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できてしまうから、やってしまった①
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王都へと半ば強引に連れられて4日。
王国騎士の試験を受けるために、俺は王都の郊外に来ていた。
周囲は荒涼としていた。
あるのは試験科目である防衛対象の砦と大きな門扉だけ。
地面には戦いの傷が無数にあり、おそらく過去の試験の爪痕だ。
辺り一帯が荒れ果てているのもおそらくそのため。
「改めて試験内容の確認をします」
金縁の眼鏡をかけた王国騎士が言った。
彼も装飾の一部が豪華になっていて。
遠目に見かけた時に確かフランが教えてくれた。
壮齢のこの男は王国騎士団の副団長だ。
「あなたには3人の王国騎士から砦の防衛を行ってもらいます。敗北条件は門を開け放たれる、砦の半分以上が損壊を受ける、砦の中に侵入を許すの3つ。そのうちどれか1つを王国騎士が達成した時点で試験終了となります」
相変わらず無茶苦茶な条件だ。
3人の王国騎士を相手に拠点の防衛。
おそらくレズモンドと同等……少なくとも聖堂都市の聖騎士団団長クラス以上が3人も。
俺個人を狙った戦いなら3人を相手取ることも難しくないけど、狙いが俺じゃないとなると難易度が跳ね上がる。
「王国騎士は討伐などのこちらから攻める戦いよりも、防衛などの守りの任務が主となります。その適正を見るためのテストです。……ちなみにモンスターを使った試験でないのは、相手として不足だからです」
副団長が目を鋭く細めて続ける。
「魔物の最上位であるブラックの位も王国騎士の適正を見定めるには力不足。あなたが入ろうとしている王国騎士とはそういう次元の世界なのです。王国騎士の適正を見定められるのはそれだけの実力を伴った者──すなわち王国騎士だけ」
「そういうことだ。やめるなら今のうちだぜ」
副団長の後ろから声。
今回の試験の相手を務める王国騎士の1人だ。
その男は隻腕だけど、残された腕とそこに繋がる筋肉が異様に鍛え上げられていた。
あまりに左右非対称な均整のとれてない身体。
だけどそれは1本の腕を最大限に武器とするために。
隻腕になってどれほど。
いや、始めから隻腕であることを極め続けた。
そんな雰囲気すらある。
「推薦がエーファ=フランシスカ王女殿下なのはいいとして、その保証があのレズモンドだもの。どうせ金を詰まれてデタラメを言ってるのだわ。ギルド上がりがあいつの剣を折っただなんて、なんて冗談。新しい剣に買い換える口実ついでに決まってる」
もう一人の試験相手が肩をすくめて言った。
彼女は額から胸にかけて大きな傷跡が走っていた。
傷の走る方の瞳は白く濁っていて光がない。
おそらく見えてない。
それでも瞳の奥に強い意志のようなものがギラギラと燃えている。
「…………」
最後の1人は無言だった。
だけど引き結んだ表情で、2人よりもやる気に満ちて見える。
「大丈夫? リヒトん────て訊いても、リヒトんなら大丈夫って言うんだろうけど」
心配そうな瞳。
でも少し呆れたように口許に笑みを浮かべて。
試験に同行したフランが言った。
城の中にハティやスコルは入れない。
となるとフラン1人を城に残すのは危険過ぎる。
だからフランには俺の実力を見てもらうためという口実で連れ出した。
王国騎士になればフランの意向もあって俺はフランの護衛になる。
ならその力を示したいし、示して欲しいと望むのは自然のこと。
フランの方とも口裏を合わせ、他の王国騎士も一緒だからと許可がおりた。
「うん。無茶はしないよ」
俺はそう言うとクレイモアを抜いた。
所定の位置へと移動する。
3人の騎士も砦から一定の距離をとったところで武器を構えた。
隻腕の騎士がハルバード。
女騎士が双剣。
3人目が弓を構える。
俺はクレイモアに闇を纏わせた。
同時に偽装光刃で陽光を際立たせて闇の刃を隠す。
「それでは、試験開始!」
副団長の合図と共に。
俺は全力で地を蹴った。
土煙の尾を引いて肉薄。
真っ先に隻腕の騎士を狙う。
3人を相手取って拠点の防衛を達成するには、速攻をかけて相手を素早く戦闘不能にするしかない。
「マジか」
隻腕の騎士は目前に迫った俺を見下ろして呟いた。
「舐められたもんだな!」
斧槍の刃が俺目掛けて振り下ろされる。
俺はその刃を回避。
次いで衝撃。
地面にクモの巣状に亀裂が拡がり、そこから無数の岩の刃がそそり立つ。
技の範囲もさることながら、生み出された刃はただの岩じゃない。
無数の硬質な鉱石と。
そして聖銀を混ぜて構成されている。
視界の隅で躍る炎。
揺れる水。
女騎士と弓の騎士の属性か。
だけど振り向いた先には女騎士だけ。
彼女は双剣のそれぞれに炎と水を纏わせている。
「多重属性!」
ごく稀にいる複数属性持ち。
今まで多くの属性持ちを目にしてきたけど、同じく双剣を操る聖騎士団の団長以外で見たのは初めてだ。
女騎士は纏わせた属性を隻腕の騎士の生んだ刃へと走らせた。
土の属性によって生み出された岩の刃がさらに2つの属性を纏う。
さらに上へと空気の流れ。
見上げると姿を消していた弓の騎士が頭上に浮遊。
弓へと風を圧縮して放つ。
岩に、火に、水に、そして風。
4つの属性が合わさって俺に襲いかかる。
王国騎士の試験を受けるために、俺は王都の郊外に来ていた。
周囲は荒涼としていた。
あるのは試験科目である防衛対象の砦と大きな門扉だけ。
地面には戦いの傷が無数にあり、おそらく過去の試験の爪痕だ。
辺り一帯が荒れ果てているのもおそらくそのため。
「改めて試験内容の確認をします」
金縁の眼鏡をかけた王国騎士が言った。
彼も装飾の一部が豪華になっていて。
遠目に見かけた時に確かフランが教えてくれた。
壮齢のこの男は王国騎士団の副団長だ。
「あなたには3人の王国騎士から砦の防衛を行ってもらいます。敗北条件は門を開け放たれる、砦の半分以上が損壊を受ける、砦の中に侵入を許すの3つ。そのうちどれか1つを王国騎士が達成した時点で試験終了となります」
相変わらず無茶苦茶な条件だ。
3人の王国騎士を相手に拠点の防衛。
おそらくレズモンドと同等……少なくとも聖堂都市の聖騎士団団長クラス以上が3人も。
俺個人を狙った戦いなら3人を相手取ることも難しくないけど、狙いが俺じゃないとなると難易度が跳ね上がる。
「王国騎士は討伐などのこちらから攻める戦いよりも、防衛などの守りの任務が主となります。その適正を見るためのテストです。……ちなみにモンスターを使った試験でないのは、相手として不足だからです」
副団長が目を鋭く細めて続ける。
「魔物の最上位であるブラックの位も王国騎士の適正を見定めるには力不足。あなたが入ろうとしている王国騎士とはそういう次元の世界なのです。王国騎士の適正を見定められるのはそれだけの実力を伴った者──すなわち王国騎士だけ」
「そういうことだ。やめるなら今のうちだぜ」
副団長の後ろから声。
今回の試験の相手を務める王国騎士の1人だ。
その男は隻腕だけど、残された腕とそこに繋がる筋肉が異様に鍛え上げられていた。
あまりに左右非対称な均整のとれてない身体。
だけどそれは1本の腕を最大限に武器とするために。
隻腕になってどれほど。
いや、始めから隻腕であることを極め続けた。
そんな雰囲気すらある。
「推薦がエーファ=フランシスカ王女殿下なのはいいとして、その保証があのレズモンドだもの。どうせ金を詰まれてデタラメを言ってるのだわ。ギルド上がりがあいつの剣を折っただなんて、なんて冗談。新しい剣に買い換える口実ついでに決まってる」
もう一人の試験相手が肩をすくめて言った。
彼女は額から胸にかけて大きな傷跡が走っていた。
傷の走る方の瞳は白く濁っていて光がない。
おそらく見えてない。
それでも瞳の奥に強い意志のようなものがギラギラと燃えている。
「…………」
最後の1人は無言だった。
だけど引き結んだ表情で、2人よりもやる気に満ちて見える。
「大丈夫? リヒトん────て訊いても、リヒトんなら大丈夫って言うんだろうけど」
心配そうな瞳。
でも少し呆れたように口許に笑みを浮かべて。
試験に同行したフランが言った。
城の中にハティやスコルは入れない。
となるとフラン1人を城に残すのは危険過ぎる。
だからフランには俺の実力を見てもらうためという口実で連れ出した。
王国騎士になればフランの意向もあって俺はフランの護衛になる。
ならその力を示したいし、示して欲しいと望むのは自然のこと。
フランの方とも口裏を合わせ、他の王国騎士も一緒だからと許可がおりた。
「うん。無茶はしないよ」
俺はそう言うとクレイモアを抜いた。
所定の位置へと移動する。
3人の騎士も砦から一定の距離をとったところで武器を構えた。
隻腕の騎士がハルバード。
女騎士が双剣。
3人目が弓を構える。
俺はクレイモアに闇を纏わせた。
同時に偽装光刃で陽光を際立たせて闇の刃を隠す。
「それでは、試験開始!」
副団長の合図と共に。
俺は全力で地を蹴った。
土煙の尾を引いて肉薄。
真っ先に隻腕の騎士を狙う。
3人を相手取って拠点の防衛を達成するには、速攻をかけて相手を素早く戦闘不能にするしかない。
「マジか」
隻腕の騎士は目前に迫った俺を見下ろして呟いた。
「舐められたもんだな!」
斧槍の刃が俺目掛けて振り下ろされる。
俺はその刃を回避。
次いで衝撃。
地面にクモの巣状に亀裂が拡がり、そこから無数の岩の刃がそそり立つ。
技の範囲もさることながら、生み出された刃はただの岩じゃない。
無数の硬質な鉱石と。
そして聖銀を混ぜて構成されている。
視界の隅で躍る炎。
揺れる水。
女騎士と弓の騎士の属性か。
だけど振り向いた先には女騎士だけ。
彼女は双剣のそれぞれに炎と水を纏わせている。
「多重属性!」
ごく稀にいる複数属性持ち。
今まで多くの属性持ちを目にしてきたけど、同じく双剣を操る聖騎士団の団長以外で見たのは初めてだ。
女騎士は纏わせた属性を隻腕の騎士の生んだ刃へと走らせた。
土の属性によって生み出された岩の刃がさらに2つの属性を纏う。
さらに上へと空気の流れ。
見上げると姿を消していた弓の騎士が頭上に浮遊。
弓へと風を圧縮して放つ。
岩に、火に、水に、そして風。
4つの属性が合わさって俺に襲いかかる。
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