【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

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王位継承権

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 リーネ=ヒルデガルド王女は悠然ゆうぜんと歩みを進め、フランの座る隣の椅子に手をかけた。
堂々とそこに腰掛け、ひじ掛けに腕を置いて足を組む。

「さぁさぁ、どうぞ話の続きを。可愛いエーファと可哀想なローラの2人が何を話していたのか、わたくしとても興味がございますわ」

「……っ」

「…………えっと」

 拳を強く握ったローラ=アレクシア王女と、困惑するフラン。

 沈黙が部屋を支配すると、リーネ=ヒルデガルド王女は俺を見た。

「ねぇ、リヒト。2人はなんの話をしていたのかしら、教えてくださらない?」

「…………」

「まぁいいわ」

 俺も無言を貫いていると、リーネ=ヒルデガルド王女は頬杖をついて。

「ならわたくしから話をいたしましょう」

 そう言って口許くちもとをにやりと歪める。

「誰が王位を継ぐか、確定させませんこと? 今はわたくし達、姉妹全員に優先度の差はあれど権利がある。わたくしが第1位、ゾーイが消えてローラが第3位から第2位、そしてフランが第4位から第3位に繰り上がりました」

「ゾーイに毒を盛らせたのはあなたでしょうに……!」

「ローラ、今なにかおっしゃいまして? よく聞こえなかったわ」

 リーネ=ヒルデガルド王女は余裕の笑みを浮かべる。

「クズめ」

「あら、ローラったら品のない」

 くすくすと笑うリーネ=ヒルデガルド王女。
彼女は部屋の入口に立つレズモンドに目配せ。
それにこたえてレズモンドがローラ=アレクシア王女に迫る。

「そしてわたくしへの侮辱ぶじょくは極刑ですわ」

「寄るな、俗物」

 その時。
迫るレズモンドの腕をパトリックが掴んだ。
兜の隙間からレズモンドを睨む。

「王国騎士でもないただの騎士風情ふぜいがレズモンドに勝てるとでも?」

「ただの王国騎士風情ふぜいが王女殿下に手を出していいとでも? リーネ=ヒルデガルド王女殿下の護衛といえど、その身分と権限は変わらん。をわきまえろ」

「レズモンド」

 俺はレズモンドに鋭い視線を向けた。
クレイモアの柄にゆっくりと手を伸ばす。

 レズモンドは俺とパトリックを交互に見ると肩をすくめた。
主であるリーネ=ヒルデガルド王女に視線を移す。

「やりなさい」 

「御意」

 瞬間。
レズモンドの手が腰の剣へ。

 いで激しい金属音。
見ると抜きかけのレズモンドの剣にパトリックの抜いた剣の刃が食い込んでいた。
レズモンドが剣を抜こうとしても、刃ががっちり噛み合っていて抜けない。

「……っ!」

 パトリックは片手でレズモンドの剣を封じつつ、一方の手に小型のナイフ。
潜ませていた暗器をリーネ=ヒルデガルド王女目掛けて投げ放つ。

「おっと」

 その行く手にレズモンドの手。
その手のひらに高濃度の白い炎が灯り、ナイフが切っ先から炎に飲まれて灰になる。

 交わるパトリックとレズモンドの視線。
レズモンドは剣に炎をまとわせた。
同時にパトリックは剣に水の属性をまとわせる。

「フラン!」

 交わった2つの属性が絡みあってほとばしった。
俺はフランの身の安全を最優先に。
素早く彼女の手を引いて体を引き寄せると、抱き抱えて距離をとる。

 レズモンドとパトリックは睨みあったままだった。

「リヒト様、今です」

 ローラ=アレクシア王女が言った。
俺に加勢しろと言っている。
けど俺は暗殺だの、そういうのに手を貸すつもりはない。

「残念。リヒトは手を貸してはくださらないようですわよ」

 リーネ=ヒルデガルド王女が言った。
相変わらず俺の表情を読むのが早い。
そんなに俺は顔に出てるのだろうか。

「リヒトん、止めて!」

 フランが言った。

 すかさず俺は十字剣から光を飛ばして。
薄暗い部屋の中を偽装の光刃が閃く。

 狙いはパトリックとレズモンドの間。
2人は俺の放った光を見ると、互いに後ろへと跳んで回避。

 俺、パトリック、レズモンドの護衛3人と。
フラン、ローラ=アレクシア王女、リーネ=ヒルデガルド王女の3人の姫がそれぞれ視線を交わす。

「可哀想なローラ。あなたの味方はその騎士だけですわ」

「俺はリーネ=ヒルデガルド王女殿下の味方をするつもりもない。双方、剣を納めろ。パトリックもだ」

 俺は光を放つクレイモアを構えて言った。

 レズモンドは剣を納めた。
だけどその柄には手を置いたまま。

 そしてパトリックは剣を構えたままだった。

「エーファ、なんで。あの女を仕留めるチャンスだったのに」

 ローラ=アレクシア王女が仮面越しにフランを見つめる。

「姉妹で殺し合いをするなんてやっぱりおかしいよ。私は誰も死んでほしくないし、争ってほしくない!」

 フランは目に涙を溜めて言った。
そして俺も同意見。
俺はフランに回した手に力を込め、俺も同じ気持ちだと言葉は発さずに伝える。

わたくしもエーファと同意見ですわ」

「どの口が」

「そんなに怖い顔をしないでほしいわ。いえ、その仮面の下の顔が今はどうなっているのかは存じませんが」

 リーネ=ヒルデガルド王女があおると、ローラ=アレクシア王女はギリ、と歯をきしませた。
同時にパトリックの剣にまとった水が激しく逆巻く。

「でも姉妹での殺し合いを望んでないのは本当ですわ。わたくしの心も痛みますし、そうすればお父様が悲しみますもの。だからこその提案ですわ」

「王位継承者の決定してどうするつもり? 仮に私かフランに継承が決まったとき、あなたはおとなしく退く? そんなはずはないわ」

わたくしの意思とは別に。わたくしに国をおさめてほしいと願う誰かが、暗殺なんかをくわだててしまうなんて事が起きるかも知れませんわね」

「つまりは私とフランの永久的な王位継承権の剥奪した上で自身が王の座にくと」

 リーネ=ヒルデガルド王女がにこりと笑った。

「認められるはずがない!」

 パトリックがいきどおる。

 そして話は終始平行線。
リーネ=ヒルデガルド王女は話し合いに飽きるとレズモンドを伴って去っていった。

 今後フランのためにどう動くべきか思案していると、俺あてに手紙が届いた。
差出人の名前はない。
そしてその中身も簡素なもので。

 “お求めの情報、ございます。”

 と、一文だけ添えられていた。
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