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王国騎士執務嬢『アンさん』
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無事王国騎士の試験をクリアした帰りに。
「…………」
ジーッ、と俺を見つめるのはフランの青い瞳。
俺はその視線に気付きつつ今はスルー。
フランも同じ馬車に王国騎士がいるのを配慮してくれているようで、口にはしない。
でも圧が、凄い。
俺は何食わぬ顔を装いつつ。
でも内心、生きた心地がしなかった。
「────リヒトん?」
そしてフランの部屋へと戻ると、すぐにフランが俺に迫った。
「ねぇ、何あれ。私聞いてないんだけど!」
「属性の、こと?」
「そう! リヒトんって属性適正無しって言ってたよね? あれ、光の属性に見えたんだけど!」
実は。
隠してたけど。
実は。
急に使えるようになって。
どちらを答えるべきか。
「実は……急に使えるようになったんだ」
「ほほう」
怪しい、とフランの目が言っている。
「上位属性光は他の属性と違って分かってないことも多いみたいなんだ。実際俺も使えるようになるまでは自分が属性持ちだなんて思ってなかった。素養はあったけど上手くそれが発現していない状態……みたい、な? んと、実際俺の光を見たろ。ヴィルヘルム様やリーンハルトのと違って輝きがかなり弱かった」
偽造の光刃は際立たせる光を必要とするけど、辺り一面に日差しが降り注ぐ環境では十全にその輝きを発揮できない。
一番望ましいのは深い闇や夜闇の中で、リーンハルトの炎のような強い輝きがある状況だ。
「俺の光の属性がまだ不十分な証拠だよ」
「でも秘密にし続けた理由は? 後天的に属性が使えるようになったのは喜ばしいことだよ。でもそれをなんで隠してたの?」
「あー……ィゼン。そう、アイゼンさんだよ。あの人は属性適正者に強い敵意があったし、あとから光の属性に目覚めましたなんて言えなかった。パーティー名も『色無き刃』──火水風土光の5属性に次ぐ6番目の適正、無しを意味する名前だったし。後天的な属性の発現は俺も聞いたことがなかったし、絶対アイゼンさんなら認めないよ。あの人、頭固いしさ」
「……っくし」
突然のくしゃみ。
てかゴーレムの身体でもくしゃみが出るのか、と俺──アイゼンは思って。
んー、誰か俺の噂でもしてやがるのか?
そして、くしゃみでネジかボルトがずれた違和感。
俺はコンコンと、硬い頭を叩いて位置を直す。
「確かにアイゼンさんは頭固そう」
フランがうなずいた。
今は別の意味でもアイゼンの頭硬いけど。
「ほら。陰で俺を無適正者だと嗤ってたのかって突っかかってきそうでしょ。だから言えなかったんだ」
「ね、嘘はなしだよ? リヒトん。隠し事はしたくないし、されたくないの。だから。信じるよ? 信じて、いいんだよね?」
フランがまっすぐな瞳を俺に向けた。
「ああ────」
迷いなく返答。
なのに言葉を発してすぐに、ためらい。
フランなら、闇の属性適正者だって言っても俺を受け入れてくれるかもしれない。
いや、きっとそうだ。
だったら言うべき。
いや、言いたい。
闇の仮面越しじゃなく、俺の顔で。
俺の、声で。
俺はフランに手を差し出していた。
夜の姿がフランと交わすそれと同じ。
「じゃあ、信じるね」
フランが俺の手を取って。
少し小首をかしげるような動作で、にこりと笑って俺の顔を覗き込む。
言えなかった。
「…………リヒトん?」
フランの手を俺は握ったまま。
いや、まだ間に合う。
言わなきゃ、俺は本当は。
その時。
バン! と扉が勢いよく開いた。
思わず俺はフランの手を放す。
「見事王国騎士の試験を合格なさったみたいね。それも拠点防衛の試験で、相手取った王国騎士3人を倒して! さすがですわ。良くやりました。さすがは私のリヒト。私が目をかけてあげているだけはあります」
「お姉さま!」
「リーネ=ヒルデガルド王女!」
俺とフランは突然の訪問に警戒。
だけど本人は気にしない。
「晴れて王国騎士になれたのだもの。いい加減、私の誘いにうなずきなさい、リヒト」
「…………」
無言の俺。
「レズモンド」
「御意」
従えていたレズモンドがリーネ=ヒルデガルド王女に応える。
「まずは試験合格おめでとう、リヒト。これで晴れて君は、高給取りだ」
力強くうなずくレズモンド。
いや。
これは応えれてない。
王女はふるふると首を左右に。
「だけど安心するのは早い」
だけどレズモンドは王女を気にしない。
「賃上げの交渉は迅速に行うべき。最初の給金が確定する前に行わなければならない。またその辺の手続きを含め、申請すると得な制度というのもたくさんある。そしてそのほとんどがこちらから申請しないと機能しない。だから王国騎士の先輩として最初の助言は1つ。君専属の執務担当をつけることだ」
「────ということで、改めてお願いしますリヒトさん。王国騎士リヒトの専属執務嬢のアンです」
ギルドの受付嬢という呼称がそもそも俗称で。
そして執務嬢なんて言葉は聞いたことがない。
「フランさんからお話をいただいて嬉しく思います。またリヒトさんのサポートを精一杯やらせていただきますね!」
鼻息荒く。
両手を握り、ぶんぶんと拳を上下に振る。
「大丈夫なのか」
「大丈夫ですよ!」
しまった、思わず口に出てた。
ネガティブにならなくて良かった。
ギルドの受付嬢がいきなり。
それもアンさんが、王国騎士として仕える俺の執務を担うことになった。
会えなくなると寂しいとは思ったけど。
「これからは常に行動を共にさせてもらいますね」
ずっと一緒は疲れるなぁ、と。
愛想笑いの仮面の下で。
とても大きなため息をつく。
「…………」
ジーッ、と俺を見つめるのはフランの青い瞳。
俺はその視線に気付きつつ今はスルー。
フランも同じ馬車に王国騎士がいるのを配慮してくれているようで、口にはしない。
でも圧が、凄い。
俺は何食わぬ顔を装いつつ。
でも内心、生きた心地がしなかった。
「────リヒトん?」
そしてフランの部屋へと戻ると、すぐにフランが俺に迫った。
「ねぇ、何あれ。私聞いてないんだけど!」
「属性の、こと?」
「そう! リヒトんって属性適正無しって言ってたよね? あれ、光の属性に見えたんだけど!」
実は。
隠してたけど。
実は。
急に使えるようになって。
どちらを答えるべきか。
「実は……急に使えるようになったんだ」
「ほほう」
怪しい、とフランの目が言っている。
「上位属性光は他の属性と違って分かってないことも多いみたいなんだ。実際俺も使えるようになるまでは自分が属性持ちだなんて思ってなかった。素養はあったけど上手くそれが発現していない状態……みたい、な? んと、実際俺の光を見たろ。ヴィルヘルム様やリーンハルトのと違って輝きがかなり弱かった」
偽造の光刃は際立たせる光を必要とするけど、辺り一面に日差しが降り注ぐ環境では十全にその輝きを発揮できない。
一番望ましいのは深い闇や夜闇の中で、リーンハルトの炎のような強い輝きがある状況だ。
「俺の光の属性がまだ不十分な証拠だよ」
「でも秘密にし続けた理由は? 後天的に属性が使えるようになったのは喜ばしいことだよ。でもそれをなんで隠してたの?」
「あー……ィゼン。そう、アイゼンさんだよ。あの人は属性適正者に強い敵意があったし、あとから光の属性に目覚めましたなんて言えなかった。パーティー名も『色無き刃』──火水風土光の5属性に次ぐ6番目の適正、無しを意味する名前だったし。後天的な属性の発現は俺も聞いたことがなかったし、絶対アイゼンさんなら認めないよ。あの人、頭固いしさ」
「……っくし」
突然のくしゃみ。
てかゴーレムの身体でもくしゃみが出るのか、と俺──アイゼンは思って。
んー、誰か俺の噂でもしてやがるのか?
そして、くしゃみでネジかボルトがずれた違和感。
俺はコンコンと、硬い頭を叩いて位置を直す。
「確かにアイゼンさんは頭固そう」
フランがうなずいた。
今は別の意味でもアイゼンの頭硬いけど。
「ほら。陰で俺を無適正者だと嗤ってたのかって突っかかってきそうでしょ。だから言えなかったんだ」
「ね、嘘はなしだよ? リヒトん。隠し事はしたくないし、されたくないの。だから。信じるよ? 信じて、いいんだよね?」
フランがまっすぐな瞳を俺に向けた。
「ああ────」
迷いなく返答。
なのに言葉を発してすぐに、ためらい。
フランなら、闇の属性適正者だって言っても俺を受け入れてくれるかもしれない。
いや、きっとそうだ。
だったら言うべき。
いや、言いたい。
闇の仮面越しじゃなく、俺の顔で。
俺の、声で。
俺はフランに手を差し出していた。
夜の姿がフランと交わすそれと同じ。
「じゃあ、信じるね」
フランが俺の手を取って。
少し小首をかしげるような動作で、にこりと笑って俺の顔を覗き込む。
言えなかった。
「…………リヒトん?」
フランの手を俺は握ったまま。
いや、まだ間に合う。
言わなきゃ、俺は本当は。
その時。
バン! と扉が勢いよく開いた。
思わず俺はフランの手を放す。
「見事王国騎士の試験を合格なさったみたいね。それも拠点防衛の試験で、相手取った王国騎士3人を倒して! さすがですわ。良くやりました。さすがは私のリヒト。私が目をかけてあげているだけはあります」
「お姉さま!」
「リーネ=ヒルデガルド王女!」
俺とフランは突然の訪問に警戒。
だけど本人は気にしない。
「晴れて王国騎士になれたのだもの。いい加減、私の誘いにうなずきなさい、リヒト」
「…………」
無言の俺。
「レズモンド」
「御意」
従えていたレズモンドがリーネ=ヒルデガルド王女に応える。
「まずは試験合格おめでとう、リヒト。これで晴れて君は、高給取りだ」
力強くうなずくレズモンド。
いや。
これは応えれてない。
王女はふるふると首を左右に。
「だけど安心するのは早い」
だけどレズモンドは王女を気にしない。
「賃上げの交渉は迅速に行うべき。最初の給金が確定する前に行わなければならない。またその辺の手続きを含め、申請すると得な制度というのもたくさんある。そしてそのほとんどがこちらから申請しないと機能しない。だから王国騎士の先輩として最初の助言は1つ。君専属の執務担当をつけることだ」
「────ということで、改めてお願いしますリヒトさん。王国騎士リヒトの専属執務嬢のアンです」
ギルドの受付嬢という呼称がそもそも俗称で。
そして執務嬢なんて言葉は聞いたことがない。
「フランさんからお話をいただいて嬉しく思います。またリヒトさんのサポートを精一杯やらせていただきますね!」
鼻息荒く。
両手を握り、ぶんぶんと拳を上下に振る。
「大丈夫なのか」
「大丈夫ですよ!」
しまった、思わず口に出てた。
ネガティブにならなくて良かった。
ギルドの受付嬢がいきなり。
それもアンさんが、王国騎士として仕える俺の執務を担うことになった。
会えなくなると寂しいとは思ったけど。
「これからは常に行動を共にさせてもらいますね」
ずっと一緒は疲れるなぁ、と。
愛想笑いの仮面の下で。
とても大きなため息をつく。
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