1 / 7
1
しおりを挟む
青春の春。新しい学年の新しい学期。
私立巣立高校の校章が入ったブレザーを着た生徒たちが、新学期の開会式のために体育館に集まっていた。
生徒たちは既に貼り出されたクラス替えで一喜一憂した後だったので、檀上の校長先生の長い話なんかそっちのけでそわそわしたり、新しいクラスに仲の良い友達がいる幸運な生徒たちはヒソヒソと会話をしている。
そんな生徒たちの一角に、私はいた。
「わ、でか。」
「しっ…!聞こえるよ。」
くすくすと左斜め後ろの方から笑う声がする。
(…え、もしかして私のこと?)
私の名前は小野田めいこ。高校二年生。
身長は175cm。
スカートは膝下がルールのこの高校で、サイズがないからと膝上で許されている数少ない女子生徒だ。
そのかわり、ブレザーもカーディガンも袖丈が短くて不格好。
「でかい」「大きい」「高い」「巨人」のワードに敏感な女子高生だ。
ただでさえ、私は今、出席番号順に並んだこの配置にショックを受けているというのに。
「やべーよ。…ほら!でか!」
「ぷっ…!ねぇやめなって…!」
経験上何となく、斜め後ろの男子生徒が手を上にあげて身長差を強調しているような気がした。が。
(まさかね…後ろ向いて怒ったほうが…でももし全然違うことを話してたら…でかい女の自意識過剰てめっちゃ恥ずかしいし…てかそもそもそんな勇気ないんだった…。)
そんなことを考えていると、私の前の明るい栗色の髪がふわっと動いた。
私は上から見下ろすように見ているが、まるでそこだけスポットライトがあたったように輝いている。
そう、私が今日の朝からショックを受けている原因は、目の前にいる栗色の彼にあった。
今日から私ーーー小野田めいこの出席番号一つ前の男子生徒、大林たいが。
この学年で…いや、この学校で一番小さくて可愛い男の子だ。
私が一番隣に並びたくなかった相手。不幸にも、二人の苗字の最初の音が「お」だなんて。
「どっちが女?これ身長差、ほら…」
「ふはっ…!まじやば…たいがくんかわいそ」
人形みたいにくりくりの瞳に、長いまつげ。ぷっくりした唇が映える白い肌。
ぶかぶかな制服も、彼が着るとそれがファッションみたいに見える。
『スダ高の天使』なんて呼ばれて校内じゃ有名人だ。
「でこぼこカップルじゃん。」
「ぷっ…ははっ…」
チッ
あれ、天使が舌打ち?空耳?とめいこが思った瞬間、それは起こった。
ドカッ!!!
私が憧れてやまない萌え袖からのびた綺麗な指先がグーをつくり、斜め後ろあたりにいた男子生徒を殴ったのだ。
きゃーっと近くにいた女子生徒の悲鳴が重なる。
「コソコソコソコソうるせーんだよ。黙ってセンセーの話ききましょー?」
こて、と最後は首を傾げて、可愛いんだか恐いんだか訳の分からない天使は、赤くなった手をこすりながら、今度はこちらを見た。くりくりの瞳で。
「お前も何か言えよ。俯いて立ってるだけか?あ?」
「えっ…!?いや、そもそも、そんな、ひどいことされてな」
「でけーとか女かどうかとか立派な悪口じゃねーの?」
「いや、私かどうか分からないし…」
「このあたりにお前みたいなでかい女いねーだろ!?」
「なっ…!」
今のが一番悪口だった気がするが、気が動転していた私はそれどころではなかった。
私は目立つのが恐ろしく嫌いだ。目立ちたくないから背が高い自分が嫌いなのだ。
それなのに。それなのに。
「…ってーな!そこのでこぼこ!!無視してんじゃねぇよ!!!」
殴られた男子生徒が立ち上がって天使につかみかかろうとしたが、彼は素早い身のこなしで避けて、男子生徒は見事に床に転んだ。
あたりは騒然としていて、ようやく向こう側から先生達が走って来る音がする。
床に伏した男子生徒を冷たい瞳で見下ろしながら、天使は不意に呟いた。
「…だって。でこぼこって面白いな。本当に付き合ってみる?」
「…え?」
まるで今日の天気を聞くみたいになんでもないことのように話すので、私は一瞬彼に何を言われたか分からなかった。
でも、振り返った先の天使の顔がちょっと見かけないくらいの美少年で、私は(あぁ、天使はそういえば男なのだ)とハッとする。
私の様子に天使がくすりと微笑した。破壊力。
「ふっ、目が点。……俺じゃ嫌?」
「え??いや…え???」
え????
周りの生徒も最初は目が点になっていたが、徐々に"まさか『スダ高の天使』を振るんじゃないよな…?"という空気に変わっている。
私は身長差20cmの、私の胸元あたりにいる天使を見下ろした。
萌え袖から出た綺麗な手が、お願いのポーズをしている。
私は思わず「ょ、よろしく…おねがぃします…。」と蚊の鳴くような声で呟いた。
そうすると、
「俺の方こそよろしくね、めいこちゃん。」
とびっきりの蕩けるような笑顔で、天使が私に微笑んだのだった。
…いや、何が起こった????
私立巣立高校の校章が入ったブレザーを着た生徒たちが、新学期の開会式のために体育館に集まっていた。
生徒たちは既に貼り出されたクラス替えで一喜一憂した後だったので、檀上の校長先生の長い話なんかそっちのけでそわそわしたり、新しいクラスに仲の良い友達がいる幸運な生徒たちはヒソヒソと会話をしている。
そんな生徒たちの一角に、私はいた。
「わ、でか。」
「しっ…!聞こえるよ。」
くすくすと左斜め後ろの方から笑う声がする。
(…え、もしかして私のこと?)
私の名前は小野田めいこ。高校二年生。
身長は175cm。
スカートは膝下がルールのこの高校で、サイズがないからと膝上で許されている数少ない女子生徒だ。
そのかわり、ブレザーもカーディガンも袖丈が短くて不格好。
「でかい」「大きい」「高い」「巨人」のワードに敏感な女子高生だ。
ただでさえ、私は今、出席番号順に並んだこの配置にショックを受けているというのに。
「やべーよ。…ほら!でか!」
「ぷっ…!ねぇやめなって…!」
経験上何となく、斜め後ろの男子生徒が手を上にあげて身長差を強調しているような気がした。が。
(まさかね…後ろ向いて怒ったほうが…でももし全然違うことを話してたら…でかい女の自意識過剰てめっちゃ恥ずかしいし…てかそもそもそんな勇気ないんだった…。)
そんなことを考えていると、私の前の明るい栗色の髪がふわっと動いた。
私は上から見下ろすように見ているが、まるでそこだけスポットライトがあたったように輝いている。
そう、私が今日の朝からショックを受けている原因は、目の前にいる栗色の彼にあった。
今日から私ーーー小野田めいこの出席番号一つ前の男子生徒、大林たいが。
この学年で…いや、この学校で一番小さくて可愛い男の子だ。
私が一番隣に並びたくなかった相手。不幸にも、二人の苗字の最初の音が「お」だなんて。
「どっちが女?これ身長差、ほら…」
「ふはっ…!まじやば…たいがくんかわいそ」
人形みたいにくりくりの瞳に、長いまつげ。ぷっくりした唇が映える白い肌。
ぶかぶかな制服も、彼が着るとそれがファッションみたいに見える。
『スダ高の天使』なんて呼ばれて校内じゃ有名人だ。
「でこぼこカップルじゃん。」
「ぷっ…ははっ…」
チッ
あれ、天使が舌打ち?空耳?とめいこが思った瞬間、それは起こった。
ドカッ!!!
私が憧れてやまない萌え袖からのびた綺麗な指先がグーをつくり、斜め後ろあたりにいた男子生徒を殴ったのだ。
きゃーっと近くにいた女子生徒の悲鳴が重なる。
「コソコソコソコソうるせーんだよ。黙ってセンセーの話ききましょー?」
こて、と最後は首を傾げて、可愛いんだか恐いんだか訳の分からない天使は、赤くなった手をこすりながら、今度はこちらを見た。くりくりの瞳で。
「お前も何か言えよ。俯いて立ってるだけか?あ?」
「えっ…!?いや、そもそも、そんな、ひどいことされてな」
「でけーとか女かどうかとか立派な悪口じゃねーの?」
「いや、私かどうか分からないし…」
「このあたりにお前みたいなでかい女いねーだろ!?」
「なっ…!」
今のが一番悪口だった気がするが、気が動転していた私はそれどころではなかった。
私は目立つのが恐ろしく嫌いだ。目立ちたくないから背が高い自分が嫌いなのだ。
それなのに。それなのに。
「…ってーな!そこのでこぼこ!!無視してんじゃねぇよ!!!」
殴られた男子生徒が立ち上がって天使につかみかかろうとしたが、彼は素早い身のこなしで避けて、男子生徒は見事に床に転んだ。
あたりは騒然としていて、ようやく向こう側から先生達が走って来る音がする。
床に伏した男子生徒を冷たい瞳で見下ろしながら、天使は不意に呟いた。
「…だって。でこぼこって面白いな。本当に付き合ってみる?」
「…え?」
まるで今日の天気を聞くみたいになんでもないことのように話すので、私は一瞬彼に何を言われたか分からなかった。
でも、振り返った先の天使の顔がちょっと見かけないくらいの美少年で、私は(あぁ、天使はそういえば男なのだ)とハッとする。
私の様子に天使がくすりと微笑した。破壊力。
「ふっ、目が点。……俺じゃ嫌?」
「え??いや…え???」
え????
周りの生徒も最初は目が点になっていたが、徐々に"まさか『スダ高の天使』を振るんじゃないよな…?"という空気に変わっている。
私は身長差20cmの、私の胸元あたりにいる天使を見下ろした。
萌え袖から出た綺麗な手が、お願いのポーズをしている。
私は思わず「ょ、よろしく…おねがぃします…。」と蚊の鳴くような声で呟いた。
そうすると、
「俺の方こそよろしくね、めいこちゃん。」
とびっきりの蕩けるような笑顔で、天使が私に微笑んだのだった。
…いや、何が起こった????
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる