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俺とサンタとアイツと冬と
第9話だ 一難去ってまた一難だぞ
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俺が一階の玄関に着くと、ちょうど陽子さんが玄関ドアを開けて、洗い終えたラーメンの器を外に出していた。俺は陽子さんの横を通り、そのまま赤レンガ小道の方へと駆けた。
「ちょっと、桃太郎さん。もう遅いわよ、どこに行くの」
「緊急事態だ。話は後にしてくれ!」
と言い捨てて、俺は赤いサンタ帽の泥酔者を追いかけた。
俺が赤レンガ小道に出ると、その泥酔者はウチ隣の「モナミ美容室」の前に立ったまま、と言うよりも、周囲の雪を不規則に踏んで必死に重心を保ちながら、スマートフォンを覗きこんでいた。画面に顔を近づけて、何か言っている。
「ふー……この家ではございませんね……おかしいですねえ……」
眼が慣れていないせいか、辺りが暗くてよく見えない。俺は着ているダウンから真っ赤なLEDの懐中電灯を取り出した。スイッチを押してみるが点かない。何度も押してみるが、やはり点かない。それもそのはずだ。さっき高瀬さんの車に轢かれそうになった時に雪の中に落としたんだ。その時に泥で汚れてしまったか、濡れてしまったのだろう。まったく、こんな時に……。
俺は諦めて懐中電灯をポケットに戻すと、足下に警戒しながら、その泥酔者に近寄っていった。雪の冷たさが体の芯まで届くが、これも美歩ちゃんや陽子さんや、みんなのためだ。ここは耐えるしかない。
俺はその男に声をかけた。
「おい、あんた。――おい、聞こえているか!」
「ん? おや、何か聞こえたような……」
「こっちだ、こっち。どこ見てんだ」
「へへへ。冗談だよ、じょーだん。ちゃーんと聞こえてますよ。ういー」
「ういーじゃないだろ。酒臭いなあ」
「あ、君、知ってますよ。名探偵の『桃太郎』さんでしょ。さっきトナカイから聞きました。随分と優秀な探偵さんらしいですねえ」
「トナカイって、さっきのコートのじいさんか。じゃあ、やっぱり、そのサンタ帽、本物のサンタ帽なのか」
「ああ、これはね、駅前の百円ショップで買ったもの。パーティーグッズ売り場でね」
「……」
「なーんて、うっそぴょーん」
こいつ、ぶっ飛ばしてやろうか。しかも、なんで嘘とウサギをコラボレーションさせるんだ。ウサギがかわいそうだろ。
なんだ、馴れ馴れしく手なんか振りやがって。
「そうそう、おっしゃるとおり、小うるさいジジイなのよ、あのトナカイ」
「誰も、そうは言っていないが……」
「あれ、信じないの? 本当だって。とにかく、しつこいったらありゃしないんだから。今夜だって、せっかく気持ちよく飲んでいたのに、何回もスマホに着信が……」
「飲むな。今夜は本番だろうが。サンタなのに、なに酔っぱらってんだ。大丈夫か」
「だーかーら、だいじょうヴィーン……ヴィーン、ヴィーンって、なんだ、またスマホか。――はいはい。出ますよ、いま出ますからねえっと……ええと、どこ押せばいいんだ、これ……」
これは期待できん。まったく駄目だ。こんな酒臭いサンタがウチに入ってきたら、その臭いで美歩ちゃんが目を覚ましてしまう。そして目の前には酔いどれサンタが……どれだけ子供の夢を粉砕すれば気が済むのか! 美歩ちゃんがグレたら、おまえのせいだぞ! と俺が怒鳴ろうとしてるのを余所に、この泥酔サンタは電話に出た。
「はい、サンタクロースです。――ああ、トナカイさん。おつかれさま」
あのトナカイさんは本当に疲れていたぞ。おまえが普通の人間だったら、絶対に訴えられているからな。
「はいはい。分かってますよ。ちゃと準備してますって。それより、さっき言っていた高瀬さんの家はどこ。――ああ、こっちね。ほんとだ、看板にちゃんと書いてある」
いろいろ苦労して取り付けた看板だ、ちゃんと読んでやれよ。
「それより、例の桃太郎さんと今……なんだ、切れちゃったか」
「俺のことより、ウチの美歩ちゃんだ。美歩ちゃんへのプレゼントは、ちゃんと用意してあるんだろうな」
「当たり前ですよ。素敵なプレゼントを準備させてもらいました。へへへ」
「その笑い方はやめろ。へへへと笑う奴に、ろくな奴はいないからな。それより、その酒の臭いはなんとかならんのかよ。臭すぎるぞ」
「そうですかな。仕方ない。では……」
「お、なんだ、魔法か?」
と俺が目を輝かせると、このサンタは上着のポケットから小さな棒か筒か分からない物を取り出して、それを口の前に運んだ。大きく口を開けた彼は、それの頭を押してそこから霧を噴出させる。
「マウススプレーか! そんなもの、そこのコンビニでも売っているだろ!」
「あ、あー。……んん、いやいや、失礼しました。はあー、どうですかな、臭う?」
「ぐはっ、ゴホッゴホッ、臭うぞ。まだ臭う。勘弁してくれ」
「そうですか。仕方ない。ならば奥の手を……ちちんぷいぷい」
なんかキラキラとした光を一瞬だけ放出した彼は、本当に一瞬でパリッとしたスーツ姿の紳士に変身した。が、依然として頭には赤いとんがり帽子を被っている。まあ、仕方ないか。
「これでどうだい? 少しは信用してもらえたかな」
なんだ、声色まで違うぞ。しかもドヤ顔。印象は全然よくなってはいないが、まあ、酒の臭いは消えた。流石だ。ていうか、最初からやれ。
「さてと、酔いも飛んだし、そろそろ仕事にかかりますかね」
そうだ、それでいい。でも、サンタって、こんな調子なのか。なんだか、煌びやか街で奥さんへのプレゼントを買った帰りに残りの金で虚しく一杯やった後、近所の公園で一休みしてから家路につくお父さんみたいなノリだな。まあ、いいか。がんばれ。
「で、トナカイさんは、まだかな。相変わらず仕事が遅いなあ」
あんたが、あれやこれやと、トナカイさんにやらせ過ぎなんだろ! 彼が普通のトナカイなら、あの角で一刺しされているぞ。部下が温和なトナカイでよかったな。
「こっちは、配るプレゼントの準備がそろそろ……」
ん? なんだ? 赤レンガ小道商店街の奥を覗いて。まさか、讃岐さんとこの「北風ラーメン」でラーメンを食べるつもりでは……。あら、向こうから車が入ってくる。変だな。たしか、ここは一方通行で、裏通りの方からは車は入れないルールのはずだが。んん、随分と荒い運転だな。雪を左右に飛ばして、こっちに突っ込んでくるぞ。おお! あぶねえ! 轢く気か! ブハッ。急ブレーキかけんな。雪が飛ぶだろうが!
「ああ、お疲れさま」
とサンタさんが言うところをみると、なんだ、知り合いか。でも、ワゴン車に乗ったサンタの知り合いって、何者だ。あ、横のドアが開いた。降りてきたのは一人、二人、三人……七人。しかも、全員が真っ赤な全身タイツに赤い毛糸の目出し帽……って、覆面強盗団か! 何なんだ、次から次へと。
「ちょっと、桃太郎さん。もう遅いわよ、どこに行くの」
「緊急事態だ。話は後にしてくれ!」
と言い捨てて、俺は赤いサンタ帽の泥酔者を追いかけた。
俺が赤レンガ小道に出ると、その泥酔者はウチ隣の「モナミ美容室」の前に立ったまま、と言うよりも、周囲の雪を不規則に踏んで必死に重心を保ちながら、スマートフォンを覗きこんでいた。画面に顔を近づけて、何か言っている。
「ふー……この家ではございませんね……おかしいですねえ……」
眼が慣れていないせいか、辺りが暗くてよく見えない。俺は着ているダウンから真っ赤なLEDの懐中電灯を取り出した。スイッチを押してみるが点かない。何度も押してみるが、やはり点かない。それもそのはずだ。さっき高瀬さんの車に轢かれそうになった時に雪の中に落としたんだ。その時に泥で汚れてしまったか、濡れてしまったのだろう。まったく、こんな時に……。
俺は諦めて懐中電灯をポケットに戻すと、足下に警戒しながら、その泥酔者に近寄っていった。雪の冷たさが体の芯まで届くが、これも美歩ちゃんや陽子さんや、みんなのためだ。ここは耐えるしかない。
俺はその男に声をかけた。
「おい、あんた。――おい、聞こえているか!」
「ん? おや、何か聞こえたような……」
「こっちだ、こっち。どこ見てんだ」
「へへへ。冗談だよ、じょーだん。ちゃーんと聞こえてますよ。ういー」
「ういーじゃないだろ。酒臭いなあ」
「あ、君、知ってますよ。名探偵の『桃太郎』さんでしょ。さっきトナカイから聞きました。随分と優秀な探偵さんらしいですねえ」
「トナカイって、さっきのコートのじいさんか。じゃあ、やっぱり、そのサンタ帽、本物のサンタ帽なのか」
「ああ、これはね、駅前の百円ショップで買ったもの。パーティーグッズ売り場でね」
「……」
「なーんて、うっそぴょーん」
こいつ、ぶっ飛ばしてやろうか。しかも、なんで嘘とウサギをコラボレーションさせるんだ。ウサギがかわいそうだろ。
なんだ、馴れ馴れしく手なんか振りやがって。
「そうそう、おっしゃるとおり、小うるさいジジイなのよ、あのトナカイ」
「誰も、そうは言っていないが……」
「あれ、信じないの? 本当だって。とにかく、しつこいったらありゃしないんだから。今夜だって、せっかく気持ちよく飲んでいたのに、何回もスマホに着信が……」
「飲むな。今夜は本番だろうが。サンタなのに、なに酔っぱらってんだ。大丈夫か」
「だーかーら、だいじょうヴィーン……ヴィーン、ヴィーンって、なんだ、またスマホか。――はいはい。出ますよ、いま出ますからねえっと……ええと、どこ押せばいいんだ、これ……」
これは期待できん。まったく駄目だ。こんな酒臭いサンタがウチに入ってきたら、その臭いで美歩ちゃんが目を覚ましてしまう。そして目の前には酔いどれサンタが……どれだけ子供の夢を粉砕すれば気が済むのか! 美歩ちゃんがグレたら、おまえのせいだぞ! と俺が怒鳴ろうとしてるのを余所に、この泥酔サンタは電話に出た。
「はい、サンタクロースです。――ああ、トナカイさん。おつかれさま」
あのトナカイさんは本当に疲れていたぞ。おまえが普通の人間だったら、絶対に訴えられているからな。
「はいはい。分かってますよ。ちゃと準備してますって。それより、さっき言っていた高瀬さんの家はどこ。――ああ、こっちね。ほんとだ、看板にちゃんと書いてある」
いろいろ苦労して取り付けた看板だ、ちゃんと読んでやれよ。
「それより、例の桃太郎さんと今……なんだ、切れちゃったか」
「俺のことより、ウチの美歩ちゃんだ。美歩ちゃんへのプレゼントは、ちゃんと用意してあるんだろうな」
「当たり前ですよ。素敵なプレゼントを準備させてもらいました。へへへ」
「その笑い方はやめろ。へへへと笑う奴に、ろくな奴はいないからな。それより、その酒の臭いはなんとかならんのかよ。臭すぎるぞ」
「そうですかな。仕方ない。では……」
「お、なんだ、魔法か?」
と俺が目を輝かせると、このサンタは上着のポケットから小さな棒か筒か分からない物を取り出して、それを口の前に運んだ。大きく口を開けた彼は、それの頭を押してそこから霧を噴出させる。
「マウススプレーか! そんなもの、そこのコンビニでも売っているだろ!」
「あ、あー。……んん、いやいや、失礼しました。はあー、どうですかな、臭う?」
「ぐはっ、ゴホッゴホッ、臭うぞ。まだ臭う。勘弁してくれ」
「そうですか。仕方ない。ならば奥の手を……ちちんぷいぷい」
なんかキラキラとした光を一瞬だけ放出した彼は、本当に一瞬でパリッとしたスーツ姿の紳士に変身した。が、依然として頭には赤いとんがり帽子を被っている。まあ、仕方ないか。
「これでどうだい? 少しは信用してもらえたかな」
なんだ、声色まで違うぞ。しかもドヤ顔。印象は全然よくなってはいないが、まあ、酒の臭いは消えた。流石だ。ていうか、最初からやれ。
「さてと、酔いも飛んだし、そろそろ仕事にかかりますかね」
そうだ、それでいい。でも、サンタって、こんな調子なのか。なんだか、煌びやか街で奥さんへのプレゼントを買った帰りに残りの金で虚しく一杯やった後、近所の公園で一休みしてから家路につくお父さんみたいなノリだな。まあ、いいか。がんばれ。
「で、トナカイさんは、まだかな。相変わらず仕事が遅いなあ」
あんたが、あれやこれやと、トナカイさんにやらせ過ぎなんだろ! 彼が普通のトナカイなら、あの角で一刺しされているぞ。部下が温和なトナカイでよかったな。
「こっちは、配るプレゼントの準備がそろそろ……」
ん? なんだ? 赤レンガ小道商店街の奥を覗いて。まさか、讃岐さんとこの「北風ラーメン」でラーメンを食べるつもりでは……。あら、向こうから車が入ってくる。変だな。たしか、ここは一方通行で、裏通りの方からは車は入れないルールのはずだが。んん、随分と荒い運転だな。雪を左右に飛ばして、こっちに突っ込んでくるぞ。おお! あぶねえ! 轢く気か! ブハッ。急ブレーキかけんな。雪が飛ぶだろうが!
「ああ、お疲れさま」
とサンタさんが言うところをみると、なんだ、知り合いか。でも、ワゴン車に乗ったサンタの知り合いって、何者だ。あ、横のドアが開いた。降りてきたのは一人、二人、三人……七人。しかも、全員が真っ赤な全身タイツに赤い毛糸の目出し帽……って、覆面強盗団か! 何なんだ、次から次へと。
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