【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

文字の大きさ
上 下
83 / 101

王国騎士の悪夢①

しおりを挟む
 やはり暗黒剣士ダークフェンサーは闇払いに弱い。
そちらは聖騎士の十八番おはこ
私達、王国騎士にそれを効率的に行うノウハウこそないが、関係ない。

「副団長! 効いてます!」

「ええ、このまま押しきってください!」

 王国騎士の副団長である私は団員に答えた。

 先の連撃はさばかれましたが、背後の巨人をかばいつつの立ち回りは不利。
消耗を最小に抑えていようと、それでも武器にまとう闇は大きく減っている。

 もう1度4属性の複合攻撃を一斉に行えば。
少なくともあと2度の攻勢で暗黒剣士ダークフェンサーは戦闘能力を失う。

 限りある闇に対しての戦闘。
新入りのリヒトが操る光の属性があればもう少し楽に無力化できたでしょうが、彼は王女の護衛。
こちらに駆けつける素振りはない以上そっちを優先したのだろう。
魔物の襲来という緊急時、この混乱に乗じてよからぬ事を考える者もいるかもしれない。
惜しまれるが、間違った判断だとは思わないし責めもしない。

「副団長!」

 団員の1人が声をあげた。

 剣を構え直す暗黒剣士ダークフェンサー
このまま防戦に徹すれば敗北すると悟ったか。
攻勢に打って出るつもりのようだ。

「────はっ。困ってるみてぇだな」

 その時。
どこからともなく。
いや、空だ。
頭上からの声。
見上げた先には青い輝き。
そして空に溶けてたなびく黒。
その青と黒が閃きとなって迫って来るのを私は捉えた。

「っ! 全員、防御!!」

 私は水の属性を展開。
周囲の団員達も各々おのおのの形で防御の構え。

 続けて激しい衝撃。
何かが地面を穿うがち、衝撃波が拡散する。

 もうもうと立ち込めるのは熱を帯びた黒。
闇の蒸気だった。
周囲には衝撃で飛び散った青の炎が点々と燃えていた。

 急襲してきたのはゴーレム。
だが見たことのない鋼色の体躯をしていた。
人型として均整が取れて通常のゴーレムと比べて細身。
なのに先の一撃は並のゴーレムを遥かに上回るパワーを備えている。

 さらに頭上からはバサバサと羽ばたきの音。
ゴーレムを警戒しつつ見上げるとブラックドラゴンの姿があった。
さらにその背にはナニかが。
その正体を把握するよりも早くに、その影はドラゴンの背から飛び降りた。
ゴーレムと同じく、暗黒剣士ダークフェンサーの前に着地する。

 それは鎧を身にまとうゴブリン。
サイズは通常種と変わらぬ小型。
だがその手に携えているのはキングゴブリンの得物である巨大な戦斧せんぷ
身の丈を、自重すらも優に超えていそうな得物をそのゴブリンは軽々と構えている。

「あれは……なんだ?」

 2体の魔物を前にどっと冷や汗が吹き出す。
これまでの経験によって培われた勘が告げている、あのどちらもが私が今まで対峙たいじしてきたどんな魔物よりも強大であると。

 暗黒剣士ダークフェンサーに闇を回復される前に攻めきるのがベスト。
分かっているのに、私を含めこの場の誰もが動きを止めた。

 わずか1拍の間。
だが私を含め誰もがその一瞬が勝敗を分かつほど大きなものになると知っている。
知っていたのに。

 暗黒剣士ダークフェンサーが動いた。
描かれる魔法陣を見て、しまったと思う。
さらに後手に回ってしまった。

 魔法陣からはさらなる魔物の影が這い出してきた。
白いローブに金色の頭蓋ずがいをしたスケルトン種。
一見、おごそかで神々しさすらあって。
だがだからこそ、その出で立ちの異様さにより恐怖を覚える。

 すでにいる2体と同格の魔物がさらに増えた。

 そして金色のスケルトンは宙へと浮かんで。
その口から音ではなく情報として伝播でんぱする不気味な調べ。
福音ふくいんうたう冷たい光が私達を取り囲む。
その光から現れたのはむくろの山。
それも魔物のむくろを積み上げたものだ。
黄金色の光を散らす純白の輝きはやはり神々しく。
でもだからこそ異質。
だからこそ畏怖いふを覚えずにはいられない。

 気付いたら私達は暗黒剣士ダークフェンサーと巨人から光をまとう壁によって隔てられていた。
壁に囲われた私達は3体の魔物と向かい合う。

「ゴーレムにゴブリン、スケルトンだと?」

「だけどあの姿はなんだ? ブラックとも違う!」

暗黒剣士ダーク・フェンサーは魔物を操る。あれが奴の配下なのだな」

「新種の魔物は軒並み強力だと聞く。さらにこのプレッシャーは……」

 団員達に続いて、私は震える声で呟く。

「強大な魔物を従えて人にあだなすモノ。まさに邪神の再来か」

 私は剣を強く握り締めた。
あれはやはり王国全体の脅威。
どうあっても倒さなければならない。

「……っ」

 なのに私も。
他の団員も動けない。

「────怯むな。我ら王国騎士は国の守護者。えある盾ぞ。ほまれある剣ぞ。国にあだなす魔物の脅威、ここで討たずしてなんとする」

 響き渡ったのは騎士団長様のお声。

 完全な無色透明でありながら光を反射して拡がるのは騎士団長様の操る水の属性だ。
それが巨大な炎のように立ち昇った。
レズモンドの白炎にも劣らぬ、けがれ払う清浄の水。

 騎士団長様の水の属性はきらりと光を反射すると、次の瞬間にはその姿を完全に消して。
同時に相対あいたいする3体の魔物が吹き飛んだ。
不可視の激流が魔物達を飲み込む。

「やったか!」

 団員から声が上がった。

 だが私はうめき声を漏らして。

「……普通の魔物なら一撃必殺のはずだぞ!」

 やはり化け物。
スケルトンは周囲に光を展開して相殺そうさい
ゴーレムは全身から炎と黒の蒸気を吐き出して水の属性を寄せ付けない。
唯一ゴブリンは鎧にダメージを負い、肉体も分解されている。

 ゴブリンは戦斧せんぷを構えた。
噴き出す闇が刃を覆い、腐食と錆がパラパラと崩れ落ちる。

 ゴブリンは目に見えない激流に抗って1歩前へ。

「ほう、動くか」

 騎士団長様が呟いた。
続けてその手を縦に払う。

 ザン、という音が響いた。
騎士団長様の操る激流が一条の刃となってゴブリンの身体を縦に斬り裂く。

「おお! さすがは騎士団長様!」

 思わず感嘆が漏れた。
やれる。
倒せない相手じゃない。

「やれるぞ! 相手の能力と弱点を見切ればあとの2体も倒せる! 騎士団長様に続け!」

 私は叫んだ。

 騎士団全体に沸き起こった希望。

「……なっ?!」

 そしてそれを覆す絶望。

 身体を両断されたゴブリンの身体が再生していた。
瓦解した鎧も時が巻き戻るように修復されていく。

「バカな!」

 あの騎士団長様でさえ、目の前の光景に同様を隠せない。

 再びゴブリンが戦斧せんぷを構えて。

 絶望が、始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...