【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

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できてしまうから、やってしまった②

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 闇を防御に回せば防ぐのは容易い。
でも。

「それじゃ勝てない」

 すでに双剣の女騎士は門へ向かって。
弓の騎士は砦目掛けて弓を構えていた。
隻腕せきわんの騎士だけは戦斧せんぷを振りかぶって俺を凝視。
足止めするつもりだ。

 俺は闇を操作。
防御よりも先に女騎士の行く手を遮るように光の壁を生む。
偽装の光刃の応用。
もちろん威力などはない。
ただのはったりブラフだ。

 それでも女騎士は足を止めた。
壁を破ろうと属性をまとわせた双剣を構える。

 俺はその隙に迫る4属性合体攻撃に対処。

 これは殺し合いというわけじゃない。
あくまで試験。
おそらく俺の剣の光量から計算して威力を調整してる。
俺ので打ち消し合える程度に。

 だから攻撃の威力的には大したことはなかった。
でも意図した事ではないだろうけど相性が悪い。

 4つの属性を束ねたそれは簡易的な闇払いの性質を帯びていた。
不浄を焼く火。
けがれを洗い流す水。
よどみを吹き飛ばす風。
そして土地を清める土。
これらの力を束ねた一撃を真っ向から相殺そうさいしたら闇を大きく消耗して継戦は困難だ。
だから俺はそのから攻める。

 俺はクレイモアの切っ先を地面に突き立てた。
闇を地下へと走らせて掌握し、それを立ち上らせる。

 闇によって合体攻撃のかなめである岩の刃を下から打ち崩した。

「マジか!?」

 さっきと同じセリフ。
だけどさっきのものと違って焦りが浮かんでいた。

 隆起りゅうきした大地の亀裂に沿って岩の刃が倒れて。
そこに1本の道を開いた。
隻腕せきわんの騎士へ続く道を俺は疾走。
クレイモアを振り抜き、迎え撃った隻腕せきわんの男の戦斧せんぷを両断する。

 すかさず俺は騎士の腕のない方へと回り込んで。
すれ違い様に属性を解いた白銀の刃で騎士の脇と片足を斬りつけた。
くぐもったうめき声と共に鮮血が舞う。

 得物を失い、傷を負った。
隻腕せきわんの騎士の戦闘続行は困難。
少なくとも、女騎士と弓の騎士を倒すまでの時間は稼げた。

 俺は下肢かしに闇を集中。
地面を蹴り抜く勢いで跳躍して女騎士に迫った。
同時に空中で白銀のクレイモアに闇を。
そしてその上から紛い物の光の刃を覆う。

 俺は片手でクレイモアを振り下ろした。
その刃を受け止める女騎士の水の刃。

「捕まえたよ」

 その時、女騎士がにやりと笑った。
見るとまとった水の属性が俺のクレイモアに絡み付いて離れない。
剣の自由を奪われる。

 女騎士はすかさず炎の刃でクレイモアの剣身けんしんを狙う。
刃を叩き折るつもりだ。

 だけどそうはさせない。
そのための、片手だ。

 俺は剣を握っていない方の手で炎をまとう刃を掴んだ。

「……は?」

 驚愕きょうがくする女騎士。

 レズモンドの炎ならこうはいかない。
けど女騎士は2つの属性に能力を分散させていて。
属性の同時使用は高等技術だけど威力を大きく損なっていた。
これなら闇をまとわせた手で直接掴んでも数秒はつ。

 俺は女騎士に足払い。
体勢を崩した彼女の腕を掴んだ。
同時にクレイモアを握る腕に力を込めて。
彼女の体を引くと同時に全力で剣を振り抜く。

 その勢いで女騎士は吹き飛んだ。
水の属性を引きちぎり、弓の騎士の方へと飛んでいく。

 すでに風の属性を大きく蓄えていた弓。
だけど射線上に女騎士がいては放てない。

 弓の騎士は攻撃をやめて女騎士を受け止めた。
いで女騎士の背後。
弓の騎士の死角から迫っていた俺に気付く。

「────」

 弓の騎士は何か言おうと。
だけどそんな隙も与えない。

 俺は空中で身をよじり、全力の振り下ろしを見舞って2人を地面に叩きつける。

 衝撃音と共に土煙。
俺はそのかたわらに着地すると、起き上がろうとする2人に剣の切っ先を向ける。

「まだやるか」

「はは、嘘よ。こんなの」

 女騎士が半ばあきれたように言った。

「いや、本当だったって言うべきね。あのレズモンドを負かしただなんて信じられなかったけど、今なら信じるわ。信じるしか、ない」

 女騎士も、弓の騎士にもすでに戦意はなかった。
隻腕の騎士に視線を向けると、彼も同様。

 俺は副団長に振り返った。
見ると副団長は口許くちもとを手で覆って。
どこか困惑してるように見える。

 なるほど。

 俺は納得した。
またこのパターンだ、と。
あまりに達成困難な条件を突きつけて。
おそらくこの試験は合格者を出すつもりがなかった。
何かの陰謀か誰かのプライドか何かか。
何にせよ俺は一部の人間の期待を逆に裏切ったというわけだ。

 俺は副団長に向かって歩いていく。
そっちが望もうと望むまいと俺は結果を示した。
不合格になんてさせない。

「試験の結果はどうでしょう」

 わざとらしくいてみる。
さて、なんと答えるのか。

「…………てなかった」

 副団長が小さく呟いた。

「考えてなかった。まさか3人を倒してしまうなんて想定外だ」

「つまり俺が合格しないようにしていたんですか? 王国騎士3人を相手に。そう言われても納得ですが」

「いや、そうじゃない」

「そうじゃない?」

 俺はあれ、と思う。

「私はそもそも! 3つの条件のうちどれか1つを王国騎士側が達成した段階で試験は終了と言ったが、不合格にするなんて一言も言ってない! あくまでそれまでの過程から能力を評価して合否を決めるつもりだったんだ!」

「あー……」

 言われて見れば砦の防衛を成功させると合格とも聞いてない。

「無論合格は合格だが、君は一体何者だ? ただのギルド上がりなんて嘘だ。剣の意匠いしょう的に聖騎士? だが君ほどの者がいれば噂くらい耳にするはすだぞ」

 怪訝けげんな眼差しを向けられる俺。
ようやくアイゼンが完全に仲間になってくれてそれほど経ってないのに、また新たに俺を疑う相手ができてしまった。

「はははは……」

 俺は副団長から目を反らし、乾いた笑いを漏らした。

 本来は想定してない、達成不可能な方の合格条件。
それなのに俺は。
できてしまうから、やってしまった。
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