【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

文字の大きさ
上 下
61 / 101

ユグドラシルの根

しおりを挟む
 ある日の夜。
俺はゴブリン・ロードナイトからの報告を受けていた。

障海しょうかいの跡地周辺の闇の濃度が下がってる?」

『王ガ死者ノ国ノ主ヲ討伐シテカラ、障海しょうかいノ闇ハ瞬ク間ニ薄レマシタ』

「あれだけの高濃度の闇、供給源を経ってもしばらく残ると思ってたけど」

『偵察ニ向カワセタ同胞どうほうガ戻ラナイノモ気ガカリデス。王ニ報告ヲ済マセタ後、われガ直接おもむクツモリデシタガ』

「俺も行こう」

『御意』
 
 俺は周囲の闇を操作。
生み出したブラックドラゴンの背にまたがる。

「おれも行くー」

 一緒にいたムニンが言った。
ぴょんぴょんとジャンプするけど、ドラゴンの背に全く届いてない。

 俺は手を差し出した。
ジャンプしたムニンの手を掴むと引っ張り上げる。

「おー」

 ご満悦な様子のムニン。

 俺はムニンを前に座らせた。
抱えるようにして前に手を伸ばし、竜の首の付け根を掴む。
 
「……乗らないのか」

 たたずむロードナイトに言った。

『王ト同ジ竜ニまたガルナド恐レ多ク』

「そうか」

 俺はブラックドラゴンの首を軽く叩いた。
ブラックドラゴンが吠えると空へと飛び立つ。

 ロードナイトは飛翔した竜の足に飛び付いた。
宙吊りのまま一緒に障海しょうかいの跡地へ。

 夜の闇に溶け込むように、音もなく闇夜をかける黒き竜。
眼下をいくつかの小さな村や町が過ぎ去り、目の前には山脈がそびえる。

 風を切って気持ち良さそうなムニンは鼻歌交じり。

「わー、おっきいね!」

 そして山脈を見ると感嘆かんたんの声をあげた。

「ドラゴンで空飛んだってフギンに自慢してやろ」

 ふひひ、と笑う。

 山脈を越えると、遠目に障海しょうかいがうっすらと見えてきた。
最後に見たときは一面青黒い瘴気を立ち上らせる闇の海が広がっていたけど、今は巨大な窪地くぼちになって。
その中心は夜の闇を裂くように明るく輝いて見える。

「光? ロードナイト?」

『アノヨウナ光ノ報告ハ、アリマセン。上カラ俯瞰ふかんシテヨウヤク見エマシタ。オソラク地上カラ確認デキル距離デハ』

「浄化される、か。だから配下のゴブリンが戻らなかったのか」

 光は今も明滅して揺れていた。
その発生源はなんなのか、確かめなければならない。

 俺はブラックドラゴンを旋回させ、徐々にその距離を詰めさせる。

 それは大地から溢れているように見えた。
土地そのものが光を放ってるようにも感じられる。

「これ以上はやめた方がいいよ」

 ムニンが言った。

「見た目より効果範囲が広いよ。あの辺でゴブリンが灰になってる」

 ムニンが指差した先に視線を向ける。
おそらくムニンは過去を辿る能力というのでその光景をた。
ロードナイトが偵察に向かわせたゴブリン達が灰になったという地点は、まだ夜闇に包まれているように見えるのに。

おうヨ』

 これ以上の接近が難しそうな距離まで来たところでロードナイトが言った。

「頼めるか」

『御意』

 ロードナイトは短く答えると飛び降りた。
光の方向へと落下。
まだ光から距離があるにも関わらず、その鎧と身体が灰に変わる。

 ムニンの言った通りだ。
ムニンがいなければドラゴンが灰になっていた。

 ロードナイトは権能『騎士ナイト』によって再生。
また灰へ。
浄化と再生を幾度となく繰り返してようやく着地した。
着地の土煙か彼の灰か分からない粉塵ふんじんの中からロードナイトが姿を現す。

 先へと進む身体は浄化と再生のせめぎあいだ。
鎧ががれ落ち、皮膚が溶けると筋肉がほつれて。
き出しの骨格はスケルトン種を彷彿ほうふつとさせる。

 ロードナイトはついに光の中心部に到達。
光に飲まれた小さな影は、頭上へとその得物をかかげた。
闇をまとう巨大な戦斧せんぷが大地へと振り下ろされる。

 戦斧せんぷを中心に大地に亀裂。
亀裂は瞬く間に広がり、地の底から光と共に大きな影が現れた。

 それは巨大な植物。
木の根のようにも見えた。

「あれは」

「ユグドラシル──世界樹の根だよ」

 ムニンが言った。

「強い瘴気を帯びた闇で封じ込めてたみたいだけど、その闇が消えて活性化したんだ」

 あの膨大な光の発生源はムニンが世界樹と呼んだ木の根。
その光が瘴海しょうかいを満たしていた闇と反応して、あれほどの闇がこんなにも早く消滅したってことか。

「戻れ、ロードナイト」

 俺はロードナイトに告げた。
言葉が届く距離ではないけど、俺の命令は言葉ではなく意識として届く。

 光の発生源は分かった。

 光の及ばない地点に降り立ち、ロードナイトを回収して今夜の探索を終える。

 去り際に背後を振り返ると、木の根はその範囲を少しずつ広げているように見えた。

 強い光を帯びた木の根。
うまく扱えれば闇と魔物の驚異から人々を守のに役立てられそうだけど。

「…………」

 俺は視線を前へと戻して。
そびえる山脈は、あの光とは対照的に闇々くろぐろとして見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...