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俺と太鼓と祭りと夏と
第6話だ 捜査開始だぞ
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しかし妙だな。なぜ警察は動かないんだ? さっき須崎支店長さんは、他の支店でも被害の話を聞いたと言っていた。という事は、広域で発生している器物損壊事件じゃないか。被害客体と手口が共通しているなら、同一犯による犯行である可能性が高い。警察はとっくに把握しているはずだ。
はっ、まさか!
さっきの黒尽くめの犯罪者集団が何か関係しているのか。もし太鼓が毀損された時期がこの一週間以内だとしたら、奴らが現れた時期と一致する。奴らがプロ集団であるのは明らかだし、奴らの防具には、何か色々な仕掛けが有りそうだった。鍵を開けるための小道具や太鼓の固い皮を破る刃物なんかも仕込んであるかもしれん。だとすると、こいつは難敵だ。俺一人で奴らを捕まえる事ができるだろうか。あ、陽子さんの同級生の、ええと……鳥丸さん。鳥丸玲子さんだ。陽子さんと立ち話し中か。
「陽子ちゃんの西地区、太鼓を出さないの?」
「うん。皮が破れてしまっているらしいわ。そっちの地区は出すんでしょ」
「みたいね。ウチの東地区のは、やられていないって。よかったわ。修理費で、これ以上地区会費が上がったら、私のところはやっていけないわよ。そっちは、どう? 上がりそうなの?」
「たぶん、上がると思うわ。修理しないといけないでしょうし。でも、それよりも、美歩が楽しみにしていたから……」
陽子さんの視線を追って美歩ちゃんを見てみると、彼女は短い腕の先の小さな手で一生懸命に、折り畳まれた提灯を段ボールから取り出して、萌奈美さんに渡している。太鼓の中止がよほどショックだったのだろう、目に涙を溜めている。いたたまれなくて、とても見ていられない。俺は視線を陽子さんたちに戻す。鳥丸さんが遠くをにらんでいるな。広場の方か。テントを運んでいる男衆だ。なんでにらんでいるんだ?
鳥丸さんは言う。
「そちらの保管役の大内さんも、もっと早く気づかなかったのかしらね。音がしたんでしょ。太鼓が鳴るような音が、夜中に」
「うん。らしいわね。私たちは気づかなかったけど」
「やっぱり、幽霊の仕業かしら」
「幽霊? まさか」
「だって、鍵も壊されていなかったんでしょう? 倉庫の裏手は墓地だし、やっぱり出たのよ、あれが」
そうリアルに幽霊の仕草をするな、鳥丸さん。あんたは痩せているから、本物かと思うじゃないか。頼むから、やめてくれ。俺は自動車以上に幽霊も苦手だ。
「墓地で変な光を見たって、ウチのお客さんも言ってたわよ。あんたの家、近くだから気をつけなさいよ」
「やめてよ、恐いこと言うの」
「もしかしたら、西地区商店街が呪われているのかもよ」
「ちょ、ちょっと、玲子」
「ああ、恐い、恐い。それじゃあ、私は東地区だから、向こう側の飾りつけをしてくるわね。じゃ」
鳥丸さんの奴、軽めのジャブを放ってから去って行きやがったな。
鳥丸さんは大通りの向こう側の東地区の住人で、警察署の横道の角にある「まんぷく亭」という定食屋を営んでいる。昼は弁当の配達も始めた。つまり、陽子さんが営む「ホッカリ弁当」とは同業者であり、この田舎町の少ない客を奪い合う競争相手でもある訳だ。
陽子さんは幼馴染の同級生として気さくに接しているが、向こうは少なからず対抗意識を燃やしているに違いない。たまにウチの店に顔を出しては、こういう事を言って陽子さんを困らせる。呪われているだと? そんな噂を立てられたら、気持ち悪くて誰もウチの弁当を買わなくなるだろうが! とんでもない風評被害だし、偽計業務妨害だ。ふざけんな!
しかも、陽子さんは独り身の女性だし、美歩ちゃんはまだ子供だぞ。そんな話を聞かされたら、恐くて夜も眠れないじゃないか! まったく、頭にくるオバサンだな。
よし、決めた。俺が犯人を見つけてやる。この名探偵「桃太郎」様が太鼓を壊した犯人をとっ捕まえてやるぜ。見てろよ。捜査開始だ!
はっ、まさか!
さっきの黒尽くめの犯罪者集団が何か関係しているのか。もし太鼓が毀損された時期がこの一週間以内だとしたら、奴らが現れた時期と一致する。奴らがプロ集団であるのは明らかだし、奴らの防具には、何か色々な仕掛けが有りそうだった。鍵を開けるための小道具や太鼓の固い皮を破る刃物なんかも仕込んであるかもしれん。だとすると、こいつは難敵だ。俺一人で奴らを捕まえる事ができるだろうか。あ、陽子さんの同級生の、ええと……鳥丸さん。鳥丸玲子さんだ。陽子さんと立ち話し中か。
「陽子ちゃんの西地区、太鼓を出さないの?」
「うん。皮が破れてしまっているらしいわ。そっちの地区は出すんでしょ」
「みたいね。ウチの東地区のは、やられていないって。よかったわ。修理費で、これ以上地区会費が上がったら、私のところはやっていけないわよ。そっちは、どう? 上がりそうなの?」
「たぶん、上がると思うわ。修理しないといけないでしょうし。でも、それよりも、美歩が楽しみにしていたから……」
陽子さんの視線を追って美歩ちゃんを見てみると、彼女は短い腕の先の小さな手で一生懸命に、折り畳まれた提灯を段ボールから取り出して、萌奈美さんに渡している。太鼓の中止がよほどショックだったのだろう、目に涙を溜めている。いたたまれなくて、とても見ていられない。俺は視線を陽子さんたちに戻す。鳥丸さんが遠くをにらんでいるな。広場の方か。テントを運んでいる男衆だ。なんでにらんでいるんだ?
鳥丸さんは言う。
「そちらの保管役の大内さんも、もっと早く気づかなかったのかしらね。音がしたんでしょ。太鼓が鳴るような音が、夜中に」
「うん。らしいわね。私たちは気づかなかったけど」
「やっぱり、幽霊の仕業かしら」
「幽霊? まさか」
「だって、鍵も壊されていなかったんでしょう? 倉庫の裏手は墓地だし、やっぱり出たのよ、あれが」
そうリアルに幽霊の仕草をするな、鳥丸さん。あんたは痩せているから、本物かと思うじゃないか。頼むから、やめてくれ。俺は自動車以上に幽霊も苦手だ。
「墓地で変な光を見たって、ウチのお客さんも言ってたわよ。あんたの家、近くだから気をつけなさいよ」
「やめてよ、恐いこと言うの」
「もしかしたら、西地区商店街が呪われているのかもよ」
「ちょ、ちょっと、玲子」
「ああ、恐い、恐い。それじゃあ、私は東地区だから、向こう側の飾りつけをしてくるわね。じゃ」
鳥丸さんの奴、軽めのジャブを放ってから去って行きやがったな。
鳥丸さんは大通りの向こう側の東地区の住人で、警察署の横道の角にある「まんぷく亭」という定食屋を営んでいる。昼は弁当の配達も始めた。つまり、陽子さんが営む「ホッカリ弁当」とは同業者であり、この田舎町の少ない客を奪い合う競争相手でもある訳だ。
陽子さんは幼馴染の同級生として気さくに接しているが、向こうは少なからず対抗意識を燃やしているに違いない。たまにウチの店に顔を出しては、こういう事を言って陽子さんを困らせる。呪われているだと? そんな噂を立てられたら、気持ち悪くて誰もウチの弁当を買わなくなるだろうが! とんでもない風評被害だし、偽計業務妨害だ。ふざけんな!
しかも、陽子さんは独り身の女性だし、美歩ちゃんはまだ子供だぞ。そんな話を聞かされたら、恐くて夜も眠れないじゃないか! まったく、頭にくるオバサンだな。
よし、決めた。俺が犯人を見つけてやる。この名探偵「桃太郎」様が太鼓を壊した犯人をとっ捕まえてやるぜ。見てろよ。捜査開始だ!
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