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第四章【見えてきた真相】
しおりを挟むそれから一週間後、女子高生殺害事件は解決した。 犯人は逮捕され、自らの犯行を自供した。
そして犯人は、検察へと起訴された。
瀬野さんの取調によると、犯人が犯行に及んだ理由は、被害者に交際を迫ったが断られたそうだ。
それに腹が立って犯人は、彼女を殺すことにしたと話していたそうだ。 被害者と犯人は出会い系サイトで知り合ったそうだが、被害者が急に会うことが出来ないと断ってきたことがきっかけのようだった。
それでしつこく被害者に交際を迫った、と言う訳だった。
そんな理由で、そんな理由で被害者を殺したのか……。
許せないな。
「藤嶺、どうした?湿気た顔して」
「……いえ、別に」
俺は橘さんのことを、ふと思い出していた。
橘さんは……今何を思っているのだろう。亡くなってしまった今、そんなのは分からないけど。
「亡くなった彼女のことでも、思い出してるのか?」
瀬野さんは俺の隣に座り、そう問いかけてくる。
「……そんなんじゃないですよ」
「なんだ、違うのか」
瀬野さんは少し残念そうな表情だった。
「……俺、言えなかったんです」
「ん?何をだ?」
「橘さんに、好きだって言えなかったんですよ。……遠くから見ているだけで。 それだけで良かったんです、あの時は」
そう言った俺に、瀬野さんはコーヒーを置いてくれた。
「……ありがとうございます」
「後悔してるのか?好きだって言えなかったこと」
そう聞かれると、そうなのかもしれないと思った。
「……多分、そうなのかもしれないです」
遠くから見ているだけで、充分だと思えたんだあの時は。
「そっか」
「……今更後悔しても、遅いですけどね」
橘さんはこの世にもういない。 本人からその答えを聞くことなんて……もう出来ない。
「だからお前は、刑事になったんだろ? 彼女の死の真相を確かめるために」
「はい。……知りたかったんです、彼女がどうして死んだのか。どうして死ななきゃならなかったのか、その答えを知りたかったんです」
俺はそのために刑事になった。 橘さんを殺した犯人を知りたくて、刑事にーーー。
「……藤嶺」
「はい」
「実は俺にもな、婚約者がいたんだ」
瀬野さんはコーヒーを片手に話し始めた。
「……え?」
婚約者……? 瀬野さんのこんな話……初めて聞くかもしれない。
「でも俺の婚約者も死んだんだ。……殺されたんだよ、殺人鬼に」
「殺人鬼……?」
殺人鬼って……どういうことだ?
「十二年前の七夕の日、お祭りがあったんだ。そこで無差別殺人が起きた。……そこで俺の婚約者は、殺人鬼に殺された」
「……無差別、殺人?」
え、それってーーー。
「その殺人鬼には、無期懲役の判決が最高裁から下された。……でも二年前、その犯人は獄中死したんだ。心不全だってさ」
「………」
初めて知った、瀬野さんの悲しい過去をーーー。
「俺みたいな人間を出さないために、俺も刑事になったんだ。……お前と同じだ」
そう話してコーヒーを飲み干す瀬野さんの横顔は、とても寂しそうだった。
瀬野さんの過去を知ってしまった今、俺は何も言えなかった。
「だから藤嶺」
「はい……?」
「お前は絶対に、諦めるな」
【諦めるな】その言葉が、胸の奥深くに突き刺さった。
「無念、晴らしてやれ」
「……はい」
俺は絶対に諦めない。……橘さんの無念を、絶対に晴らしたい。
「藤嶺、明日もう一度聞き込みに行くぞ」
「……え?」
「彼女の事件、洗い直すんだろ?」
「……はい」
橘さんの事件の犯人を見つけるまで、俺は絶対に諦めないと誓ったーーー。
◇ ◇ ◇
そして事件が大きく動いたのは、それから半年後のことだったーーー。
「瀬野さん、おはようございます」
「おう、おはようさん」
俺と瀬野さんは、この半年間、ずっと橘さんの事件を調べ始めていた。
だがこの半年、なかなか事実に辿り着くことはできなかった。
度々来る事件の捜査と並行して、橘さんの事件を幾度となく調べた。
だがなかなか捜査は進展してなかった。 思うよう進まず、ものすごく苦労している。
「あの、すみません……。こういう者なんですけど、少しお話いいですか?」
「え、えぇ。何でしょう?」
警察手帳を見せ、七年前の事件について訪ねていく。
「七年前に起きた女子高生殺害事件について、お伺いしたいのですが……」
「……ああ、橘さんのことですか」
みんな七年前に起きた事件については、警察に話したことが全てだと言った。
「どうだ、藤嶺? 何か分かったか?」
「……いえ、特には」
今日も情報の収穫はなしか……。先が長いな。
「こっちは一つだけ分かったことがあるぞ。一つだけ、な」
「え?……なんですか!?」
そしてこれが、事件の行方を大きく左右することになるとは、思ってもなかったーーー。
「事件の前の日、橘智夏のバイト先に不審な男が現れていたことが分かった」
「不審な男……?」
バイト先に不審な男? 誰だ、その男は……?
「防犯カメラの映像を手に入れてきた。見てみるか?」
「……はい。見せてください」
その防犯カメラの映像を見た俺は、驚いて声が出せなかった。
「この男だ」
「……え!?」
この人が不審な男……!?
まさか……まさか……!
「知ってるのか?藤嶺、この男を」
……そんな、そんな。まさか、そんなことが……。
「……先生です」
「え?」
「牧村……先生です」
その男は、当時数学の担当をしていた牧村先生だった。
なんで牧村先生が……橘さんのバイト先に……?
「牧村先生?」
「数学の、先生です……。当時の、数学の先生」
「なんだって?」
なんで牧村先生がこんな所に? ていうかここって……。
「瀬野さん、もしかしてここって……」
橘がバイトしてたのって、もしかしてーーー。
「……ああ、キャバクラだよ」
キャバクラ……。やはり橘さんのバイト先は……キャバクラだったのか。
「この映像かすると、牧村先生が……犯人?」
「その可能性は高いな」
「でもなんで……。橘さんはキャバクラなんかでバイトを?」
「キャバクラで働いていたのは、間違いなさそうだぞ。年齢を偽って働いていたそうだ。しかもそこは、年齢を偽ってキャバクラ嬢として女子高生を働かせていた悪徳業者だった。……恐らくそこで橘智夏がキャバクラで働いていたのを、その牧村って先生が気付いたんだろう」
そんな、まさか……。橘さんがキャバクラで働いていたということを知って驚いた。
……それだけじゃない。牧村先生は、それに気づいた。
しかもそこは、違法で女子高生たちを働かせていた悪徳業者のキャバクラだった。
なんてことだ……。でも事実なんだ、これは……。
「この牧村って教師、事件の日に橘智夏の後を付けていたそうだ。……目撃者がいたんだよ、あの日の夜」
「……え?」
目撃者がいた……?
「キャバクラでのバイトが終わった後の橘智夏の後を、牧村は尾行していたんだ。……そしてそれを目撃してたヤツがいたんだ。 同じキャバクラで働いていた裕奈(ひろな)って女性だ」
「裕奈……?」
その裕奈って人が牧村先生を目撃していた? 牧村先生が尾行していたのか、橘さんを……?
「そしてそれを目撃していた男が、もう一人いたことも分かった」
「え? もう一人?」
「ああ。その男の名前はーーー」
その名前を聞いて、俺は開いた口が塞がらなかったーーー。
「え、ウソだろ……」
ウソだろう……。まさか、まさかーーー。
「恐らく橘智夏に性的暴行を加えて殺害したのは……この二人だろう」
「……そんな……」
信じられない……そんなの、信じられない……。
ウソだと、信じたい……。でもーーー。
「……なんで、なんでだよ!」
俺は裏切られたことがショックで、そしてものすごく腹が立った。
そして、ただただ唇を噛みしめるしかなかった。
「……藤嶺、だがな、まだこの二人が殺したという証拠がどこにもない。今のは単なる憶測でしかない。……だからこの二人が本当に犯人かどうかを確かめる必要がある」
「……はい」
俺が……俺がずっと求めていた犯人がついに見つかろうとしている。
でも……それは結局、俺達の憶測でしかない。本当に犯人なのか確かめる必要がある。
「……もしそうだとしたら。本当に、もしそうだとしたら……」
ーーーなんて残酷なんだ。
なあ橘さん。 橘さんの殺した犯人は、本当にこの二人なのかーーー?
頼む。教えてくれ、橘さんーーー。
七年経った今、この事件が一歩ずつ、一歩ずつと進展を迎えている。
だが、この事件の結末はーーー。
「……なんでだよ」
俺も、そして同級生たちも、想像もしてなかった結末になるだろうーーー。
◇ ◇ ◇
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