5 / 70
俺と推理と迷いと春と
第5話だ 春はお花がきれいだぞ
しおりを挟む
俺はまず、花屋さんにやって来た。「高瀬生花店」だ。ここの人は見物に来ていない。
高瀬公子さんは、今もこうしてお花の手入れ中だ。お、御主人さんも配達から帰ってきているな。御主人は高瀬邦夫さん。物静かで温厚な人だ。
この二人が容疑者である可能性は低いと思われるが、思い込みは捨てねばならん。その点はチョビ髭警部の言うとおりだ。見物に来ていないのだって、こちらの分析を逆手に取っている可能性もある。可能性はゼロではないよな。という訳で、まずは探りを入れてみるか。客のふりして中に入ってと……。
おお、中は自然の香りでいっぱいだ! ん、これは薔薇の香りか。いいねえ。お、百合の香りも、たまらんぞ。ああ、菊の花の独特の香り、鼻をくすぐるぜ。
あらあら、二人とも仕事に夢中で、俺が入ってきたことに気付いてないな。ん? 公子さんが何かブツブツと言っているぞ。どれ。
「まったく、いい迷惑よねえ。あんなの絶対にわざとでしょ。最初から狙っていたに決まっているわ。お金目当てでやったのよ、きっと」
「だろうなあ。人間は欲に目が眩むと、何をするか分からんからなあ。真面目な人だと思っていたんだが、もう信用できんな。今後は気を付けとかないと」
「そうね。あなたもしっかりと目を光らせといてよ。これから先、何をされるか分からないから」
「だな。それにしても、子供が学校に行っている時間帯でよかったよ。あの人、何を考えているんだ、まったく」
「だからかもよ。子供が居ないから、やったのよ。ちょうど下校時間帯に分かるように。まったく、わざとらしいったら、ありゃしない」
「だとしたら、ふざけた人だよなあ。まあ、早めに気付いたからよかったけど、もう少し気付くのが遅かったら、今頃、どうなっていたか。この辺は、場所が場所だからなあ」
「そうよ。お向いさんはビジネスホテルだし、裏はお寺じゃない。ほんと、笑えないわ」
な、何を言ってやがる。驚きだぜ。まるで、陽子さんが火災保険金目当てに自分で火を点けたかのような言いようじゃないか。ちくしょう、真面目で人のいい夫婦だと思っていたのに、がっかりだ。
俺は言ってやった。
「おいおい、ちょっと待った。陽子さんが犯人だと言うのかい。そりゃあ、あんまりだろ。陽子さんは被害者だぞ。必至に消火したんだぞ」
「あら嫌だ。びっくりした。桃ちゃん、来てたの」
「さっきから聞いていたぞ。ウチの陽子さんのことを散々に言いやがって。陽子さんが真面目な人だってことは知っているだろ。放火なんかするか!」
「いやあ、桃、大変だったなあ。火傷しなかったかよ」
「うるさい! 金輪際、俺のことを桃ちゃんとか、桃とか馴れ馴れしく呼ぶな。今後は、おじさんが店先の水道の蛇口を閉め忘れているのに気付いても、教えてやらないからな。もう絶交だ。こんな店、二度と来るか!」
俺はカンカンに怒って店から出た。後ろから二人の声が聞こえる。
「あらら、随分とご機嫌ななめねえ」
「パトカーが何台も来たり、警察官や野次馬でごった返したりしたんだ。機嫌がいい訳ないだろう。彼も被害者だよ。かわいそうに」
ふざけんな。かわいそうなのは陽子さんだ。何が「ふざけた人」だ。おまえらの方が、よっぽどふざけているぞ。ウチの陽子さんを何だと思っていやがる。腹立つなあ。
まあ、しかし、あの会話からすると、あの二人は犯行に関与はしていないな。あれは実行行為に絡んだ奴らがする会話じゃない。だとすると、やはり第一容疑者は、あいつか。
さて、どうするか。いきなり飛び込んで、自供を迫るっていうのもなあ。冤罪を生んだ捜査って、そのパターンだしな。やはり、捜査は慎重にいこう。
まずは第二容疑者からだな。大内住職だ。もうじき日も暮れる。暗くなると、お寺は恐いからな。早めに話しを聞いてしまおう。
俺は大きな門をくぐり、寺の中へと駆けていった。
高瀬公子さんは、今もこうしてお花の手入れ中だ。お、御主人さんも配達から帰ってきているな。御主人は高瀬邦夫さん。物静かで温厚な人だ。
この二人が容疑者である可能性は低いと思われるが、思い込みは捨てねばならん。その点はチョビ髭警部の言うとおりだ。見物に来ていないのだって、こちらの分析を逆手に取っている可能性もある。可能性はゼロではないよな。という訳で、まずは探りを入れてみるか。客のふりして中に入ってと……。
おお、中は自然の香りでいっぱいだ! ん、これは薔薇の香りか。いいねえ。お、百合の香りも、たまらんぞ。ああ、菊の花の独特の香り、鼻をくすぐるぜ。
あらあら、二人とも仕事に夢中で、俺が入ってきたことに気付いてないな。ん? 公子さんが何かブツブツと言っているぞ。どれ。
「まったく、いい迷惑よねえ。あんなの絶対にわざとでしょ。最初から狙っていたに決まっているわ。お金目当てでやったのよ、きっと」
「だろうなあ。人間は欲に目が眩むと、何をするか分からんからなあ。真面目な人だと思っていたんだが、もう信用できんな。今後は気を付けとかないと」
「そうね。あなたもしっかりと目を光らせといてよ。これから先、何をされるか分からないから」
「だな。それにしても、子供が学校に行っている時間帯でよかったよ。あの人、何を考えているんだ、まったく」
「だからかもよ。子供が居ないから、やったのよ。ちょうど下校時間帯に分かるように。まったく、わざとらしいったら、ありゃしない」
「だとしたら、ふざけた人だよなあ。まあ、早めに気付いたからよかったけど、もう少し気付くのが遅かったら、今頃、どうなっていたか。この辺は、場所が場所だからなあ」
「そうよ。お向いさんはビジネスホテルだし、裏はお寺じゃない。ほんと、笑えないわ」
な、何を言ってやがる。驚きだぜ。まるで、陽子さんが火災保険金目当てに自分で火を点けたかのような言いようじゃないか。ちくしょう、真面目で人のいい夫婦だと思っていたのに、がっかりだ。
俺は言ってやった。
「おいおい、ちょっと待った。陽子さんが犯人だと言うのかい。そりゃあ、あんまりだろ。陽子さんは被害者だぞ。必至に消火したんだぞ」
「あら嫌だ。びっくりした。桃ちゃん、来てたの」
「さっきから聞いていたぞ。ウチの陽子さんのことを散々に言いやがって。陽子さんが真面目な人だってことは知っているだろ。放火なんかするか!」
「いやあ、桃、大変だったなあ。火傷しなかったかよ」
「うるさい! 金輪際、俺のことを桃ちゃんとか、桃とか馴れ馴れしく呼ぶな。今後は、おじさんが店先の水道の蛇口を閉め忘れているのに気付いても、教えてやらないからな。もう絶交だ。こんな店、二度と来るか!」
俺はカンカンに怒って店から出た。後ろから二人の声が聞こえる。
「あらら、随分とご機嫌ななめねえ」
「パトカーが何台も来たり、警察官や野次馬でごった返したりしたんだ。機嫌がいい訳ないだろう。彼も被害者だよ。かわいそうに」
ふざけんな。かわいそうなのは陽子さんだ。何が「ふざけた人」だ。おまえらの方が、よっぽどふざけているぞ。ウチの陽子さんを何だと思っていやがる。腹立つなあ。
まあ、しかし、あの会話からすると、あの二人は犯行に関与はしていないな。あれは実行行為に絡んだ奴らがする会話じゃない。だとすると、やはり第一容疑者は、あいつか。
さて、どうするか。いきなり飛び込んで、自供を迫るっていうのもなあ。冤罪を生んだ捜査って、そのパターンだしな。やはり、捜査は慎重にいこう。
まずは第二容疑者からだな。大内住職だ。もうじき日も暮れる。暗くなると、お寺は恐いからな。早めに話しを聞いてしまおう。
俺は大きな門をくぐり、寺の中へと駆けていった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される
茶柱まちこ
キャラ文芸
雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。
ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。
呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。
神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。
(旧題:『大神様のお気に入り』)

彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~
保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。
迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。
ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。
昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!?
夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。
ハートフルサイコダイブコメディです。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる