【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

文字の大きさ
上 下
98 / 101

最終話『■■■■■■■■』②

しおりを挟む







 この闇のおり越しに外の状況を知覚。
ようやく、目的の場所にたどり着いた。
外部からの影響が内部へと伝わらないよう闇を調整する。

 俺と邪神は向かいあったままだった。
邪神に動きはない。
無感情な瞳がこちらを眺めている。

 俺はクレイモアを構えた。
剣身けんしんを横目見る。

 聖騎士として授かった聖銀の十字剣。
数多あまたの魔物をほふってきた剣の刃には大小無数の傷があった。
鏡のように磨き込まれていた刃も、今は磨耗まもうと俺の闇や他属性の侵食を受けて曇っていて。
表面を撫でるとザラザラとした手触り。
そしてボロボロと表面が粉となって剥離はくりする。

 すでにこの剣も限界。
でもあと少しだけってくれ。

「これで最後だから」

 長く連れ添った相棒をいたわると、邪神へと視線を戻した。
闇と魔物を生み出した全ての元凶を俺は今ここで、仕留める。

 やはり最後に描くのは十字だ、と思った。
俺の憧れの形。
人々を救う希望の象徴。

 だけど俺の描く十字は真逆だった。
畏怖いふと恐怖を振り撒く、戦場にそそり立つ刹那せつなの墓標。
だから『御手が刻みし勝利の聖印グランドクロス』とは剣閃けんせんも逆にした。
縦振りからの横ぎではなく、横振りからの振り上げに。

 俺は剣を縦に、振りかぶる。

『まだ諦めないのか』

「当然だ」

 迷うはずもない。

『闇でこの身は滅ぼせない。なぜそれが分からない』

「…………」

 邪神の言葉に俺はかすかに口角を吊り上げた。

「俺は無属性にぐ唯一の例外。闇の属性の担い手だ。魔物を生み、魔物を使役する魔物の王だ」

『…………』

「俺は闇でどんな強敵も討ち倒してきた。あらゆる魔物を斬り裂いてきた、暗黒の剣士」

 そんな俺が今。
お前を倒すために光の十字を……刻む!
 
 俺は踏み込んだ。
1歩、2歩と邪神へと肉薄。
そして邪神の眼前で空を切るようにクレイモアを振り下ろす。
いで振り下ろした刃を横へと振り抜いた。


 重なる剣閃けんせんは十字。
そして銀色の刃は、確かにそれを斬り裂いたのだ。

 闇を駆けた2つの閃光。
邪神の背後の闇が裂け、同時に邪神の身体が十字に裂ける。

『────っ!?』

 ほとばしる光が極大の十字となって。
深淵しんえんのような闇をたたえたその身体から真っ白な灰が吹き出す。

 人の形を保てないまま邪神は背後へと振り返った。
十字に裂けた闇の先に目を凝らして。

『ユグドラシルか!』

 光の正体に気付く。

 ここは障海しょうかいの跡地。
凄まじい光を生むユグドラシルの根の直上だった。

 俺が放ったのは偽装の光刃の究極形。
膨大な闇と膨大な光が生む境界による斬撃。

 闇で倒すことのできない邪神をほふる、闇使いの描く光の十字。

 闇は対魔物に対して最強の自負がある。
だけど光は対闇に対して最強なのだ。

 子供の頃から変わらない憧れと誓いの具現。
俺の心が。
俺が人であるという。
これはリヒトという1人の人間の証明だ。






────最終話『暗黒剣士の聖十字イノセント・トラスト』────






 闇との境界が光の存在と力を際立たせる。

 灰へと崩れていく邪神は闇を操ろうと。
だけどここにある闇は俺が掌握している。
邪神の操る闇はない。

『よもや』

 4つに裂けた身体から。
重なるような声で邪神が呟いた。

『よもや、だ。この身がお前に滅ぼされるか。魂のない、形だけの存在で。それでもなお』

 邪神の全身が灰へと変わる。
最後に俺を凝視した眼もさらさらと崩れ落ちた。

 邪神の陰から光が差し、光は俺とクレイモアを照らした。
俺は闇を逆巻さかまかせて防御。
だけど光を浴びた剣に深い亀裂。
いでその刃が砕け散る。

 こぼれた剣身けんしんの欠片が光に飲まれて灰となった。
純白の灰が光のうねりに乗って漂い、俺の目の前を横切って彼方かなたへと消えていく。

「役目を、終えたんだ」

 俺は小さく、無意識のうちに呟いた。

 そしてそれは使い手である俺も同様か。

 俺は光を防いでユグドラシルの根の領域から離脱する。

 闇を生んでいたヨルムンガンドと、おそらく聖堂都市の闇の源だった邪神も消えて。
これでみんなが闇におびやかされることはない。

 真っ先に会いたいと思ったのはやっぱりフランだった。
いでハティとスコル。
アンさんやアイゼン。
よく働いてくれたロードナイトやビショップアーキテクトにも礼を言いたい。
ソードクライメイトはどうしようか。
あれは俺の命令を継続しない。
それでも力を貸してくれた以上、ビショップアーキテクトの空間にずっと幽閉ゆうへいはしたくないな。
 
 ムニンのことも気になる。
スコルの光喰らいを受けたあと、聖堂都市の光を喰われてしまって再生ができてなかったけど。
闇がしずまって光が戻ればフギンと一緒に再生できるだろうか。

 短い間とはいえ行動を共にしたし、無邪気なムニンのことは嫌いじゃなかった。

 みんなで穏やかに。
そんな生活を思い描く。

 村に帰って家を建て直すか。
東の街の、あのドアが壊れたままの部屋も悪くないけど。

 俺は思わず笑みをこぼす。

 気が抜けると体の不調が気になり出した。
きしむ身体に。
激しい倦怠感けんたいかん

 そして幻聴。

『────』

 いや。

「違う……!」

 俺は自分の胸から響くそれに耳を傾ける。

『──────』

 うまく聞き取れない。
だけどそれは確かに声だ。

 俺の中に巣食った意識が肥大化する。
底知れない闇が俺の心をむしばんでいく。

「闇がある限り滅びはしない」

 俺の口を通して。
いで言葉を紡いだと思ったら俺の意思に関係なく体が。
さらに闇の操作まで上書きされた。
闇を四方へと拡げながら俺の体が大地に降り立つ。

「ほう」

 邪神が呟いた。
すでに意識が身体から切り離されようとしていて。
俺の目を通して見ているはずの景色が遠い。

 おぼろげに見えるのは空を駆ける黒と青の軌跡。
鉄色の身体が抱くのはフラン。
そしてその両肩にはハティとスコルがしがみついている。

「リヒトんー!」

 フランが手を振った。
ここに立っているのが邪神だと気付いてない。
当然だ。
姿も。
そもそも身体は俺のものなんだから。

 俺は肉体に意識を向けて。
だけど動かない。

 違うんだ。
意識を向けるべきは。

 俺は闇へと意識を拡げた。
俺の中に巣食う闇を操り、肉体コントロールを取り戻そうと。
だけどこの闇は邪神自身。
闇を操る能力は俺の方がけているはずなのに、まるで操ることができない。

 闇喰らいならどうか。
ハティの力を借りれば今度こそ邪神を倒せるかも。
いや、だけどさっき邪神の闇は完全に灰になった。
それなのに俺に巣食っている。

 近くの闇に乗り移るような性質があるのかも。
だとしたら俺に闇喰らいを使っても3人の誰かに乗り移るかもしれない。
そうなったら闇を失った俺にできることはない。

 闇を使える俺だからこそ、できることを。

 俺は身体ではなく周囲の闇に意識を繋げた。
アイゼン達を阻むように闇の壁を築く。

「誰、も……傷つけさせない!」

 俺は操作した闇で自分の身体を拘束した。
身体は人間だ。
闇でできた身体と違ってすり抜けたりはできない。
俺はこのまま闇に身体をひたし、地の底へと沈んでいく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...