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第一章 ~誕生せし神の子~

第十四話 ~付与魔法・魔装~

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 神発暦3512年


 ぼくは先ほどからたまに聞こえる金属音の方向へと足を向けていた。近づくにつれて段々を血なまぐさい匂いが、してくるのを感じてぼくは警戒心を強めていた。

 さらに、近づくと音のなる方向から時より風が強く吹いているように感じている。先ほどまで聞こえていた金属音も聞こえなくなっていたが、血なまぐさい匂いはより一層その強さを増していた。
 
 すると、ぼくの方向へ大きな塊が飛んできた。


「っ!?」

≪うわ!≫


 ぼくは突然の出来事に声が出ず心の声で叫んでいた。身を低くすることで何とかかわすことができたが、


≪危なかった!いったい何が?≫


 ぼくが飛んできた物を確認すると、


「えっ!」


 そこにあったのは体のお腹から下がきれいになくなった上半身だけのクロウ・ベアーの死体だった。死体はきれいに横に切断されていた。
 
 ぼくは、そのことに驚き、そしていったいこの先になにがいるのか恐怖を感じた。しかし、ぼくの足は怖いもの見たさにさらに先へと向かって言っていた。

 そして、段々と近づくごとに風が強くなり、魔獣の声というか、威嚇するときのような叫び声も聞こえてきた。


「グゥオォォォォ!」

<!>


 ぼくは突如、今までとは比較にならないほど大きな叫び声に驚き、すぐさま近くの木の葉に身を隠し叫び声の先を確認した。
 すると、


≪ウル爺!?≫


 なんとそこにはウル爺が、数多くのクロウ・ベアー、さらにそれよりも危険な第7等級魔獣のウィンド・ウルフ、さらにその上位種のウォー・ウィンド・ウルフに囲まれていた。
 ウィンド・ウルフは体に風の付与魔法をかけることのできる魔獣で爪や牙の切れ味とその有効距離の上げることのできる中位の魔獣で、ウォー・ウィンド・ウルフはの群れのリーダーで一回り大きいのが特徴だった。


≪どうしてウル爺がこんなところに?≫


 ウル爺の急用とはこれのことだったのかと一瞬考えたがすぐに自己否定した。


≪森がこんな状況だと分かっているなら父さんに何の報告もしてないのはおかしい≫


 ぼくはそう結論付けて、様子を伺うことにした。







≪やれやれ、厄介ですな!≫


 ウル爺は背後から襲ってきたウィンド・ウルフに即座に対応して斬りつけた。が、剣は虚空を斬りつけてしまいウィンド・ウルフがそのままウル爺を噛み殺そうと飛んできていた。
 すると、突如ウィンド・ウルフがウル爺が斬りつけたとおりに綺麗に両断された。


≪まさか、このようなことになるとは≫


 ウル爺の急用とは、奥さんが熱を出してしまい。薬師の所に行ったが、薬の調合に必要な薬草がなく明日この町に商人が来るまで、作れないとのことだったので、森に材料の薬草を取りにきていた。ちなみに、そこまで急ぐほど危険な症状ではないが、愛妻家で知られるウル爺はすぐさま治してあげるべく行動していた。


≪しかし、なぜこんなにも魔獣が群れているのでしょうか?本来ならあり得ない≫


 そう、本来ならこんな町のすぐ近くにこんなにたくさん魔獣がいることも、マルクの森に中位魔獣がいることも、ましてや、種の違うクロウ・ベアーと、ウィンド・ウルフが徒党を組んでいることも全部があり得ないことだった。


≪これは急いで領主様に伝えねばならないですな。それに魔獣たちが私に集中しているおかげで気付かれていないが……坊ちゃんなぜこんなところに!後でお説教ですな。ここは一気に型を付けなければ。
風の精霊よ、我に我に力を!≫

付与魔法エンチャント・風魔の鎧〉
付与魔法エンチャント・風魔の剣〉







 ぼくがウル爺を観察していると、後ろから突っ込んだウィンド・ウルフが真っ二つになって吹き飛んだ。先ほどのクロウ・ベアーもウル爺がやったのだろう。
 今まで見たことはなかったが、当然ウル爺もゲビィター流の免許皆伝者だ。戦神の加護を授かっているのだろう。そして、おそらく魔力の性質は”風”だと見て思っていた。

 風の付与魔法エンチャントをした武器に対する上昇効果は、切れ味と間合いの上昇があげられる。


≪すごい!ウル爺ってこんなに強かったんだ≫


 正直、ぼくはウル爺はもうすでに年だしそんなに強くないんじゃないかと思っていた。ぼくでもすぐに追いつける強さだと、正直うぬぼれていた。
 そんな反省をしていると、ウル爺の周りを纏っている風が一気に強くなったのを感じた。


≪!すごい、これってまさか付与魔法エンチャントの最高魔法、魔装!≫


 付与魔法エンチャントの最高に行き着く先の一つとして魔装と呼ばれる領域がある。
 体全体を魔力の鎧で包み込み、加護の力で肉体をもその魔力の性質に近づけることで、人を遥かに凌駕する力を発揮する魔法で単純に付与魔法エンチャントで体の性能を上げるのとはわけが違う。

 ぼくがじっと見ていると、突如ウル爺の姿が消えた。と同時にものすごい突風が襲った。あまりの突風に一瞬目を閉じてしまった。そして目を開けると腕組みをしたウル爺が立っていた。


「うっ、ウル爺? へっ、魔獣は?」

 
 ぼくは頭が一瞬混乱したがすぐに忠告した。


「ウル爺、集中して周りにはまだたくさんの魔物が!」

「坊ちゃん、それはもう終わりました」


 ウル爺がそういって、ぼくが辺りを確認すると細切れになった魔獣の残骸があたりに散らばっていて、周囲にはぼくとウル爺の二人だけになっていた。
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