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俺とポエムと彼女と秋と
第13話だ 俺のソウル
しおりを挟む俺は探偵。
探偵に過去は不要だ。
過去の記憶も
過去に繋がる苗字も
必要ない。
今の名前、それだけが有ればいい。
俺は探偵。
探偵に金も不要だ。
通帳の記帳も
通帳を作るための身分証も
必要ない。
あんたの笑顔、それだけが有ればいい。
俺は探偵。
探偵に心の牙は必要だ。
悪の臭いを嗅ぎ分ける
研ぎ澄まされた嗅覚も。
それらさえ有れば、何も要らない。
探偵の胸に携帯の振動は響かない。
俺の胸に響くのは魂の鼓動。
探偵の耳に活字の入力音は届かない。
俺の耳に響くのは弱者の慟哭。
俺は走る。
真実を追い求めて。
俺は叫ぶ。
正義を通すために。
俺は暴れる。
悪党を追い払うために。
そして俺は端座する。
怒りに震える心を静めるために。
暗闇の中でカチャカチャと音がした。ドアノブが静かに回り、スチール製のドアがゆっくりと開く。目出し帽を被ったジャージ姿の男が音を立てないようにして入ってきた。男は耳を澄まし、人の気配が無いことを確認すると、静かにその裏口のドアを閉め、小さな懐中電灯を光らせて慎重に歩き始めた。バックヤードから店舗の中に出てきた男は、レジへと向かった。懐中電灯でレジを照らしながら、ポケットからバールを取り出した。
「使い方を間違えているぞ」
俺はそう言って、部屋の灯を点けた。ビクリと肩を上げた男に俺は言った。
「懐中電灯は自分や他人を助ける為に使うものだ」
男は俺が警察官でない事に安心したのか、目出し帽の中で息を吐いた。
俺は男に言ってやった。
「覆面芸術家はマスクを被ってはいないが、覆面泥棒はちゃんとマスクを被っているんだな」
男は手で俺を追い払う仕草をした。一番勘に触る仕草だ。
俺は声を荒げた。
「あのな、おまえがここに現れる事は、分かっていたんだ。おまえ、火事場泥棒ならぬ大雨場泥棒だな。このところ客が多い、この『モナミ美容室』には現金があると思って狙ったんだろ。残念だったな、現金はないぜ。安全な場所に移してある。そして替わりに、一番危険な、この桃太郎様がお出迎えだ。観念しな!」
男は首を傾げていた。俺は続けた。
「この頃、この近くでガラスが割られる事件が起こった。割った犯人は『トトさん』だ……という事になっているが、本当はおまえだな。いや、おまえの仲間の仕業かもな」
男は俺を無視してバールの端をレジの引き出しの隙間に差し込み始めた。俺は忠告した。
「止めときな。今なら中止未遂か住居侵入だけで済みそうだが、それ以上やると窃盗の障害未遂になっちまうぜ。そうなれば、減刑はなしだ。損するぞ」
それでも男は強引にバールをレジに押し込み始めた。レジスターは高価だ。これ以上やられたら壊されてしまう。そう考えた俺は、男に跳びかかった。必殺のドロップキックで即頭部に一撃を加えて男を床に倒した後、起き上がろうとした男に得意の三角蹴りで、もう一撃。そして最後に自前の「切れ物」で目出し帽を切り刻んでやった。
制服姿の警察官が駆け込んできた。二人がかりで男を取り押さえる。俺は、ズタズタになった目出し帽から顔を出している男に言った。
「いずれにしても『トトさん』を施設から逃がしたのは、あんたの仕業だ。犯行を『トトさん』の仕業だと思わせるために。そうだろ、小林さん」
警官たちに押さえつけられていた小林は、切り傷だらけの顔を赤くして必死に抵抗していたが、やがて諦めて大人しくなった。
俺は静かに「切れ物」を鞘に納めた。
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