名探偵桃太郎の春夏秋冬

淀川 大

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俺とサンタとアイツと冬と

最終話だ☆  みんな、ありがとう!

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 ジングルベール、ジングルベール、鈴が鳴るう。

 おお、美歩ちゃん、上手に歌えるようになったなあ。その包み紙は、陽子さんからのプレゼントか。むにゃ、むにゃ。

「あ、桃太郎さん、おはよ。ぐっすりとねてたね」

 ? なんだ? これは……コタツの布団だ。なんだ、寝てたのか。ありゃ、朝じゃないか。昨日、あのまま外で寝てしまったと思ったが……。あれ、赤いブーツも手袋もない。ダウンのベストは……。

「ん? どうしたの、桃太郎さん。探し物?」

「ああ、陽子さん。俺の赤いダウンのベストはどこに……」

「もしかして、お気に入りのお洋服ですか。ちゃんと、窓の横に掛けてあるでしょ」

本当だ。でも、おかしいな。全然汚れてないし、濡れてもいない。ということは、もしかして、あれは夢だったのか?

「わあ!」

 びっくりした。なんだよ、美歩ちゃん。急に大声出して。

「お母さん、見て、サヤちゃん人形」

「よかったわねえ。美歩がいい子だから、きっとサンタクロースさんが、お願いを叶えてくれたのね」

 コクリと頷く美歩ちゃん。まあ、かなりいい加減なサンタだったが、たしかに能力は高かったぞ。あれなら、異世界でも戦えそうだった。いや、あれは夢か。美歩ちゃん、今は内緒にしておくが、そのプレゼントは陽子さんからだからな。大人になったら、しっかり感謝しろよ。ああ、駄目だ、無心で箱を空けている。瞳孔が開いているじゃないか。

 んー、美歩ちゃん、嬉しそうだなあ。目をキラキラとさせて、お人形で遊んでいるぞ。それを見ている陽子さんも、幸せそうだ。くしゅんっ。うう、やっぱり、コタツから出ると寒いな。ダウン着よう。よっ、手をかけるけど、爪はかけないようにしてと……。

「あ、桃太郎さんもお着がえするの?」

 ああ、美歩ちゃん、ありがとぅ。着せてくれるのか。ていうか、俺は人形じゃないぞ。そうされると、肩が……。なんか、いつもと着せ方が違うが……。まあ、いっか。よし、着れた。

 そうだ、俺からもプレゼントがあるんだったな。ええーと、何処に仕舞ったかな……。

「あ、桃太郎さん、これ、ありがとう」

「わあ、似合ってるわねえ。桃太郎さんの手作りネックレスね。いいなあ」

 あれ、美歩ちゃんが銀杏の種の首飾りをつけてくれている。いつのまに。でも、喜んでくれて、よかった。

 陽子さんがウインクしている。陽子さんにウインクされると、俺は弱い。でも、何のウインクだ?

 あれ、ポケットから何か落ちたぞ。これは……、金ピカの懐中電灯だ!

「……」

 やっぱり、俺はここで初めてアレを見たのだ!

「ということは……、退いてくれ、美歩ちゃん!」

「あれ、どうしたの、桃太郎さん。あわててるよ」

「すまん、美歩ちゃん、説明している暇はない。俺は昨日の夜、この窓から下を覗いたんだ。ここから……」

 止まっている。昨日のワゴン車だ。でも、変だ。前後にパトカーが止まっているぞ。あ、賀垂警部だ。両腕をロープでぐるぐる巻きにされた男たちが車の中から警部に引き釣り出されて、パトカーに乗せられていく。もしかして、あれは昨夜ショッピングモールで発生した窃盗事件の犯人か。賀垂警部へのプレゼントって、あれか!

 ということは、萌奈美さんは大丈夫か。お菊さん人形に驚いて、本当に気絶してしまったのでは。

 あ、鑑識のお兄さんだ。ワゴン車の中から荷物を運び出しているぞ。さては、盗まれた品物だな。被害品のチェックか。お、大きな人形が運び出されてきた。等身大の和風のマネキンだ。お兄さんが写真を撮っている。待てよ、あれ、お菊さん人形じゃないか。って事は、サンタさんは萌奈美さんには別の物をプレゼントしたんだな。そりゃあ、そうだよな。あれは冗談か。一杯食わされたな。

 あ、萌奈美さんだ。店から出てきた。あれ? 仕事中のお兄さんのところに行くぞ。何かあったのか。なんだ、ポケットから何か箱を取り出して、お兄さんに渡したぞ。あ、お兄さんもポケットから何かこっそり取り出して、萌奈美さんに渡した。なーんだ、プレゼント交換か。そうか、そういう事か。これがサンタさんからのプレゼントだな。あ、お兄さんが賀垂警部に怒られている。「仕事中に何やっとるかあ」って感じだな。ま、いいじゃないか。大目に見てやれよ。クリスマスだぞ。

 ん、イチョウの葉が風に舞っている。黄色に、赤に、緑に、銀色……イチョウの木はそのままか。――ま、いいか。

 讃岐さんだ。今朝もオカモチ持って、ランニングシャツ一枚でえっほえっほと走っていくぞ。でも、なんだか今朝は清々すがすがしい感じだな。元気そうだし。頑張れよ。

 さて、それじゃ、俺も「ふわふわケーキ」でもいただいて、クリスマスを祝うとするか。

「お母さん。昨日の『ふわふわケーキ』美味しかったね」

「美味しかったねえ。あっという間に食べ終わっちゃったわね」

 なぬう! 食べちゃったの? 残ってないの? ああ、残念。

 でも、まあ、いいか。二人が幸せそうなら、それでよかろう。あれ? そういえば、陽子さんが新しいエプロンをしている。こんなエプロンは見たことないもんな。

「ん? どうしたの、桃太郎さん。こっちをじっと見て」

 そのエプロンだよ。いい柄のエプロンじゃないか。似合ってるよ、陽子さん、と言ってみても通じないか。悲しいなあ。

「あ、これ? いいでしょ。このエプロンはね、昨日お弁当を買いに来てくれたお客さんから頂いたの。なんでも、この辺を営業で回っている方らしくて、その方がくれたのよ」

「えいぎょう?」

「そっか、美歩には分からないわね。お仕事のことよ。エプロンとか厨房着とかを売っているお仕事なんだって」

「あのみどり色のぼうしのおじいちゃんでしょ。おはなが赤い」

「そうそう。鼻が赤かったわよね。それから、横にいた、変な赤い帽子を被ったスーツ姿の人」

「サンタさんかな」

「そうかもね。でも、サンタさんはソリでやってくるのよ。スーツも着てないし」

「なーんだ」

「たぶん、お母さんにエプロンを売りに来たのね。でも、ウチは買えませんって言ったら、そのお客さんは、お母さんのお弁当が美味しかったから、お礼に一枚差し上げますって、これをくれたの」

「お母さん、すごい!」

「でしょお。お母さんのお弁当は美味しいのよお。それに、ウチには桃太郎さんもいるし、遠慮なくって頂いちゃった。前のが汚れていたから、ちょうど良かったわ」

 陽子さんが着けている新しいエプロンには、猫の刺繡が施してある。ベストを着た猫だ。あのサンタさんは、俺の願いも聞いてくれたんだな。ありがとう。

 んー、それにしても、さっきから、お母さんを見つめる美歩ちゃんの瞳がキラキラとしている。これは何だ?

 待てよ。サンタさんから美歩ちゃんへのプレゼントは。サヤちゃん人形は陽子さんからだろう。サンタさんからは? まさか、これか。この瞳のキラキラ。あ……なんだ、変なものが見える。美歩ちゃんの周りに変な文字が沢山浮かんでいるぞ。「いいね」ってなんだ? 親指立てた手とか。ハートマークとか。なんじゃ、こりゃ? 目をこすっても、見えてるぞ。陽子さんにも、美歩ちゃんにも……見えてないのか。これが見えてるのは、俺だけか。うわああ、どんどん増えていく! そこら中「いいね」だらけじゃないか! どうなっているんだ?

 あら? 消えた。 ? 何だったんだ、今の。

 ま、いいか。 ……。



 よく分からんが、いいクリスマスだ。みんなニコニコしている。俺も幸せな気分だ。

 サンタクロースは確かにいる。それも、意外と近くに。それが分かっただけでも、今回は大収穫だ。


 さて、朝の警らに出掛けるとするか。俺は探偵だ。この街の平和を守らねばならない。寒いけど、頑張らねば。

 じゃ、行ってくるぜ。みんなも、いいクリスマスをおくってくれ。

 また会おう。

(了)
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