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最終話『■■■■■■■■』①
しおりを挟むあの巨大な魔物をリヒトんはハティちゃんとスコルちゃん、魔物と力を合わせて倒した。
なのに。
戦いは終わらなかった。
ここからはよく見えなかったけど、黒い人影のようなものが現れて、視界が黒く染まったと思ったらみんないなくなって。
吹き飛ばされたリヒトんが再び黒い影に向かってく。
さっきの魔物よりもずっと小さいのに。
リヒトんと背格好も変わらないくらいなのに。
それなのに、あの巨大な魔物よりも苦戦してるのが遠目にも分かる。
巨大な魔物はとにかく途方もなく大きいかったけど。
あの黒い影は底の見えない不気味さのようなものを感じる。
あの巨大な魔物ではなく、あっちが邪神なんだと直感で思った。
リヒトんは凄い勢いで闇を集めて、自分と黒い影を覆っちゃった。
大きくて真っ黒。
視界に穴が空いたみたいに。
景色を切り取ってしまったみたいに、そこはなんにも見えない。
その世界に空いた真っ黒な穴は移動を始めた。
「リヒトん!」
私は気付いたら叫んでた。
いなくなっちゃう、て。
このままリヒトんがいなくなって、帰ってこないかもしれないって漠然と不安を感じる。
「追わないと」
私は慌てて辺りを見回した。
リヒトんを追えるものはないかと目を凝らす。
少し遠くに巨人の手。
その上には横たわるゴーレムの姿が見えて。
あのゴーレムは空を飛んでいた。
あのゴーレムに頼めばリヒトんを追えるかもしれない。
私はゴーレムのもとへと走る。
巨人の手はよじ登れない。
私は隣の民家へと飛び込んだ。
階段を駆け上がり、窓から屋根へと出て。
邪魔なドレスの裾を破り捨てると、隣の民家の屋根へと跳び移る。
その屋根をさらに駆け上がり、煙突の梯子を登った。
横たわるゴーレムに声をかける。
「ゴーレムさん!」
返事がない。
まさか、死んじゃった?
いや、身体が崩れていく様子はない。
「ゴーレムさん、起きて!」
私は再び声をかけた。
「…………っ」
ゴーレムが動いた。
私に気付くと、隙間から覗く目を細める。
「嬢ちゃんか」
私はその声を知っていた。
その鋭い目付きも。
「アイゼンさん!?」
ずっと前から姿を見せなくなっていたアイゼンさん。
リヒトんから元気にしてるとだけ聞いていたけど。
「まぁ、色々あってな」
アイゼンさんは体を起こした。
身体の調子を確かめると、私に背を向ける。
顔を向けた先はリヒトんと黒い影を包んだ真っ黒い円。
「待って! 私も連れてって!」
私が言うと、再びアイゼンさんがこっちに振り向いた。
「行くんでしょ、リヒトんのところに」
「人間の嬢ちゃんは連れてけねぇ。危険だし、何かあったらリヒトが悲しむ」
「お願い!」
「無理だ」
「お願い、お願い!」
私の懇願をアイゼンさんは聞いてくれない。
だったら。
「…………」
私は大きく深呼吸。
そして、目を閉じると重力に任せて後ろへと倒れた。
落下する時の浮遊感。
即死はしないかもしれないけど、大怪我は免れない。
そんな高さから私は落ちる。
「なにやってやがる!」
そんな私を受け止める冷たい感触。
続けて衝撃。
目を開けると、アイゼンさんが私を抱き抱えて着地してた。
「なに考え────」
私はすかさず、怒るアイゼンさんの首に腕を回した。
ひしと、その体にしがみつく。
「おま」
「お願い」
私はアイゼンさんの目をじっと見つめた。
「……守れる保証はねぇからな」
「うん! ありがと、アイゼンさん!」
私の感謝に対してアイゼンさんは大きなため息。
そして私を抱え直す。
アイゼンさんは空へ。
でもその前に2つの影がアイゼンさんに飛び付いた。
ぴこぴこと赤と青の耳を揺らす2人の女の子。
ハティちゃんとスコルちゃんだ。
ふわふわの尻尾とつやつやの尻尾が当たって少しくすぐったい。
「な、てめぇら」
「あたし達も行くわ」
「わ、わたし達も行くよ……!」
アイゼンさんには体を揺すった。
2人を振り落とそうとする。
「重量オーバーだ」
「はぁ? あたしはそんなに重くないわよ」
「わ、わわ、わたしだって……か、軽いんだけど」
すると2人同時。
「…………え、やめて。なんで私を見るの?! 2人ともぉ!!」
ハティちゃんとスコルちゃんが同時に私を見たのだ。
嘘だ。
私はまだそんなに。
え、嘘だよね……?
私はさりげなくお腹の肉をつまんだ。
「…………!」
絶句する私には気付かず、ハティちゃんはバンバンとアイゼンさんの頭を叩いて。
「どうせその重たい身体だもの。女子供を何人か乗せたくらい変わらないでしょ。早く行きなさいよ」
「ハ、ハティちゃん、せめてもう少し……お願いする態度には気を付けようよぉ」
声をすぼませながらスコルちゃんが言った。
「だー、もう。行けばいいんだろ、行けば」
そう言うとアイゼンさんの体の一部から黒い蒸気が噴き出した。
青い炎か灯る。
『…………』
「……乗せないからな」
鎧を纏ったゴブリンが物陰からこちらを見ていた。
一緒に行きたそうなゴブリンを置いて、私達は飛んだ。
リヒトんを追う。
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