【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

文字の大きさ
上 下
87 / 101

再来

しおりを挟む
 俺は闇の剣を振り下ろした。
ヴィルヘルムが光をまとわせた剣でそれを受けると、結晶化するまで圧縮された剣の闇がほつれて拡散する。

 闇払いによって漂う闇は浄化され、斬り結ぶたびに白い灰が舞った。

 俺は両手に握った剣を交互に畳み掛けるように振るって。
剣が消耗して形を維持できなくなると、地面からそそり立つ新たな剣を手に取る。

「諦めろ、リヒト」

 ヴィルヘルムが言った。
それに俺は剣撃をもって答える。

 振り上げた闇の刃がヴィルヘルムをかすめた。
はらりと数本の髪が散る。

『闇さえあれば俺が誰よりも強い。邪神にだって負けはしない』

「かもしれないな。お前は強い。強くなった。騎士団全員の力で闇を抑え込んでようやく。純粋な一騎討ちなら私にもう勝ち目はないだろう」

 あっさりと。
あのヴィルヘルム様が────ヴィルヘルムが俺に勝てないと認めた。

『……っ!』

 俺目掛けて光の刺突。
流星のようなその剣閃をすんでのところで俺は回避する。

 ヴィルヘルムは突き出した腕を引き寄せると同時に俺へと迫って。
そのまま大きく弧を描いた振り上げを放った。
俺は闇の剣を交差させてその攻撃を受けるけど、勢いを殺しきれず後方に飛ぶ。

 力負けしている。
瞬発力はまだ俺の方が上だけど、それ以外のほぼ全てが生身ではヴィルヘルムの方がまさってる。

 やはり闇を操れないのは厳しい。
闇による身体強化が使えない今、俺自身の筋力だけで剣を振るっていた。
闇の剣に重さはない。
だから不馴れな俺でも双剣士のように2本の剣を操れてるけど、一撃の重さは劣る。

 だから手数と速度重視。
俺は渦を描くように旋回して剣を続け様に叩きつけ。
さらに最小の動きで回転。
逆手に返した剣の切っ先と、もう一方の切っ先を繰り出す。

 ヴィルヘルムは俺の剣を絡め取った。
手首のスナップと腕のよじりで俺の握る闇の剣の切っ先を束ね、そのまま下へと斬り払って。
ヴィルヘルムは俺の剣の側面へと踏み込むと、俺の剣を封じたまま前蹴り。
俺は胸を蹴られて後ろに吹き飛ぶ。

 俺は受け身を取ろうと空中で体をひねった。
同時に闇の剣の固体化を解いて目眩めくらまし。
闇と灰でヴィルヘルムの視界を奪う。

 鋭い風切り。
俺は着地と同時に横に跳んだ。
転がるようにして前へ。
その背後で光の刃が地面を斬り裂く。

 ヴィルヘルムはすぐに俺を捉えると目で追った。
素早く方向を変えて1歩。
素早い踏み込み1つで肉薄。
俺を再び剣の間合いに捉える。

 俺は後ろ手に地面に突き刺さる闇の剣を抜いた。
間一髪、ヴィルヘルムの剣を受け止める。
受け止めたけど。

 刃先へと集中させた光の刃が、触れた先から闇の剣を灰へと変えて断ち切った。
俺は肩口を深々と斬られる。

 血は出ない。
代わりに傷口は灰になって痛みすらも感じなかった。

 やむを得ない。

『ビショップアーキテクト。おりを、解き放て』

 ソードクライメイトを解放する。

 バラバラとおりが崩れ落ちた。
そこからソードクライメイトが這い出ると、けたたましい咆哮ほうこうをあげる。

 ソードクライメイトは跳んだ。
そのまま地面すれすれを滑空かっくうし、ヴィルヘルム目掛けて腕を振り下ろす。

 ヴィルヘルムは後ろに跳んで。
だけどその背後から黒い影。
回り込んだソードクライメイトの尾が鞭のようにしなり、ヴィルヘルムの背中を打つ。

ソードクライメイトの眼前へとはたき落とされたヴィルヘルムは、すかさず起き上がった。
横に跳んで追撃を回避する。

 ソードクライメイトはヴィルヘルムを目で追って。
すると視界に入った元聖騎士団員達に意識が逸れた。
闇払いを行う彼らに向かって『千剣ソード』の権能を発動する。

『当てるな』

 俺はソードクライメイトへと命令。
発現する剣が元団員達を避けた。
目の前をかすめた闇の刃を前に彼らの集中が乱れて。
闇払いにほころびが生まれる。

 俺は闇の剣を次々と抜いた。
それらを1つに束ねて長大な刃にし、ほころびの中心で剣を地面に突き立てる。

 俺は刃を深く深く、地の底へ向けて伸ばした。
大地を流れる闇と地上とを繋ぐ。
 
 元団員達はすぐに闇払いを再開するけど、もう遅い。
闇払いによって浄化できる量には上限がある。
剣を伝って、地下を巡る闇にまで俺は意識を拡げた。
掌握した闇を操る。

 大地に走る無数の亀裂。
そこから闇が、ほとばしる。

 視界を黒色の筋が垂れた。
1本、2本、3本と。
景色に絵筆を走らせるように、あらゆるものをくろが染めて染めて染めて。
全てを暗黒に閉ざしていく。

 光をたたえていたヴィルヘルムの剣が輝きを失った。
闇と相殺そうさいしあったか。

「いや、違う」

 俺の闇の触覚がそれを捉えていた。
完全な闇の中。
だけど確かに存在する、目には見えない強大な光の力。

 俺はすぐにその現象の理由を察する。
俺の使う技と真逆の現象だ。
闇を晴らして光を可視化させる偽装の光刃。
対してヴィルヘルムは光を完全に1点にとどめ、光を一粒たりとも逃さない。
周囲の光全てを剣に留めているんだ。

 俺はクレイモアを抜いた。
暗黒の刃を振りかぶる。

 縦に構えた俺と。
横に構えたヴィルヘルム。
真逆の軌跡を描く十字が再び衝突する。

「『御手が刻みし勝利の聖印グランドクロス』!」

「『黒き十字を抱きて眠れダークグレイヴ』!」







 俺はついに、あの聖堂都市の姿を仰ぎ見た。
闇に飲まれた大地の中で。
それでも光をたたえる因縁の地。

 防壁の門は開け放たれていた。
門のかたわらにズタズタのブラックドラゴンが横たわり、その身体が徐々に塵になって崩れていく。

「…………」

 聖騎士達も血溜まりの中で突っ伏していて。
同じくズタズタの身体は獣に襲われたかのようだ。
俺は点々と並ぶ騎士達のあとを追い、聖堂都市の中へ。
先に到着しているはずのハティとスコルを探す。

 俺は赤い輝きを捉えた。
赤い髪と尾を振り乱し、鋭い歯牙をいて飛びかかるハティの姿。
そして彼女を返り討ちにし、地面に叩きつける青の髪の少女。

「もう、ハティちゃんたら」

 そう言って青い髪の少女がわらう。

「そんなにあいつが好きになっちゃったの? ハティちゃん」

 馬乗りで石畳にハティを押さえつけ、青い尾をゆらゆらと揺らして。
くすくすくす。
スコルはいつものように、わらってる。
いつものように。
わら・・う。
わらう。
嘲笑あざわらう。

 いつもおどおどして見えて。
だけどその笑みに滲んでいた嗜虐しぎゃく性を、ようやく俺は理解した。

「…………」

 ゆっくりとスコルがこちらを振り向いた。
長い前髪の隙間から片目だけが覗いてる。

 スコルの視線を追ってハティも俺に気付いた。
泣きそうな顔を浮かべる。

「変態さんも馬鹿だなぁ、て思うよね? ハティちゃんがわたしを止めるの。わたしの方が強いのに。ハティちゃんがわたしに敵うわけないのにね」

 俺にそう言って笑いかけるスコル。
だけど笑みとは対照的に、その視線からはプレッシャー。
そしてその眼差しを俺は過去に見ている。
見たことがある。

「やっと正体を表したな、狼女」

 俺の背後からムニンの声。
だけど俺が振り向く前に、ぱくり。

 スコルがぱくっと口を閉じると、ムニンの姿がき消える。

 ハティと同じ空間補食。
そしてムニンのいた地点が真っ黒に染まった。
────いや、染まったんじゃない。
なくなった。
そこにあったはずの光が、消えている。

「光を……喰ったのか!」

 ハティが闇を喰うのに対して、スコルは闇を喰う事はしなかった。
ハティだけが特別なんだと思ってた。
でも違う。
ハティとスコルは表裏一体。
光と闇、それぞれに強い相性を持っていたんだ。

 光の筋が現れ、ムニンの輪郭りんかくをなぞった。
ムニンがその身体を再生させる。

 この光景に覚えがある。
つまりあの時ムニンを襲ったのはハティじゃない。

「スコルだったのか」

「だってわたしの敵だもの。わたし達の敵だもの。ねぇ、ハティちゃん」

 組み伏せたまま、スコルはハティの耳にそっとささやいた。

「変態さんこそなんでそのカラス達を連れてるの?」

「おいら達が同じ主に仕える同胞だからだ!」

 再生するムニンの身体を支えるフギンが言った。

「へぇ」

 スコルは呟くと口を大きく開けた。
再び空間の光を補食するつもりか。

「ダメ! 止めて! 今度のスコルの補食範囲は────」

 ハティが言い終えるより早く。

ぱくり。
それで聖堂都市の光の全てが、消えた。
空間に内在していた闇が視覚化され、瞬く間に魔物が湧き上がる。

 落ちた。
ついに聖堂都市が魔物の手に。

「わたしは忘れてないよ」

 彼女はそう言って指先で自分の片腕の付け根と片足首。
いで首。
最後に自身を両断するように頭から胸、腰へと指を走らせたのを闇の触覚が捉えた。

 完全な闇の中。
いでそこに灯った青い炎が1つ。
それは瞳。
スコルの瞳から青い炎が燃え上がっていた。
彼女は銀色に変わった前髪をかきあげ、いつも髪に隠れていた片目をあらわにする。

 俺はその眼差しを知っている。
青く燃えた瞳はあの魔物の象徴だ。

 俺はクレイモアを構えながらその名を叫ぶ。

「フェンリル……!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...