【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

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再臨する始祖

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 無音。
いで音もなく、緩やかに。
十字に身体を穿うがたれ、ロキの身体が引き裂ける。

「……あれは」

 深い闇が波打つロキの断面に赤と緑色の輝き。
それは巨大な結晶のようで、わずかに人の形の名残を残していた。
リーネ=ヒルデガルド王女とゾーイ=パトリシア次期女王だ。
俺は闇を操り、2人をこちらへと引き寄せる。

 ロキの闇からその結晶と化した2人を引きがすと、残されたロキの身体が揺れた。
形を留められず、闇が溢れて噴き出す。

「……返せ。それは、ボクのだ!」

 崩れていく巨体の側面に『変異トリックスター』。
そこから人影が身を乗り出して2人に手を伸ばす。

 それはロキか。
均整の取れた美しい顔立ちは見る影もなく。
輝いていた黄金の瞳は両目ごと失い、顔にはぽっかりと口だけが残っていた。

 おそらく結晶化した2人が邪神と同化した膨大な闇のコントロールに必要だったんだ。
空を覆う枝葉のようだった腕も色を失って闇へと還り、形を失っていく。

「ハティ」

 俺は『変異トリックスター』によって変えられた2人を示した。
ハティはそれにこたえ、闇喰らいによって2人を人へと戻す。

 2人は意識を失ったままだけど、その肢体は人のものだ。
俺は小さく息をつく。
あとは。

 俺はロキへと視線を戻した。

「こんなところで……!」

 ロキは悔しさを滲ませていた。

「まだゲームはこれからだった。これからが本当のゲームだったのに」

「終わりだ、ロキ」

 俺は模倣した『変異トリックスター』で右腕を元の概念に。
腕を形作る書物のページを破って、俺に封印された『必中■■■■■』を露呈ろていさせる。

 俺はその力をクレイモアに宿した。
必中の力は目の前の個ではなく、ロキという存在全てを捉えた上で穿うがち滅ぼす。

「後悔するぞ」

 ロキが言った。
負け惜しみか。
でもどこか嘲笑あざわらうようにも聞こえた。

「断言する。ここでボクを殺せば必ず後悔する。ここでボクを殺すことは、ゲームのプレイヤーを失うことを意味するからだ。こまだけが盤面に残ってなんになる? 残されたこまは敵の操るこま蹂躙じゅうりんされるだけだ」

 俺は闇をまとわせたクレイモアを振りかぶった。
これで終わり。
あとはこの膨大な闇をなんとか処理すれば────

 俺は揺れる闇に目を向けた。
噴き出す闇の側面は気付くと鏡のようで、そこに俺の姿が映り込んでいて。
黒い鏡面。
俺を見つめる形のない、瞳。

 ピタリ、と。
闇がいだ。

 気体のような。
液体のような。
そんな流動的な闇が突然静止。
まるで時が止まったかのような錯覚を覚える。

 いで闇がロキへと伸びた。
その身体を闇の中へと引きずり込もうとする。

「っ!」

 ロキは黒いスライム質から残りの身体を構成すると共に飛び出した。
再び『変異トリックスター』を発動し、全身から魔物の羽を生やす。

 ロキは加速。
闇と俺達から逃れようと。

 だけど加速と最高速度ではるかに上回る男がこちらにはいた。

 黒い蒸気と青の炎を装甲から吐き出して跳躍。
アイゼンは瞬く間にロキへと肉薄する。

「逃がすかよ!」

 ロキの足を掴むとアイゼンは身体をよじった。
真下へと急加速して大聖堂の残骸へとロキを叩きつけ。
さらに瓦礫がれきを蹴ると、旋回しながら壁に。
床に。
再度壁に。
幾度となくロキを叩きつける。

 アイゼンはロキを掴んだまま、再び跳んだ。

「や、やめろ!」

 向かう先を察したロキが。

 だけどもう遅い。

 アイゼンはそそり立つ静止して闇の側面へとロキを叩きつけた。
ピタリとロキの身体が闇へと吸い付き、いでずぶずぶと闇に飲み込まれていく。

 ロキは闇から体を引き剥がそうともがくけど、闇は彼を掴んで離さない。
その手足が。
胴が。
そしてその頭がとぷん、と闇に沈む。

 おそらくロキの、最期。

「…………」

「リヒト?」

 スコルが俺を呼んだ。

「リヒト、なにやってんのよ」

 ハティも俺を呼んで俺の袖を引く。

 だけど俺は動かない。
俺へと視線を向ける闇から、目が離せない。

 闇は縮小を始めた。
辺り一帯に広がり、空を覆っていた闇が瞬く間に俺の目の前で凝縮されていく。

 俺を見て、自分の形を思い出したんだ。
漠然とそんなことを思う。

 見てていいのか。
このままでいいのか。

 俺は目の前の闇を前に今も動けない。

 闇はついに人型へと変わろうとしていた。
それでようやく俺は動く。
クレイモアを闇目掛けて振り抜く。

「『黒き十字を抱きて眠れダークグレイヴ』……!」

 十字の斬擊。
だけどその攻撃は瞬く間に闇へと取り込まれた。
いで闇が、穏やかな面持ちをで俺を見据える。

 すでにそれは形を取り戻していた。
真っ黒な肌と対照的な真っ白な髪。
そして俺と、瓜二つの顔。

『ロキめ。魔術書グリモワールをよりにもよってこの姿にしたか。悪戯いたずら好きなあいつらしいとも言えるが』
 
 全く知らない言語のはずなのに。
その音は頭の中で正しい意味へと変換された。

 解放した右腕がうずく。
目の前の男こそ、その獲物だと俺に訴えかけてくる。

 1000年前に封じられた伝説の邪神が真の姿で、甦ったのだ。 
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