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第二章 ~遥かなる高みへ~

第二十九話 ~特殊魔法~

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 神発暦3512 夏


「それではレオン、君は特殊魔法の世間一般の常識を一度忘れなければならない」

「どうしてですか?」

「姉から特殊魔法を4つに分けて説明を受けなかったかい?」

「はい、されました」


 ぼくは、それがどうかしたのかと疑問に思いながら答えた。


「あの分け方は特殊魔法を極めようとする者は途中からしなくなる」

「どうしてですか?」

「まぁ、例えば君に見せた、姿を変える変質魔法もやり方が二つあってね、一つは相手に幻覚を見せる方法、もう一つは自身の姿を変える方法、私がしたのは前者だがこの二つの方法は、魔法のアプローチの仕方が全く異なるんだ。だから、もうこれは同じ魔法じゃないという声が、特に極めようとする者であればあるほど、大きくなっている」

「なるほど、他の3種類にもそうなんですか?」

「そうだとも、構成魔法も錬金術師が使うような素材を合成するものもあれば、接合術師が使うように固定するものに分けられたり、もっと細かく分けられたりもする。とにかく、魔法に対するアプローチの仕方が他の四大魔法に比べると、かなり複雑になってくる」

「つまり、同じ魔法でも極め方が違うってことですよね」

「その通り、だから専門的にこの特殊魔法を使う者たちは、独自の名前で魔法を使っているものが多い」

「へぇ、じゃあ、さっき先生がやった魔法も本当の名前は変質魔法じゃないんですか?」

「あぁ、私がやった魔法は正確には幻を見せる魔法、つまり幻術魔法ってことになる」

「それじゃぁ、分解魔法はどうなんですか?」

「分解魔法は現在あまり確証のある区別はできていない。君は分解魔法を極めたいのか?」

「いや、別にそういうわけでは、本職は剣士なので」


 ぼくが申し訳なさそうに言うと


「む、そうなのか」


 少しタレス先生はがっかりした様子を見せた。


「まぁ、いいか、初めての生徒だし」

「あの、何か言いました?」

「いや、何も言ってない。それより、分解魔法は何を意識して魔法を使えばいいのか分かるか?レオン」

「分解対象ですか?」

「ふふ、残念! 分解対象ではなく、どうやって、その対象が構成されているかだ」

「構成ですか?」

「つまりは、今座っている木の椅子を分解するときに考えるのは、椅子を分解することではなく、椅子の接合部分が外れる意識をもって魔法を使うことでパーツがバラバラになるだろう」

「なるほど」

「君は中位の加護を授かっているのだから、杖などなしに分解魔法を使えるだろう。今座っている椅子を自分が思う限界までバラバラにしてみるといい」

「はい、やってみます」


 ぼくはそういうと、立ち上がり椅子に手を当てた。


≪出来るだけ細かくか、、、やれるかわからないけど、木同士の分子間の結合が解ければ≫


 ぼくはそう思いながら分解魔法を使った。


≪〈分解魔法アナリシス・分子間〉≫


 ぼくが魔法を唱えると、木でできた椅子が木屑へと変化して風に吹かれて、空中に舞った。


「げほっ」

≪うわ≫


 ぼくは思わず手で振り払った。そして、先生にどうだったか聞いた。


「どうですか?僕の分解魔法は?」

「消滅魔法、、、」

「先生?」

「レオン、君は何をしたんだ今」

「えっ?何をって、分解魔法でできるだけバラバラに、、、」


 ぼくはそう言おうとして思い出した。この世界の化学的知識は、中世程度、つまり全くといっていいほどない。


「今君がしたのは消滅魔法、神の魔法ではないのか?」

「えっ」

「君は【神の子】ではないのか!?」

「ち、違います」


 ぼくはタレス先生にものすごい勢いで迫られた。


「いや、例え【神の子】でも実際に実現させれた英雄は記録にないはず」


 タレス先生は突然ぶつくさと、一人の世界に入ってしまった。


*数分後


「すまないな、少し興奮した」

「いえ、別に」

「君が今使った魔法は、分解魔法の研究をしている者たちの中では消滅魔法、通称神の魔法と呼んでいる。分解魔法の極致とされる魔法だと私は思っている」

「そうなんですか?」

≪やりすぎたのか?≫


 ぼくは少しそう思った。


「まぁ、わたしは特殊魔法でも、幻術と分解を専攻している。だからこそ驚いているんだ。その年齢で、そこまでの分解魔法を使えるということは、何か我々の知らない知識を持っていなければならないからな」

「知識ですか?」

「そうだ、分解魔法は知識が物をいう魔法だ。分解魔法は分解したい物の構造を理解しているほど、細かく分解できる。わたしはせいぜい椅子の接合部分だけが外れる程度の分解魔法をすると思っていた」

「でも、そうじゃなかった」

「そう、君は我々研究者ですらたどり着けていない何かを知っている。【神の子】であれば、できる者もいる可能性は否定できないが、君はそうじゃないんだろう?」

「はい」

「できれば、何をしたのか教えてくれないか?魔道を極めようとする者の一人としては教えてもらいたい」

「それは、別に大丈夫だと思いますけど、そんなに詳しいわけではないですよ。それと、どこで知ったかは教えられません」

「もちろん君の情報源を探ろうとはしないさ、少し教えてくれるだけでも十分だ。感謝する」









「なるほどな、ありがとうなかなかに興味深い話を聞かせてもらった」

「いえ、ぼくが教えられるのはこの程度ですから」

「これでは、立場が逆転してしまうな。今回だけ特別に私の魔法を見せてあげよう」

「本当ですか、おねがいします」


 ぼくは、この世界の研究者が開発した特殊魔法がどんな魔法なのか楽しみに思った。
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