【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

文字の大きさ
上 下
97 / 101

最終話『■■■■■■■■』①

しおりを挟む







 あの巨大な魔物をリヒトんはハティちゃんとスコルちゃん、魔物と力を合わせて倒した。
なのに。
戦いは終わらなかった。

 ここからはよく見えなかったけど、黒い人影のようなものが現れて、視界が黒く染まったと思ったらみんないなくなって。
吹き飛ばされたリヒトんが再び黒い影に向かってく。

 さっきの魔物よりもずっと小さいのに。
リヒトんと背格好も変わらないくらいなのに。
それなのに、あの巨大な魔物よりも苦戦してるのが遠目にも分かる。

 巨大な魔物はとにかく途方もなく大きいかったけど。
あの黒い影は底の見えない不気味さのようなものを感じる。
あの巨大な魔物ではなく、あっちが邪神なんだと直感で思った。


 リヒトんは凄い勢いで闇を集めて、自分と黒い影を覆っちゃった。
大きくて真っ黒。
視界に穴が空いたみたいに。
景色を切り取ってしまったみたいに、そこはなんにも見えない。

 その世界に空いた真っ黒な穴は移動を始めた。

「リヒトん!」

 私は気付いたら叫んでた。
いなくなっちゃう、て。
このままリヒトんがいなくなって、帰ってこないかもしれないって漠然ばくぜんと不安を感じる。

「追わないと」

 私は慌てて辺りを見回した。
リヒトんを追えるものはないかと目を凝らす。

 少し遠くに巨人の手。
その上には横たわるゴーレムの姿が見えて。

 あのゴーレムは空を飛んでいた。
あのゴーレムに頼めばリヒトんを追えるかもしれない。

 私はゴーレムのもとへと走る。

 巨人の手はよじ登れない。
私は隣の民家へと飛び込んだ。
階段を駆け上がり、窓から屋根へと出て。
邪魔なドレスの裾を破り捨てると、隣の民家の屋根へと跳び移る。

 その屋根をさらに駆け上がり、煙突の梯子はしごを登った。
横たわるゴーレムに声をかける。

「ゴーレムさん!」

 返事がない。
まさか、死んじゃった?
いや、身体が崩れていく様子はない。

「ゴーレムさん、起きて!」

 私は再び声をかけた。

「…………っ」

 ゴーレムが動いた。
私に気付くと、隙間から覗く目を細める。

「嬢ちゃんか」

 私はその声を知っていた。
その鋭い目付きも。

「アイゼンさん!?」

 ずっと前から姿を見せなくなっていたアイゼンさん。
リヒトんから元気にしてるとだけ聞いていたけど。

「まぁ、色々あってな」

 アイゼンさんは体を起こした。
身体の調子を確かめると、私に背を向ける。

 顔を向けた先はリヒトんと黒い影を包んだ真っ黒い円。

「待って! 私も連れてって!」

 私が言うと、再びアイゼンさんがこっちに振り向いた。

「行くんでしょ、リヒトんのところに」

「人間の嬢ちゃんは連れてけねぇ。危険だし、何かあったらリヒトが悲しむ」

「お願い!」

「無理だ」

「お願い、お願い!」

 私の懇願こんがんをアイゼンさんは聞いてくれない。
だったら。

「…………」

 私は大きく深呼吸。
そして、目を閉じると重力に任せて後ろへと倒れた。

 落下する時の浮遊感。
即死はしないかもしれないけど、大怪我は免れない。
そんな高さから私は落ちる。

「なにやってやがる!」

 そんな私を受け止める冷たい感触。
続けて衝撃。
目を開けると、アイゼンさんが私を抱き抱えて着地してた。

「なに考え────」

 私はすかさず、怒るアイゼンさんの首に腕を回した。
ひしと、その体にしがみつく。

「おま」

「お願い」

 私はアイゼンさんの目をじっと見つめた。

「……守れる保証はねぇからな」

「うん! ありがと、アイゼンさん!」

 私の感謝に対してアイゼンさんは大きなため息。
そして私を抱え直す。

 アイゼンさんは空へ。
でもその前に2つの影がアイゼンさんに飛び付いた。
ぴこぴこと赤と青の耳を揺らす2人の女の子。
ハティちゃんとスコルちゃんだ。
ふわふわの尻尾とつやつやの尻尾が当たって少しくすぐったい。

「な、てめぇら」

「あたし達も行くわ」

「わ、わたし達も行くよ……!」

 アイゼンさんには体を揺すった。
2人を振り落とそうとする。

「重量オーバーだ」

「はぁ? あたしはそんなに重くないわよ」

「わ、わわ、わたしだって……か、軽いんだけど」

 すると2人同時。

「…………え、やめて。なんで私を見るの?! 2人ともぉ!!」

 ハティちゃんとスコルちゃんが同時に私を見たのだ。

 嘘だ。
私はまだそんなに。
え、嘘だよね……?

 私はさりげなくお腹の肉をつまんだ。

「…………!」

 絶句する私には気付かず、ハティちゃんはバンバンとアイゼンさんの頭を叩いて。

「どうせその重たい身体だもの。女子供を何人か乗せたくらい変わらないでしょ。早く行きなさいよ」

「ハ、ハティちゃん、せめてもう少し……お願いする態度には気を付けようよぉ」 

 声をすぼませながらスコルちゃんが言った。

「だー、もう。行けばいいんだろ、行けば」

 そう言うとアイゼンさんの体の一部から黒い蒸気が噴き出した。
青い炎か灯る。

『…………』

「……乗せないからな」

 鎧をまとったゴブリンが物陰からこちらを見ていた。
一緒に行きたそうなゴブリンを置いて、私達は飛んだ。
リヒトんを追う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...