奪われし者の強き刃

第1章 始まりと正体

第7話 総司令 草薙千代

合同訓練は魔物襲来により延期となり、学校は校舎修復や襲来対策のため一時休校となった。翔と向日葵・千秋と京子は念のため入院していた悠のもとへお見舞いへ向かった。

　「おーい悠、来たぞ。」

　「応、みんなありがとう。」

　「もう大丈夫なんですか？」

　「うんもう大丈夫だよ。明日には退院できる。」

元気そうな悠を見て安心した翔ら。少し雑談をしていると氷室師団長と新田副師団長そして1人の女性が病室へ入ってきた。

　「突然ごめんなさい。夜岸悠さんの病室はここで合ってるかしら。」

　「はい、悠の病室はここですが。失礼ながらどちら様ですか？」

向日葵がその女性に尋ねた。

　「ごめんなさい、挨拶が遅れたわね。私は草薙千代《くさなぎちよ》。師団の総司令を務めてます。」

　「草薙ってあの草薙家ですか？」

向日葵がびっくりしたのか声を荒げた。
草薙家は、代々政治や産業を裏から支えた名家である。魔物による侵攻後、日本や他の地域がここまで回復したのは草薙家のおかげといっても過言ではない。草薙千代はその草薙家の長女だ。齢20歳にして師団の総司令に就任。町への被害減少、侵略された国も奪還に尽力している。

　「その総司令がどうしてこのようなところに？」

　「いえ、そこにいる子が何やら有力な情報を持っているとの報告を受けたから直接聞きにね。」

　「わかりました。何があったか教えます。」

　「ありがとう。ごめんね、君たちは席を外してくれる？これから確認することは重要事項だから。」

　「わかりました。」

翔らは納得はしてない様子で渋々承諾し、病室を出た。

　「さて、何があったか教えてちょうだい。」

　「はい。まずは制御室の話からします。」

悠は訓練であったことを総司令や師団の人たちに話した。敵幹部が現れたこと。そのロボットは人間をもとにして作られたことなど。

　「なるほど。陸王幹部の艮っていう魔物がそう言ってのね。」

　「はい、間違いありません。端末に録音してあるものがあると思うので後で提供します。」

　「ありがとう。助かるわ。」

新田が手をあげて、質問した。

　「あの、陸王の眷属は確か『四門』でしたよね。１体は【鬼門】の艮、他はどんな奴がいるんでしょうか。」

少し沈黙が続いたあと、悠が話を切り出した。

　「多分ですけど後の３体の名前はわかります。」

　「本当？聞かせてちょうだい。」

悠は自分の端末を開き、説明した。

　「鬼門とは陰陽道における魔物が出やすい方角を表します。艮はその鬼門の方角を位置する言葉です。ここから推測すると、他の３体は【人門】坤《ひつじさる》・【風門】巽《たつみ》・【天門】乾《いぬい》だと思います。」

　「そして、艮が言っていたマッドサイエンティストは坤だと思います。」

　「それはなぜ？」

　「坤をさす方角は【人門】の他にこうとも呼ばれています。【裏鬼門】と、これは【鬼門】と同じく魔物が出やすく忌み嫌われている方角です。伝承どうりなら可能性は高いです。恐らく改造の類の能力。」

　「情報ありがとう。今回の情報でかなり進展できたわ。ゆっくり休みなさい。働きすぎなんだから。」

草薙総司令たちは病室を後にした。

　「悠、終わったか？」　

　「うん、待たせて悪かったな。みんな。」

しばらく雑談をした後解散した。

悠が退院してから1週間後、学校が再開した。訓練もオペレーター科との合同訓練も増え、より実践に近い訓練になっていた。

ある日の朝ホームルームの時に教官が

　「今日の合同訓練は第1師団からオペレーターをお借りして普段どのようにオペレートをしているかを体験してもらうことになっているからそのつもりで。」

訓練の時間となった。

　「初めまして、第1師団オペレーターの戸塚智慧《とつかちえ》です。今日はお願いします。」

　「オペレーター科の生徒は戸塚さんオペレートをしっかり学ぶように。では、戸塚さん誰をオペレートしますか？」

　「では、って悠兄じゃん。彼にします。」

智慧は大きな声を出しながら悠を指さした。

　「知り合いですか？」

　「昔よく遊んだんですよ。よろしくね。」

　「はぁ、よろしく智慧ちゃん。」

訓練が開始された。智慧が何人かをオペレートを行い、オペレーター科の生徒に教授した。

　「オペレーターは戦闘員に干渉しすぎないのがポイント。戦闘員は私たちの操り人形じゃないからね。今その情報が戦闘員とって必要か否かを瞬時に判断する。これを意識したら戦闘員も結構楽になるよ。」

こうして、合同訓練は終了した。

　「あっそうそう悠兄、お姉ちゃんが呼んでたから放課後うちに来てね。」

　「まじか。わかった。」

放課後になり悠は智慧の連れられ智慧の家へと向かった。

　「私の家に来るのは久ぶりだね。いつでも来てよかったのに。」

　「行けるかよ、自分の家のこと忘れたのか。」

そんな小言を言っているうちに智慧の家へと到着した。

　「相変わらず、でかい門だな。中見えねえし。」

　「わたし、智慧だよ。お姉ちゃん、悠兄連れてきたよ。」

少しして、門が開き1人の女性が出てきた。

　「待ってたわよ。ケガはもういいの？悠。」

　「おかげさまで大丈夫ですよ。この間ぶりです千代さん。」

智慧の姉は師団の総司令である草薙千代である。智慧は団員だがまだ学生という身であるため草薙家であることを隠すため母方の名字で名乗っている。

　「急にごめんなさいね。この間の報告の件で話があるの。上がって。」