【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

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王国騎士の悪夢②

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「畳み掛けろ!」

 私は叫ぶと同時に細剣の切っ先に水の属性を集中。
刺突と同時にその力を放った。
合わせるように土の属性をまとった聖銀の砲弾。
風の矢じり。
炎の渦が重なる。

 複合属性の一撃は再生途中のゴブリンの半身を吹き飛ばした。
続く連撃がゴブリンの身体を灰へと変える。

 肉片ひとつ残さず灰に。
どんな再生能力を持っていようと、ここから再生はできな────

「…………っ」

 ひきつった声が出た。

 漂う灰の中であの巨大な戦斧せんぷが揺れて。
空中に現れた闇が周囲の灰を取り込みつつ人型を。
そしてその不確かな影は、まだ実体の再形成もままならないうちに地面を蹴っておどりかかってくる。
 
 っ!
まず……い!

 私は。
他の多くの団員も。
とっさに防御を。
属性の壁を。

 そして轟音ごうおん
気づいた時には幾重にも折り重なった属性の障壁が純粋な膂力りょりょくだけでまとめて引きちぎられていた。
戦斧せんぷが巻き起こした風が嵐のように吹き荒れて私達を襲う。

 私は腕を交差して突風に耐えた。
重ねた腕の陰からゴブリンを凝視する。

 異様なあの再生能力にも仕掛けがあるはず。
ゴブリン種でその能力を持つ魔物を見たことはないが、状態を共有する魔物がああいったデタラメな回復を見せる事がある。

 私は眼鏡のフレームとレンズに刻まれた刻印に属性を塗布。
ルーンによる神秘を起動した。

古に失われた技術『ルーン』。
今人類が保有するのは遺物に刻まれて現存する少数の
ものだけだ。
私はその力をもって魔物の能力を見抜く。

「時間を稼いでください。私がゴブリンの能力を解析します!」

 私が言うと団員達が私の前へ。
彼らは私の盾となりながら魔物へと攻撃を放ち続ける。

「解析? 変わった力だな」

 ゴーレムが、喋った。
やはりあのゴーレムは人語を解する。

 団長様の攻撃に防御だけを行っていたゴーレムもついに動いた。
凄まじい炎と黒の蒸気を吐き出したまま、腕を振りかぶる。

「させるかよぉ!」

 動かれるよりも早く。
複数の土属性使いが属性を束ねて。
ゴーレムの下方から隆起りゅうきする最高硬度の岩の牙。
さらにその頭上にも膨大な質量の牙を生んだ。
2つがゴーレムをその歯牙に捉える。

 噛み合う岩に押し潰されてゴーレムの姿が消えた。
わずかな隙間から炎と蒸気が噴き出している。

「いくら硬いって言っても限度があるだろ!」

「身動きは封じた。このまま捻り潰してやる!」

 凄まじい圧力を加える岩が、ギュムギュムとおよそ岩から発せられるとは思えない怪音を上げた。
少しずつ岩と岩の隙間が細くなり、ついには完全に閉じられる。

 通常の能力行使では再現できない硬度の結晶。
それを可能にするのは防衛のために王都の各所に仕込んだ特殊鉱石群。
王都には防衛のために騎士団の能力を十二分に引き出すための備えが施されているのだ。

 岩の中から鈍く金属音が響いた。
おそらくそれはあの硬質な装甲が潰れる音だ。

 また響く。
さらに響く
幾度となく、金属音が響く。
だがそのリズムが一定な事に違和感を覚えた。
そして今もガチン、ガチンと。

 その時。
岩と岩の裂け目から光。
その光は岩へと広がり、硬質な岩の牙が真っ赤に赤熱。
さらに白く発光。
固体を維持できなくなった岩が水泡のように弾けて。

「なっ……!?」

 内側から岩が崩壊し、紅蓮と暗黒の爆炎が辺りを照らした。
その輝きに視界が染まる。
視界を奪われる。
そして一瞬で高まった爆音が耳鳴りへと転じて。

 私は衝撃に吹き飛ばされた。
五感がない。
未だ宙にいるのか地面に叩きつけられたのかも分からない。

 視界はまだ。
聴覚はまだ。
触覚もまだ。
先に回復したのは嗅覚と味覚。
口の中に鉄の味を覚えて。

「ぺっ」

 私は血反吐ちへどを吐き捨てた。
それが自分の顔にぴしゃりとかかる。

 触覚が戻ってきたようだ。
同時に平衡感覚を取り戻し、自分が横たわっているのにようやく気付く。

 だがまだ身体のダメージは把握できない。
私は重篤じゅうとくなダメージを負っている可能性を危惧きぐ
焦る気持ちを押さえて緩やかに首を左右に。
何か捉えられるものはないかと目を凝らす。

 視界も戻ってきた。
見えたのは私と同じように横たわる団員達。

 耳はまだ聞こえない。
そして耳から水の伝うような感触もする。
血。
鼓膜がやられたか……。

 私はゆっくりと上体を起こした。
身体の節々は痛むがまだ動く。
視認する限り致命的な傷も負ってなさそうだ。

 私は起き上がった。
周りの団員達もちらほらと立ち上がってきている。

 周囲は飛散した炎と立ち込める闇の蒸気に飲まれていた。
その闇の中で輝いて見えるのは高温をたたえるゴーレムの装甲。
凄まじい熱と威力を生み出したその身体は今にも溶け崩れてしまいそうだ。
そして未だ私達を頭上から見下ろすスケルトンの金の頭蓋ずがいと光輪のような角が禍々まがまがしいほどに厳かな光を放っている。

 私は水の属性をゴーレムに放って。

「風を!」

 同時に叫んだ。
 自分の声がわずかに頭の中で響く。

 私の声にこたえてか。
はたまた私の意図をんでか。
私の属性に風が加わり、それは温度を瞬く間に下げる。

「高温の身体を急速に冷却すれば自慢の装甲もただでは済まんだろ!」

 私はありったけの属性をその一撃に込める。

 ゴーレムは攻撃を前に動かない。
いや、動けないんだ。
やはり今あの装甲はもろくなっている。
奴にダメージを与える千載一遇のチャンス。

 だけど防がれる。
あのゴブリンだ。
やはり無音のまま。
空気の歪曲わいきょくで視界がひずんだ。
続けて突風にあおられる。

 再び姿を捉えたゴブリンは鎧の細部まで完全に再生を終えていた。
同時にひび割れたレンズ越しにその能力の深淵しんえんを視る。

「倒せるわけがない」

 私は膝をついた。
 ようやく捉えた異常な再生能力と凄まじい膂力りょりょくの正体を前に崩れ落ちる。

 あのゴブリンの能力の正体は言うなれば共有だ。
他の魔物──おそらく同じゴブリン種と何かしらの条件で契約を結んで共有状態に入る。
共有するゴブリンの能力を自身に加算し、同時に再分配。
工程の解明までは至ってないけど結論として共有状態のゴブリンがいる限りあれは不死なのだ。

 私は空を見上げた。

 その手の魔物の倒し方は基本2つ。
同時に倒すか──今回の場合は他の共有状態の魔物を倒すか。
あるいは、共有状態を断ち切る方法。

 私はルーンの力であのゴブリンから伸びる赤い糸が見えていた。
共有状態の魔物とそのゴブリンを繋ぐ糸。
それが空全てを覆い、四方へと広がっていた。
いったい何百、何千、何万の魔物が。
そしてそれら全てをほふるのも、今すぐ共有を断つのも不可能。

 ゴーレムが前へと踏み出した。
未だにその身体は赤熱して真っ赤に燃えているが、もう戦闘を再開しても問題程度に回復したということ。

 笑い声が、聞こえた気がした。
だけど私の耳は聞こえない。
なのに笑っているのが分かる。

 私は再び空を見上げた。
頭上のスケルトンがいつくしむような顔でカタカタとあごを震わせている。

 これほどの魔物が世界にはいたのか。
そしてこれらを束ねる暗黒剣士ダーク・フェンサーとはどれ程の。

 王国騎士として未だにあの3体に立ち向かう同胞どうほう達。
だが私はここからその姿を眺めていて分かる。
1人、また1人とどうしようもない絶望に飲まれていく。

 どうやらあの魔物達はこちらの命を奪うつもりはないらしい。
戦意を失った者への攻撃はない。
私は酷い屈辱くつじょくを覚えたと同時に、深く安堵あんど
そして大きく息をついた。
ゆっくりと、目を閉じる。






「フランが、さらわれた!? なんで!」

 俺はついにスコルの両肩を掴み、その身体を乱暴に揺さぶった。

「ふぇーん。だ、だからわたし1人じゃ無理って言ったのにぃ」

 スコルは泣きそうな顔で俺を見上げる。

「私をおとりに使ったようですね」

 そう言いながらアンさんは複製体の手で俺の手を掴んだ。
首を左右に振る。

「ごめん、俺のミスだ」

 俺はスコルの肩から手をどけた。
次いでその手にある『変異トリックスター』を見る。

「ロキの『変異トリックスター』。あそこの王族や貴族に紛れていたのか」

 あるいはその誰かを自分に変異させた。

「や、役に立つか分からないけど……少しでも手がかりがあった方がい、いいかもって」

 スコルが俺にその黒いスライム質を差し出した。

 ロキの追跡に使えるかも。
でもそれより今、優先すべき使い道はこっちだ。
俺は巨人となったアンさんを見上げる。
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