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謀略の王女
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「──どうぞ」
中から女性の声。
俺は扉に手をかけ、フランと共に部屋の中へ。
その部屋は薄暗く、部屋の中心には天蓋つきのベッド。
そのベッドには女性の姿があった。
顔を仮面で覆い隠した女性には高貴な気配が漂っていて。
フランに確認するまでもなく、彼女がローラ=アレクシア王女殿下に違いない。
「お久しぶりですね、エーファ」
「お久しぶりです、ローラお姉さま」
ローラ=アレクシア王女殿下にフランが答えた。
「お初にお目にかかります、ローラ=アレクシア王女殿下。エーファ=フランシスカ王女殿下の護衛の任に就いております、王国騎士所属のリヒトと申します」
俺は深々とお辞儀。
その姿勢のまま向こうの言葉を待つ。
「お噂はうかがっております。あのリーネの護衛を務めるレズモンドとの勝負で勝利した、希代の光の属性の担い手とか。出没していた魔物の脅威からも鮮やかに民を救ってくださったと」
それは噂が一人歩きしている。
適正属性を除けば間違ってるわけでもないけど、あの反応は明らかに事実以上のイメージを俺に持っている。
「畏れ入ります」
けどここは変に否定したりはしない。
俺は平民の出で作法にまだ疎いんだ。
どんな無礼を働くか分からないから、極力交わす言葉は少ない方がいい。
「立ち話もなんですので。どうぞ、お掛けになって」
ベッドから少し離れた位置に2つの椅子があった。
そしてベッドと椅子の間には護衛と思われる騎士が1人。
だけどその鎧や服の意匠は王国騎士のものではないように見える。
「彼は私の護衛のパトリック」
ローラ=アレクシア王女殿下が示すと、パトリックは一礼。
その顔は兜で隠されていたけど、隙間から覗く目から端正な顔立ちなのがうかがえた。
おそらくかなりの美男子だ。
少し小柄にも思えるけど、もしかしたら若いのかも知れない。
フランが椅子に座った。
俺はその後ろに立ち、背後で腕を組んで控える。
「リヒト様もお掛けになっていただいてよろしいですよ」
「ご配慮、痛み入ります。ですが私はエーファ=フランシスカ王女殿下の護衛の途中ですので」
「そうですか」
ローラ=アレクシア王女殿下がうなずいた。
「それでローラお姉さま。今回はどういったお話を」
「フラン、あなたとあなたの騎士様を信用して単刀直入に申しますね。リーネ=ヒルデガルドの、暗殺を共に成してきただきたいのです」
「な」
「お姉さま?!」
「し、声を荒らげないで」
ローラ=アレクシア王女殿下は人差し指を唇の位置で立てる。
「ご自分が何を言っているのか分かってるのですか……!」
声をひそめながらも語気を強めてフランが言った。
「ええ。彼女には常に王国騎士の中でも屈指の強さを誇るレズモンドが護衛に就いていて手が出せなかったけれど、リヒト様のお力をお借りできれば勝機は十分にあります」
冷たい声とは裏腹に。
布団に乗せていた手には力がこもり、わなわなと震え出した。
くしゃくしゃに布団を握り締める。
それは怒りか、それとも恐怖か。
声の抑揚を抑え、顔を覆い隠した今の彼女からそれを推し量るのは難しい。
「リーネ=ヒルデガルド──あの女は危険です。それはフランもよく分かっているはず。私達姉妹はあの女によって命を脅かされています。私は賊に襲われて顔と心に消えない傷を受け、ゾーイは毒を盛られました」
ゾーイ。
おそらくゾーイ=パトリシア第3王女のことだ。
毒を盛られて亡くなったと聞いている。
「そしてフランも。あなたが王城を出たのも身の危険を感じたからこそ。今ここで成さなければ私達姉妹と国民にも安寧はありません。長く城に仕えてくれていた侍女も彼女によって不当な処刑を受けました」
「それは……」
フランが口ごもった。
「ごめんなさい。フランを責めたい気持ちは微塵もないし、あれはあなたの責任ではありませんよ。……これ以上の被害が出る前に、あの女は討たなければなりません。あれは闇と同じです。払うまでずっと悲劇と言う魔物を生み出し続けます」
「ですが」
フランは顔を伏せた。
「…………」
苦悩するフランの様子を、パトリックはじっと見つめていた。
兜の隙間から覗く青い瞳はどこか涙ぐんだようにも見えて。
「私達、仲良し姉妹だったはずなのにね。どうしてこうなっちゃったんだろ」
フランがぽつりと呟いた。
「────あらあら、なんのお話ですの?」
その時、扉の外から声がした。
誰もがその声を聞いて身構える。
開かれた扉の先。
そこには、にやりと笑みを浮かべたリーネ=ヒルデガルド王女が立っていた。
「リーネ……!」
ローラ=アレクシア王女の声には激しい怨嗟が滲んでいる。
「衛兵は何を」
リーネ=ヒルデガルド王女を前に。
パトリックが苦々しく言った。
するとリーネ=ヒルデガルド王女は横にずれて。
背後には壁や床に突っ伏す衛兵達と、パンパンと手を払うレズモンドの姿があった。
「可愛い妹達の密談。ぜひ私も混ぜてくださいな」
部屋へと憚ることなく踏み入ったリーネ=ヒルデガルド王女。
そのあとを追ってきたレズモンドは後ろ手にドアをパタン、と閉じる。
中から女性の声。
俺は扉に手をかけ、フランと共に部屋の中へ。
その部屋は薄暗く、部屋の中心には天蓋つきのベッド。
そのベッドには女性の姿があった。
顔を仮面で覆い隠した女性には高貴な気配が漂っていて。
フランに確認するまでもなく、彼女がローラ=アレクシア王女殿下に違いない。
「お久しぶりですね、エーファ」
「お久しぶりです、ローラお姉さま」
ローラ=アレクシア王女殿下にフランが答えた。
「お初にお目にかかります、ローラ=アレクシア王女殿下。エーファ=フランシスカ王女殿下の護衛の任に就いております、王国騎士所属のリヒトと申します」
俺は深々とお辞儀。
その姿勢のまま向こうの言葉を待つ。
「お噂はうかがっております。あのリーネの護衛を務めるレズモンドとの勝負で勝利した、希代の光の属性の担い手とか。出没していた魔物の脅威からも鮮やかに民を救ってくださったと」
それは噂が一人歩きしている。
適正属性を除けば間違ってるわけでもないけど、あの反応は明らかに事実以上のイメージを俺に持っている。
「畏れ入ります」
けどここは変に否定したりはしない。
俺は平民の出で作法にまだ疎いんだ。
どんな無礼を働くか分からないから、極力交わす言葉は少ない方がいい。
「立ち話もなんですので。どうぞ、お掛けになって」
ベッドから少し離れた位置に2つの椅子があった。
そしてベッドと椅子の間には護衛と思われる騎士が1人。
だけどその鎧や服の意匠は王国騎士のものではないように見える。
「彼は私の護衛のパトリック」
ローラ=アレクシア王女殿下が示すと、パトリックは一礼。
その顔は兜で隠されていたけど、隙間から覗く目から端正な顔立ちなのがうかがえた。
おそらくかなりの美男子だ。
少し小柄にも思えるけど、もしかしたら若いのかも知れない。
フランが椅子に座った。
俺はその後ろに立ち、背後で腕を組んで控える。
「リヒト様もお掛けになっていただいてよろしいですよ」
「ご配慮、痛み入ります。ですが私はエーファ=フランシスカ王女殿下の護衛の途中ですので」
「そうですか」
ローラ=アレクシア王女殿下がうなずいた。
「それでローラお姉さま。今回はどういったお話を」
「フラン、あなたとあなたの騎士様を信用して単刀直入に申しますね。リーネ=ヒルデガルドの、暗殺を共に成してきただきたいのです」
「な」
「お姉さま?!」
「し、声を荒らげないで」
ローラ=アレクシア王女殿下は人差し指を唇の位置で立てる。
「ご自分が何を言っているのか分かってるのですか……!」
声をひそめながらも語気を強めてフランが言った。
「ええ。彼女には常に王国騎士の中でも屈指の強さを誇るレズモンドが護衛に就いていて手が出せなかったけれど、リヒト様のお力をお借りできれば勝機は十分にあります」
冷たい声とは裏腹に。
布団に乗せていた手には力がこもり、わなわなと震え出した。
くしゃくしゃに布団を握り締める。
それは怒りか、それとも恐怖か。
声の抑揚を抑え、顔を覆い隠した今の彼女からそれを推し量るのは難しい。
「リーネ=ヒルデガルド──あの女は危険です。それはフランもよく分かっているはず。私達姉妹はあの女によって命を脅かされています。私は賊に襲われて顔と心に消えない傷を受け、ゾーイは毒を盛られました」
ゾーイ。
おそらくゾーイ=パトリシア第3王女のことだ。
毒を盛られて亡くなったと聞いている。
「そしてフランも。あなたが王城を出たのも身の危険を感じたからこそ。今ここで成さなければ私達姉妹と国民にも安寧はありません。長く城に仕えてくれていた侍女も彼女によって不当な処刑を受けました」
「それは……」
フランが口ごもった。
「ごめんなさい。フランを責めたい気持ちは微塵もないし、あれはあなたの責任ではありませんよ。……これ以上の被害が出る前に、あの女は討たなければなりません。あれは闇と同じです。払うまでずっと悲劇と言う魔物を生み出し続けます」
「ですが」
フランは顔を伏せた。
「…………」
苦悩するフランの様子を、パトリックはじっと見つめていた。
兜の隙間から覗く青い瞳はどこか涙ぐんだようにも見えて。
「私達、仲良し姉妹だったはずなのにね。どうしてこうなっちゃったんだろ」
フランがぽつりと呟いた。
「────あらあら、なんのお話ですの?」
その時、扉の外から声がした。
誰もがその声を聞いて身構える。
開かれた扉の先。
そこには、にやりと笑みを浮かべたリーネ=ヒルデガルド王女が立っていた。
「リーネ……!」
ローラ=アレクシア王女の声には激しい怨嗟が滲んでいる。
「衛兵は何を」
リーネ=ヒルデガルド王女を前に。
パトリックが苦々しく言った。
するとリーネ=ヒルデガルド王女は横にずれて。
背後には壁や床に突っ伏す衛兵達と、パンパンと手を払うレズモンドの姿があった。
「可愛い妹達の密談。ぜひ私も混ぜてくださいな」
部屋へと憚ることなく踏み入ったリーネ=ヒルデガルド王女。
そのあとを追ってきたレズモンドは後ろ手にドアをパタン、と閉じる。
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