【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

文字の大きさ
上 下
57 / 101

俺はその剣技を知っている

しおりを挟む
 元聖騎士?
そして試す?

 俺は青年の顔を注視。
精悍せいかんな顔つき。
歳は俺より少し上……アイゼンくらいに見えて。
だけどその顔に覚えはない。

 聖堂都市のとは別の聖騎士団にいたのか。
それもそう。
そもそも光の属性適正者はヴィルヘルム様とリーンハルトしか俺は知らない。

「リヒ────」

『黙って』

「…………」

 アイゼンが俺の名前を堂々と口にしようとしたの止めた。

 魔物への命令権がアイゼンにも発生していた。
使いたくはないけど今のは仕方ない。

『いいよ』

「ナハト、ここは俺に任せて先に行け」

 ちゃんと今度は俺の夜の名前。
そしてそうしたいけど問題がある。

『でもアサルトアーマードが戦ったら屋敷の人間にバレる』

 ボルトが起動するのも炎と蒸気を噴き出すのも。
どれもかなり大きな音だ。

「時間を稼ぐぐらいならこの装甲と素の腕力だけで十分だ」

 アイゼンがそう言って拳を握った。

 確かにアイゼンの身体は硬質なゴーレム種の中でも突出した強度。
並の攻撃なら傷もつかない。
でも相手は光の属性適正者だ。

『光は闇を中和する。1擊や2擊なら無傷でも、闇の濃度を下げられて弱体化した部位はかなり脆くなる』

「お前の十字斬と似てるな」

 あれは元々ヴィルヘルム様の必殺技を模した技。
特性が似てるのは当然だ。
違うのは中和に自身の光も消耗するのと、奪った闇で威力を高められる点。

 光は闇によって操作を乱されることもる。
対魔物では闇の属性の方が使い勝手は上だ。

 俺は闇をまとわせたクレイモアを抜いた。
大剣に偽装した真っ黒な刃を青年に向ける。

『俺達に人間と敵対する意思はない』

「そのつもりはなくても人間にあだなす事もある。その意志とそれを貫くだけの力があるかどうか、その剣で語ってみせろ、よ!」

 青年が駆け出した。
滑らかな光の軌跡を描いて。
だけどその足さばきは鋭く、1歩踏み出すごとに鋭さを増す。

 振るわれる光の刃。

 俺は闇の大剣で光の斬擊を受け止めた。
その剣閃をなぞるように。
ボロり、とクレイモアに纏わせた闇が一筋がれ落ちて。
そこからさらに闇が崩れ落ち、クレイモアの剣身けんしんの一部が露呈ろていする。

 俺は闇の大剣で青年の剣を弾き返した。
渾身の力で振り抜き、青年ごと吹き飛ばす。

 青年は空中で身をひるがえした。
剣の切っ先を地面に突き立てて勢いを殺して。
着地と同時に地を蹴って再び向かってくる。

 地を這うような低い姿勢。
左右にステップを織り交ぜて。
描く光の軌跡が稲妻のように折れ曲がる。

 大きく折れ曲がった光が俺の背後へと周り込もうとするのを追って俺は旋回。
だけどそこに、青年の姿はなかった。

「後ろだ!」

 アイゼンの声。
同時に風切り。

 俺は振り向き様に大剣を振るった。
迫る青年の剣を弾く。

 光で俺の注意を引いて、最後に光が大きく折れ曲がった時に光だけを走らせたのか。
そして自分は夜闇に紛れ、光を追った俺の背を狙ったんだ。

 青年は再び剣に光を灯した。
俺は振り下ろされる刃を受け止めようと。
だけど見上げた青年の剣とは別に、光。

 いで腹部を襲う衝撃。

『蹴り!?』

 俺は思わず叫んだ。
剣に多くの光をまとわせたままで威力はそれほどない。
だけど身体にまとわせていた闇の一部ががれ落ちた。

 全体の光量自体がおそらくそれほど多くない。
リーンハルトの方が光の絶対量は上。
この青年はあいつみたいに目立った大技を使うこともなく。
だけど恐ろしく戦い慣れてる。

 途中から俺は闇による周辺把握を発動。
視覚に惑わされることなく青年の動きを捉える。
だけどこれがなかったら光の剣の攻撃の全てを防げてない。
剣術に体術を織り交ぜ、フェイントも上手い。
間違いなくかなりの手練れ。

 俺は青年を殺してしまわないよう配慮はしてる。
闇の濃度もここは高くない。
明らかに俺が不利な勝負なのは前提として。
それでもこの青年は油断ならない。

「ナハト!」

 アイゼンが叫んだ。
拳を振りかぶり、俺に加勢しようと跳躍。

 青年はアイゼンを横目見た。
その瞳がギラリと光る。

 剣にまとう輝かしい光。
その光が剣身けんしんに。
刃先に。
そして切っ先へと集中。
圧縮された光が真白ましろの刃となった。

 青年は剣を両手で握り締め、上段で構えた。

 まっすぐ天へと伸びる剣も。
その剣の握りから筋肉の弛緩しかん強張こわばり。
その全て。
俺はその構えに覚えがあった。
今この男が放とうとしている技を。
俺はその剣技を、知っている。

『まずい……!』

 俺は闇を圧縮。
大剣に偽装していた闇の密度を高め、暗黒のクレイモアを振りかぶった。

 俺と青年の剣は全くの同時。
振り下ろしと横ぎ。
ぎと振り上げ。
白と黒の剣閃が、全く真逆の軌道を描いて。
光と闇の十字が交わる。

『『黒き十字を抱きて眠れダーク・グレイブ』……!!』

 俺の放つ暗黒の十字を迎え撃って。

「────『御手が刻みし勝利の聖印グランドクロス』」

 刻まれた光の十字が辺りを白く染め上げる。






「逃げられたか」

 俺は剣を鞘に納めた。
真っ白な前髪をかき上げる。

「どこに逃げたか、おいらならすぐにれるぞ!」

 フギンが言った。
自慢げに胸を張る。

 フギンならすぐにあの2体──いや、2人を見つけるだろうが。

「いや。光を大きく消耗したし、今夜はここまでだな」

 俺はわしゃわしゃとフギンの頭を撫でてやった。

「ムニンもどこまで辿って・・・いったか分からないし、まずはムニンを探そう。存外ムニンの方もあいつに行き着いてるかも知らんしな」

「えー」

 不満げなフギンを尻目に俺は伸びをした。
肩を回す。

「じゃあ、おんぶ」

 フギンが両手を広げる。

「じゃあ、の意味が分かんないし。それにおんぶは腰が……」

「腰?」

「ああ、この身体なら大丈夫なのか」

  俺は自分の右手を見た。
全盛期の頃の肉体へと戻された俺の手は、見慣れた傷とシワまみれの手じゃない。
つやと張りのある若者の手だ。

「……あいつ、強くなってたな。対魔物ならもう俺より強いだろ、あれ」

 あいつの闇の十字と俺が放った光の十字の威力はほぼ同等。
だけどあいつは周囲の闇に比例して力を増す。
場所が場所なら間違いなく完敗してた。

「行くぞ、フギン」

「えー、おんぶは?」

 俺が屈むのを、ずっと両手を広げて待っていたフギン。
フギンは不満そうな顔で、とことこと俺の後ろを追ってくる。

「待ってって。ヴィルヘルムぅ」

 肩越しに振り返ると膨れっ面のフギンの顔。
まるで子供のような姿と態度にいつも騙されそうになる。

 けどこいつは人間じゃない・・・・・・

「“あまねく闇に終焉を”」

 元聖堂都市聖騎士団総団長ヴィルヘルムの成れの果ての俺は、その言葉を呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...