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第1章 旅立ち
第1話 キールとフィーリ
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────、ハァ………
目の前で考え事をしている幼馴染の横顔を眺めていたら、思わずため息が出た。いつもの事だが、フィーリは考え事をしている時は何を言っても聞こえていない。思わずもう一度ため息をする。
────、フゥ……
夕焼けに照らされた彼女の瞳がキラリと光る。何度見ても、ため息が出そうな程に綺麗で……いや、感嘆のため息を出してしまう。ふと、誰か彼女以外の気配がして振り返ると、少し離れた道から俺たちを見ている老婆がいた。その老婆は醜く顔を顰めている。
「相変わらず、気味が悪いねぇ……。悪魔の瞳さ……」
あのクソババa……コホン。
俺がキッとその老婆を睨みつけると、老婆はバツが悪そうに小走りで帰って行った。
「毎度毎度、懲りないな。何が悪魔の瞳だ馬鹿らしい……。あのエマニラのばあさん、目ェ腐ってんじゃないのか……」
あのエマニラという老婆は特にフィーリを嫌っている。理由は単純すぎて馬鹿らしい。
それは、フィーリの瞳がアメジスト色だから。
この世界には魔物と呼ばれるものが存在する。奴らは人を襲って食う。魔人と呼ばれる種族もいるが、彼らとは少し違うらしい。核と呼ばれるものが体内で心臓の役割をしていて、強い魔物には理性がある。
人や獣人ぽい見た目をするものもあれば、昆虫や動物に似ているものもいる。そしてもう一つ、奴らには特徴がある。
それは血のように赤い瞳を持つということ。
まぁそういう訳で、赤い瞳やら赤い髪やらという人間は魔物に近いとされて迫害にあったりすることが多い。
全くもって事実無根とされているけれど、人というものは、自分たちとは違うものを恐れる。それはフィーリのアメジスト色の瞳も同じ。
赤に近い色だし、確かに俺は生まれてこの方一度も、フィーリと同じような瞳の色を見た事がないから、珍しいのだとは思う。まぁ、それとは別にもう一つちょっと人とは違うところがあるにはあるんだけども……。
《……。でもだからって、悪魔の子はないんじゃないか? フィーリのどこを見てそう思ってんだ!》
と俺は叫びたい。いや実際に叫んだことはある。
が、俺のせいでフィーリが「誑かしたんじゃ」とか、「見目だけはいいから」とか言われるようになってしまって以来、もう余計なことは言わずにいる。先程のように睨んで追っ払ったりするようにしている。
村の大人の半分がそんな感じだ。情けない。あとの半分は、俺のような考え方が少数と、興味が無いというのがほとんどである。
フィーリを厭う彼らは総じて、魔物によって身内や友達を亡くした事がある人達だ。
気持ちは理解できなくもない、だが、フィーリにしていることを許せるかと言われたら無理だ。
これでもマシになったのだ。この地に長らく不在にしていた辺境伯の地位に着く人が来てからは。
新しい領主様は優しそうだけれど、顔はかなり厳つい爺さんだった。筋肉ムキムキだけどな。
俺が7歳でフィーリが6歳になった(俺もフィーリも孤児だから正確な歳は分からん)頃だった。
領主様(辺境伯というらしい)も辺境伯様が率いる辺境伯軍の皆も、孤児である俺達に優しかったし、フィーリをちゃんと、普通の子として扱ってくれた。魔物の被害もかなり減った。
彼らが来てからは目に見えて俺達に石を投げたり(フィーりに石が投げられたのを庇って俺がボコボコにされただけ)、大声で罵る馬鹿は減った。辺境伯様がボコボコにしたから。
あの人はスゲェと思う。もう歳なのに(本人に言うと怒られる)血の気の多い馬鹿を拳一つでのしてしまうし、誰に対しても公平で、滅多にないけど自分が間違ってた時は頭を下げて謝ったりもする。普通の貴族はやらないと思う。
誰もがあの人を尊敬してる。もちろん、フィーリのことを嫌う奴らも。きっと、ああいう人が、王様とかに向いているんじゃないかと思う。
王様がどんな人かは知らないけど。
初めて会った時、フィーリを庇って殴られていた俺に、あの人は偉かったなと頭を撫でながら褒めてくれたんだ。正しい事をしたと。
そんなの言ってくれたのはあの人が初めてで、フィーリは悪魔の子なんかじゃないって言って貰えた気がして、すっげェ嬉しかったのを覚えてる。
それから俺はあの人が領地にいる時に限り、訓練をつけてもらった。自分とフィーリを守れるように必死で覚えた体術のおかげで、今俺たちに石を投げてくる奴はいない。
それでも……。
フィーリの腕をちらりと見やる。
《……。明らかに昨日はなかったよな、あのかすり傷。俺がいない隙にやりやがったなっ、どこのどいつだ!》
俺が頼まれ事とか用事とかでいない隙を狙って、フィーリに傷をつけたアホがいるらしい。許せん。
1人でプンスカ腹を立てていると、ようやく考え事を終えたフィーリが柵から飛び降り、振り返ってニコリと笑った。
「あらキール、待っててくれたの? ありがとう!」
「そんなことよりフィーリ、それ、誰の仕業だ」
俺の問い掛けに、フィーリはギクリと身じろぎした。若干目が明後日を向いている。
「えと……転んじゃった……かな?」
「もう少しマシな嘘をついたらどうなんだ」
思わずジト目で睨んでしまう。なんで庇うんだ。
フィーリは俺が誤魔化されないとわかると、しおしおと項垂れた。
「だって……キールったら、怒るじゃない?」
「俺はフィーリに怒ってる訳じゃない。人に石なんか投げるど阿呆に怒ってるんだ。大丈夫だ、フィーリ。復讐なんか考えないようにロープでぐるぐる巻きにして川に流してやるから」
「ええ?! 駄目よそんなの!」
「問題ない。あの人にフィーリに馬鹿なマネをした奴は粛清してもよいと許可はとってある。心配無用だ静かにヤルさ」
ちなみにあの人とは辺境伯のじっちゃんのことである。
「そういう問題じゃなくて……」
フィーリは頭を抱えた。むぅ……何でだ。
「復讐なんか、しなくていいわ。確かに痛かったけど、もう治ったし……ね? 気にしないで! そんな事より、ほら。帰りましょ!」
フィーリは俺の腕を取ると、返事も聞かずに歩き出した。その横顔を見て、俺は今日何度目かも分からないため息をついた。
目の前で考え事をしている幼馴染の横顔を眺めていたら、思わずため息が出た。いつもの事だが、フィーリは考え事をしている時は何を言っても聞こえていない。思わずもう一度ため息をする。
────、フゥ……
夕焼けに照らされた彼女の瞳がキラリと光る。何度見ても、ため息が出そうな程に綺麗で……いや、感嘆のため息を出してしまう。ふと、誰か彼女以外の気配がして振り返ると、少し離れた道から俺たちを見ている老婆がいた。その老婆は醜く顔を顰めている。
「相変わらず、気味が悪いねぇ……。悪魔の瞳さ……」
あのクソババa……コホン。
俺がキッとその老婆を睨みつけると、老婆はバツが悪そうに小走りで帰って行った。
「毎度毎度、懲りないな。何が悪魔の瞳だ馬鹿らしい……。あのエマニラのばあさん、目ェ腐ってんじゃないのか……」
あのエマニラという老婆は特にフィーリを嫌っている。理由は単純すぎて馬鹿らしい。
それは、フィーリの瞳がアメジスト色だから。
この世界には魔物と呼ばれるものが存在する。奴らは人を襲って食う。魔人と呼ばれる種族もいるが、彼らとは少し違うらしい。核と呼ばれるものが体内で心臓の役割をしていて、強い魔物には理性がある。
人や獣人ぽい見た目をするものもあれば、昆虫や動物に似ているものもいる。そしてもう一つ、奴らには特徴がある。
それは血のように赤い瞳を持つということ。
まぁそういう訳で、赤い瞳やら赤い髪やらという人間は魔物に近いとされて迫害にあったりすることが多い。
全くもって事実無根とされているけれど、人というものは、自分たちとは違うものを恐れる。それはフィーリのアメジスト色の瞳も同じ。
赤に近い色だし、確かに俺は生まれてこの方一度も、フィーリと同じような瞳の色を見た事がないから、珍しいのだとは思う。まぁ、それとは別にもう一つちょっと人とは違うところがあるにはあるんだけども……。
《……。でもだからって、悪魔の子はないんじゃないか? フィーリのどこを見てそう思ってんだ!》
と俺は叫びたい。いや実際に叫んだことはある。
が、俺のせいでフィーリが「誑かしたんじゃ」とか、「見目だけはいいから」とか言われるようになってしまって以来、もう余計なことは言わずにいる。先程のように睨んで追っ払ったりするようにしている。
村の大人の半分がそんな感じだ。情けない。あとの半分は、俺のような考え方が少数と、興味が無いというのがほとんどである。
フィーリを厭う彼らは総じて、魔物によって身内や友達を亡くした事がある人達だ。
気持ちは理解できなくもない、だが、フィーリにしていることを許せるかと言われたら無理だ。
これでもマシになったのだ。この地に長らく不在にしていた辺境伯の地位に着く人が来てからは。
新しい領主様は優しそうだけれど、顔はかなり厳つい爺さんだった。筋肉ムキムキだけどな。
俺が7歳でフィーリが6歳になった(俺もフィーリも孤児だから正確な歳は分からん)頃だった。
領主様(辺境伯というらしい)も辺境伯様が率いる辺境伯軍の皆も、孤児である俺達に優しかったし、フィーリをちゃんと、普通の子として扱ってくれた。魔物の被害もかなり減った。
彼らが来てからは目に見えて俺達に石を投げたり(フィーりに石が投げられたのを庇って俺がボコボコにされただけ)、大声で罵る馬鹿は減った。辺境伯様がボコボコにしたから。
あの人はスゲェと思う。もう歳なのに(本人に言うと怒られる)血の気の多い馬鹿を拳一つでのしてしまうし、誰に対しても公平で、滅多にないけど自分が間違ってた時は頭を下げて謝ったりもする。普通の貴族はやらないと思う。
誰もがあの人を尊敬してる。もちろん、フィーリのことを嫌う奴らも。きっと、ああいう人が、王様とかに向いているんじゃないかと思う。
王様がどんな人かは知らないけど。
初めて会った時、フィーリを庇って殴られていた俺に、あの人は偉かったなと頭を撫でながら褒めてくれたんだ。正しい事をしたと。
そんなの言ってくれたのはあの人が初めてで、フィーリは悪魔の子なんかじゃないって言って貰えた気がして、すっげェ嬉しかったのを覚えてる。
それから俺はあの人が領地にいる時に限り、訓練をつけてもらった。自分とフィーリを守れるように必死で覚えた体術のおかげで、今俺たちに石を投げてくる奴はいない。
それでも……。
フィーリの腕をちらりと見やる。
《……。明らかに昨日はなかったよな、あのかすり傷。俺がいない隙にやりやがったなっ、どこのどいつだ!》
俺が頼まれ事とか用事とかでいない隙を狙って、フィーリに傷をつけたアホがいるらしい。許せん。
1人でプンスカ腹を立てていると、ようやく考え事を終えたフィーリが柵から飛び降り、振り返ってニコリと笑った。
「あらキール、待っててくれたの? ありがとう!」
「そんなことよりフィーリ、それ、誰の仕業だ」
俺の問い掛けに、フィーリはギクリと身じろぎした。若干目が明後日を向いている。
「えと……転んじゃった……かな?」
「もう少しマシな嘘をついたらどうなんだ」
思わずジト目で睨んでしまう。なんで庇うんだ。
フィーリは俺が誤魔化されないとわかると、しおしおと項垂れた。
「だって……キールったら、怒るじゃない?」
「俺はフィーリに怒ってる訳じゃない。人に石なんか投げるど阿呆に怒ってるんだ。大丈夫だ、フィーリ。復讐なんか考えないようにロープでぐるぐる巻きにして川に流してやるから」
「ええ?! 駄目よそんなの!」
「問題ない。あの人にフィーリに馬鹿なマネをした奴は粛清してもよいと許可はとってある。心配無用だ静かにヤルさ」
ちなみにあの人とは辺境伯のじっちゃんのことである。
「そういう問題じゃなくて……」
フィーリは頭を抱えた。むぅ……何でだ。
「復讐なんか、しなくていいわ。確かに痛かったけど、もう治ったし……ね? 気にしないで! そんな事より、ほら。帰りましょ!」
フィーリは俺の腕を取ると、返事も聞かずに歩き出した。その横顔を見て、俺は今日何度目かも分からないため息をついた。
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読んで下さり、ありがとうございます。宜しければお気に入り登録、また「こんな所が良かった」「◯◯可愛い!」等々、感想も頂けると励みになります(´˘`*)
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