【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

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黒蛇竜と機構ゴーレム

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 俺は対岸へと渡った。
思えば渡れない橋を渡ることに固執する必要はないんだ。
俺は闇を操れる。
河を満たす瘴気の闇を操って道を作り、河底を歩いて渡った。

 河を渡った先には多くの冒険者と、見慣れない兵士や騎士の姿があった。
そして彼らが戦っているのは巨大な竜。
その大きさは町1つをぐるりと囲めるほど。
黒い蛇のようなドラゴンは無数の羽を全身から生やし、束ねた羽が手や鉤爪かぎづめのようになって彼らを襲う。

 彼らも自分達の身に起きた変化に気付いていた。
致命傷を負う度に再生する身体。
だけど痛みとそれに伴う恐怖は消えない。

「痛いぃ、もう勘弁してくれぇ」

「いつまで戦えばいい?!」

「嫌だ、もう嫌だぁ」

「なんで俺がこんな目に……!」

それは不死身という強みではなく、永遠に終わりの見えない苦痛が続くのに等しかった。

 諦めてしまいたい、と多くの人の顔にそんな思いが浮かんでいた。
だけど戦意を失った者から黒蛇竜の羽が形作る鳥籠とりかごのようなおりへと囚われて。
その肉体は絶えず引き裂かれ、痛みに絶叫をあげている。

 逃げようとした者も同じくおりに囚われた。
そしておそらく、黒蛇竜から逃れられてもあの炎の橋は彼らを対岸に通しはしないだろう。
彼らに戦う以外の選択肢はない。

 その時。
ガチン、と激しい金属音。
いで炎が逆巻さかまきき、紅蓮ぐれんの火柱が黒蛇竜へと迫った。
その蛇のような顔を殴打おうだする。

 炎と共に黒蛇竜を襲ったのは鉄色の人影。
異様に大きな右腕は鎧──いや、ゴーレムのものに見えた。
でもブラック・ゴーレムの右腕に特徴が似てるけど、同じではない。
さらにその色は鋼鉄のような冷たい暗灰色あんかいしょくと赤茶けたさび色。
炎を噴き出していた装甲と拳が赤熱せきねつして朱色に光っている。

「はは! 属性があるだけの無能が……!」

 殴り倒した黒蛇竜に他の人々が巻き込まれ、押し潰されてる様を見てその男はわらった。
周りへの配慮など一切なく、男は追撃。
噴き出した炎で加速して竜の胴を地面に叩き付けるように殴る。

 その声に覚えがおる。
属性適正者に向けたその敵意も。

 俺が知ってる彼のものとは大きくかけ離れたその姿。
張り出した肩の装甲で顔もほとんど見えないが、まず彼で間違いない。

「アイゼンさん……?!」

 俺は思わず叫んでいた。

 ゴーレムの右腕と一体になったアイゼンさんは、その剛腕で黒蛇竜の羽をむしり取った。
すかさず、むしり取った羽をそのまま握り込んで拳を叩き付ける。

 引き千切られたような傷跡と焦げ跡。
おそらく炎の橋の門番だった巨人種を倒して先へと来たのはアイゼンさんだ。

 まだ人の名残なごりはあるけど、その身体はもう人間じゃない。
マザー・ゴブリンと同じ、人から魔物へと変異した存在。

 アイゼンさんは倒れた黒蛇竜の頭に、右腕から伸びるくいのような切っ先を突きつけた。
ガチン、ガチンと金属音が連なり、その熱量を蓄えて。
いでその威力を切っ先へと集中させて放つ。

 アイゼンさんが相棒と呼んでいた機構剣。
その性能を引き上げて一体化したのが今のアイゼンさんだ。

 巻き込まれることを恐れて黒蛇竜とアイゼンさんから距離を取った冒険者達。

 今この場の中心には動かなくなった黒蛇竜とアイゼンさん。
そして俺だけになる。

「…………よう、若造」

 俺に気付いたアイゼンさんが言った。
黒蛇竜の身体を踏みつけ、勝ち誇ったように俺を見下ろす。

「何をやってるんですか、アイゼンさん」

「何を? 魔物退治だ」

「その身体を元に戻す方法を俺は知ってます」

「いらん世話だ。俺はこれでいい」

 アイゼンさんが跳んだ。
俺の目の前に着地する。

「…………ちっ」

 アイゼンさんは俺の目を見ると舌打ちをした。

「お前ほんと気に入らない目してるな。無能共に劣る無適正者のくせに、いつだって余裕ぶったつらをしてやがる」

「アイゼンさんだって無適正者だし、俺はアイゼンさんを適正者に劣ると思った事はないですよ」

 ガチン、と撃鉄の音。
くいの切っ先が射出され、地面を穿うがつ。

「俺はもう無適正者じゃねぇ。この力がある」

 鼻で笑うアイゼンさん。

 対して俺は静かにクレイモアを、構えた。

「あん? なんのつもりだ若造」

「アイゼンさんは元々協調性のない人だったし、他者に敵意を振り撒いていた。でもまだだった。だけど今は力に溺れて他の人を巻き込むこともお構い無し。今のあなたはその身体と同じ、魔物と変わらない」

「俺を討伐するってのか? お前が?」

「いいや、そのおごりを打ち砕くだけ。アイゼンさんは今正気じゃない。力に取りかれてまともな思考ができてないんだ」

「やれるもんならやってみろ。ついでにお前の秘密を見せてくれよ。元聖騎士団員リヒト!」

「秘密、か」

 俺は周囲の闇を操作した。
闇が揺れると密度と厚みを増して。
俺とアイゼンさんだけを闇の壁で囲い込み、周りの冒険者や兵士と騎士からの視界を遮る。

 俺はクレイモアを暗黒に染めてアイゼンさんに──アイゼンに突きつける。

「後悔しないでくださいね、アイゼン」
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