名探偵桃太郎の春夏秋冬

淀川 大

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俺と太鼓と祭りと夏と

第13話だ  何か足りないぞ

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 まったく、朝っぱらからとんでもない目に遭った。しかし重要な手掛かりも掴んだことだし、まあ、良しとするか。

 ああ、「フラワーショップ高瀬」の前に到着だ。ていうか、なんでウチの前で俺を降ろしてくれないんだ。「ホッカリ弁当」の前を通っただろう。

「そら、降りろ。悪いな、そこは母さんの席だからな。交代だ」

 はあ? ドアを開けてくれるのはいいが、随分とぞんざいな扱いだなあ。降りるよ、降りりゃいいんだろ。

 お、奥さんの公子さんだ。わざわざ、お出迎えか? しかも、なんだか、おめかしして。どうしたんだ?

「あなた、遅いじゃないの。輪哉りんやを迎えに行く時間でしょ」

「わるいわるい。桃を拾ったものだからね」

「え? ちょっと、早く言ってよ」

 なんだよ、どうしてそんなにパタパタしてるんだ、公子さん。少しお洒落な服装しているからって、そんなに神経質にならなくても……ドアを閉めるか。輪哉を迎えに行くって言ってたな。ってことは、駅まで息子さんを迎えに行くんだな。なるほど、公子さんは、久々に帰省する我が子に恰好をつけているのか。なるほどね。
 
 ああ、邦夫さんも呆れ顔をしているなあ。ま、お母さんは、みんなそうかもな。

「気をつけてな。輪哉さんに宜しく」と言っても、二人とも返事もなしに車を走らせるか。相当に舞い上がっているな。

 さてと、俺も、いつものルートで自宅に戻るとするか。腹も減ったし。

 しかし、どういう事なんだ。東地区の人たちがウチの西地区の太鼓を狙っているのなら、なぜ、太鼓の皮を破ったんだ。
 
 いや、毀損の犯人は別口のような言いぶりだったぞ。「犯人に対処できるか」とも言っていた。やっぱり、犯人は幽霊……うう、寒い。これだから夏に怪談が流行るのか。効果覿面てきめんだな。

 あ、大内住職だ。ちゃんと法衣姿だ。若いお坊さんたちを前に何か話している。お説法かな。折角だから少し聞いていこう。

「――ですから、手や鎌で丁寧に雑草を除いているのです。こんな草刈機なんかを使えば、誤って刃先を当ててしまって、檀家さん達の大切なお墓を傷つけてしまうかもしれんでしょう。墓標の下には、単にご先祖様のご遺骨だけでなく、大切なものも仕舞われているのですぞ。そういう点をもっと深く考えて、今後も精進するように。草刈機の使用は、境内と裏の農園だけにして下さい。よろしいですな」

 なんだって、ここの墓地には、お骨以外にも何か仕舞われているのか。珍しい墓だな。

 はっ、もしかして、奴らの狙いはそれか! ここのお墓の下には何か貴重なお宝が眠っていて、東地区の人たちはそれを狙っている。だから、黒尽くめの連中を雇って騒音をばら撒き、周囲から人を遠ざけようとしている。太鼓を壊したのは……壊したのは……うーん……分からん。

 だが、俺の推理が正しければ、お墓に幽霊が出たのも説明がつくぞ。きっと、そのお宝にまつわる幽霊なのだろう。墓を荒らすなと化けて出たに違いない。

 だが、太鼓とどう繋がるんだ。太鼓、幽霊、お宝、黒尽くめ……何かピースが足りない。もう少し情報が必要だな。帰って調べてみよう。


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