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王国騎士団長

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 城はフランが戻った噂で持ちきりだった。
ずっと姿をくらませていた第4王女の突然の帰還。
さらにそれがおとこを連れて。
突然得体の知れないそいつを王国騎士にしようだなんて、城の人間からしたら納得できるものじゃない。

 城で働く兵士や騎士達の中にも王国騎士の栄誉を目指す者はたくさんいた。
そして王国騎士になるための試験を受けるには推薦が必要。

 それをもらうために実績を重ねようとする者。
あるいは地位のある貴族、王族や権限を多く持つ大臣達に取り入ろうとする者達がいて。

 王位継承権をめぐるリーネ=ヒルデガルド王女の暗躍だけでなく、城のあちこちで陰謀の臭いがする。

 フランが自分の身の安全のためにここを離れようとしたのもうなずけた。

「大丈夫? フラン」

「うん。大丈夫だよ、リヒトん」

 心なしか顔色の悪いフランに俺が声をかけると、フランは笑顔を浮かべて答えた。

「……ごめんね。急な事になっちゃって。あの場でリヒトんと引き離されるのは避けたかったの」

 きらびやかなドレスに身を包んだフランは、その輝きとは対照的に顔を曇らせている。

「気にしないで。俺もフランが心配だし、結果として王国騎士にも大きく1歩近づけた」

 リーンハルトは今も聖堂都市の聖騎士団総団長の座にいた。
改心して騎士団の方針を改めたなんて話も聞かない。
魔物の王ナハトとして強襲してリーンハルトをほうむるのは難しくないけど、あの男にはおおやけの場でその罪を糾弾きゅうだんしてやりたい。

「失礼します」

 ノックの音と共に扉が開いた。
そこには貫禄かんろくのある初老の騎士の姿。
レズモンドと同じ制服を着ていることから王国騎士。
さらに装飾の1部がレズモンドのものよりも豪華で、おそらく王国騎士の中でも地位のある人だ。

「君がリヒトか」

 低く響く声で初老の騎士が言った。

「私は君の目指す王国騎士の団長を務める者だ。レズモンドから君の実力は聞いている。職務態度に問題のある男だが、その腕は王国騎士の中でも5本の指に入るほどだ。そのあいつが君の能力を保証すると言っていた。なんでもあいつの剣を折ったとか」

 王国騎士団長は頬のひげを撫でて。
俺をつぶさに観察する。

「かなり鍛えられているな。力はあまり無さそうだが実戦で鍛えられた良い身体だ」

 ここは謙遜けんそんすべきか、自分を売り込むべきか。
俺は悩みながらも騎士団長に言う。

「エーファ=フランシスカ王女をお守りするためにも力が必要なので」

「……君はレズモンドのような王女の護衛になるつもりで王国騎士に?」

「実際に城に来て感じました。ここは危険です。そしてエーファ=フランシスカ王女は数少ない国の良心、民の味方。彼女の御身おんみをお守りすることがひいては国と国民のためになるかと」

「ふむ。それが本心なら良いが。王国騎士には大きな権力が与えられる。それを悪用しようとするやからの多い事よ。君がその1人でないよう願ってる」

「もちろんです」

 人々を救うという志も、フランを守るという想いにも嘘偽りはない。
少なくともリーネ=ヒルデガルド王女のような人間ではなく、フランのような人が人の上に立つべきだ。

 騎士団長はきびすを返した。

「これから会議があるので失礼いたします、王女殿下」

「会議? 珍しいですね。定例会以外に」

 フランがいた。

「闇を操る人型の魔物が現れたという噂はご存知でしょうか。それとレズモンドが戦い、敗れている。レズモンドを倒すほどの圧倒的な力。呼称『暗黒剣士ダーク・フェンサー』という大きな脅威が未だ野放しになっております。我ら王国騎士は国をおびやかすかの魔物を討つため動いているのです」

 暗黒剣士ダーク・フェンサー
俺の事か。

「彼の試験の日程と内容はこの会議を終えたあとに副団長と相談して決めます。明日のうちには騎士を通じてお知らせできるかと」

 騎士団長は俺を見て言った。
お辞儀をすると部屋をあとにする。

「リヒトん」

 フランが俺に声をかけた。

「今騎士団長が言っていた魔物の事だけど」

 その言葉に俺はドキリとする。
まさか正体がバレた? いや、それはないはず。

「……私は彼にも何度か助けてもらってるの。彼は魔物なんかじゃない。その闇を操る姿は恐ろしく見えるかも知れないけど、とても優しい人。だから、騎士団長の言葉を鵜呑うのみにしないで欲しいの」

「うん、分かったよ」

 真剣な眼差しで、俺自身に俺が危険ではないことを伝えるフラン。

 俺はどこか可笑おかしく思うのと同時に、俺の事をどこまでも人として扱ってくれるフランの言葉に嬉しくなる。
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