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第三章 ~学院と盟友~

第五十四話 ~ランク~

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 神発暦3515年


「な、何のこと?」

「有名だぜ、帝国始まって以来最強の神の子の出現だって、2年くらい前に大盛り上がりしたんだから」

(ありえない。僕は奇跡的に生き残った程度の噂になっていたはずだ)

「どこから、そんな噂を」

「どこからって、創神教会が噂の発端だぜ」

「創神教会が?。・・・でも、その噂は嘘だよ。自分は偶然生き残っただけなんだ」


 僕はその噂を流したであろう人を思い浮かべていた。


「本当に?」

「本人がそう言ってるんだ。これ以上の証拠は他にないと思うけど?」

「確かにそうだが」


 クシャルはどこかまだ疑っているような目をしていたが、僕は何とかその場をやり切った。





 長かった入学式典が終わり、僕たち新入生とその家族そして先生たちが一堂に集まる晩餐会が開かれた。だが、基本的には貴族と平民は会場が分けられている。貴族と平民が同じ場で食事をすれば何かと衝突を生んでしまうためだ。


「結局、テレサは姿を見せないようですね母上」

「あら?。おかしいわね。さっきまで一緒に来ていたのよ」

「そうですか」


 僕は会場にやってきた母と再び会っていた。


「それにしても、レオン。いい子はいたの?」

「え?」

「えってレオン。あなたももう13歳なのよ。そろそろ、許嫁を決めてもいい時期でしょ」

「ああ、そう言えば、そんなのあったね」

「そんなのってレオン。大事なことでしょ。あなたの未来のお嫁さんなのよ。ちゃんと考えておかないと」

「でも、自分は冒険者になるつもりなんだよ?」

「もしもの時も考えておかないと」


 僕は母に言われ、この国の貴族の常識を一つ思い出した。それは許嫁制度と勝手に僕は呼んでいるが、この国の貴族は、基本的に15歳までに結婚相手を決め、成人となる16歳をもって結婚するのが常識となっている。ただ、当然すべての貴族がそうするわけでもない。女性であれば売れ残りのような扱いになるので、可愛そうだと思うが、男の場合は、父がそうであったように冒険者になれば、蔑まれた目で見られることはない。

 ただ、ここで言う冒険者とは第6等級以上の冒険者のことを言う。冒険者の第7等級から第10等級は下位とされ、成人した貴族がなるのは良しとされておらず、最低でも中位と言われる第6等級からなるのが基本となっている。

 では、どのようにして貴族が成人である3年後までに第6等級の冒険者になるのかというと、方法が3つ存在している。一つは学院を卒業する3年後までに、剣術、魔術どちらかの学院勲章以上の勲章を得ること、二つ目は単純にギルドに行ってクエストをこなす。最後の三つ目が僕がこの学院に入る理由でもある。


「ですが、父上は自分の今の実力なら、余裕で学院最優勲章を貰える実力だと」

「レオン。物事に絶対などありませんよ。それにいくら強くとも先生に嫌われてしまえば勲章はもらえません」

「確かにそうですが」

「ほら、レオン。あそこにいる娘はどうですか?。かわいらしいではないですか」


 僕は母の指す方を見ると確かに可愛い女の子がいた。


(確かに)
「確かに」


 僕はつい心の声が漏れてしまった。


「あっ!」

「ふふ、やっぱりレオンも男の子なのね。ほら、いってらっしゃい」


 僕は母に背を押されてなくなくその女の子に挨拶することにした。


「初めまして。僕はレオン・マルク。君は?」

「ハリベル」

「貴族だよね。領地名はないの?」

「あんたに関係ないでしょ」

「確かにそうだけど」


 僕は見た目の可愛らしさとは真逆な性格に気後れしてしまう。


「なにかようなの?」

「うーん。用ってほどのことはないけど、これから学院で一緒に学んでいくかもしれないだろう?」

「そういうことなら他を当たるといいよ。あんたみたいな有名人と私が同じ位の生徒になるわけないし」

「有名人って」

「みんないってるよ。神の子がひっそりと入学したって」

「はぁ、またそれか。僕は神の子じゃないよ」

「そう、だとしても私は最下位生として卒業までひっそりと暮らすだけだから」

「ねえ、その最下位ってどういう意味?」

「さすが神の子。本当に検査なしで入学してるのね」


 僕はまた、神の子と言われたことをただそうとしたがすぐにハリベルが位について語ったため口を噛んで黙った。


「学院に入るときの検査で5段階に分けられる。最高位、高位、中位、下位、最下位ってね。最高位は上位30名が入るところ。後は単純に能力がどれくらい有るかを見て決められる。
 最下位に関しては加護も弱い、才能のない人間のいくところ」

「君は才能がないの?」

「才能開花の兆しのない運神高位の加護だけよ」

「高位なら、神の子と言われても」

「知ってていってるでしょ。運神は神のおまけだって。こんな加護なら、下位でも他の神がよかったわよ」


 運神の加護が人にどんな恩恵をもたらすのか確かなことは、その特異性ゆえに世間には広まっていない。

 運が良くなると言われているため、商人の家系ではもてはやされてはいるが、戦闘において運が占める割合は少ないとされるため、騎士や冒険者を目指している者からすれば絶望的と言われるがしかし、


「運神の加護にはちゃんと使い道があるよ」

「商人になれって?」

「違うよ。ちゃんと戦闘で使えるよ。」

「冗談は止してよ。杖がなければ何も出来ない、加護がないから強力な魔法も覚えられない。何度も試した」

「運神の加護は特殊なんだよ。想像じゃなくて願いを魔法にする加護だから」

「どう意味よ」


 ハリベルの質問に僕が答えようとしたとき、鐘の音が聞こえる。


「ごめん、今度会ったときに教えるから」

「えっ?、ちょっと、」


 僕はハリベルにそう言うとパーティー会場てあら校舎から抜け出した。

 そして、僕は鐘の音の鳴る方へと走り出す。すると遠くの方に巨大な時計台が見え始めた。


「あれが、、、時のダンジョン」


 僕が学院に入った目的がそこにはあった。
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