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第4章 乙女ゲーム編
再会
しおりを挟む転校生さんの所に行くと決め、一夜が明けました。
フランソワーヌ様を無理に起こす事は出来なくて、あのまま私のベッドで寝ていただきました。
相当無理をなさっていたようですし、少しでも回復していただきたいですからね。
傍使えさんが使用するベッドで休もうとした時、殿下とラクサスが難色を示しましたが、主人用のベッドは一つしかない以上仕方ないでしょう。
まさか、ベッドの為にフランソワーヌ様を起こす真似なんて私は出来ませんからね。
それに、前世の記憶のある私からすると十分立派なベッドだと感じましたし。十分休めたと思います。
「殿下とラクサスは心配しすぎなんですよ。事実私はちゃんと休めましたよ」
朝いつもの時間に起きれた私は、支度をしながらそう呟きます。
前世でも枕が変わると眠れないという方がいらっしゃいましたし、そういう繊細な方もいる事でしょう。
ですが、少なくとも私はベッドが多少変わったくらいで眠れなくはなりません。
と言うか、そんなにも繊細な人間でしたら学園に来た時点で睡眠不足に悩まされていたと思います。
お気持ちは分かりますが、やはり心配しすぎです。
「いえ、違いますか」
一通り準備を終え、一呼吸入れた後そうこぼします。
ええ、殿下もラクサスも表立っては言いませんでしたけど、本当の理由は違うでしょう。
私だってそれは気付いています。
フランソワーヌ様がいらっしゃる以上フランソワーヌ様の傍使えさん達も別の部屋に待機していらっしゃいます。
そして、殿下とラクサスも含めた傍使えさん達全員から私はよく思われていない事は間違いありません。
主人の手前隠しているだけであるのは、今の状況を考えればすぐに思いつきますからね。
ならば、何が危険かといえば主人をここまで消耗させた相手への恨み。それが爆発したと考えると何が起こるか分かりませんからね。
いくら外から鍵を開けられないとはいえ、扉を破壊する事も可能でしょう。
「むしろそんな状況も想像出来ているのに、しっかり眠れた私が図太いのでしょうね」
自然と苦笑いが浮かんできます。
とはいえ、しっかり休まないと体も心も持つわけもありません。
最低限の対応はしましたし、さぁ、昨夜入った部屋に戻るとしましょうか。
隣が使われていない事を幸いに、ベランダを伝って移動した私。
五階と相応の高さがあり、完全にディア様も沈黙なさっている以上落ちたらひとたまりもないでしょう。
細心の注意を払って昨夜私が寝ると宣言した部屋のベランダに戻ります。
深呼吸をし、中を覗けば悲惨に荒らされた部屋。
「殿下とラクサスが危惧した通りになってしまいましたね」
少し落ち込みながら呟きます。
昨夜わざわざ殿下に傍使えさん達を見張っていただき、ラクサスにだけこっそりこの方法を提案して良かったと改めて思いました。
ただ、すんなり提案が通った所を見ると、似たような案はお二人で考えていらっしゃったのかもしれませんね。唯一反対されたのは、ベランダをつたう事でしょうか。
相手の目を欺くため、そして、万が一が起きた場合の証拠を押さえたいからと無理をお願いしちゃいましたけど。
結局は杞憂ではすまず、こうして事が起こってしまいました。
私がどれだけ危うい立場にいるのか、改めて実感もさせられましたね。
今の学園で本当に落ち着ける場所なんて、もうどこにもないのかもしれません。
「落ち込んでいてもしょうがないですね。この部屋に誰もいないと言う事は殿下かラクサスのどちらかはいらっしゃっているはず」
気持ちを奮い立たせる為に言葉にし、背筋を伸ばしました。
すでに頭では分かっていた事です。落ち込んでいる暇もありませんし、心を強く持たねば。
荒らされた部屋を通り、無残に破壊された扉をくぐります。
客人を招く用の広いその部屋には、殿下もラクサスもすでにいました。
そして、見覚えのある――いえ、絶対に見間違える訳がない人もいらっしゃいました。
「チェリアさん」
殿下とラクサスに顔面蒼白の状態で向かい合っていたのはチェリアさんでした。
驚きのあまりお名前をお呼びした後の言葉が続きません。
私の声で気付いた殿下とラクサスが振り返り、私と視線が合えば困ったような表情を浮かべました。
「アメリア嬢、おはよう」
最初に言葉を発されたのは殿下でした。
その挨拶の言葉に返事をし、ラクサスとも挨拶を交わします。
そのままの流れで、あえて私はチェリアさんにも挨拶をする事にしました。
「おはようございます、チェリアさん」
私の挨拶の言葉にチェリアさんは一瞬体を震わせたものの、返事はありません。
それどころか、顔を背けられてしまいました。
それがあまりにショックで、まるで全身から熱が引いていくようです。
殿下とラクサスはそんな私とチェリアさんの様子に、どうしていいかわからないようです。
沈黙が私達を包み込みます。
何かを言いたい、何かを聞きたいのにそれをするのが怖い。
何かを言われてしまうのが……恐ろしい。
心を全て預けられる人から拒絶されるなんて、私に耐えられるの?
現状を見れば、間違いなくチェリアさんも当事者の一人なのでしょう。それでも、私の心はそれを信じたくないと叫んでいます。
「してやられましたよ、アメリア様。てっきりこちらのお部屋に居るとお聞きしましたのに、どちらにいらっしゃったのでしょう? 私は信用されていなかったのでしょうか?」
と、顔色は青いままチェリアさんがやっと喋って下さいました。
笑顔も私に向けてくださいます。
ですが、その口調にいつもの優しさがありません。
表情だって明らかに作られたものだって、いつも一緒にいた私なら分かります。
それが怖くて、私は返事を返せませんでした。
「何故何もおっしゃって下さらないのでしょう? それに、殿下とラクサス様に誤解だと説明していただけないでしょうか。私はただただアメリア様が心配で参ったのです。その時にはすでにこの惨状で、私としても心から心配していたのですよ」
誰ですか? 今私に話しかけている人は。
こんなチェリアさん私は知りません。こんな、全く気持ちの籠ってない言葉と視線を向ける彼女なんて知らないです。
「チェリアさん」
何とかそのお名前だけを口にする事が出来ました。
ですが、何を言っていいのか分からない私はそれ以上言葉が続きません。
名前を呼ばれた瞬間、ぴくっと不機嫌そうに眉を顰められ全身を感じた事のない衝撃が貫きます。
寒い、怖い、誰か、誰か助けて。
そんな思いから、殿下の方へと視線を向けてしまいました。
「チェリア嬢。君の言い分は分かった。つまりフランソワーヌ様の傍使え達が暴走していたのを止めようとしていたと。だが、各上の家の人間に仕える者に強く言う事も出来なかったと言う事だな」
私と視線の合った殿下が、心得たと言わんばかりに頷いて私とチェリアさんの間に立ちます。
そのまま強い口調でおっしゃいました。
「はい、そうですわ」
淡々としたチェリアさんの声。
殿下の言動に何も感じる余裕もなく、ただそれだけの事に体を震わせてしまいます。
怖い、怖い、怖い。
「なるほど、筋は通っていますね。実際貴方とお姉様はとても仲が良かった。寧ろここにやってくるのが遅すぎるくらいだと思います」
つい顔を下げてしまった私に聞こえてくる、冷たいラクサスの声。
それに対し、チェリアさんは変わらぬ口調で答えます。
「私も色々と大変だったのです。アメリア様と仲が良いと知れ渡っていたが為に、色んな目にあってしまいました。そんな中どうしてこちらに来れましょうか。私だって私自身の事で精一杯だったのです。それを押してまでこちらに来たというのに、殿下もラクサス様も私を責めていらっしゃいますよね? それどころかアメリア様も何もおっしゃって下さらない。正直今私は失望しています」
「チェリアさん! 私は貴方の事が大好きです!」
何故こんな言葉が私から出たのか。
自分自身でもよく分からず、驚いた表情で振り返った殿下とラクサス。同様に驚きに染まった顔のチェリアさんと向かい合います。
「誰がなんと言おうと私は貴方の事が好きです、今の貴方がどう思っていたとしてもそれは変わりません。お願いですチェリアさん、私から離れたりしないで下さい」
自分でも思いもしない言葉が次々と飛び出します。
いえ、これはきっと私の本音でしょう。
恐ろしいと怯え切っているのは紛れもない事実です。が、それはチェリアさんに嫌われてしまった事だけではありません。
こんなにも恐ろしいのは、もし全てが元に戻った時、チェリアさんが私に昔のように接する事が出来るのかという事。
彼女の事を考えると、今の自分自身を許す事が出来るとは思えません。
となると、私の元を去ってしまうのでは? こんな如きで私とチェリアさんの関係は壊されてしまうの?
そう考え付いたからこそ、こんなにも恐ろしいと感じているのだと、吐き出した後でやっと気付きます。
「冗談、誰が貴方なんかと一緒に居たいだなんて思うでしょう」
私の心の叫びに返って来たのは、チェリアさんの蔑んだような表情と嫌悪にまみれた言葉でした。
さっと殿下とラクサスの表情が変わるのが視界に入り、彼らが何かを言う前に慌てて口にします。
「私は、それでも一緒にいたいです! どうか、どうかそれだけ忘れないで下さい!」
最早取り繕うことを止めたチェリアさんは、何も言葉を返して下さいませんでした。
それでも、その拒絶した表情で今のお気持ちは十二分に伝わります。
「アメリア嬢」
肩で息をする私に声を掛けて下さったのは、殿下でした。
視線を向ければ、にっこりと笑みを浮かべて下さいます。
「ここは私に任せてくれないかい? 大丈夫、心配しないでもいいよ」
優しい口調。何を任せればいいのか、何が大丈夫なのか。心配なんて当然します。
本当はそう口にしたかったのですが、その表情と声色に首を縦に振っていました。
それを確認するや、チェリアさんへと殿下は再び向き直ります。
「チェリア嬢、気持ちは分かった。そんな気持ちだと言う以上アメリア嬢とこれ以上接触を許す事は出来ない。君だってそんな言葉を吐いた以上相応の覚悟はあるだろう」
殿下のお言葉に、チェリアさんは観念したように目を瞑りました。
そのお姿を見て殿下をお止めしたくなりますが、先ほどの言葉を信じてそのままお任せしました。
「本来は相応の罰を与えるのだが、今回は不問にしよう。アメリア嬢に感謝するとよい」
殿下のお言葉にチェリアさんは弾かれたように目を見開きました。
驚きに包まれているチェリアさんに、殿下はなおも続けて喋ります。
「さぁ、今すぐここから去るんだ。そして、二度と我々と接触しないように。次はないぞ」
強い口調で言われ、どこかほっとしたような表情をチェリアさんは浮かべます。
そして、深く頭を下げた後、足早に部屋から出ていかれました。
その姿が私の視界から消えると、体中から力が抜けます。
ですが、倒れこむ事はありませんでした。
「大丈夫ですか、お姉様?」
声を掛けてくれたラクサスが、いつの間にか私を支えてくれていたようです。
そんな事にすら気付けぬほど、私は余裕がなくなっていたのでしょう。
心配してくれたラクサスに、そして助けて下さった殿下にお礼の言葉を言いたくて口を開けます。
それなのに、私は自分の意志に反し言葉を紡ぐ事が出来ませんでした。
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