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④宍倉円香【ししくらまどか】
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「じゃあな、行ってくるよ」
「パパ、バイバーイ!」
「パパ、いってらっしゃーい!」
その次の日、私は子供たちといつも通りに夫を見送った。
「ほら、空斗と流斗も保育園行く準備するよ~!」
「はぁーい!」
「ん、いい返事!」
子供たちを園児服に着替えさせる。空斗は自分で着替えられるから、何も苦労はしないんだけど。
流斗はまだひとりで着替えるのが苦手みたいだから、ちょこちょこ見ててあげないととは思う。
「二人とも準備は出来たかな~?」
と聞くと、二人とも「はぁーい!」と元気よく返事をした。
「いい返事! さ、二人ともバス来ちゃうからお家出るよ~」
「はぁーい!」
二人に園児鞄を持たせ、帽子を被せる。 バスは予定通りの時間に到着した。
「せんせー。おはようございます!」
「おはようございます!」
二人は先生に、元気よく挨拶をする。
「先生、おはようございます。よろしくお願いします」
「はい。お預かりしますね」
先生に子供たちを預け、私は家の中に入った。
「はぁ……疲れた」
今日は朝からドタバタで、とても大変な一日だった。
空斗は朝から牛乳を溢してしまうし、夫はネクタイがないと騒ぐしで、とても疲れた……。
「……円香」
昨日の夜、夫が私を抱いた時に呟いた名前だ。
「円香って誰よ……」
円香、聞き覚えのない名前だ。……円香はきっと、夫の浮気相手の可能性が高い。
私の名前を呼んでくれていたけど、最後だけ【円香】と呼んだ。 あれは絶対に、浮気している証拠に違いない。
「……円香の正体、突き止めてやる」
円香が夫の浮気相手だということを突き止めて、夫に白状させる。
「……離婚、した方がいいのかな」
でも離婚するにしても、子供がまだ小さい。しかも二人ともなると、一人で育てるなんて無理に決まっている。
父親がいないなんて、子供からしたら可哀想すぎる気もするし。……私はどうするべきなのだろうか。
もし夫が浮気していると知っても、目を瞑るしかないのかな。
子供たちのためにーーー。
私は【円香】の正体を突き止めたくて、そして夫が本当に浮気しているのか知りたくて、夫に内緒で探偵を雇うことにした。
「あの、夫が浮気しているかもしれなくて……。調べてほしいんです」
「なるほど。奥様は、何かそう思う根拠でもあるんですね?」
近くにある四葉探偵事務所で、私は夫の浮気について相談した。
「はい。……昨日、夫が私以外の女の名前を呼んだんです。円香って」
「円香? それが浮気相手かもしれないと?」
探偵さんからそう聞かれた私は「……はい」と答えた。
「その人が例えば、妹さんとかいう可能性は?」
「ありません!……夫の兄弟は、お兄さんだけですから」
まさかそんなことを聞かれるなんて……。私のことを信用してもらえていないってことなの……?
「……そうですか」
「私たちには小さな子供が二人います。……もし浮気していたら、私は夫と離婚するつもりでいます。なのでお願いです、夫の浮気調査をお願い出来ないでしょうか?」
私は探偵さんにそう問いかけた。
「……分かりました。ではそのご依頼、承りましょう」
「ありがとうございます……!」
「ただし、僕は高いですよ?」
と怪しげに言われたが、私は「構いません。お金ならいくらでも支払います」と答えた。
「分かりました。 では何か分かり次第、こちらから連絡いたしますので」
「……はい。よろしくお願いします」
「ただ、調査にはそれなりに日数もかかりますけど、よろしいですか?」
そう言われた私は「……はい。構いません」と答えた。
そして私は探偵事務所を出ると、そのまま自宅へと戻った。
「……円香って女、見つけたら殴ってやろうかな」
私の夫を奪ったことを後悔させてやるんだから。……絶対に。
夫には何も知らないフリをする。何も分からないフリをするの。
夫と離婚するために、私は負けないって決めたの。子供たちのために、私は強くなるって決めたんだから。
子供たちには可哀想な思いをさせたくないし、母親として子供たちを守りたいって思ってる。
「……愛してるのに、愛してるのに」
夫のことを愛してるからこそ、憎い。愛せるからこそ、辛い。
あのレシートを見てしまってから、私は正気ではいられない。
【円香】の正体が分かったのは、それから一週間後のことだった。
「はい、もしもし」
「あ、佐伯実乃梨さんですか? 僕、四葉探偵事務所の四葉です」
「あっ……探偵さん」
その電話は、依頼していた四葉探偵事務所の四葉さんからの電話だった。
「あなたが言っていた、あの゙円香゙という女の正体が分かりましたよ」
「えっ、本当ですか!?」
円香の正体……。一体誰なのかしら。
「円香という女ですが、本名は宍倉円香というみたいです」
「宍倉……円香……」
聞いたことない、名前……。
「宍倉円香はカフェ、ベリーズという所で働いています。旦那さんがよくランチタイムで行くお店のようで、そこで働いている円香さんと、旦那さんが話している姿を目撃されていましたよ」
「カフェ、ベリーズ……」
「どうやら円香さんから旦那さんの方に、アプローチをかけたようですよ。 昨日のお昼も、旦那さんはカフェベリーズでランチをしていました。そして帰り際、二人は手を振り合っていました」
夫がよく行くカフェがあるということも、私は知らなかった。
ランチはいつも会社の食堂で食べていると聞いていたから、まさか外でランチしていたなんて思わなかった。
……私はいつも残り物をお昼に食べているのに、夫はいつもカフェでランチを食べていたと知っただけで、腹が立つ気がする。
「……そうですか。ランチを」
「はい。実際に今日、僕もカフェベリーズでランチをしに行ってみました。……それでもう一つ、分かったことがあるんでけど」
「分かったこと……?」
え、今度は何だろう……。
「宍倉円香の左手の薬指には、指輪が付いていました」
「指輪……?」
左手の薬指に、指輪……? それってまさかーーー。
宍倉円香も、既婚者ってこと……?
「その指輪は、宍倉円香が旦那さんからプレゼントされたもののようですよ」
「……え?」
夫が、宍倉円香にプレゼントしたもの……?
ウソ……。そんなの、ウソよ……。
そんなの、信じられないーーー。
「僕が今日聞いたんですよ、彼女に。素敵な指輪ですねって。 そしたら彼女、彼氏からもらったんですって嬉しそうに言ってましたよ」
「えっ……。彼氏から、もらった……?」
それってやっぱり、夫からのプレゼントってこと……?
「そんな……っ」
まだ受け入れられない、信じられない……。
「やはりあの様子では、あの二人は付き合っていること間違いないでしょう」
「……そうですか」
「ですがそれだけでは証拠としては薄いので、もう少し詳しく調べてみます。 また何か分かりましたら、ご連絡致します」
「……はい。よろしくお願いします」
電話を切った私は、ソファに座り込んだ。
「……指輪、プレゼント……」
まさか夫は、あの円香という女にプレゼントまでしていたんだ……。
しかも指輪をーーー。
「……許せない、本当に」
私という妻がいながら、他の女にも手を出していた。
円香と名前を呼ぶということは、そのくらい親しい間柄だということだ。
夫はもう、もしかしたら何度も円香を抱いているのかもしれない。……そう思うと、すごくしんどい。
昨日夫が私を抱いたのも、罪悪感を感じないため?
自分が他の女とセックスをしていると悟られないために、私を抱いたということなの?
夫に抱かれてる時は、私も気持ちよくて、夫に愛されていると感じた。……でもそれは、夫にとっては浮気していることを悟られたくないから、なんだと思った。
私を抱いたのも……夫にとっては儀式的みたいのものだったってこと?
もしそうなら……私は夫を許せない。
「宍倉円香……」
夫の浮気相手は、どんな人なのか分からない。
でも分かるのは、人の旦那を奪う最低な女だと言うことだけだ。
私は怒りでどうにかなってしまいそうだった。 拳を握りしめ、グッと唇を噛みしめる。
「……っ」
ねぇあなた、私はあなたの何だったの……?
私はあなたのために、色々と尽くしてるつもりだった。
それなのに夫は、私を裏切ったかもしれないなんてーーー。
「……絶対に許せないからね、あなた」
私はあなたと離婚して、子供たちも私が育てるから。
あなたは父親としても、夫としても、最低最悪なの。……私たちを裏切るって、そういうことなんだからね。
「パパ、バイバーイ!」
「パパ、いってらっしゃーい!」
その次の日、私は子供たちといつも通りに夫を見送った。
「ほら、空斗と流斗も保育園行く準備するよ~!」
「はぁーい!」
「ん、いい返事!」
子供たちを園児服に着替えさせる。空斗は自分で着替えられるから、何も苦労はしないんだけど。
流斗はまだひとりで着替えるのが苦手みたいだから、ちょこちょこ見ててあげないととは思う。
「二人とも準備は出来たかな~?」
と聞くと、二人とも「はぁーい!」と元気よく返事をした。
「いい返事! さ、二人ともバス来ちゃうからお家出るよ~」
「はぁーい!」
二人に園児鞄を持たせ、帽子を被せる。 バスは予定通りの時間に到着した。
「せんせー。おはようございます!」
「おはようございます!」
二人は先生に、元気よく挨拶をする。
「先生、おはようございます。よろしくお願いします」
「はい。お預かりしますね」
先生に子供たちを預け、私は家の中に入った。
「はぁ……疲れた」
今日は朝からドタバタで、とても大変な一日だった。
空斗は朝から牛乳を溢してしまうし、夫はネクタイがないと騒ぐしで、とても疲れた……。
「……円香」
昨日の夜、夫が私を抱いた時に呟いた名前だ。
「円香って誰よ……」
円香、聞き覚えのない名前だ。……円香はきっと、夫の浮気相手の可能性が高い。
私の名前を呼んでくれていたけど、最後だけ【円香】と呼んだ。 あれは絶対に、浮気している証拠に違いない。
「……円香の正体、突き止めてやる」
円香が夫の浮気相手だということを突き止めて、夫に白状させる。
「……離婚、した方がいいのかな」
でも離婚するにしても、子供がまだ小さい。しかも二人ともなると、一人で育てるなんて無理に決まっている。
父親がいないなんて、子供からしたら可哀想すぎる気もするし。……私はどうするべきなのだろうか。
もし夫が浮気していると知っても、目を瞑るしかないのかな。
子供たちのためにーーー。
私は【円香】の正体を突き止めたくて、そして夫が本当に浮気しているのか知りたくて、夫に内緒で探偵を雇うことにした。
「あの、夫が浮気しているかもしれなくて……。調べてほしいんです」
「なるほど。奥様は、何かそう思う根拠でもあるんですね?」
近くにある四葉探偵事務所で、私は夫の浮気について相談した。
「はい。……昨日、夫が私以外の女の名前を呼んだんです。円香って」
「円香? それが浮気相手かもしれないと?」
探偵さんからそう聞かれた私は「……はい」と答えた。
「その人が例えば、妹さんとかいう可能性は?」
「ありません!……夫の兄弟は、お兄さんだけですから」
まさかそんなことを聞かれるなんて……。私のことを信用してもらえていないってことなの……?
「……そうですか」
「私たちには小さな子供が二人います。……もし浮気していたら、私は夫と離婚するつもりでいます。なのでお願いです、夫の浮気調査をお願い出来ないでしょうか?」
私は探偵さんにそう問いかけた。
「……分かりました。ではそのご依頼、承りましょう」
「ありがとうございます……!」
「ただし、僕は高いですよ?」
と怪しげに言われたが、私は「構いません。お金ならいくらでも支払います」と答えた。
「分かりました。 では何か分かり次第、こちらから連絡いたしますので」
「……はい。よろしくお願いします」
「ただ、調査にはそれなりに日数もかかりますけど、よろしいですか?」
そう言われた私は「……はい。構いません」と答えた。
そして私は探偵事務所を出ると、そのまま自宅へと戻った。
「……円香って女、見つけたら殴ってやろうかな」
私の夫を奪ったことを後悔させてやるんだから。……絶対に。
夫には何も知らないフリをする。何も分からないフリをするの。
夫と離婚するために、私は負けないって決めたの。子供たちのために、私は強くなるって決めたんだから。
子供たちには可哀想な思いをさせたくないし、母親として子供たちを守りたいって思ってる。
「……愛してるのに、愛してるのに」
夫のことを愛してるからこそ、憎い。愛せるからこそ、辛い。
あのレシートを見てしまってから、私は正気ではいられない。
【円香】の正体が分かったのは、それから一週間後のことだった。
「はい、もしもし」
「あ、佐伯実乃梨さんですか? 僕、四葉探偵事務所の四葉です」
「あっ……探偵さん」
その電話は、依頼していた四葉探偵事務所の四葉さんからの電話だった。
「あなたが言っていた、あの゙円香゙という女の正体が分かりましたよ」
「えっ、本当ですか!?」
円香の正体……。一体誰なのかしら。
「円香という女ですが、本名は宍倉円香というみたいです」
「宍倉……円香……」
聞いたことない、名前……。
「宍倉円香はカフェ、ベリーズという所で働いています。旦那さんがよくランチタイムで行くお店のようで、そこで働いている円香さんと、旦那さんが話している姿を目撃されていましたよ」
「カフェ、ベリーズ……」
「どうやら円香さんから旦那さんの方に、アプローチをかけたようですよ。 昨日のお昼も、旦那さんはカフェベリーズでランチをしていました。そして帰り際、二人は手を振り合っていました」
夫がよく行くカフェがあるということも、私は知らなかった。
ランチはいつも会社の食堂で食べていると聞いていたから、まさか外でランチしていたなんて思わなかった。
……私はいつも残り物をお昼に食べているのに、夫はいつもカフェでランチを食べていたと知っただけで、腹が立つ気がする。
「……そうですか。ランチを」
「はい。実際に今日、僕もカフェベリーズでランチをしに行ってみました。……それでもう一つ、分かったことがあるんでけど」
「分かったこと……?」
え、今度は何だろう……。
「宍倉円香の左手の薬指には、指輪が付いていました」
「指輪……?」
左手の薬指に、指輪……? それってまさかーーー。
宍倉円香も、既婚者ってこと……?
「その指輪は、宍倉円香が旦那さんからプレゼントされたもののようですよ」
「……え?」
夫が、宍倉円香にプレゼントしたもの……?
ウソ……。そんなの、ウソよ……。
そんなの、信じられないーーー。
「僕が今日聞いたんですよ、彼女に。素敵な指輪ですねって。 そしたら彼女、彼氏からもらったんですって嬉しそうに言ってましたよ」
「えっ……。彼氏から、もらった……?」
それってやっぱり、夫からのプレゼントってこと……?
「そんな……っ」
まだ受け入れられない、信じられない……。
「やはりあの様子では、あの二人は付き合っていること間違いないでしょう」
「……そうですか」
「ですがそれだけでは証拠としては薄いので、もう少し詳しく調べてみます。 また何か分かりましたら、ご連絡致します」
「……はい。よろしくお願いします」
電話を切った私は、ソファに座り込んだ。
「……指輪、プレゼント……」
まさか夫は、あの円香という女にプレゼントまでしていたんだ……。
しかも指輪をーーー。
「……許せない、本当に」
私という妻がいながら、他の女にも手を出していた。
円香と名前を呼ぶということは、そのくらい親しい間柄だということだ。
夫はもう、もしかしたら何度も円香を抱いているのかもしれない。……そう思うと、すごくしんどい。
昨日夫が私を抱いたのも、罪悪感を感じないため?
自分が他の女とセックスをしていると悟られないために、私を抱いたということなの?
夫に抱かれてる時は、私も気持ちよくて、夫に愛されていると感じた。……でもそれは、夫にとっては浮気していることを悟られたくないから、なんだと思った。
私を抱いたのも……夫にとっては儀式的みたいのものだったってこと?
もしそうなら……私は夫を許せない。
「宍倉円香……」
夫の浮気相手は、どんな人なのか分からない。
でも分かるのは、人の旦那を奪う最低な女だと言うことだけだ。
私は怒りでどうにかなってしまいそうだった。 拳を握りしめ、グッと唇を噛みしめる。
「……っ」
ねぇあなた、私はあなたの何だったの……?
私はあなたのために、色々と尽くしてるつもりだった。
それなのに夫は、私を裏切ったかもしれないなんてーーー。
「……絶対に許せないからね、あなた」
私はあなたと離婚して、子供たちも私が育てるから。
あなたは父親としても、夫としても、最低最悪なの。……私たちを裏切るって、そういうことなんだからね。
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