56 / 70
俺とポエムと彼女と秋と
第17話。 お別れ
しおりを挟む
俺と陽子さんは観音寺で行われた室戸豊栄さんの葬儀に参列した。葬儀は参列者の少ない質素なものだった。琴平さんの車椅子は陽子さんが押した。俺は押せなかった。猫だから。
夕刻、室戸さんは灰になって帰ってきた。彼の遺骨は綺麗なガラスの骨壺に入れられていた。色ガラスを繋ぎ合わせた美しい壺だ。大内住職が室戸さんから預かっていたものらしい。遺骨は細かな粉になっていた。量も壺の半分くらいまでしかなかった。色ガラスが飲み込んだ光は室戸さんの白い残影を七色に染めた。
観音寺のイチョウの木の下で、ガラスの壺を膝の上に乗せた琴平さんは赤い空を見上げていた。彼女は、力なく呟く。
「秋なのね」
俺の言葉は通じないが、それでも俺は答えた。
「秋なのさ」
琴平さんが少しだけ笑ってくれたような気がした。
風雨に打たれて疲れ果てたイチョウの葉がハラハラと舞い落ちる。俺がその落ち葉を挿んだアポリネールの詩集を、琴平さんは大切に壺と体の間に置いた。
夕日が沈もうとしていた。俺は彼女に背を向けて歩き始める。舞い散る黄色いイチョウの葉を低い陽射しが照らす。
その時、琴平さんが声を漏らした。俺は振り返る。
琴平さんの膝の上の骨壺に赤い夕日が当たり、色ガラスがそれを反射して彼女の周りを赤、黄、緑、オレンジ、青、藍、紫の光で囲んだ。美しかった。ハラハラと葉を舞い散らせるイチョウの古木の下に虹が広がっている。まるで、秋を春が優しく包んでいるようだった。悲しい冬はいらない、そう言っているようだ。
やはり室戸豊栄は天才だった。
琴平さんは涙を流し、膝の上で虹を放つ骨壺を覆うように強く抱きしめた。そして、声を上げて泣いた。
落葉が静かに降り注ぐ。
秋は泣き続ける。
季節が恋を牽いていく。
夕刻、室戸さんは灰になって帰ってきた。彼の遺骨は綺麗なガラスの骨壺に入れられていた。色ガラスを繋ぎ合わせた美しい壺だ。大内住職が室戸さんから預かっていたものらしい。遺骨は細かな粉になっていた。量も壺の半分くらいまでしかなかった。色ガラスが飲み込んだ光は室戸さんの白い残影を七色に染めた。
観音寺のイチョウの木の下で、ガラスの壺を膝の上に乗せた琴平さんは赤い空を見上げていた。彼女は、力なく呟く。
「秋なのね」
俺の言葉は通じないが、それでも俺は答えた。
「秋なのさ」
琴平さんが少しだけ笑ってくれたような気がした。
風雨に打たれて疲れ果てたイチョウの葉がハラハラと舞い落ちる。俺がその落ち葉を挿んだアポリネールの詩集を、琴平さんは大切に壺と体の間に置いた。
夕日が沈もうとしていた。俺は彼女に背を向けて歩き始める。舞い散る黄色いイチョウの葉を低い陽射しが照らす。
その時、琴平さんが声を漏らした。俺は振り返る。
琴平さんの膝の上の骨壺に赤い夕日が当たり、色ガラスがそれを反射して彼女の周りを赤、黄、緑、オレンジ、青、藍、紫の光で囲んだ。美しかった。ハラハラと葉を舞い散らせるイチョウの古木の下に虹が広がっている。まるで、秋を春が優しく包んでいるようだった。悲しい冬はいらない、そう言っているようだ。
やはり室戸豊栄は天才だった。
琴平さんは涙を流し、膝の上で虹を放つ骨壺を覆うように強く抱きしめた。そして、声を上げて泣いた。
落葉が静かに降り注ぐ。
秋は泣き続ける。
季節が恋を牽いていく。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
海の見える家で……
梨香
キャラ文芸
祖母の突然の死で十五歳まで暮らした港町へ帰った智章は見知らぬ女子高校生と出会う。祖母の死とその女の子は何か関係があるのか? 祖母の死が切っ掛けになり、智章の特殊能力、実父、義理の父、そして奔放な母との関係などが浮き彫りになっていく。
貧乏神の嫁入り
石田空
キャラ文芸
先祖が貧乏神のせいで、どれだけ事業を起こしても失敗ばかりしている中村家。
この年もめでたく御店を売りに出すことになり、長屋生活が終わらないと嘆いているいろりの元に、一発逆転の縁談の話が舞い込んだ。
風水師として名を馳せる鎮目家に、ぜひともと呼ばれたのだ。
貧乏神の末裔だけど受け入れてもらえるかしらと思いながらウキウキで嫁入りしたら……鎮目家の虚弱体質な跡取りのもとに嫁入りしろという。
貧乏神なのに、虚弱体質な旦那様の元に嫁いで大丈夫?
いろりと桃矢のおかしなおかしな夫婦愛。
*カクヨム、エブリスタにも掲載中。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】追放住職の山暮らし~あやかしに愛され過ぎる生臭坊主は隠居して山でスローライフを送る
張形珍宝
キャラ文芸
あやかしに愛され、あやかしが寄って来る体質の住職、後藤永海は六十五歳を定年として息子に寺を任せ山へ隠居しようと考えていたが、定年を前にして寺を追い出されてしまう。追い出された理由はまあ、自業自得としか言いようがないのだが。永海には幼い頃からあやかしを遠ざけ、彼を守ってきた化け狐の相棒がいて、、、
これは人生の最後はあやかしと共に過ごしたいと願った生臭坊主が、不思議なあやかし達に囲まれて幸せに暮らす日々を描いたほのぼのスローライフな物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる