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王座に就くのは
しおりを挟む「さて、何を企んでいるのかしらね」
どこから引っ張り出してきたのか。
怪しげな儀式書を持ち出し、それに則って王位継承者を決定しようだなんて。
かなり古く、由緒と曰くのある王位継承の儀の1つ。
相手の絶対命令権を王が持つ性質を利用して、私──リーネ=ヒルデガルドを押さえ込みたいのでしょうけど。
「レズモンド、あなたはこれをどう見ますの?」
「さぁ。私には分かりかねます」
私の問いかけにレズモンドが適当に答えた。
「不敬よ。私が問いかけたのだもの。もう少し考えなさい」
そう言って私は金貨数枚をレズモンドに押し付ける。
「金貨の枚数分、頭を働かせなさい」
レズモンドは金貨を受け取ると肩をすくめて。
「フェアな条件とは思わない方が良いでしょう。リーネ=ヒルデガルド殿下の勝利は御身が王となること。対してあちらの勝利は殿下を王にさせないこと。まず2対1で数の不利がある。その儀を選んだのも敗者の封じ込めだけでなく、何か裏の思惑がある可能性も考慮すべきでしょうね」
「例えば?」
「その継承の舞台に立つのが王女殿下ら3人だけではなく、他の人間が含まれる場合は十中八九、何か企んでいるでしょう。儀式はあくまでルールの強制のための仕組み。極端に言えば王の血を継ぐものという言い回しをして、舞台に上げた王家の遠い血筋を王にする事や結託する事もできます」
「私《わたくし》はあちらから提示されたルールで継承の儀に挑まなければならない。となると私《わたくし》ができるのはあちらの用意するルールとその裏を予想することと────」
私は、にやりとほくそ笑む。
ついに迎えた王位継承の儀。
多くの貴族や王族達が見守る中で。
だけどその舞台の中心に立つのは2人だけ。
俺──リヒトとレズモンド、パトリックが舞台の端で護衛として控えていて。
そしてパトリックはローラ=アレクシア王女の肖像画を抱いている。
ローラ=アレクシア王女は継承の儀を前にして暗殺されたという報せが国中を騒がせた。
首謀者は間違いなく、彼女。
見るとリーネ=ヒルデガルド王女は堂々と舞台に立っていて。
その顔には揺るぎない自信。
自分が王になると信じて疑わない顔だ。
対してフランの佇まいはどこか頼りなく。
だけどその表情は毅然としている。
「それではこれより、古き伝統のもと新たな王位継承を定める儀式を執り行う」
国に仕える最高位の神官によって儀式はついに、始められた。
神官は閉ざされた封を切り、中から今回の儀式のために定めたルールが記された書を取り出す。
「ここに集う3人の姫から次期女王を選出する」
神官の言葉に周囲からどよめきが走った。
今舞台の中心に立つのは2人の王女だけ。
パトリックの抱えるローラ=アレクシア王女の肖像に視線が集まる。
あのルールは定められてから今まで保管されていた。
暗殺があったあとも3人という記述が残っているのは別におかしな事じゃない。
そのあともいくつかのルールが読み上げられた。
ただ結局は王女の中から誰が王に相応しいか、彼女達の中で決定するというものだ。
「残念だったな」
レズモンドが俺に言った。
「あの状況でうちの殿下が動かないはずがない。2対1の数の不利はなくなった」
「…………」
俺は何も言わず、視線もレズモンドには向けない。
まだ悟られるわけには、いかないから。
リーネ=ヒルデガルドはいかに自分が王に相応しいかを集まった王族と貴族に説く。
第1王女の彼女は元々王位継承権も1位。
王政についての教育も受けている。
対してフランは最も王位継承権の低かった4位。
そういった政には明るくない。
少なくとも周囲の空気はリーネ=ヒルデガルド王女を強く推すものになった。
この空気の中で、それでも自分こそが王に相応しいのだと主張する事はできるけど……。
「それではここで1度問う。王に相応しいと思うのは?」
神官が2人に訊ねた。
「もちろん、私ですわ」
リーネ=ヒルデガルド王女の言葉と共に。
舞台を囲う魔法陣が強く光を放った。
闇の気配が漂う。
「…………」
フランは顔を伏せ、口を閉ざしていた。
「エーファ=フランシスカ第4王女殿下。貴女は自身が王に相応しいと思いますか?」
神官がフランに改めて問う。
それにフランはふるふると首を左右に振る。
「いいえ」
「…………では、リーネ=ヒルデガルド第1王女殿下こそ王に相応しいと思いますか」
リーネ=ヒルデガルド王女はフランの手を取った。
「大丈夫ですわよ。私の可愛いエーファ。私が王になった暁にはこれ以上無益な争いは生ませませんわ」
フランはリーネ=ヒルデガルドを見た。
満面の笑みを浮かべる彼女を前にして言い放つ。
「いいえ」
フランは自身とリーネ=ヒルデガルド王女が王位に就くのを、否定した。
再び周囲にどよめきが広がる。
「どういうつもりですの」
リーネ=ヒルデガルド王女がフランを睨んだ。
その視線をフランは青い瞳でまっすぐ受け止める。
同時に1つの人影が舞台の中心へと、進み出た。
フランと同じ青の瞳のその人物は、息をつくと兜を取り去る。
顔の右半分に毒によって青紫色の痣が刻まれた麗人。
無骨な騎士の鎧に身を包む彼女だが、その佇まいには高貴さが滲み出ていた。
パトリックは──ゾーイ=パトリシア第3王女は高らかに言う。
「ここに集いし3人の姫が1人。ゾーイ=パトリシア・ロア・ギングスブライドは、我こそが王に相応しいと宣言する!」
ゾーイ=パトリシア王女の言葉と共に、魔法陣の輝きが強まった。
「あ、ありえませんわ」
頭を振るリーネ=ヒルデガルド王女。
死んだと思っていた第3王女の登場。
あまりにも突然の事に王族と貴族達の混乱は極まった。
ゾーイ=パトリシア王女は毒を盛られて。
だけど一命を取り留めていた。
そしてローラ=アレクシア王女が彼女の正体を隠し、護衛の騎士という偽りの姿を与えていたのだ。
困惑しているリーネ=ヒルデガルド王女。
次いで彼女はハッとしてフランを見る。
「お待ちなさい!」
リーネ=ヒルデガルド王女はフランを止めようと。
「────私はゾーイお姉さまが次期王に相応しいとここに認めます」
だけど間に合わなかった。
呪詛が巡る。
魔法陣の輝きが最高潮に達し、3人の王女の胸に呪詛の刻印が浮かんだ。
同時に闇の気配。
一見それは光のよう。
だけど俺にだけ分かる。
それは俺の使う偽装の光刃と同じ性質。
紛い物の光がゾーイ=パトリシア王女を飲み込んだ。
闇は彼女に『王』と『生け贄』の権能を与える。
俺は目の前で起こった事が理解できる。
知っている。
これは俺が魔物を生むのと同じ工程。
それを人間を礎に行っていた。
おれがアイゼンを魔物として深化させたのと、とてもよく似ていて。
古くから王家に伝わる数多の儀式書と。
俺と。
俺が何者であるか。
その答えにたどり着くピースの1つが、カチリとはまった。
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