【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

文字の大きさ
上 下
100 / 101

最終話『■■■■■■■■』④

しおりを挟む






 もしかしたら今生こんじょうの別れ。
そんな雰囲気で別れたばかりなのに。
俺は一体どんな顔をしてみんなの前に立てばいいか分からない。

 ああ、凄く恥ずかしい。
今すぐ引き返して闇の中に隠れたい……!

 邪神に完全に乗っ取られたことを警戒してるみんなをまずは安心させなきゃと素直に言ったけど。
やっぱりみんなは固まったまま。
ぽかんとした様子で俺を見てる。

「は?」

 真っ先に言葉を発したのはアイゼンだ。

「待て待て待て」

 驚きとあきれが入り交じった様子で俺につかつかと歩み寄る。

「リヒト?」

「うん」

「邪神は?」

「取り込んだ……て形でいいのかな? 今は邪神の力は俺の中にあるけど、意識は俺単一のものだよ」

「そうか」

 いやに優しい声で。

「1発殴らせろ」

 そう言って声音こわねと裏腹に脚部のボルトが地面に固定。
腕のボルトが連動して威力と熱を拳に集中させる。

「待った! アイゼンの1発殴らせろはシャレにならないよ。全力で防御しないと死んじゃう」

「なら死ね!」

 アイゼンが本気か冗談か分からない抑揚で言い放つ。

 いでガジガジと。
気付いたら俺の頭に突き刺さる鋭い牙。
ビタンビタンと背中を尻尾に叩かれ、さらに頭をかじられて。

 ハティは俺に対する怒りをあらわにしていた。

 続いてスコルがジャンプ。
俺の顔をぺちんと殴る。

「良かった! リヒトん!」

 素直に俺の早すぎる帰還を喜んでくれたのはフランだけ。
フランは俺に抱きついた。
俺を見上げる青いつぶらな瞳は、涙にうるんでキラキラと光っている。

 俺はフランの瞳を見つめ返した。
いで視線が下へとおりる。

「…………」

 俺は思い出すだけで顔が熱く。
フランも俺の様子と、俺が彼女の唇を見ているのに気付いて顔を赤くした。
耳まで真っ赤に染まったフランはどぎまぎしていて。
口を真一文字に引き結んだ固い表情で、視線を上下左右に走らせる。

「スコルー」

「はーい、ハティちゃん」

 ハティとスコルの阿吽あうんの呼吸。
2人は同時に俺とフランの首を押した。

 再びあの柔らかい感覚が唇に。

 互いの驚きで見開いた瞳がすぐ目の前にある。

「…………あはは」

 フランが笑いながら顔を背けた。

「リヒトん、鼻息くすぐったい」

 しきりに自分の灰色の髪を撫でながら。
肩をすくめ、恥ずかしさをごまかすようにフランが笑う。

「もー。ダメだよハティちゃん、スコルちゃん。そんなイタズラしちゃ」

「そうだぞ、チビ共。余計な邪魔はしないで退散するぞ」

 そう言ってアイゼンがハティとスコルの襟元を鷲掴わしづかみ。
2人をぶら下げ、俺とフランを置いて去ろうとする。

「え、ちょっとアイゼン?」

 アイゼンは俺に振り向いた。
ゴーレムになってからその表情はほとんどうかがい知ることはできないけど。
アイゼンは装甲の隙間から覗く両目をにやりと細めて。
それは笑みだ。
凄く腹立たしい笑みで俺を見てる。

 アイゼンはきびすを返した。
次は振り返ることなく、ハティとすこるを連れて闇の蒸気と青い炎で飛んでいく。

「行っちゃったねぇ」

「行っちゃったな」

俺はフランに答えた。

「リヒトん」

 フランは俺に両腕を伸ばして。

「お姫様抱っこ」

 俺は小さく微笑ほほえんだ。
いで深々とお辞儀。

「仰せのままに、お姫様」

 俺はフランを抱き上げた。
フランが俺の首に腕を回す。

「苦しゅうない」

「あれ。お姫様扱い怒らないんだ」

 俺はそう言って笑う。

「王女様は嫌だけど、こういうお姫様はいいの。お姫様は女の子みんなの憧れだよ?」

「違いがあるのか」

「えー、全然違うよー」

 少しムッとしてフランが言った。
頬をぷくっと膨らませる。

 フランは俺を見ていた。
いつもと変わらない、化け物や魔物でもなく、1人の人間として俺を見てくれる瞳。

「実は俺、人間じゃないみたいなんだ」

 俺はフランに告げた。

「そーなんだ」

「驚いた?」

「びっくり!!」

「……本当は?」

「あんまり。だってリヒトんは私の知るリヒトんのままでしょ? なら関係ないよ。私は……リヒトんが好き」

 やっぱり変わらない眼差しで俺を見てくれる。

「俺も……」

「俺も?」

 俺が言いかけると、フランがずいと顔を近づけた。
言葉の続きを聞きたそうにしているのが分かる。

 分かるけど。
恥ずかしくて言えない。
言えるわけがない。

「そ、そういえばアイゼン達はどこに飛んでったんだ?  王都か? 東の街か?」

「あー、はぐらかした」

「早く追いかけないとな」

「リヒトん?」

 俺は闇を操り、空高くへと飛翔。
ひび割れた空の近くにまで昇る。

 空の果てから見下ろした大地は酷く荒れ果てていた。
戦いの爪痕が深く刻まれ、ヨルムンガンドが抜け出したあとには深い谷が国の中心をぐるりと囲んで。
だけど黒く染まっていた大地が光を取り戻していく。

 永かった闇との戦いはついに終わりを迎えたんだ。

「リヒトんー?」

 フランはまだ俺の言葉の続きを催促してくる。

「……ふぅ」

 だけどどこかもう諦めてるよう。 

「フラン」

「なぁに? リヒトん」

 少し悪戯いたずらっぽい笑み。
同時にどこかわくわくとした様子でフランが俺を見る。

 俺は闇のヴェールで俺とフランを包んだ。
お姫様抱っこからフランをおろし、柔らかい闇に包まれて緩やかに落下しながら。

「好きだよ、フラン」

 両手の指を絡ませ、想いを告げる。
それ以上の言葉はいらない。
俺とフランはその手の温もりでいつも想いを交わしていたから。

 俺達は。
闇が晴れ、希望に満ちた大地へと落ちていく。

 俺がいれば。
フランと一緒なら。
きっと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...