【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

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破壊の化身

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 ゴブリンの竜騎兵達はロキの生んだ魔物を瞬く間に殲滅せんめつしていった。
与えた闇の剣で魔物を斬り裂き、ブラックドラゴンに装備させたむくろの爪が魔物を浄化して灰へと変える。

 だけどロキは際限なく魔物を生み出し続けていて。

 止むことのない魔物の雨。
やはりロキ本体を叩かないことにはどうしようもない。

 アイゼンとロードナイト、ビショップアーキテクトがロキへと攻撃していた。
だけどロキがあまりに巨大過ぎる。
受けた傷はロキの大きさから見たら、かすり傷。
そしてその傷も瞬く間に回復されていた。

『…………』

 大気が、震えた。

『……ォォォオオ』

 低いうなりと共に空間の闇が揺れ、視界がひずむ。

 ロキの身体が膨れ上がった。
大聖堂の下方から風船のような膨らみが上へ。
それが胸。
そして喉。
ついに口腔こうくうへと移動する。

 ロキは今にも溢れ出そうな闇を押しとどめ、圧縮。
いでそれを放つ。

「っ! かわせ……!」

 必死の命令権の行使。

 ロキの放った闇のブレスが空をいだ。
自身の生んだ魔物ごと、極大の黒の一閃がゴブリンの竜騎兵達を飲み込む。

 そのブレスははる彼方かなたの大地にも深いわだちを刻んで。
ロキがブレスを放ち終えたあと、しばらくの間を置いてそのわだちから闇が天高くいた。
真っ黒な闇の壁が空を覆うロキの身体にまで達し、さらに遅れて衝撃波が拡がる。

 ドン! という衝撃と共に聖堂都市を囲っていた防壁が揺れた。
頭上にあった雲が凄まじい勢いで押し流され、暴風が俺とフランに襲いかかる。

 俺はフランをかばうと、ロキを見上げた。

 自身のブレスに耐えきれずにひしゃげた頭部が再生し、その口許くちもとたのしそうに歪む。

「でたらめな威力だ」

 ヘルとニーズヘッグによる闇の攻撃とも比較にならない規模。

 俺も闇を蓄え続ければ同じ威力の攻撃だって使えるとは思う。
けど周囲から闇を集めていたんじゃ時間がかかりすぎる。
今、攻撃の撃ち合いになれば俺が負けるだろう。

 俺はクレイモアを見た。
黒き十字を抱きて眠れダークグレイヴ』でロキの闇を利用した斬撃でもおそらく出力不足。
闇の量が足りるまで奪い取ることもできるけど、それをロキが待ってくれるとも思えない。

『…………ォォォオ』

 再びロキからうなり。
大気を震わせて闇のブレスを────

「嘘……」

「正気か!」

 フランが絶句し、俺も歯をきしませた。

 ロキの全身にいくつもの顔。
そして吸い上げた闇がそれぞれの口腔こうくうに集められて圧縮される。

 全方位への攻撃。
ロキはこの国全てを滅ぼすつもりか。
だけど今のあいつはその気になればそれができてしまう。
あれはまさしく、破壊の化身だった。

 ロキの顔の1つが、俺とフランを見下ろした。
ブレスがこちらに狙いを定める!

「フラン、離れて!」

 俺はクレイモアに闇を集束させながら駆け出した。
周囲の闇を根こそぎ奪うつもりで。
だけど間に合わない。
間に合うわけがない。
それでも諦めるわけにはいかない!

 ロキは他の顔よりもこっちに狙いを定めた方に闇を集中。
真っ先に闇のブレスを放つ。

 視界がひずむ。
極大の闇が視界全てを覆って迫る。

 俺は闇を翼のように噴出してんだ。
暗黒の刃を振りかぶり、ロキの放つ闇のブレスへと渦を描きながら一閃。
クレイモアの切っ先がブレスを絡めとって。
ロキのブレスの闇を巻き込み、俺は闇を上乗せした斬撃のカウンターを放つ。

 俺の一撃はロキのブレスを押し返して。
だけどすぐに拮抗きっこう
いで押され始める。

 俺は今も周囲の闇を斬撃に加えているけど、闇の供給速度が違い過ぎる。

 さらに他のロキの顔もブレスに必要な闇の充填じゅうてんが────終わった。

「くそぉ!」

 俺は怒りにまかせてえた。
このまま国が滅びるのを止められない。
この聖堂都市に残った人々すらも。

 その時。
闇の中にいくつもの巨大な影。
巨大な、手。
灰色の腕が闇から現れてロキの顔を覆った。

 巨人の腕だ。
あれは。

「アンさん!?」

 ────低い地鳴り。

 俺達に向けて闇のブレスを放っていた顔も巨人の腕が覆い、ブレスが途切れて。

 ────揺れ動く大地。

 俺は闇の斬撃を押し込み、ロキへと一撃を叩き込む。

 見ると他の顔からはブレスが放たれようとしていた。
幾重にも取り付いた腕の隙間から闇が漏れ出し、形を維持できなく。

 だけど時間稼ぎは、足りていたようだ。

 ────大きく鎌首かまくびをもたげたのは山のいただき
一体化していた大地からその身体を引きがし、巨大な山脈がロキへと絡み付く。

 それは大蛇のようだった。
ロキの全身を締め上げ、ブレスをその巨体で封じ込む。

 俺はすぐにそれが何であるか悟った。
それはフェンリル、ヘルに並ぶ最後の魔物の将。

「あれが……ヨルムンガンド!」
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