、それだとかなり時間がかかったからのぅ。教わったやり方でやるのが無難じゃし、先人の知恵を馬鹿にしちゃいかん。
 一度沸騰させてからは、じっくりことことのんびりじゃ。鍋底にくっつかないようにゆーっくりかき混ぜながら、天草がとろとろになるまで三十分くらいかの。
 くたくたになった天草を鍋から取り出して、煮汁を布でして絞る。熱いが、今の儂は我慢できるからの。煮汁をボウルや器に注いで、そのまま冷ませば完成じゃ。表面にできた泡を丁寧に取り除くと綺麗なところてんになるから、妥協しないでしっかりやらんとな。美味しいものの為なら多少の苦労は惜しまんよ。

「大丈夫そうじゃな」

 淡い金色のところてんの出来に、儂は思わず満面の笑みを浮かべてしもうた。

「よくばあさんと一緒に作ってたもんじゃ。しかし、男が台所に入ることを嫌がらない不思議なカミさんじゃったな……」

 懐かしいところてんを見つめていると、先にったカミさんを思い出し、ほんの少し湿っぽくなってしまったな。

「婆さんの料理が今も役立ってるからのぅ。煮物、焼き物、揚げ物、お菓子、ちょっとだけ豪華な料理も、どれもが婆さんの味じゃ。ありがとな」

 儂は笑顔のままなんとなく感謝の言葉を口にしておった。

「おぉ、そうじゃ。一度煮ただけで天草を捨てたら婆さんに怒られるわい。二回は使えるからの」

 引き上げた天草をもう一度鍋に戻して茹でる。下茹でされているからなのか、一回目より早くとろとろ成分が出てくるんじゃよ。またのんびりかきまぜながらじっくり煮出す。
 二度目のところてんも、淡い金色の綺麗なものに仕上がった。

「さてと、あとは味付けじゃな……しまった、黒蜜くろみつがないのぅ……仕方ない。今日は煮詰めた糖蜜と酢醤油で我慢じゃな。いろいろ作ると欲しいものも増えていくから不思議じゃ。またじっくりと市場を巡って探さんとな」

 天突きを用意し忘れていたので、包丁で細長く切れば、それっぽい形になった。

「箱、押し棒は作れる……刃は……イレカンで買ったメタル糸が余ってるから大丈夫そうじゃ」

 器に盛られたところてんを片手に、【無限収納インベントリ】の中を覗きつつ、儂は天突きを自作する算段を立てていた。
 とりあえず酢醤油をところてんにかけて、ひと息にすする。

「うむ。美味いのぅ。この若干残ったいその香りがたまらん」

 酢醤油ところてんの味に大満足の儂じゃった。

「さてと、寒天にするには、凍らせてから戻せばいいんじゃったかな?」

 呟きながら《氷壁アイスウォール》でところてんを覆い隠す。カチコチになったところてんが、今度は天日にさらされ溶け出し、中の水分も一緒に抜けていく。ほんの少し残った水分も《乾燥シーズン》で飛ばして、寒天は出来上がり。

「若干触り心地が違うが……良さそうじゃな。しっかり寒ざらしされたものと同じ品質を求めるのが間違いじゃろ。一朝一夕で職人と同じ領域には届かん。儂ができるのはここまでじゃ」

 本物を思い出しながら自作の寒天を触るが、触感が随分と違う。今はこの出来で納得するしかないのぅ。
 寒天の出来の確認の為に、そのまま果実水に溶かし込んでゼリー風に仕上げると、時を計ったかのようにルーチェたちが遊び疲れて帰ってきよった。

「なんか私みたいなのがいる!」

 ぷるぷるの果実ゼリーに興味津々なルーチェは、目を輝かせていた。ロッツァたちも見たことのないぷるぷるに興味を示しとる。

「アサオ殿、これはスライムではないのか?」
「違うぞ。果実水を柔らかく固めた、寒天ゼリーというんじゃよ」

 肉とは違い、どう出来たのかも分からない目の前のゼリーに、ロッツァは恐れることなくかぶりつく。

「む。歯ごたえがない……果実の味はするが、全く違うな」
「ぷるぷる美味しいー! なにこれ! ものすごいぷるぷる!」

 笑顔のまま声を張り上げるルーチェは、目を見開いておる。ひと口食べては声を上げ、また口に含んでは叫んでおった。

「これでは腹に溜まらんな」
「腹を満たしたあとに食べるもんじゃからな」

 ロッツァの指摘に、儂は言葉を返す。確かにロッツァのような身体の大きい者は、デザートだけで腹を膨らますのは大変じゃろな。

「小腹が空いた時に食べるなら、こっちのところてんを酢醤油で食べても美味いんじゃ」

 ルージュとクリムは、酢醤油ところてんを気に入ったようで、おかわりをせがんできた。甘いゼリーでなく、こっちを気に入るのか。

「美味しかったー。じいじの言う通り、夕ごはんのあとにまた食べようね」
「まだ夕飯までは時間があるのぅ。今夜は何が食べたいんじゃ?」
「「魚」」

 ロッツァとルーチェが口にした単語は一緒じゃった。

「じゃぁ魚で適当に作ろうかの。また遊んでくるといい。帰ってきたら夕飯じゃ」
「はーい!」

 煮魚を仕込み始めた儂は、砂浜へ向かうルーチェたちを笑いながら見送るのじゃった。

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