25 / 70
俺と太鼓と祭りと夏と
第11話だ 渡れたぞ
しおりを挟む
大通りの向こうの警察署に帰る時、お兄さんは横断歩道を渡る。この横断歩道は土佐山田薬局から例の空き地と反対方向に少し歩いた所の地方銀行の前にあって、横断歩道を渡りきった先はコンビニの駐車場の真ん前だ。そこから「ウェルビー保険」の向かいの「まんぷく亭」まで歩き、横道を過ぎると左手に警察署が建っている。大通りを隔てた向かいが例の空き地。
つまり、土佐山田薬局から横断歩道を渡って警察署に帰ると随分と遠回りになるのだが、お兄さんは現職の警察官だから、ちゃんと横断歩道を渡る。
もちろん緊急事態の時は大通りの車を止めて横断してくるが、平常時は遠回りでも交通法規をちゃんと遵守する。真面目な人だ。
自動車恐怖症の俺は、コンビニの駐車場から出てくる車が恐くて、この横断歩道も渡れない。だから、よほどの事が起こらない限り向かい側の東地区に渡ろうとしないが、今回はよほど以上の事が起きたので、渡る。警察の制服姿のお兄さんと一緒なら安心だし。
少し緊張しながらも無事に横断歩道を渡り終える事ができたので、お兄さんに尋ねてみる。
「なんだ、今日はお巡りさんの制服姿なんだな。いつもは作業服みたいなやつなのに」
「ん? 桃太郎も見慣れないベストだなあ。さては僕と一緒で、お祭り用だな」
「別にそういう訳じゃないが、あんたのその制服は、お祭り用なのか?」
「しかし、この暑いのに参るよ。今週は夏祭りが終わるまで制服で巡回なんだ。祭りの当日は雑踏警備だし。鑑識は普段はTシャツ一枚だから、楽なんだけどなあ。ワイシャツは暑くて……」
「そうなのか。俺たちのお祭りのせいで、雑踏警備の臨時要員として駆りだされた訳か。申し訳ないな」
「まあ、地域の人たちにとっては大切なお祭りだからさ、僕も頑張るけど、しかし、この暑さはなあ」
「売上げアップで臨時ボーナスのチャンスだからな。みんな、祭りは真剣に準備しているみたいだ。迷惑をかけるが、宜しく頼む」
「でも、こういう暑くて大変な時だから、お祭りって大切なんだよなあ。毎年巡回していて、この頃やっと分かってきたよ。そう考えれば、雑踏警備も交通誘導も苦じゃないな。警察官として市民が大切にしているものを守っている訳だし。うん、そうだ、そうだ」
何を言わんとしているのか、いまいち良く分からんが、警察官もいろいろ大変なんだろうな。ああ、そうだ、大事なことを忘れるところだった。
「なあ、それはともかく、近頃この辺りで黒尽くめの防具を身にまとった特殊部隊の連中みたいな奴らが出没しているのを知っているか。例の騒音被害の犯人なのだが、俺はどうも、この連中が太鼓の毀損事件と関係しているような……て、おい。聞いているのか」
なんだ、走って行きやがった。忙しい人だな。――そうだった、兼務で実際に忙しい人だった。忘れていた。
俺は汗に濡れたお兄さんの背中を見送る。そして横には「まんぷく亭」。たしか、この横道の先だな。行ってみるか。
ええと、この先にある駐車場の隅に、東地区の人たちが大太鼓を保管している倉庫が在るはずだが……。
あ、あれか。あの駐車場だな。随分と日当たりの悪い駐車場だな。警察署の陰になっているのか。ま、駐車場はそれでいいのかな。
あれ? 奥の倉庫の前に人か何人か集っているぞ。あ、鳥丸さんもいる。何をしているんだ。大人たちが輪になって、皆、深刻そうな顔で話し合っている――と言うよりも、大通りの方をあちらこちらと指差して、何かを打ち合わせているって感じだ。
東地区の大太鼓は本当に被害に遭っていないのか確認に来たのだが、これはとんだ場面に出くわしたかもしれないぞ。もしかしたら、ウチの地区の太鼓の毀損は、東地区の人たちの仕業なのかも。祭りの主導権を握ろうという作戦なのかもしれん。
これは、何を話し合っているのか聞かねば。駐車してある車の陰に隠れて、近づいてみるか。
つまり、土佐山田薬局から横断歩道を渡って警察署に帰ると随分と遠回りになるのだが、お兄さんは現職の警察官だから、ちゃんと横断歩道を渡る。
もちろん緊急事態の時は大通りの車を止めて横断してくるが、平常時は遠回りでも交通法規をちゃんと遵守する。真面目な人だ。
自動車恐怖症の俺は、コンビニの駐車場から出てくる車が恐くて、この横断歩道も渡れない。だから、よほどの事が起こらない限り向かい側の東地区に渡ろうとしないが、今回はよほど以上の事が起きたので、渡る。警察の制服姿のお兄さんと一緒なら安心だし。
少し緊張しながらも無事に横断歩道を渡り終える事ができたので、お兄さんに尋ねてみる。
「なんだ、今日はお巡りさんの制服姿なんだな。いつもは作業服みたいなやつなのに」
「ん? 桃太郎も見慣れないベストだなあ。さては僕と一緒で、お祭り用だな」
「別にそういう訳じゃないが、あんたのその制服は、お祭り用なのか?」
「しかし、この暑いのに参るよ。今週は夏祭りが終わるまで制服で巡回なんだ。祭りの当日は雑踏警備だし。鑑識は普段はTシャツ一枚だから、楽なんだけどなあ。ワイシャツは暑くて……」
「そうなのか。俺たちのお祭りのせいで、雑踏警備の臨時要員として駆りだされた訳か。申し訳ないな」
「まあ、地域の人たちにとっては大切なお祭りだからさ、僕も頑張るけど、しかし、この暑さはなあ」
「売上げアップで臨時ボーナスのチャンスだからな。みんな、祭りは真剣に準備しているみたいだ。迷惑をかけるが、宜しく頼む」
「でも、こういう暑くて大変な時だから、お祭りって大切なんだよなあ。毎年巡回していて、この頃やっと分かってきたよ。そう考えれば、雑踏警備も交通誘導も苦じゃないな。警察官として市民が大切にしているものを守っている訳だし。うん、そうだ、そうだ」
何を言わんとしているのか、いまいち良く分からんが、警察官もいろいろ大変なんだろうな。ああ、そうだ、大事なことを忘れるところだった。
「なあ、それはともかく、近頃この辺りで黒尽くめの防具を身にまとった特殊部隊の連中みたいな奴らが出没しているのを知っているか。例の騒音被害の犯人なのだが、俺はどうも、この連中が太鼓の毀損事件と関係しているような……て、おい。聞いているのか」
なんだ、走って行きやがった。忙しい人だな。――そうだった、兼務で実際に忙しい人だった。忘れていた。
俺は汗に濡れたお兄さんの背中を見送る。そして横には「まんぷく亭」。たしか、この横道の先だな。行ってみるか。
ええと、この先にある駐車場の隅に、東地区の人たちが大太鼓を保管している倉庫が在るはずだが……。
あ、あれか。あの駐車場だな。随分と日当たりの悪い駐車場だな。警察署の陰になっているのか。ま、駐車場はそれでいいのかな。
あれ? 奥の倉庫の前に人か何人か集っているぞ。あ、鳥丸さんもいる。何をしているんだ。大人たちが輪になって、皆、深刻そうな顔で話し合っている――と言うよりも、大通りの方をあちらこちらと指差して、何かを打ち合わせているって感じだ。
東地区の大太鼓は本当に被害に遭っていないのか確認に来たのだが、これはとんだ場面に出くわしたかもしれないぞ。もしかしたら、ウチの地区の太鼓の毀損は、東地区の人たちの仕業なのかも。祭りの主導権を握ろうという作戦なのかもしれん。
これは、何を話し合っているのか聞かねば。駐車してある車の陰に隠れて、近づいてみるか。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
蒼井倫太郎の愉快な夏
糸坂 有
キャラ文芸
蒼井倫太郎:自称夏が嫌いな変わり者。中学生の時に関東から京都へ引っ越してきた高校一年生。メロンソーダが好き。
有村綺羅:自称平凡な少年。蒼井とは中学からの腐れ縁。コンチキチンを聞いても気持ちが浮かない高校一年生。
有村綺羅は、蒼井倫太郎が小学生と熱心にじゃんけんをしている現場を目撃する。勝負は千回勝負、よくやるなあと綺羅は傍観するつもりだったが、小学生は、自分が勝ったら蒼井の身体が欲しいと言うのである。
「愛か?」
「何をどう聞いたらそう聞こえる? 愛どころかホラーじゃないか、笑いながら言うんだぜ、正直僕はぞっとしたね」
魔王様と七人の勇者達とさらわれたお姫様とそのオマケのメイドの私
ありま
ファンタジー
この世界には何時の頃からか、魔王と呼ばれる邪悪な存在がおりました。
その魔王が住むといわれている北の国に、お城から勇者達が次々と魔王討伐に向かいますが……誰一人かえって来ません。国中が恐怖におびえる中、ついにある日、その国のお姫様が魔王に連れ去られてしまいました、従順なメイドと共に。
魔王も勇者もお姫様も出てくるけど主役はただのメイドさん。ファンタジーっぽい何かな物語。
ハーレムっぽく見えてそうハーレムでもなくないお話です。
有栖と奉日本『デスペラードをよろしく』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第十話。
『デスペラード』を手に入れたユースティティアは天使との対決に備えて策を考え、準備を整えていく。
一方で、天使もユースティティアを迎え撃ち、目的を果たそうとしていた。
平等に進む時間
確実に進む時間
そして、決戦のときが訪れる。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(X:@studio_lid)
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
アドヴェロスの英雄
青夜
キャラ文芸
『富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?』の外伝です。
大好きなキャラなのですが、本編ではなかなか活躍を書けそうもなく、外伝を創りました。
本編の主人公「石神高虎」に協力する警察内の対妖魔特殊部隊「アドヴェロス」のトップハンター《神宮寺磯良》が主人公になります。
古の刀匠が究極の刀を打ち終え、その後に刀を持たずに「全てを《想う》だけで斬る」技を編み出した末裔です。
幼い頃に両親を殺され、ある人物の導きで関東のヤクザ一家に匿われました。
超絶の力を持ち、女性と間違えられるほどの「美貌」。
しかし、本人はいたって普通(?)の性格。
主人公にはその力故に様々な事件や人間模様に関わって行きます。
先のことはまだ分かりませんが、主人公の活躍を描いてみたいと思います。
どうか、宜しくお願い致します。
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
浮遊霊は山カフェに辿り着く ~アロマとハーブティーで成仏を~
成木沢ヨウ
キャラ文芸
高校二年生の死にたがり、丸井 恵那(まるい えな)は、授業中に遺書を書き上げた。
この授業が終わったら、恵那は自殺しようと計画していたのだった。
闇サイトに載っていた自殺スポット『一ノ瀬山の断崖絶壁』へと向かった恵那は、その場所で不思議な山小屋を発見する。
中から出てきたのは、ホストのような風貌をした背の高い男で、藤沢 椋野(ふじさわ りょうの)と名乗った。
最初は恵那のことを邪険に扱うも、ひょんなことから、恵那はこのお店を手伝わなければいけなくなってしまう。
この山小屋は、浮遊霊が行き着く不思議な山カフェで、藤沢は浮遊霊に対して、アロマの香りとハーブティーの力で成仏させてあげるという、謎の霊能者だったのだ。
浮遊霊と交流することによって、心が変化していく恵那。
そして、全く謎に包まれている藤沢の、衝撃的な過去。
アロマとハーブティーが、浮遊霊と人を支える、心温まる現代ファンタジー。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる