【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

文字の大きさ
上 下
64 / 101

できてしまうから、やってしまった①

しおりを挟む
 王都へと半ば強引に連れられて4日。
王国騎士の試験を受けるために、俺は王都の郊外に来ていた。

 周囲は荒涼こうりょうとしていた。
あるのは試験科目である防衛対象の砦と大きな門扉もんぴだけ。
地面には戦いの傷が無数にあり、おそらく過去の試験の爪痕だ。
辺り一帯が荒れ果てているのもおそらくそのため。

「改めて試験内容の確認をします」

 金縁の眼鏡をかけた王国騎士が言った。
彼も装飾の一部が豪華になっていて。
遠目に見かけた時に確かフランが教えてくれた。
壮齢のこの男は王国騎士団の副団長だ。

「あなたには3人の王国騎士から砦の防衛を行ってもらいます。敗北条件は門を開け放たれる、砦の半分以上が損壊を受ける、砦の中に侵入を許すの3つ。そのうちどれか1つを王国騎士が達成した時点で試験終了となります」

 相変わらず無茶苦茶な条件だ。
3人の王国騎士を相手に拠点の防衛。
おそらくレズモンドと同等……少なくとも聖堂都市の聖騎士団団長クラス以上が3人も。
俺個人を狙った戦いなら3人を相手取ることも難しくないけど、狙いが俺じゃないとなると難易度が跳ね上がる。

「王国騎士は討伐などのこちらから攻める戦いよりも、防衛などの守りの任務が主となります。その適正を見るためのテストです。……ちなみにモンスターを使った試験でないのは、相手として不足・・だからです」

 副団長が目を鋭く細めて続ける。

「魔物の最上位であるブラックの位も王国騎士の適正を見定めるには力不足。あなたが入ろうとしている王国騎士とはそういう次元の世界なのです。王国騎士の適正を見定められるのはそれだけの実力を伴った者──すなわち王国騎士だけ」

「そういうことだ。やめるなら今のうちだぜ」

 副団長の後ろから声。
今回の試験の相手を務める王国騎士の1人だ。

 その男は隻腕せきわんだけど、残された腕とそこに繋がる筋肉が異様に鍛え上げられていた。
あまりに左右非対称な均整のとれてない身体。
だけどそれは1本の腕を最大限に武器とするために。

 隻腕せきわんになってどれほど。
いや、始めから隻腕せきわんであることを極め続けた。
そんな雰囲気すらある。

「推薦がエーファ=フランシスカ王女殿下なのはいいとして、その保証があのレズモンドだもの。どうせ金を詰まれてデタラメを言ってるのだわ。ギルド上がりがあいつの剣を折っただなんて、なんて冗談。新しい剣に買い換える口実ついでに決まってる」

 もう一人の試験相手が肩をすくめて言った。
彼女は額から胸にかけて大きな傷跡が走っていた。
傷の走る方の瞳は白く濁っていて光がない。
おそらく見えてない。
それでも瞳の奥に強い意志のようなものがギラギラと燃えている。

「…………」

 最後の1人は無言だった。
だけど引き結んだ表情で、2人よりもやる気に満ちて見える。

「大丈夫? リヒトん────ていても、リヒトんなら大丈夫って言うんだろうけど」

 心配そうな瞳。
でも少しあきれたように口許くちもとに笑みを浮かべて。
試験に同行したフランが言った。

 城の中にハティやスコルは入れない。
となるとフラン1人を城に残すのは危険過ぎる。

 だからフランには俺の実力を見てもらうためという口実で連れ出した。
王国騎士になればフランの意向もあって俺はフランの護衛になる。
ならその力を示したいし、示して欲しいと望むのは自然のこと。
フランの方とも口裏を合わせ、他の王国騎士も一緒だからと許可がおりた。

「うん。無茶はしないよ」

 俺はそう言うとクレイモアを抜いた。
所定の位置へと移動する。

 3人の騎士も砦から一定の距離をとったところで武器を構えた。
隻腕の騎士がハルバード。
女騎士が双剣。
3人目が弓を構える。

 俺はクレイモアに闇をまとわせた。
同時に偽装光刃で陽光を際立たせて闇の刃を隠す。

「それでは、試験開始!」
 
 副団長の合図と共に。
俺は全力で地を蹴った。

 土煙の尾を引いて肉薄。
真っ先に隻腕せきわんの騎士を狙う。

 3人を相手取って拠点の防衛を達成するには、速攻をかけて相手を素早く戦闘不能にするしかない。

「マジか」

 隻腕せきわんの騎士は目前に迫った俺を見下ろして呟いた。

められたもんだな!」

 斧槍ふそうの刃が俺目掛けて振り下ろされる。
俺はその刃を回避。
いで衝撃。
地面にクモの巣状に亀裂が拡がり、そこから無数の岩の刃がそそり立つ。

 技の範囲もさることながら、生み出された刃はただの岩じゃない。
無数の硬質な鉱石と。
そして聖銀を混ぜて構成されている。

 視界の隅でおどる炎。
揺れる水。

 女騎士と弓の騎士の属性か。

 だけど振り向いた先には女騎士だけ。
彼女は双剣のそれぞれに炎と水をまとわせている。

「多重属性!」

 ごく稀にいる複数属性持ち。
今まで多くの属性持ちを目にしてきたけど、同じく双剣を操る聖騎士団の団長以外で見たのは初めてだ。

 女騎士はまとわせた属性を隻腕せきわんの騎士の生んだ刃へと走らせた。
土の属性によって生み出された岩の刃がさらに2つの属性をまとう。

 さらに上へと空気の流れ。
見上げると姿を消していた弓の騎士が頭上に浮遊。
弓へと風を圧縮して放つ。

岩に、火に、水に、そして風。
4つの属性が合わさって俺に襲いかかる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...