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反呪・骸神殿
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魔物の群れが迫ってきた。
俺はビショップアーキテクトに指示し、その力で死者を取り込んだ魔物以外を処理させる。
『■□■■、□□■、■□■■■■!』
伝播する祝詞と反転した呪詛。
複数の魔法陣が魔物を屠り、骨だけになった骸を魔法陣へと取り込んだ。
『アンデッド種が妾に楯突くとは片腹痛い』
ヘルはビショップアーキテクトを一睨み。
瘴気を纏った闇を両手から溢れ出させた。
それが波となって押し寄せる。
俺はその闇を操ろうと。
だけどなぜか思うように操れない。
『妾の生んだ闇ぞ。容易く掌握させると思うな』
俺の操作に気付いたヘルが言った。
闇の操作権は今まで常に俺にあった。
まさか俺以外にも操れる存在がいたなんて。
時間をかければおそらくコントロールは俺の方が上。
だけど俺の操作下になる前に攻撃が届いてしまう。
「『滅魔光陣』!」
その時、リーンハルトが光を放った。
光がヴェールとなって闇の行く手を遮る。
触れた闇は光によって浄化されて。
だけどリーンハルトの操る光に対してヘルの闇の量は圧倒的だった。
光のヴェールの輝きがちらちらと不規則に揺れたかと思うと、ガラスが割れるように破られる。
「馬鹿な!」
驚愕するリーンハルトを尻目に、俺はビショップアーキテクトを呼ぶ。
蓄えた骸の量はすでに十分なはず。
「ビショップアーキテクト!」
俺の呼び掛けに応えたビショップアーキテクトが魔法陣を描いた。
それはヘルの操る闇ではなく、その闇と俺達の間に。
そして魔法陣から無数の屍が形を変えながらそそり立つ。
その名を『反呪・骸神殿』。
呪詛を湛えた黒い骸が反転によって白く染まり、ヘルの闇を受け止めた。
築かれたのは屍を寄り合わせて形作られた小さな神殿。
その中心にビショップアーキテクトが佇み、金の角が光輪のように光輝いていて。
掲げた杖には幾重にも絡み付いた魔法陣。
カタカタと嗤う口許からは膨大な呪詛を吐き出している。
これがビショップアーキテクトに与えたもう1つの権能『造営』。
倒した魔物の骨を取り込み、蓄え、それを用いて神殿を築く能力。
神殿はビショップアーキテクトの『大神官』の権能の能力を増幅する。
範囲は神殿そのものとその内部に限定されるけど、より多くの魔物を倒して取り込むことで範囲をより広げることができる。
ビショップアーキテクトの能力でヘルの闇は抑えられていた。
でもヘルの闇は際限がない。
フェンリルと違って1度に生み出す闇の量はそれほど多くはないけど、いずれ今のビショップアーキテクトの能力で押さえ込めなくなる。
その前にヘルを倒さなければ。
俺は闇を操ろうと。
だけど思わず躊躇った。
「俺達の事はいい。リヒト、逃げるんだ!」
「お願い、逃げて! リヒト!」
父さんと母さんにはまだ意識があった。
魔物に取り込まれ、闇に蝕まれてとても苦しいはずなのに。
それでも俺の事だけを考えてくれている。
そんな2人に闇を纏う俺の姿を見せたくはなかった。
この姿を前にしたら、父さんと母さんはどんな顔で俺を見るんだろうって。
それが、怖かった。
だから俺は騎士団に入ってから1度も家に帰れなかったんだ。
帰ればきっと優しい笑顔で。
温かい言葉を。
そして騎士団ではうまくやれてるか、属性はなんだったんだ──なんて。
闇だなんて言えるわけがない。
そのせいで退団させられそうになったなんて。
周りの騎士から疎まれてるなんて……言えるはずが、なかった。
「…………それでも」
それでも俺は闇を纏い、暗黒色に染まったクレイモアを振りかぶる。
父さんと母さんを。
アイゼンの家族を。
そしてヘルに囚われた全ての死者達を救うために。
俺は死者を取り込んだ魔物を斬り裂き、その闇を奪った。
両親やアイゼンの家族を傷つけず、彼らを解放しようとする。
だけど彼らを傷つけないよう注意しながら複数の魔物と渡り合うのは厳しい。
思うように戦えない。
アイゼンが加勢しようとしてくれてるけど、1、2体の魔物の気を引いてくれてるだけで手一杯。
「リヒト!」
アイゼンが俺の名前を呼んだ。
「お前があのスケルトンを生み出したんだろ? なら、頼みがある!」
アイゼンは魔物の振り下ろす槍をかわし、槍を駆け上がって魔物の頭部に蹴りを入れて飛び退いた。
言いたいことは察した。
俺の力で魔物として新たな右腕を造ってくれということだろう。
でもそれは。
「すでにアイゼンの身体は魔物になってる。これ以上魔物化させたら人に戻せなくなるかも」
「構わない。俺は家族さえ助けられたらそれでいい。俺はあのスケルトンと同様お前に従う魔物の将になる。必ず働きで返す。だから、頼む……!」
「……っ」
俺は両親とアイゼンの家族を見た。
その魂はすでに汚染がかなり進んでる。
これ以上時間をかけるわけにはいかない。
「いいんだな」
「ああ」
アイゼンが迷いなく答えた。
俺は周囲の闇を操作。
アイゼンへと闇を集め、その身体を中心にゴーレムを構成する。
すでに魔物と化したアイゼンの身体が闇と融け合った。
そしてその新たな姿を現す。
6魔将、第3の魔物の誕生の瞬間だった。
俺はビショップアーキテクトに指示し、その力で死者を取り込んだ魔物以外を処理させる。
『■□■■、□□■、■□■■■■!』
伝播する祝詞と反転した呪詛。
複数の魔法陣が魔物を屠り、骨だけになった骸を魔法陣へと取り込んだ。
『アンデッド種が妾に楯突くとは片腹痛い』
ヘルはビショップアーキテクトを一睨み。
瘴気を纏った闇を両手から溢れ出させた。
それが波となって押し寄せる。
俺はその闇を操ろうと。
だけどなぜか思うように操れない。
『妾の生んだ闇ぞ。容易く掌握させると思うな』
俺の操作に気付いたヘルが言った。
闇の操作権は今まで常に俺にあった。
まさか俺以外にも操れる存在がいたなんて。
時間をかければおそらくコントロールは俺の方が上。
だけど俺の操作下になる前に攻撃が届いてしまう。
「『滅魔光陣』!」
その時、リーンハルトが光を放った。
光がヴェールとなって闇の行く手を遮る。
触れた闇は光によって浄化されて。
だけどリーンハルトの操る光に対してヘルの闇の量は圧倒的だった。
光のヴェールの輝きがちらちらと不規則に揺れたかと思うと、ガラスが割れるように破られる。
「馬鹿な!」
驚愕するリーンハルトを尻目に、俺はビショップアーキテクトを呼ぶ。
蓄えた骸の量はすでに十分なはず。
「ビショップアーキテクト!」
俺の呼び掛けに応えたビショップアーキテクトが魔法陣を描いた。
それはヘルの操る闇ではなく、その闇と俺達の間に。
そして魔法陣から無数の屍が形を変えながらそそり立つ。
その名を『反呪・骸神殿』。
呪詛を湛えた黒い骸が反転によって白く染まり、ヘルの闇を受け止めた。
築かれたのは屍を寄り合わせて形作られた小さな神殿。
その中心にビショップアーキテクトが佇み、金の角が光輪のように光輝いていて。
掲げた杖には幾重にも絡み付いた魔法陣。
カタカタと嗤う口許からは膨大な呪詛を吐き出している。
これがビショップアーキテクトに与えたもう1つの権能『造営』。
倒した魔物の骨を取り込み、蓄え、それを用いて神殿を築く能力。
神殿はビショップアーキテクトの『大神官』の権能の能力を増幅する。
範囲は神殿そのものとその内部に限定されるけど、より多くの魔物を倒して取り込むことで範囲をより広げることができる。
ビショップアーキテクトの能力でヘルの闇は抑えられていた。
でもヘルの闇は際限がない。
フェンリルと違って1度に生み出す闇の量はそれほど多くはないけど、いずれ今のビショップアーキテクトの能力で押さえ込めなくなる。
その前にヘルを倒さなければ。
俺は闇を操ろうと。
だけど思わず躊躇った。
「俺達の事はいい。リヒト、逃げるんだ!」
「お願い、逃げて! リヒト!」
父さんと母さんにはまだ意識があった。
魔物に取り込まれ、闇に蝕まれてとても苦しいはずなのに。
それでも俺の事だけを考えてくれている。
そんな2人に闇を纏う俺の姿を見せたくはなかった。
この姿を前にしたら、父さんと母さんはどんな顔で俺を見るんだろうって。
それが、怖かった。
だから俺は騎士団に入ってから1度も家に帰れなかったんだ。
帰ればきっと優しい笑顔で。
温かい言葉を。
そして騎士団ではうまくやれてるか、属性はなんだったんだ──なんて。
闇だなんて言えるわけがない。
そのせいで退団させられそうになったなんて。
周りの騎士から疎まれてるなんて……言えるはずが、なかった。
「…………それでも」
それでも俺は闇を纏い、暗黒色に染まったクレイモアを振りかぶる。
父さんと母さんを。
アイゼンの家族を。
そしてヘルに囚われた全ての死者達を救うために。
俺は死者を取り込んだ魔物を斬り裂き、その闇を奪った。
両親やアイゼンの家族を傷つけず、彼らを解放しようとする。
だけど彼らを傷つけないよう注意しながら複数の魔物と渡り合うのは厳しい。
思うように戦えない。
アイゼンが加勢しようとしてくれてるけど、1、2体の魔物の気を引いてくれてるだけで手一杯。
「リヒト!」
アイゼンが俺の名前を呼んだ。
「お前があのスケルトンを生み出したんだろ? なら、頼みがある!」
アイゼンは魔物の振り下ろす槍をかわし、槍を駆け上がって魔物の頭部に蹴りを入れて飛び退いた。
言いたいことは察した。
俺の力で魔物として新たな右腕を造ってくれということだろう。
でもそれは。
「すでにアイゼンの身体は魔物になってる。これ以上魔物化させたら人に戻せなくなるかも」
「構わない。俺は家族さえ助けられたらそれでいい。俺はあのスケルトンと同様お前に従う魔物の将になる。必ず働きで返す。だから、頼む……!」
「……っ」
俺は両親とアイゼンの家族を見た。
その魂はすでに汚染がかなり進んでる。
これ以上時間をかけるわけにはいかない。
「いいんだな」
「ああ」
アイゼンが迷いなく答えた。
俺は周囲の闇を操作。
アイゼンへと闇を集め、その身体を中心にゴーレムを構成する。
すでに魔物と化したアイゼンの身体が闇と融け合った。
そしてその新たな姿を現す。
6魔将、第3の魔物の誕生の瞬間だった。
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