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最後のチャンス
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「やはり来たか。困ったなぁ」
ロキが言った。
言葉とは裏腹に悪戯な笑みを浮かべている。
「ロキ様の邪魔をするな、リヒト」
「俺の邪魔をするなよ、リーンハルト」
俺はリーンハルトに言い返した。
「自分が何をしているのか分かってるのか。次期女王陛下と2人の王女を拐い、邪神の復活をさせようとしてる。仮にもお前は聖騎士団総団長の立場。最低限の誇りすら失ったか?」
「黙れっ!!」
リーンハルトが、吼えた。
伸び放題の無精髭に清潔感のないボサボサの髪。
目は血走って目元には濃い隈がある。
青筋を浮かべ、激昂する姿には俺を追い出した頃の余裕はない。
「私は選ばれた存在だった。生まれも、能力も! だが聖騎士団は終わりだ。全て無能な団員達のせい。あいつらせいで私は全てを失った。地位も、名声も! 何もかもをだ!」
「……いいや。全部お前のせいだ、リーンハルト。お前は選択を誤った」
俺はロキに視線を移して続ける。
「よりにもよってその男の言いなりになったばかりに、お前は全てを失ったんだ」
「違う。ロキ様だけが私を認めてくれた。私の能力を評価しない議会のクズどもが私を見下す中でも、ロキ様だけが私を評価し、チャンスを与えてくださった。今だって────」
リーンハルトは剣を抜いた。
「私は選ばれし光の属性の担い手。この力で貴様を屠り、私の有用性を再び証明してみせる。貴様、巷では暗黒剣士の名で知れ渡った|怪物だろう? 貴様の首とロキ様の後ろ楯があれば私は再び正当な評価を得られるんだ!」
「お前に俺は倒せない。あのヴィルヘルムですら俺に敗北した」
「ははは! あの老いぼれと一緒にするなよ。光の潜在量も出力も全て私が上なのだ。この光を見るがいい!!」
リーンハルトが高笑いをこだませた。
闇の中で、虚しく声が反響する。
「……はははは、は?」
リーンハルト動きがぴたりと止まった。
視線が虚空を見上げたまま固まる。
ここもスコルの光喰らいの射程範囲。
リーンハルトはその身に宿した光の全てを根こそぎ喰われたはずだ。
おそらく。
「お前はもう2度と光を使えない」
「…………そんな」
「お得意の光の属性もなしに俺と戦うつもりか? これが最後のチャンスだ。騎士としての誇りが欠片でもお前に残ってるなら、その矜持に従って成すべきことを成せ。それはロキに平伏して言いなりになることじゃないはずだ」
どんなに見下げ果てた悪党でも。
最後に心を入れ換えてくれるなら。
俺はこの男を決して許しはしないが、その罪を生涯かけて償っていくと言うのならその手助けくらいはしてやろうと。
でもこの男の性根は、俺が思っていたよりも腐りきっていた。
「ロキ様!」
悩む間もなく。
リーンハルトはロキに助けを乞う。
「使いなさい」
ロキが差し出した手から溢れ出す『変異』。
湧き水のように流れ出る黒いスライム質に、リーンハルトはためらいなく手を伸ばした。
次いでザン、と冷たい響き。
リーンハルトが視線をおろした。
その胸を貫いた俺の剣が見えるはずだ。
「言っただろ」
最後の、チャンスだって。
「次はお前だ、ロキ」
俺はロキを見据えて言った。
だけどロキは愉しそうに笑う。
「まだだよ。ボクのゲームはまだ、終わってない」
瞬間。
身動ぎ1つしなかったリーンハルトの首がぐるりと回った。
眼孔いっぱいに瞳がところ狭しと並び、眼球が肥大化して頭蓋骨を割る。
『──────!!』
キィキィと耳をつんざくような咆哮をあげ、光と共に衝撃波が巻き起こった。
俺は静かに頭上を見上げた。
見上げた先にはリーンハルトの成れの果て。
黄金の粒子を散らす巨大な白い三角の羽が6枚、大きく揺れていて。
羽の1枚1枚には大きな目のような模様があった。
ぐねぐねと蠢く白い胴体には金色の甲殻。
異様に長く細い腕が6本垂れ下がり、その先には3本の指で黄金の長剣が握られている。
羽のある背面に向けられた顔は巨大な蛾のようで、額からは人の手にも似た大きな触覚が伸びていた。
今は背面──人体だと正面だった方からは肋骨の名残のある甲殻が蝶の羽のように伸びている。
全身から柔らかな細く長い毛を垂らし、それが自身の羽ばたきに合わせて水中の中にいるように揺れていた。
『こレが私ノの姿。光の担イ手にニふサわしい天の御遣イノようだロウ』
異音混じりの声でリーンハルトが言った。
「天の御遣い? お前にふさわしい虫けらのそれだ」
俺の言葉にリーンハルトは小刻みに首をかしげた。
大きな眼にならぶ無数の青い瞳が怒りに染まる。
俺はクレイモアに闇を纏わせた。
その暗黒の剣を見てフランが目を丸くする。
「必ず助ける」
俺はフランに告げると、リーンハルト目掛けて剣を振るった。
蓄えた闇を放出し、長大な三日月型の斬撃を放つ。
ロキが言った。
言葉とは裏腹に悪戯な笑みを浮かべている。
「ロキ様の邪魔をするな、リヒト」
「俺の邪魔をするなよ、リーンハルト」
俺はリーンハルトに言い返した。
「自分が何をしているのか分かってるのか。次期女王陛下と2人の王女を拐い、邪神の復活をさせようとしてる。仮にもお前は聖騎士団総団長の立場。最低限の誇りすら失ったか?」
「黙れっ!!」
リーンハルトが、吼えた。
伸び放題の無精髭に清潔感のないボサボサの髪。
目は血走って目元には濃い隈がある。
青筋を浮かべ、激昂する姿には俺を追い出した頃の余裕はない。
「私は選ばれた存在だった。生まれも、能力も! だが聖騎士団は終わりだ。全て無能な団員達のせい。あいつらせいで私は全てを失った。地位も、名声も! 何もかもをだ!」
「……いいや。全部お前のせいだ、リーンハルト。お前は選択を誤った」
俺はロキに視線を移して続ける。
「よりにもよってその男の言いなりになったばかりに、お前は全てを失ったんだ」
「違う。ロキ様だけが私を認めてくれた。私の能力を評価しない議会のクズどもが私を見下す中でも、ロキ様だけが私を評価し、チャンスを与えてくださった。今だって────」
リーンハルトは剣を抜いた。
「私は選ばれし光の属性の担い手。この力で貴様を屠り、私の有用性を再び証明してみせる。貴様、巷では暗黒剣士の名で知れ渡った|怪物だろう? 貴様の首とロキ様の後ろ楯があれば私は再び正当な評価を得られるんだ!」
「お前に俺は倒せない。あのヴィルヘルムですら俺に敗北した」
「ははは! あの老いぼれと一緒にするなよ。光の潜在量も出力も全て私が上なのだ。この光を見るがいい!!」
リーンハルトが高笑いをこだませた。
闇の中で、虚しく声が反響する。
「……はははは、は?」
リーンハルト動きがぴたりと止まった。
視線が虚空を見上げたまま固まる。
ここもスコルの光喰らいの射程範囲。
リーンハルトはその身に宿した光の全てを根こそぎ喰われたはずだ。
おそらく。
「お前はもう2度と光を使えない」
「…………そんな」
「お得意の光の属性もなしに俺と戦うつもりか? これが最後のチャンスだ。騎士としての誇りが欠片でもお前に残ってるなら、その矜持に従って成すべきことを成せ。それはロキに平伏して言いなりになることじゃないはずだ」
どんなに見下げ果てた悪党でも。
最後に心を入れ換えてくれるなら。
俺はこの男を決して許しはしないが、その罪を生涯かけて償っていくと言うのならその手助けくらいはしてやろうと。
でもこの男の性根は、俺が思っていたよりも腐りきっていた。
「ロキ様!」
悩む間もなく。
リーンハルトはロキに助けを乞う。
「使いなさい」
ロキが差し出した手から溢れ出す『変異』。
湧き水のように流れ出る黒いスライム質に、リーンハルトはためらいなく手を伸ばした。
次いでザン、と冷たい響き。
リーンハルトが視線をおろした。
その胸を貫いた俺の剣が見えるはずだ。
「言っただろ」
最後の、チャンスだって。
「次はお前だ、ロキ」
俺はロキを見据えて言った。
だけどロキは愉しそうに笑う。
「まだだよ。ボクのゲームはまだ、終わってない」
瞬間。
身動ぎ1つしなかったリーンハルトの首がぐるりと回った。
眼孔いっぱいに瞳がところ狭しと並び、眼球が肥大化して頭蓋骨を割る。
『──────!!』
キィキィと耳をつんざくような咆哮をあげ、光と共に衝撃波が巻き起こった。
俺は静かに頭上を見上げた。
見上げた先にはリーンハルトの成れの果て。
黄金の粒子を散らす巨大な白い三角の羽が6枚、大きく揺れていて。
羽の1枚1枚には大きな目のような模様があった。
ぐねぐねと蠢く白い胴体には金色の甲殻。
異様に長く細い腕が6本垂れ下がり、その先には3本の指で黄金の長剣が握られている。
羽のある背面に向けられた顔は巨大な蛾のようで、額からは人の手にも似た大きな触覚が伸びていた。
今は背面──人体だと正面だった方からは肋骨の名残のある甲殻が蝶の羽のように伸びている。
全身から柔らかな細く長い毛を垂らし、それが自身の羽ばたきに合わせて水中の中にいるように揺れていた。
『こレが私ノの姿。光の担イ手にニふサわしい天の御遣イノようだロウ』
異音混じりの声でリーンハルトが言った。
「天の御遣い? お前にふさわしい虫けらのそれだ」
俺の言葉にリーンハルトは小刻みに首をかしげた。
大きな眼にならぶ無数の青い瞳が怒りに染まる。
俺はクレイモアに闇を纏わせた。
その暗黒の剣を見てフランが目を丸くする。
「必ず助ける」
俺はフランに告げると、リーンハルト目掛けて剣を振るった。
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