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邪神対魔王②
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『…………』
かすかに邪神の瞳が揺れた。
だけど次の瞬間には邪神は鼻を鳴らして。
同じ顔でありながら、俺が1度も浮かべたことのない笑みをこちらに向ける。
『お前の攻撃をこの身に通すにはその槍の力が必須だ。だがお前がその力を振るえる数には限りがある』
邪神が顎で俺の右腕を指した。
同時に俺の腕に亀裂。
『変異』によって変化させた範囲を超えて俺の右腕が破れ、俺の中に封じられた力がさらに大きく膨れ上がる。
────『必中』。
抑え込み、封じ込めていた概念の抑制破綻によるさらなる部分的顕現。
俺の身体が軋みをあげ、その力は俺を破ろうと暴れ始める。
「……っ!」
俺は闇を全身に巻き付け、自身の輪郭を補強した。
自分の象を見失わないよう強く意識する。
『無駄だ。お前は自分を保てない。待っているのは確実な自己の崩壊だけだ』
「……たとえ、そうなってもかまわない。お前を倒せるのは俺だけだ。みんなを助ける。そのためなら俺は自分を失っても構わない」
俺はクレイモアを構えながらにやりと笑って。
「仮に俺が消えても、俺の中の力がお前を滅ぼす。そのために放たれた力だ」
『やめておけ』
「命乞いか」
『それはお前にとって望む結末にならない。確かにその槍が闇を消し去れるとして。まさかその槍が力を解放して他の人間が無事で済むとでも思っているのか?』
「どういう意味だ」
疑問を浮かべた俺に邪神が言う。
『その槍は放たれればこの胸を穿ち、そして闇の一切を消滅させる。その範囲内にある、あらゆる万物を巻き込んでな。闇と共に人類の全てを根絶やしにする終焉の槍よ。だからこそロキは魔術書を使ってまでその力を塗り潰し、人の象に抑え込んで封印したのだ』
……いや、あり得ない。
ヴィルヘルムは俺の中の力を使おうとしていた。
その力で邪神を討つつもりだった。
人々を守るために邪神の討伐を望んだはずのヴィルヘルムが、みんなを巻き込んでしまうような力を求めるわけがない。
────はずが、ないのに。
俺の中から溢れ出ようとしている力は酷く破壊的だ。
漠然とこの力は解き放ってはいけないと思わされる。
この力を使わなければ闇による攻撃は邪神には通じない。
「だったら!」
俺は闇を手のひらへと集めた。
『変異』という権能の模倣。
そして邪神の見せた剣の生成。
魔物以外にも闇は多くを生み出すことができるはず。
そして俺が作り出したのは黄金の輝き。
闇へと引き寄せられて爆発する、魔物化したリーンハルトの能力を強化して再現したもの。
光の粒子は膨大な闇を湛える邪神へ。
邪神は闇の障壁を張った。
障壁で光の粒子が黄金色の爆炎へと変わる。
さらに俺はクレイモアに纏わせた闇の形を変えて。
質量を伴った巨大な斧剣を生み出し、障壁へと叩きつけた。
闇による攻撃は効かなくても、物体による斬撃は通るはすだ。
さらに斧剣の峰から闇を噴出させて刃を押し込む。
障壁に亀裂。
そしてガラスが割れるように砕け散る。
だけどそこに邪神の姿はない。
『なぜそこまでする?』
背後から声。
振り返ると半身が周囲の闇に溶け込んだ邪神の姿。
俺はすかさず斧剣の軌道を変え、邪神目掛けて振り抜いた。
それを邪神は剣で受け止めて。
剣の切っ先と柄から闇が一筋、まっすぐに天と地へと伸びる。
天地を結ぶ一条の闇は強固で、まるでびくともしない。
『しょせんお前は人に象られた入れ物だ。肉体と命は紛い物。そして魂はない。槍を収納しておくための空っぽの器に過ぎんのに』
「……空っぽじゃない」
俺は周囲の闇を手繰りながら言う。
「例え人間じゃなくても。初めは空っぽだったとしても。血が繋がらなくても、俺を愛してくれた人達がいた」
今も鮮明に脳裏に映る2人の笑顔に背中を押され。
「今も俺を信じてくれる人がいる」
いつだって俺を1人の人間として扱ってくれた彼女の眼差しに手を引かれて。
「みんなと過ごした日々が俺を満たしてる。みんなを助けたいって想いも! 誓いも! この心だけは紛い物なんかじゃ、ない……!!」
俺は膨大な闇を渦巻かせ、邪神に向けて集束させる。
邪神は動かない。
闇による全てが自分には無害だと────思い込んでいるから。
『っ?!』
だが次の瞬間には邪神は眉をひそめた。
気付いた。
俺の操る闇が自分の身体を分解させていることに。
「闇の極性を反転させた。俺の闇とお前の闇は衝突して消滅する!」
ビショップアーキテクトが呪詛を反転させて攻撃に用いるように、俺は闇を反転させた。
同じ闇を用いた攻撃は通らなくても、真逆の性質を持つ闇なら邪神にも通る!
邪神も周囲の闇を操作。
俺の操る闇と邪神の操る闇がせめぎ合う。
『なぜだ』
闇を操りながら邪神が呟く。
『お前とこちらとでは能力は同等のはずだ。魔術書の能力を自在に操る存在として造られたこの身と、魔術書そのもののお前。肉体の構成においてこちらの方が優れているはずなのに』
押し負け始めた闇を見て、邪神の顔にわずかに困惑が浮かんだ。
邪神は剣に闇を圧縮し、俺の闇を斬り払う。
俺はクレイモアに闇を這わせた。
クレイモアを包む斧剣を内部から砕き、暗黒の十字剣を邪神へと振り下ろす。
互いの闇が衝突して消滅。
再び鍔迫り合いになった。
俺は邪神目掛けて刃を押し込んでいく。
能力は同等。
身体能力は邪神が上。
それでも俺の刃の方が重い。
それは刃に乗せた。
刃に込めた心の分だ。
みんなを助ける騎士になる。
子供の頃から積み重ね、育んできたこの願い。
この誓いは。
「お前なんかに負けない……!」
邪神の剣に亀裂。
闇を纏わせきれずに露出していた剣身に傷が拡がり、次の瞬間には砕けた。
そのまま邪神の胴を一閃。
すかさず刃を返して振り上げる。
「『黒き十字を抱きて眠れ』」
描いた暗黒の十字。
そして今回は邪神にダメージが通って。
今も迸る斬撃の軌跡が、邪神を構成する深淵のような闇を消滅させていく。
『無駄だ』
引き裂かれた身体で邪神が言った。
突然俺の斬撃がその身体に吸収される。
俺は邪神の闇の性質が反転したのに気付いた。
俺の攻撃を無力化するため、邪神も闇を反転させたんだ。
俺はクレイモアを袈裟に。
横に。
突いて。
そのまま振り上げる。
素早く闇の性質を切り替えての連撃。
だけどその全てを邪神は吸収した。
斬撃の途中で切り替えを行っても対応してくる。
『諦めろ。この身は闇でできている。闇でこの身を屠ることはできん』
「闇では……倒せない」
俺は必死に邪神を倒す手だてを考える。
闇払いでは足りない。
ヴィルヘルムは俺との戦いで光を使いきって。
いや、そもそも俺の闇とヴィルヘルムの光では俺の勝ちだった。
なら光を消耗していなくても同等の力を持つ邪神には通じない。
「…………あった」
邪神を倒す、方法が。
俺は闇を操作。
掌握した闇を通してさらに彼方の闇へと支配を広げて。
時間をかけ、過去最大規模の闇を俺は操る。
俺は自分と邪神を闇で包み込んだ。
完全に外部と遮断された絶対の闇の檻だ。
『これで自分ごとこの身を封印するつもりか』
違う。
俺は、にやりと笑みだけ返した。
邪神は闇の中を移動できる。
おそらくどれほど高密度で強固な壁を作っても、それが闇であればすり抜けてしまえるはすだ。
俺は闇の空間ごと移動を始めた。
目指す場所はここから遥か先。
あの場所で俺は邪神を倒す。
かすかに邪神の瞳が揺れた。
だけど次の瞬間には邪神は鼻を鳴らして。
同じ顔でありながら、俺が1度も浮かべたことのない笑みをこちらに向ける。
『お前の攻撃をこの身に通すにはその槍の力が必須だ。だがお前がその力を振るえる数には限りがある』
邪神が顎で俺の右腕を指した。
同時に俺の腕に亀裂。
『変異』によって変化させた範囲を超えて俺の右腕が破れ、俺の中に封じられた力がさらに大きく膨れ上がる。
────『必中』。
抑え込み、封じ込めていた概念の抑制破綻によるさらなる部分的顕現。
俺の身体が軋みをあげ、その力は俺を破ろうと暴れ始める。
「……っ!」
俺は闇を全身に巻き付け、自身の輪郭を補強した。
自分の象を見失わないよう強く意識する。
『無駄だ。お前は自分を保てない。待っているのは確実な自己の崩壊だけだ』
「……たとえ、そうなってもかまわない。お前を倒せるのは俺だけだ。みんなを助ける。そのためなら俺は自分を失っても構わない」
俺はクレイモアを構えながらにやりと笑って。
「仮に俺が消えても、俺の中の力がお前を滅ぼす。そのために放たれた力だ」
『やめておけ』
「命乞いか」
『それはお前にとって望む結末にならない。確かにその槍が闇を消し去れるとして。まさかその槍が力を解放して他の人間が無事で済むとでも思っているのか?』
「どういう意味だ」
疑問を浮かべた俺に邪神が言う。
『その槍は放たれればこの胸を穿ち、そして闇の一切を消滅させる。その範囲内にある、あらゆる万物を巻き込んでな。闇と共に人類の全てを根絶やしにする終焉の槍よ。だからこそロキは魔術書を使ってまでその力を塗り潰し、人の象に抑え込んで封印したのだ』
……いや、あり得ない。
ヴィルヘルムは俺の中の力を使おうとしていた。
その力で邪神を討つつもりだった。
人々を守るために邪神の討伐を望んだはずのヴィルヘルムが、みんなを巻き込んでしまうような力を求めるわけがない。
────はずが、ないのに。
俺の中から溢れ出ようとしている力は酷く破壊的だ。
漠然とこの力は解き放ってはいけないと思わされる。
この力を使わなければ闇による攻撃は邪神には通じない。
「だったら!」
俺は闇を手のひらへと集めた。
『変異』という権能の模倣。
そして邪神の見せた剣の生成。
魔物以外にも闇は多くを生み出すことができるはず。
そして俺が作り出したのは黄金の輝き。
闇へと引き寄せられて爆発する、魔物化したリーンハルトの能力を強化して再現したもの。
光の粒子は膨大な闇を湛える邪神へ。
邪神は闇の障壁を張った。
障壁で光の粒子が黄金色の爆炎へと変わる。
さらに俺はクレイモアに纏わせた闇の形を変えて。
質量を伴った巨大な斧剣を生み出し、障壁へと叩きつけた。
闇による攻撃は効かなくても、物体による斬撃は通るはすだ。
さらに斧剣の峰から闇を噴出させて刃を押し込む。
障壁に亀裂。
そしてガラスが割れるように砕け散る。
だけどそこに邪神の姿はない。
『なぜそこまでする?』
背後から声。
振り返ると半身が周囲の闇に溶け込んだ邪神の姿。
俺はすかさず斧剣の軌道を変え、邪神目掛けて振り抜いた。
それを邪神は剣で受け止めて。
剣の切っ先と柄から闇が一筋、まっすぐに天と地へと伸びる。
天地を結ぶ一条の闇は強固で、まるでびくともしない。
『しょせんお前は人に象られた入れ物だ。肉体と命は紛い物。そして魂はない。槍を収納しておくための空っぽの器に過ぎんのに』
「……空っぽじゃない」
俺は周囲の闇を手繰りながら言う。
「例え人間じゃなくても。初めは空っぽだったとしても。血が繋がらなくても、俺を愛してくれた人達がいた」
今も鮮明に脳裏に映る2人の笑顔に背中を押され。
「今も俺を信じてくれる人がいる」
いつだって俺を1人の人間として扱ってくれた彼女の眼差しに手を引かれて。
「みんなと過ごした日々が俺を満たしてる。みんなを助けたいって想いも! 誓いも! この心だけは紛い物なんかじゃ、ない……!!」
俺は膨大な闇を渦巻かせ、邪神に向けて集束させる。
邪神は動かない。
闇による全てが自分には無害だと────思い込んでいるから。
『っ?!』
だが次の瞬間には邪神は眉をひそめた。
気付いた。
俺の操る闇が自分の身体を分解させていることに。
「闇の極性を反転させた。俺の闇とお前の闇は衝突して消滅する!」
ビショップアーキテクトが呪詛を反転させて攻撃に用いるように、俺は闇を反転させた。
同じ闇を用いた攻撃は通らなくても、真逆の性質を持つ闇なら邪神にも通る!
邪神も周囲の闇を操作。
俺の操る闇と邪神の操る闇がせめぎ合う。
『なぜだ』
闇を操りながら邪神が呟く。
『お前とこちらとでは能力は同等のはずだ。魔術書の能力を自在に操る存在として造られたこの身と、魔術書そのもののお前。肉体の構成においてこちらの方が優れているはずなのに』
押し負け始めた闇を見て、邪神の顔にわずかに困惑が浮かんだ。
邪神は剣に闇を圧縮し、俺の闇を斬り払う。
俺はクレイモアに闇を這わせた。
クレイモアを包む斧剣を内部から砕き、暗黒の十字剣を邪神へと振り下ろす。
互いの闇が衝突して消滅。
再び鍔迫り合いになった。
俺は邪神目掛けて刃を押し込んでいく。
能力は同等。
身体能力は邪神が上。
それでも俺の刃の方が重い。
それは刃に乗せた。
刃に込めた心の分だ。
みんなを助ける騎士になる。
子供の頃から積み重ね、育んできたこの願い。
この誓いは。
「お前なんかに負けない……!」
邪神の剣に亀裂。
闇を纏わせきれずに露出していた剣身に傷が拡がり、次の瞬間には砕けた。
そのまま邪神の胴を一閃。
すかさず刃を返して振り上げる。
「『黒き十字を抱きて眠れ』」
描いた暗黒の十字。
そして今回は邪神にダメージが通って。
今も迸る斬撃の軌跡が、邪神を構成する深淵のような闇を消滅させていく。
『無駄だ』
引き裂かれた身体で邪神が言った。
突然俺の斬撃がその身体に吸収される。
俺は邪神の闇の性質が反転したのに気付いた。
俺の攻撃を無力化するため、邪神も闇を反転させたんだ。
俺はクレイモアを袈裟に。
横に。
突いて。
そのまま振り上げる。
素早く闇の性質を切り替えての連撃。
だけどその全てを邪神は吸収した。
斬撃の途中で切り替えを行っても対応してくる。
『諦めろ。この身は闇でできている。闇でこの身を屠ることはできん』
「闇では……倒せない」
俺は必死に邪神を倒す手だてを考える。
闇払いでは足りない。
ヴィルヘルムは俺との戦いで光を使いきって。
いや、そもそも俺の闇とヴィルヘルムの光では俺の勝ちだった。
なら光を消耗していなくても同等の力を持つ邪神には通じない。
「…………あった」
邪神を倒す、方法が。
俺は闇を操作。
掌握した闇を通してさらに彼方の闇へと支配を広げて。
時間をかけ、過去最大規模の闇を俺は操る。
俺は自分と邪神を闇で包み込んだ。
完全に外部と遮断された絶対の闇の檻だ。
『これで自分ごとこの身を封印するつもりか』
違う。
俺は、にやりと笑みだけ返した。
邪神は闇の中を移動できる。
おそらくどれほど高密度で強固な壁を作っても、それが闇であればすり抜けてしまえるはすだ。
俺は闇の空間ごと移動を始めた。
目指す場所はここから遥か先。
あの場所で俺は邪神を倒す。
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